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どうなってるの裁判官、分かりやすく、納得できる裁判を
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たった1回の残業拒否でも解雇できる
日立製作所残業拒否解雇事件
1991.11.28.最高裁第1小法廷
事案の概要
- 残業拒否による解雇の経過
- 1967年9月6日、東京都小平市にある日立製作所武歳工場で、トランジスターの特性管理係(品質の向上、良品率=歩留の堆定と向上などを担当)をしていた田中秀幸さんは、終業時間の15分前になって主任から残業命令を受けた。
- トランジスターの生産歩留(良品率)が、2日前に同人の提出した推定値より低下しているので、残業して再度推定値を提出せよというものであった。しかし、その推定値の提出には、トランジスターの各製造工程からサンプルを抜き出してそれぞれを調べることが必要とされ、5時間以上の作業を必要とした。しかも、当日の歩留は回復上昇してきており、田中さんは、歩留の低下がやがて回復するものであることを説明し、当日は、友人と会う約束があったので、この残業を断って帰った。
- 田中さんは、翌日には、午後9時まで残業をして、歩留推定値を提出した。
- 会社は、このたった1回の残業拒否を理由に9月9日から田中さんの仕事を取り上げて反省を迫った。同年10月4日、田中さんを出動停止14日の懲戒処分にしたうえ、その後も休業を命じ、10月31日に懲戒解雇を通告した。
- その間、田中さんは、残業に協力する旨の反省書・始末書を書いて数度提出した。しかし、会社は、「残業拒否が就業規則違反であることを認め、今後残業拒否をしないことを誓い、違反したときはいかなる処分を受けてもよい」旨の内容が含まれていないとして、解雇に及んだ。「しばしば懲戒・訓戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込みがない」という就業規則に該当するというのである。
- 田中さんは、(1)会社のでっちあげに係る「トイレの落書き」を理由とする出勤停止五日の処分、(2)作業中に話しかけ集会参加の勧誘をしたことを理由とする議責処分、(3)残業中に組合大会に出席するために職場を離脱する際に、さきに離席して組合大会に出席していた上司(組合員)の判を借用したことを理由とした出勤停止七日の処分を受けており、これが解雇の理由に結びつけられた。
- 解雇のねらい
- 田中さんは、組合活動に積極的に取り組み、職場の評議員や組合大会の代議員に選出されたりしてきた。武蔵工場では組合活動に積極的だった3名の解雇事件がすでに発生していたが、田中さんは、この3名の解雇に反対し、「守る会」を結成しその責任者として活動していた。組合大会でも解雇反対を訴えた。
- 本件残業拒否で出動停止14日の処分にされた10月4日の翌5日、田中さんは、処分に屈することなく、先行する解雇事件の裁判で長時間残業の実態や会社の組合活動に対する干渉、臨時職員等への退職強要などの事実を証言した。10月21日には、先行する解雇事件の2周年記念集会で議長をつとめて集会を成功させた。
- 会社は田中さんの活動を嫌悪し職場から排除するために解雇に及んだのである。労使一体といわれる日立労組は田中さんの解雇を当初から容認してきた。
判決の内容 争点と判断の不当性
- 一審判決は解雇無効としたが、最高裁判所は企業利益を一方的に優先する判断を行った。
- 一審判決は解雇無効としたが、東京高裁は、1986年3月27日、解雇を有効とする逆転判決を下した。
- そして、最高裁判所第一小法廷は、1991年11月28日、高裁判決を容認し、残業義務を肯定し解雇を有効とする本件判決を言い波した。本件判決は、解雇の不当労働行為性を否定したはか、それぞれ争点について、企業利益を一方的に優先する判断を行った。
- 残業義務をみとめた企業優先主義
- 判決は、「就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなす」として時間外労働を行う義務を肯定した。
- 本件では、「生産目標達成のため必要ある場合」とか、「業務内容によりやむを得ない場合」とか、さらには、「これらに準ずる理由のある場合」等の規定があるが、「企業が需給関係に即応した生産計画を適正かつ円滑に実施する必要性は同法36協定の予定するところ」であるなどとして、田中さんの残業義務を認めた。
- しかし、この判決によれば、時間内で生産しきれない受注や生産計画が継続する限り、残業をし続けなければならなくなる。企業側の必要性ばかりを優先する論理といわなければならない。労基法の規定する8時間労働制の例外を定めた時間外労働の趣旨との関連については、全く避けて通っているのである。
- 必要性・緊急性のない違法残業を容認
- 判決は、単に36協定の事由があったとしただけで、残業義務を肯定している。問題となっでいた残業の緊急牲や必要性を何ら検討していない。高裁判決をそのまま容認したとも受け取れる。
- 高裁判決は、「9月生産の当初計画の実現に支障をきたし、その結果控訴人(会社)に多大な損害をもたらすおそれがあった」とか、田中さんが算定した推定値よりも「下廻った結果が生じていたのであるから、その是正措置を緊急に講じる必要性があった」等と会社の主張を鵜呑みにした。
- しかし、問題にしている「生産計画」は会社でさえ達成しようとしていないものであったことが明かとなっている。また、歩留(良品率)の「低下」や「誤差」が生産計画と全く関係ない範囲のものであり、しかも、田中さんが会社に説明した通り歩留まりは向上していた。会社主張は全くでたらめである。
- 何よりも「残業をしてまでその日のうちに算定のやり直しをしなければならない程の緊急の必要性」は存在しない。しかも、田中さんは、次の日に夜九時まで残業して職務を全うしたのである。ところが、高裁判決は、その仕事が翌日では間に合わないのかどうかという検討を全く怠り、この点に一切ふれずに、一審判決をくつがえして残業の「緊急性・必要性」を肯定した。
- のみならず、本件残業命令は、労働協約で定められた4時間の限度を越える長時間の作業を強いるものであった。現に、日立製作所では、田中さんが働いていた当時の職場でも、労働協約で規定されている月40時間、1日4時間の限定を適えての長時間残業が横行していた。田中さん自身、残業拒否した前々月には、66.5時間の残業に従事している。判決は、このような違法な残業の実態を無視して、残業命令を正当化した。
- 破綻済みの「手抜き作業」論
- 判決は、残業命令は、田中さんのした「手抜き作業の結果を追完・補正するためであった」として解雇を有効とする判断を行った。しかし、この「手抜き作業」の主張は、1審、2審を通じて完全に破綻したものだった。
- 例えば、2審で会社側の証人にたった田中さんの直属の上司でさえ、会社がこのような「手抜き作業」を主張している事実を知らず、当時から問題になったことさえ開いていないと証言した。しかも、会社が残業拒否後田中さんに反省を求めた際にも、この「手抜き」は全く問題にされず、話題にさえ出されていない。高裁では、会社を勝訴させるためには、この、「手抜き作業」だけでは不十分と見て、蕪山裁判長が田中さんの新たな「職務怠慢」を会社に主張させようとした。そのために蕪山裁判長は、忌避申立を受け更迭されるという経過もあった。
- しかし、判決は、このようにして会社が主張した新たな「職務怠慢」は認定せず、すでに完全に破綻した「手抜き作業」をむしかえしたのである。
- 残業についての考え方を理由とした解雇
- 高裁判決は、田中さんが「あくまで残業命令に従う義務はないとの従来からの考え方を変えず、本件残業命令拒否が就業規則に違反するものとは考えないという態度をとり続けたため」、会社が「反省の態度が認められず、もはや悔悟の見込みがないものとして」懲戒解雇処分にしたのは妥当であると判断した。
- 田中さんは、残業拒否の後、仕事を取り上げられひたすら反省を迫られ、今後残業に協力するとした始末書を会社に提出している。田中さんが、会社に従わなかったのは「残業命令に従う義務はない」という考え方を最後まで変えなかったことである。そのことを理由とする解雇を容認したのが高裁判決であった。
- しかし、この判断は、恵法19条で保障された「思想及び良心の自由」を明らかに侵害し、憲法14条の「法のもとの平等」、労基法3条にも違反する。企業がこのような労働条件についての労勘者の考え方そのものまで支配できるとすれば、残業を拒否して長時間残業を改善し、労働時間の短縮に取り組む労働組合活動さえ抑圧されかねない。最高裁判決は、このような重大な争点についてすら何らの判断も示さず、ひたすら解雇を容認したのである。
裁判官会同による裁判統制
- 田中さん勝訴の結論を下した一審判決を覆して、1986年3月27日、本件高裁判決が言い波されたが、その後に重大な事実が発覚した。高裁判決の直前85年6月に、残業問題をテーマにした裁判官会同が開かれて、残業義務を肯定する議論がされていたのである。この会同で「労働者が入社時に残業をしないと明言しない以上、残業することを包括的に黙示的に同意したとみて、労働者はこれに拘束される、すなわち残業義務を免れない」という議論がかわされた。
- この議論は、現実離れした企業側の一方的な論理の引き写しである。この裁判官会同の議論が高裁判決に影響を与えたことは否定しがたい。しかも、この裁判官会同は広島高裁管内で行われたのであるが、当時の広島高裁長官四ッ谷巌は、その後最高裁の裁判官に使命され、最高裁第一小法廷の裁判長として、本件最高裁判決を言い波している。本件判決は、裁判所内の上からの統制によってその判断が左右された判決といわざるを得ないのである。ここには国民の利益と対立する官僚裁判の典型がみてとれるのである。