- 制作者(webmaster)
- 野嵜健秀(Takehide Nozaki)
- 公開
- 2006-02-19
「定義」の定義
『岩波国語辞典』は定義なる語を定義して、ある概念内容・語義や処理手続をはっきりと定めること。それを述べたもの。
と簡單に言つてゐます。ジョン・ホロウェイに據れば、「定義」という語は、ある語の使用可能な範囲をより正確に限定するいかなる手続きをも指して使用される。
と云ふ事になります。
ここで言はれる「定め方」「手続き」は、この「定義」自體に據つては一通りに限定されません。「定義」の形式は簡單に一種類に極ると云ふものではありません。
クランストンは二種類の定義の概念が、十分注意して意識されねばならない事を指摘してゐます。
- 辭書的定義
- 國語の辭書やOxfordのdictionary等に見られる語の定義ですが、これは語がどのやうに用ゐられてゐるかを示した報告です。口頭や文章で使はれてゐる、現實の會話における、或は文献における用例を基に、歸納的に引出された「語の意味」です。
- この辭書的定義は、報告である爲、その報告の内容が正確か不正確かに據つて、眞であるか僞であるかは決ります。
- 取決め的定義
- 話し手や書き手が、自分の發言や文章の中で、その人としては或一定の語をどのやうに用ゐる事にするか、さう云ふ自分なりの用法について告知する――さう云ふ事を指して「定義」と言ふ事があります。一般的な意味がはつきりしない・多義的である・曖昧である語が多い爲、科學や技術で嚴密な話をする爲に豫め語が「取決め」として定義される事があります。例へば、W3CがHTML等の仕樣書で行つてゐる定義がこれに當ります。かうした「一つの意味を押附ける」爲の「取決め的定義」は、場合に據つては效果的です。
- この取決め的定義は、任意に行はれるもので、それ自體として眞であるとか僞であるとかは言へません。この事をクランストンは、
例えば、消え残っている雪を指さして、「私が『黒い』というときはつねにこの色を私は意味する」と申し立てさえすれば、あなたはそのことにより、「黒い」という言葉は白を意味する、と取り決め得る。
云々と、例を擧げて示してゐます。
- ただ、取決め的定義においては、「役に立つ定義」「役に立たない定義」の二つを區別する事が出來るとクランストンは指摘してゐます。
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取り決めが役に立つべきであるならば、一定のルールを、とりわけ、次のルールを守ることが肝要である。
- 取り決めによる定義以外の定義はすべて排除されなければならぬ。というのは、同じ言葉にたいする異なった意味が増えることは、あいまいさを必然的に増大させ、したがって、取り決めがそれに終止符を打つつもりでいた混乱をかえって甚だしくすることになる。
- ある語の通常的用法が当の意味をすでに示す場合、別の語にたいし取り決め的にこの意味を与えることはしてならぬ。
- 最初のルールは、話し手が一度定義した言葉は、意味を變へずに恒に用ゐるべき事を要求する。それによつて聞き手は、誤解する事なく、話し手を信頼して話を受容れられる。假に、話し手が或語を定義したにも拘はらず、時によつて、不用意に、自分獨自の意味で用ゐたり、一般的な意味で用ゐたりしたとすれば、聞き手は混亂し、話し手の言つてゐる事を理解する事が出來なくなるから、それは良くない事である。
「〜とは何か」のやうな問ひが與へられ、論者がそれに對して己の見解を言明した時、それが定義であるか何うか、は檢討せられるべきである。
それらの言明が定義であるとすれば、さらに次の三つの疑問が直ちに生じてくる。
- それらの言明は辞書的定義であるか、それとも取り決め的定義であるか。
- もし辞書的定義であるとすれば、その報告するところは正確であるか(それらの言明は真であるか、それとも、偽であるか)。
- もし取り決め的定義であるとすれば、それは役に立つ定義であるか(それらの言明はよき取り決め的定義のルールを満たしているか)
參考文獻
- 西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫編『岩波国語辞典第三版』岩波書店
- M.クランストン『自由 ――哲学的分析――』岩波新書961