円らな瞳
  馬のどこが好き?と聞かれて、「大きくて円らな瞳が好き」だと答える人は多いと思う。
ところがどっこい、これが大きな間違い。
確かに、心の底まで見透かされそうな、あの何かを訴えている目に魅了されるだろうとは思うし、私も目がカワイイ馬はそれだけで贔屓している事があるかもしれない。
では、何が間違っているのかというと、ここまでくれば解ると思うが、「円らな」というところ。「円らな」という形容詞は文字通り円いという意味。実は馬の眼球は、我々人間と違い円くない(下図参照)。

         〜眼球断面模式図〜    

  図を見ていただくと、眼球の下の部分が若干へこんでいるのが解ると思う。
  馬の眼球は直径約5p。人間の場合、眼球は円いので眼球のどの部分でも角膜から網膜までの距離がほとんど変わらない。それに対し、馬は光の進入角度によって距離が変化する。Aが標準だとすると、Bは遠視、Cは近視の状態になる。つまり、遠くを見る時はBの角度、近くを見る時はCの角度で光を入れるようにするとピントが合うようになっている。
  これは、野生の状態で肉食動物に襲われないために進化したものと考えられている。馬は四六時中草を食べて過ごす。その時は当然頭を地面に近づけなければならない。いちいち肉食動物に襲われないようにと頸を上げ下げするのは、非常にエネルギー効率が悪い。この眼球の形をしていれば、遠くの景色にはBから光が入り、近くの草にはCから光が入って像を結ぶために、摂食しつつ辺りにも注意を払うことが出来るという画期的な構造をしている。
  以上の構造を頭に入れておくと、障碍を跳ぶ時などに馬の頸を高くして障碍を良く見せるという事や、のめってしまうと近くの障碍にピントが合わないので怖がってしまうという理由も納得できる。

  馬の瞳をジ〜ッと覗いて見ると、瞳孔が横になっているのが解る。瞳孔は円いよりも細長い方が弛緩・収縮を短時間で行うことが出来、日向や日陰を全力疾走で駆け抜けるような野生動物の多くは縦か横になっている。そして、馬には瞳孔上辺に黒体(虹彩顆粒)と呼ばれる遮光装置があり、太陽光が強く反射するような場所でもまぶしくならないと言われている。
  写真を撮った時などに起こる残像現象も人間よりはるかに高性能で、非常に敏感で素早い動きにも対応出来る。映画は残像現象を応用したものだが、人間には流暢に動いているように写っても、馬に映画を見せると全てコマ送りのように見えるらしい。肉食動物に襲われて全力疾走している時、景色が高速で流れスクリーンの代わりとなり、常に相手の残像をそこに映すことによって確認しながら逃げられるという仕組み。特に素早く動く物に対して反応しやすくなっているので、何気なく上げた手に馬が驚く事も多い。

  万能に見える目も、色覚には弱い。ほとんどが明暗をモザイクのような模様として捉えているらしい。
  しかし、決して色を区別出来ないわけではなく、色によってはかなり識別出来るものもあると言われている。人間も薄暗い場所では、物があって色が着いていることくらいは解るだろうが、それが紺なのか青紫なのかを区別しろと言われてもかなり難しい。馬の色覚とは、そういう状態に近い。

  馬は草食動物なので目が離れてついている為に、立体視は難しいが、左右それぞれが別の対象を見ることが出来る。その為に視野がかなり広いのは良く知られているが、では、死角はどのあたりなのだろうか。
  一般的に馬の視野は約350度と言われている。死角は約10度だが、それらも片目をすこしずらすだけで見えてしまうらしい。それでも見えない場所と言うのは、自分の鼻先付近と尻の真後ろあたり。
  だが、もう一つ見えない場所がある。それは項付近の真上。
  東武は本厩舎の1階が洗い場で2階はベランダになっている。つまり、ベランダから真下の馬の頭を見ることが出来る。そのような状態の時に馬の名前を呼ぶと、耳をしきりに左右に動かしたり、辺りを見回すなどして自分を呼んだ人を探しているのが解る。ところが、何回呼んでもベランダの人間だと気付くことはない。それは、馬の頸がある一定以上に上がらないという理由により、真上が見えないと言うことの証明になる。
  面白いので是非一度試してみて欲しいが、くれぐれも馬を驚かしてしまわないように注意してもらいたい。

                           〜END〜





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