新刊紹介
村上 徹 著訳(績文堂)
定価〔本体1800円+税〕
フッ素信仰はこのままでよいのか
反対論の学術的基盤
全238頁
 
注文 績文堂出版株式会社
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序文より

 二十一世紀のフッ素問題


 
本書に収めた諸論は、これまでに私が様々な機会に書いてきた論文や、親しい欧米の諸学者の論文を邦訳したものである。内容はいずれも水道水にわざわざフッ素を添加する、いわゆる水道フッ素化を否定する立場から書かれたものばかりである。
これらの論文は「神話の崩壊するとき」のようなにかなり以前に書かれたものもあるが、最近発表されたものがほとんどで、内容がますます時宜を得つつあるのは一国民としてはむしろ残念である。本来はこんな議論は、ヨーロッパ諸国のようにとうの昔にすたれていなければならない性質のものである。
当然その責めは厚労省が負わなければならない。
厚労省(旧厚生省)が、本当に国民の健康を考えて政策を実施している官庁でないことは、エイズ被害などで国民はいやになるほど思い知らされてきたが、この役所はそれでもまだ懲りないとみえ、年来の態度を一変させて「水道フッ素化を容認」(朝日新聞・二000年十一月十八日づけ)し、エイズ問題と同じ間違いを新たに繰り返そうとしている。しかもこの決定は、内部の水道関係者の反対を強引に抑えこんでのうえであるらしい。その結果、群馬県甘楽町や沖縄県具志川村等の小さな地方自治体で水道フッ素化の動きが俄に慌ただしくなり、村長選挙の争点の一つにまでなるようになったのは、新聞などでご承知の方もおられるかもしれない。

 フッ素化を推進しようとする人たちは、一部の口腔衛生学者に指導された一部の歯科医師である。その中でも特に熱狂的な人たちが「日本むし歯予防フッ素推進会議」(略称日F会議)という団体を作って歯科医師会はじめ各方面に政治的に働きかけている。その運動のやり方は非常に教条的、独善的かつ執拗であって、私には戦前の皇道派や戦後の左翼イデオローグたちの専断を彷彿させる。

 彼らの主張を簡単にまとめると、「1ppm 程度のフッ素を水道に添加して住民に飲ませれば、何らの害も見られずにその住民の虫歯を四十〜五十パーセントも減らすことができ、こんな安価で確かな虫歯の予防策は他にはなく、WHO(国際保健機構)も推奨しており、先進国はみなこれを採用している」というものである。そして、彼らの主張にかぶれた一部のジャーナリストがこの主張をろくに点検もしないまま賛同し、読売新聞などは、わざわざ「虫歯予防に有効なフッ素水道」と題する愚劣な社説(一九九九年十一月十八日づけ)までかかげるありさまである。
先の容認を決定した厚労省の歯科保健課長は、歴代の課長と異なって彼自身が熱烈なフッ素イデオロギーの信奉者なのは周知の事実であり、この決定が読売新聞の援護射撃を受けてのうえなのはみえみえである。そしてかねてから読売新聞社内には、「日本むし歯予防フッ素推進会議」の総会などでシンポジストをかって出たりしてこの会議に媚びを売る編集委員が一人いることも確かである。医学者と製薬会社、裁判所と検察官が結託するくらいだから役人とジャーナリストが野合しても不思議ではないが、こういう社会の中枢にいる人たちのモラルの頽廃には国民は警戒を怠らない方がよい。私にはこれが亡国の兆しのように見えるのである。

 フッ素推進派がどんな主張をしようと批判の自由さえ保証されていれば別にどうというわけではないが、彼らは主張も偏狭なら心情も偏狭であって、フッ素によらない虫歯予防というものを一切認めない。そして歯科という世界で反フッ素の意見がおこることなどとても容認できないらしい。私の「神話の崩壊するとき」が発表された時、彼らは十数人の徒党を組んで出版社におしかけ、編集者に面談して掲載に抗議したという。その徒党のなかには大学教授もまじっており、ついでにフッ素入り饅頭をおいていったというのというのだから理解できない。
それ以後私は彼らのご贔屓にあずかるようになり、私が講演するということがわかると、私ばかりか主催者にまでいやがらせをするようになってきた。

同業の私に対してすらそうなのであるから、まして、保健婦や学校の養護教諭の方などが、フッ素を使用する前に、「食習慣や歯磨きを含めた生活習慣その他の指導の方が大切なのではないか」などと言おうものなら、たちまち声高な非難をあび、それでも足りないとみると、今度は校医をやめるの、その地区の保健行事には歯科医師会は一切協力しないのなどという脅しをかけられる。そういう地区は大抵は辺地で歯科医は一人しかいないような場合が多いので、歯科医は歯科医というだけで威張っていられるらしいのである。保健婦さんや養護教諭のような立場の人たちは、そういう歯医者ともめごとを起こすと組織の中で逆に問題視され、非常なストレスに晒されるという。
 私のところにはそういう目に遭遇した全国の養護教諭や保健婦さんから少なからぬ訴えがある。地位を利用して自己のイデオロギーに同調を強要することなどは自由主義社会にはあってはならないことである。私があえて彼らの傲慢ぶりを「フッ素翼賛体制」と呼ぶゆえんでる。

 さて、推進派に対する反対派の主張はどうかというと、大体次のようにまとめることができる。
@「四十〜五十パーセントも虫歯が減る」という根拠がどこにあるのか。たしかに半世紀前にはそういう研究論文が沢山作製されたが、その研究の統計的解析のデタラメさはには、何十年も前から一貫して多くの国の統計学の専門家(数学者)が一貫して批判を続けており、賛成派はそうした統計学者らの批判に対してはろくな反論もしていない。
Aフッ素の害は端的には斑状歯となって現れるが、この評価においても賛成派は単なる「審美上の軽い障害」に過ぎず、これを健康障害とは考えないのに反して、反対派は、「そもそも斑状歯ができる病理的な過程を考えてもみよ。これはエナメル質を形成する細胞のタンパク質が石灰化の過程で分解・吸収されるはずが酵素がフッ素で障害され機能不全となり吸収されずにエナメル質に残ることによる石灰化不全の結果じゃないか。そんな酵素が障害される以上、ほかの酵素が障害されないなんてことは信じられない」ということになる。
Bさらに最近では環境毒物学の教科書にすら

(一)フッ素は、調べられた限りではすべての組織のアデニールシクラーゼの活性を刺激し、
(二)カルシウムによって制御されるヒトの機能を阻害する。この機能には、血液の凝固、膜の透過性、神経機能、コリンエステラーゼの活性が含まれる。
(三)フッ素はSOD(Superoxide)やGSHDx(Glutathione peroxidase)のような、生体に保護的に働く酵素や、様々な組織中のカタラーゼを抑制する。これらの作用は、フリーラジカルによる反応をより起こしやすくさせ、細胞や組織を破滅させる。


とまで書かれているのに、彼らはこうした
最新の知見を一貫して無視しつづける。そういう態度をとり続けることが歯科の臨床医や生命科学の研究に従事する者として許されるか。
さらに、
C水道フッ素化は、一種の強制的集団的投薬である。行政権力には、社会を危機に陥らせることがない虫歯の予防薬などを、インフォード・コンセントもなしに住民に強制的に摂取させる権利があるか。また、フッ素が好きな者が、フッ素はいやだという者に対して摂取を強制する権利があるのか、という人権意識からの批判もある。

本書の内容はいずれも右の論点のいずれかに関係しているが、なかでも異色なのは「フッ素と歯、そして原爆」というレポートであろう。これはアメリカのジャーナリストが丹念に公文書を発掘して研究した結果、フッ素の使用のルーツが虫歯予防という歯科医学的なマターにあったのではなく、第二次大戦中の超極秘機密であった原爆の製造に関連する公害訴訟から国という被告を守り、原爆の機密をあくまで保持するために意図的に行った隠蔽工作にあったことを明らかにしたものである。

以上を見てもわかるとおり、これは一種の言論によるバトルつまり闘争である。バトルが公明正大に行われているのならば、大方の読者はスポーツを見るように野次馬として論戦の決着のつきかたを楽しんでいられるはずであるが、いったん厚労省の政策ともなればそう呑気に構えてもいられない。たとえばある地区で反対派が負け、議会がフッ素化条例を可決すれば、水質のよい所の住民ならば否応なく二、三十倍も余計なフッ素でわざわざ汚染させた水道水を飲まされるということになるからである。
そして、その結果がどうなるかは、現在熾烈に展開されているアメリカやカナダ、アイルランド、ニュージーランド、オーストラリア等の市民運動や訴訟の論点を検証してみれば明らかになる。一言でいえば、斑状歯が激増したのに虫歯は減らず、ガンや関節炎をはじめ、不気味な全身病が蔓延するということになるのである。

そうした市民運動が激しさを増すにつれて、これまで無関心だった各国のマスコミも注目するようになり、反対者の主張に焦点をあてて、被害の実態や住民投票や訴訟のなりゆきを報じる等大きく変化してきた。
その最近の一例にカナダの代表的な保守系の週刊誌「マックリン・マガジン」がある。すなわち、同誌二00二年十一月二十五日号は、同誌としてははじめてフッ素問題をとりあげ、ブリティッシュ・コロンビャ州で四十五年も反フッ素化闘争を続けてきた市民運動家のインタビュー記事を掲載したほか、カナダで進行中のフッ素化裁判や、推進派から反対派に転向したトロント大学の予防歯科学主任教授ハーディ・ライムバック博士の主張を紹介し、記事の結末を先の市民運動家のこんな言葉で締めくくっている。
「フッ素化には異論があることを長い間無視してきたツケは高くつくだろう。五十年間のフッ素化で被害を受けた人の数がはっきりすれば、訴訟の数も見当がつかないくらい多くなる。」
この記事を先に述べた読売新聞の社説などと比較すると、論説委員の不勉強ぶりとその能天気さかげんには呆れざるをえない。しかし、幸いにも日本では、すでに「週間金曜日」三0三号(二000年二月十八日号)、「現代」二00一年五月号の宮島英紀氏の労作ルポ「水道水のフッ素化は大論争」などとしっかりした報道があるのはカナダより一歩進んでいる感じがする。

一昔前にはこうした情報を得るのもなかなか困難で、大学や国会図書館に日参し、外国から講師を招いて勉強しなければならなかったが、インターネットの普及は凄まじいものがあり、今ではいながらにして世界中の情報を得ることができるようになった。特に本書でもとりあげているニューヨークのセントローレンス大学のポール・コネット教授(化学)のウェブサイトFluoride Action Networkは巨大なもので、さながらフッ素問題に関する一大図書室のようである。おそらく一生かかっても読みきれぬほどの文献がそろっている。
同教授のこのサイトが登場してから、さすがのフッ素王国のアメリカでもフッ素化運動が急速に後退しはじめ、住民投票で軒並みフッ素化政策が敗退しつづけている。このサイトを通じて多くのアメリカ人が、フッ素に関しては政府に完全に裏切られてきたことを知り始めたのである。私の日本語のサイト「フッ素毒警告ネットワーク
(http://members.jcom.home.me.jp/tomura/murakami/index.htm)
も毎日おびただしいヒットを頂くようになったのは喜ばしい限りである。

一九七八年に名著「フッ素化・この巨大なる矛盾」を出版してフッ素の慢性中毒の実態を人々に知らせたアレルギー医療の先駆者ジョージ・ウォルドボット博士は、博大な同書を次のような言葉で閉じている。

アメリカ公衆衛生局、環境保護庁、全米学術会議、全米研究協議会、全米学術推進協議会、世界保健機構(WHO)、ギリス王立医師会、アメリカ医師会、アメリカ歯科医師会の官僚や役員らは、(略)歴史の最後の審判の前で、自分がどんな姿になるのかを心に問うてみるがよい。以前、フッ素の為害性がはじめて報告された時に、彼らは「警鐘を鳴らす」こともできたのであるが、それをしなかった。彼らの罪悪は、フッ素化による被害の証拠が脚光を浴びるようになるにつれ、益々深まってきたのである。
悪いニュースを閉じ込めておこうとする彼らの情熱は、大衆の憤激が洪水のように氾濫する時には、まるでダムのように全てが決壊するであろう。彼らの権威は失われ、輝くような科学のイメージは、過去にその比を見ないほど汚辱にまみれるに違いない。(略)医学という道には(略)、人間の苦しみを癒す真実のほかには満足すべきゴールはない。あらゆる臨床家に慢性フッ素中毒のひどさを理解して頂ければ、そして真に安全な飲料水を義務づける法律が施行されるならば、何百万という人達の健康は、驚くほど改善されるにちがいない。(以下略・訳・村上 徹)

二十一世紀に大規模なフッ素中毒が日本でも蔓延するようになるのかどうかは、ひとえに国民が単純な宣伝にごまかされて、フッ素信仰を野放しにするかどうかにかかっている。二度と水俣病の轍を踏まぬためにも、「フッ素添加」を「フッ化物濃度適正化」などと偽る推進派の言説には警戒していただきたい、と私は心から願う。
本書がそのための手引きともなれば望外の幸せである。

平成十四年 初冬


医学博士 村上 徹



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