2 研究論文の照会と概要(1〜14)

前記ISFRの機関誌「フルオライド(FLUORIDE)」は、フッ素の毒性研究に関しては世界で唯一の学際的な国際誌であるが、そのアブストラクト欄には、最近物故するまで8年間編集長をつとめたニュージーランドのジョン・コフーン博士の努力で、世界中の様々な学術誌に掲載されためぼしいフッ素研究論文のアブストラクトが紹介されている。さらに便利なのは、アメリカの厚生省(DHHS)が主管しているNational Library of Medicine のMedlineというインターネットの文献検索システムで、この巨大なサイトhttp://www.nlm.nih.gov/medlineplus/には、バイオメディカルの分野だけでも4300種の雑誌の1,100万論文のアブストラクトが収載されているという。その内容には、米厚生行政当局の政策に不利な情報は巧妙に省かれているという批判もあるが、この膨大なデータが無料で公開されているという事実には、何と言っても圧倒される。その中には、中国語や日本語の原著から英語に翻訳したものも混じっており、さすがアメリカの国力は大したものだとしか言いようがない。その検察エンジンも実に強力で、適当なキーワードさえ選択すれば何でも出てくると言った感じである。
 以下、本編で紹介するのは、こうして収集したアブストラクトと、それをさらに整理した別のインターネットのアブストラクト集から抜粋したものであるが、言うまでもなく原文はいずれも英語である。

 アブストラクトさえあれば、原著の入手は比較的に容易である。ことに最近は文献サーチサービスを提供する企業が何社もあるので、わざわざ遠方の医歯系大学や国会図書館にまで出かけなくとも、ファクス一枚の注文で原著のコピーを入手できる。
 翻訳は全て私が行った。訳出に当たっては意訳を避け、可能な限り逐語訳にした。また、原語の略称で通用している述語はそのまま用いた。
 さて、フッ素の脳機能障害は、80年代の半ばから、まず次のような生理学的研究で姿を現してきた。

★ 照会論文1
JKay AR, Miles R, Wong RK, Intracellular fluoride alters the kinetic properties of calcium currents facilitating the investigation of synaptic events in hippocampal neurons. J Neurosci 1986 Oct;6(10):2915-20


我々は、細胞内に様々な因子を導入することで、海馬領域におけるニューロンの電位依存性のコンダクタンスを抑制しようと試みた。成獣モルモットから急性に分離した海馬のニューロンを用い、ヴォルテージクランプ実験を行った。シナップスでの事象は、切片標本からの細胞内記録により検査した。ナトリウムコンダクタンスは、4 級リドカイン誘導体であるQX314を細胞内に適用すると抑制された。カリウムコンダクタンスは、細胞内セシウムまたはトリスでブロックされた。我々は、陰イオンのフッ素が、細胞内で作用してカルシウムコンダクタンスに影響することも見出した。フッ素以外の陰イオンを細胞内記録のために使用すると、電位依存性のカルシウム電流は徐々に不活性化し、-40 から-10 mVの間の膜電位で持続的な活性を示した。これに反し、細胞内にフッ素が存在するとカルシウム電流の動態は加速され、この電流の持続的な成分は大きく抑制された。海馬の切片標本の細胞内記録は、電極がセシウム、QX314、フッ素で満たされている時には、スパイクと神経細胞膜が脱分極へと向かう非直線的な反応がブロックされること示した。このような状態においては、この時間経過とEPSPの電位依存性は、シナップス後細胞の電位依存性電流に起因する悶着を除くことなしには、その詳細を検査することは不可能である。
 

このヴォルテージクランプという実験方法は、膜電位を固定する目的で用いる電気生理学実験の一手法であるが、高度に専門的なため解説は省略する。また、脳における海馬領域の機能といった事項についても同様とした。現在では、脳の生理学に関する解説的な良書がたくさんあるので、好学の方はそれらをお読み頂きたい。
 現在、ニューロンのカルシウム濃度に依存して開閉するすシナップスのチャンネルは、カリウムチャンネル、カルシウムチャンネル、クロライドチャンネルが知られており、フッ素イオンがカルシウムイオンと強い親和性を有することから、フッ素がこの機能に影響を与えると考えても少しもおかしくない。そうなると、全身のシナプッスの機能が阻害されても不思議ではないという話になる。内科医ジョージ・ウォルドボットが報告した、フッ素の慢性中毒患者の心身にわたる多様な症状の発現は、このような観点から見ても臨床的に極めて正確な記述だったと言えるだろう。
 
脳から、生きている組織を薄い切片として切り出し、神経細胞の内部に微小電極を直接刺して単一細胞の電位の変化を観察するという技術は、現在でもそんなに容易ではなく、この実験の質の高さが一流の水準にあることを示している。
 次に注目されたのが以下の3論文である。最初の2編は紹介論文1と同じく生理学および行動医学的研究であるが、4に至って、研究の対象が人体の病理へ向けられているのが注目される。

★ 紹介論文2
Mattsson JL, Albee RR, Eisenbrandt DL Chang LW, Subchronic neurotoxicity in rats of the structural fumigant, sulfuryl fluoride, Neurotoxicol-Teratol, 1988 Mar・Apr, 10:2, 127-133


オス、メスのフィッシャー344系ラットに300 ppm のフッ化スルフリル( Vikane、ダウ・ケミカル社) を1 日6 時間日、1 週5日、13週間吸入により曝露させ、変化を観察した。その結果、体重の増加の減少、歯牙フッ素症、グルーミングの軽度の減少、閃光融合(flicker fusion)の閾値の減少、フラッシュの遅鈍化、大脳皮質における聴覚および体性感覚の誘発電位、軽度な鼻および肺の炎症、軽度な腎作用、脳における軽度の空胞形成などが惹起した。2 か月間曝露させたオス2 匹メス2 匹について、聴覚脳幹反応(ABRs)と脳の組織像を評価した。この2群とも、この時点では正常範囲にとどまっていたが、これらの処理による作用は、少なくとも大部分は、変化が可逆的であることを示している。100ppm曝露では、歯牙フッ素症とごく軽度のある反応が誘発されたが、脳の組織像を含む他の検査の結果は正常であった。30ppmでは処理による作用は何も認められなかった。

★ 紹介論文3
Experimental study of behavior and cerebral morphology of rat pups generated by fluorotic female rat, Chung-hua Ping Li Hsueh Tsa Chih, 1989 Dec, 18:4, 290-292 (Article in Chinese)



中枢神経系に対するフッ素の作用を研究するため、3 群の雌ウィスター系ラットより生まれた生後33-42 日の仔ラットを用い、予め85日間、飲料水として0 、30、60ppm をそれぞれの群に与えてから行動テストと脳の形態学的検査を行った。行動テストの結果、疼痛反応と条件反射の潜在期間が、30ppm 、60ppm 群の方がコントロールに比べ長いことが示された(P<0.05, P<0.01)。仔ラットの脳の形態学的検査では、60ppm 群の神経細胞の密度が、コントロールに比べより高かった( P<0.05) 。電子顕微鏡所見では、神経細胞のオルガネレ( 細胞小器官) の軽度の変性が、60ppm 群で認められた。

★ 紹介論文4

Chung-hua Ping Li Hsueh Tsa Chih 1992 Aug;21(4):218-20
The effect of fluorine on the developing human brain.[Article in Chinese], Du L. Department of Pathology, Guiyang Medical College.



フッ素症流行地域において疾病治療のため妊娠5−8月で中絶した胎児15例を、非流行地域におけるものと比較した。脳の立体解析学的研究の結果、ニューロンと未分化神経芽細胞の容積の数的密度は、ニューロンの核−細胞質比と同じ様に増加していた。ニューロンの平均容積は減少していた。容積の数的密度と、容積密度およびミトコンドリアの表面密度は著しく減少していた。この結果は、子宮中に胎児の生命がある過程での慢性フッ素症は、胎児の脳の発達に有害な作用を及ぼすという事を示しているのであろう。  
 こんな経過の後、同じく中国から、欧米の関係者を震撼させる論文が出た。これは、フッ素の摂取により子供の知能が低下するという、極めて端的かつ刺激的な内容のものである。

★ 紹介論文5
Li Y, Li X, Wei S, Effect of excessive fluoride intake on mental work capacity of children and a preliminary study of its mechanism, Hua Hsi I Ko Ta Hsueh Hsueh Pao,1994 Jun, 25 :2, 188-191 (Translated from Chinese)



我々は、煙突のない室内の炉で石炭を燃やすためフッ素症が蔓延している地域に生まれ育った12−15歳の子供157人について調査し、同時にラットにフッ素を過剰摂取させる実験的研究を行った。結果は次のとおりであった。(1)早年齢からのフッ素の過剰摂取は、精神集中を要する仕事への能力(MWC)と毛髪中の亜鉛の濃度を低下させる。(2)亜鉛代謝に対する効果は、フッ素の過剰摂取によるMWCに関する影響のメカニズムである。(3)フッ素の過剰摂取は、5ヒドロキシインドール酢酸を減少させるとともに、ラットの脳中のノルエピネフリンを増加させるが、これがMWCに関する影響のメカニズムであるかどうかは、更に追認を必要としよう。

★ 紹介論文6
Li XS, Zhi JL, Gao RO, Effect of Fluoride Exposure on Intelligence in Children, Fluoride, 1995 Nov, 28:4, pp 189-192



環境中のフッ素量が異なった地域に生活する8-13歳の子供907人について知能を計測した。中度または重度のフッ素症が流行している地域の子供たちの知能指数(IQ) は、軽度もしくはフッ素症が全く発生していない地域の子供たちより低下していた。知能の発達は、中度または重度のフッ素症が流行している地域においては、フッ素のために障害されているようであったが、軽度のフッ素症がわずかしか発生していない地域では、その影響は少なかった。多量のフッ素の摂取は、知能の低下を随伴する。中度または重度のフッ素症が流行している地域では、年齢と知能との間に相関関係は認められなかった。高レベルのフッ素の曝露が知能に及ぼす効果は、脳細胞の分化が急速に進む胎児や嬰児の発達の初期の段階で起こるもののようである。

★ 紹介論文7
Yang Y, Wang X, Guo X, Effects of high iodine and high fluorine on children's intelligence and the metabolism of iodine and fluorine, Chung Hua Liu Hsing Ping Hsueh Tsa Chih, 1994 Oct, 15 (5), 296-298 (Translated from Chinese).



高ヨウ素地域および高フッ素地域における子供の知能と、ヨウ素およびフッ素の代謝に関して研究を行った。結果は次のとおりである。高ヨウ素地域および高フッ素地域の住民および子供の甲状腺肥大の発生率は、それぞれ3.8%、29.8%であった。また、歯牙フッ素症の発生率は35.48%、72.9 %であった。生徒の知能指数(IQ)の平均は76.67 ±7.75で、比較対照地区よりわずかに低く、IQの低い生徒の割合は16.7%であった。尿中のヨウ素及びフッ素量は、それぞれ816.25±1.80μg/Lと2.08±1.03mg/Lで、比較対照地区よりはるかに多かった。甲状腺のヨウ素-131(131I)の取り込み率は、比較対地区よりはるかに少なかった。その3 時間および24時間値は、それぞれ9.36±1.55%Jと9.26±4.63% であった。血清TSHは比較対地区より明らかに高かった。これらの結果は、ヨウ素とフッ素の過剰摂取が、人体に深刻なダメージを与えていることを示している。

 この問題は、同じく中国の研究者によってさらに追求され、2年後に次の論文が発表された。

★ 紹介論文8
Zhao LB, Liang GH, Zhang DN, Wu XR, Effect of a high fluoride water supply on children's intelligence, Fluoride, 1996, 29:4, 190-192



概要:中国Shanxi地方のXiaoyi市の近郊にあるSima村はフッ素症流行地帯であるが( 飲料水中のF 濃度=4.12 ppm ) 、そこの住民のIQの平均(97.69) は、一般の平均(105.21)より著しく低下している(p<0.02)。この違いは性とは関連していなっかたが、両親の教育レベルとは直接的な関係があった。
緒言:フッ素は胎児の血流脳関門を透過し、胎児の脳に蓄積することが報告されており、1)従って子供の知能に明らかな影響を及ぼす。2)1993年4月に導入された現在の研究においては、この仮説は、中国のShanxi地方中央部の飲料水中のフッ素濃度が著しく異なっている2 つの郊外に居住する7-14歳の子供320 人をランダムに選択してIQテストを実施し、その結果を比較することでさらなる検証が続けられている。
議論:この研究の結果、出生前における高濃度のフッ素の摂取は、2つの村のうちの1つで子供のIQに著しい悪影響を与えていることが示された。性別による真の差異はなかった。高フッ素地域であるSima村では、フッ素濃度の低いより健康なXinghau村と比較すると、IQ69かそれ以下の子供の数は6倍であった。しかし、Sima村であっても、IQが120 かそれ以上というXinghau 村より優れた子供が、少数ながら認められた。さらに、Sima村ではXinghau 村より、増齢によるIQ指数の上昇がより鈍いという事実は、子宮中での高濃度のフッ素の被曝が長期間にわたって蓄積性の害作用を子供に与え、高フッ素地域では増齢によってもそれが乗り越えられないでいるという見解を支持するものであろう。

 
こうした現象の考察の場合に問題になるのは、血液脳関門をフッ素が透過して、脳のニューロン中にフッ素が入り込むのかどうかということであるが、これまでフッ素を推進してきたアメリカ政府系の学者らはこんな事は絶対にないと主張しており、正統的な立場にある西欧の研究者が、これら政治的権威を背景にした学者らの言説に挑戦するのは、かなりの勇気を必要とした。しかし、日進月歩の科学的真実の前で神話は崩れる。だからこそ科学は、理性の所産として信頼に値する。ニュージーランドの一人の精神科医が、関係文献を詳しく検討してそれに挑戦した。

★ 紹介論文9
Spittle B, Psychopharmacology of fluoride: a review, Int Clin Psychopharmacol, 9:2, 1994 Summer, 79-82


血液脳関門は、フッ素に関しては比較的不透過的であるとはいえ、絶対的な障壁ではなく、フッ素は脳中に侵入する。そこで、治療薬や環境由来のフッ素の曝露に起因する脳障害に関する証拠を吟味するため、文献的検討を行った。産業性のフッ素汚染により慢性的にフッ素に曝露された複数の人間について、幾つかの研究が、中枢神経系に関係する認知力と記憶の障害を報告している。個々人に関する症例報告を検討してみると、症状とフッ素被曝との病因論的関係性は、質的に多様であるのが分かる。この証拠においては、この関係性は、確定的というより示唆的であると見なされる。フッ素の曝露と関係して述べられている集中力や記憶の困難性は、それ単独で起こったものではなく、中枢性の不定愁訴や疲労の症状に随伴して起こっているのである。従って、フッ素が脳機能に及ぼす作用は、カルシウムカレントに対する影響や、アミドグループとの強力な水素結合が作りだす酵素組成の変化などが脳皮質のアデニールシクラーゼの活性を阻害し、ホスホイノシチッドの加水分解を増加させるというメカニズムの可能性が考えられる。
[ フルオライド編集部注:この総説はMullenixらの研究以前に発表されたものであり、彼らの先駆的な研究を完成せしめた。血液脳関門はフッ素を透過させる。]

上記の引用文中の括弧書きの編集部云々以下の記述は、このアブストラクトを掲載したISFRの学会誌「フルオライド」の編集部という意味である。

 それではここで、血液脳関門と化学物質の透過について、現在どのような事実が確定しているのか、最近の知見を紹介しておきたい。前記の日本環境ホルモン学会第3回講演会において、東京都神経科学総合研究所の黒田洋一郎氏は次のように述べている。

脳の発達で一番重要な時期・胎児-乳児期に化学物質は脳に入りやすい。脳の機能発達過程で最も環境化学物質の影響を受けやすい時期は、胎児期から母乳の影響をうける乳児期のあいだである。
成熟した脳では、このような環境からくる化学物質による攪乱から脳を守るために、血液脳関門が発達し、有害な化学物質の血液系を通しての侵入を“関所”のように防いでいる。ところが胎児期にはこの防御システムはないといわれ、乳児、幼児期でもこの関門の機能は未発達で多くの有害物質を通してしまう。母親の脳にはめだった影響を与えなかった量の有機水銀が、胎児の脳に侵入し胎児性水俣病をおこしてしまったことはよく知られている。血液脳関門も、自然界にない人工化学物質では、ことに完全でない場合が多く、ダイオキシン類も少量ながら日本人の脳に蓄積している。
 このように胎児期から少なくとも生後6カ月を超えるまでの期間、発達脳には成熟脳でみられる血液脳関門は存在していないか著しく未発達で、母体からの血液を通して有害化学物質が脳内に入りうる。母体だけでなく、さらに困ったことは、日本の乳児が大量に飲む母乳は、ダイオキシン、BHC、ディルドリンなどにすでに汚染されており、血液にはいったものの一部は脳に移行する。
障害の程度は当然のことながら、重いものから軽いもの、そして正常の範囲へと連続的である。妊娠末期までの細胞分裂期での障害は、一般に大きな奇形を生じ、脳では無脳症などを生じる。一方、軽い発達異常では、脳の形態的な異常は発見しにくく、いわゆる機能異常(最近では機能奇形という表現も散見する)行動異常だけが行動学的に観察される。この代表が微細脳機能障害(MBD:minimal
brain dysfunction )と昔からいわれていたもので、(略)現在では注意欠陥多動性障害(ADHD)を含む学習障害(LD)と診断されるようになった。(以下、略)

黒田氏の記述は、期せずして次に紹介する論文10、11、12、13の絶好の解説となっている。黒田氏の文中にある様々な有害化学物質を、「フッ素」という言葉に置き換えて次の4編の論文を読んでみると、フッ素による虫歯予防という手段が、いかに時代遅れになってしまったものかがよく分かるのである。後述するように、アメリカではADHDもLDも、非行少年および犯罪者に多く認められる素因として、犯罪学者から近年著しく注目されている現象である。

 本筋に戻ろう。 次の3論文は、アメリカばかりか世界中のフッ素研究者に、深刻な衝撃を与えたといってよい。それは研究の質が極めて高く、その結論の妥当性が如何にも説得力に富んでいるからである。
虫歯予防に使用するフッ化ナトリウムには、強い中枢神経毒性がある。しかも、それがアルミニウムと共働作用する時には、アルツハイマー病の有力な危険因子となる疑いが濃い。ここで想起しておきたいのは、負に帯電するフッ素イオンは、正に帯電するあらゆる金属イオンと活発に結合するという無機化学的な事実である。後述するように、これは鉛中毒がフッ素によって増強するという事実とも関係してくる。興味のある方は、このアブストラクトだけではなく、さらに原著をお読み頂きたい。

フッ素(F) には、組織に石灰化を起こす作用があることは知られているが、発達しつつある脳にどのような作用を及ぼすかは、これまで考慮されなかった。この研究では、Sprague-Dawleyラットを用い、胎児期、離乳期、成獣の各個体にフッ化ナトリウム(NaF)を曝露させ、行動、体重、プラスマ中および脳中のフッ素レベルを測定比較した。胎児期の曝露のためには、妊娠14-18日または17-19日の母獣に、体重kgあたり0.13mgのNaF または塩水を皮下注射により投与した。乳獣には0.75、100 、125 ppm の濃度のF を含む飲料水を6または20週間与え、生後3 か月の成獣には100 ppm F の飲料水を6週間与えた。行動テストは、コンピューターによる行動パターン認知システムにより行った。この装置で、新奇な環境における行動、行動開始の計測、時間の合計、時間構造の分類を行った。フッ素の曝露は、一般的な行動パターンとともに特異的な行動欠損を、性, 曝露量に従って惹起した。オスでは胎生17-19 日のものが最も感受性が高かったが、メスでは、乳獣期および成獣期に曝露を受けたものの方が敏感であった。フッ素を投与した後の検査では、行動に対するフッ素の作用の重篤度は、プラスマ中のFレベルと、脳の特定の領域のフッ素濃度とに直結して増加していた。
この相関性は、このラットモデルのプラスマ中のフッ素濃度</B>(0.059− 0.640 ppm Fが、これまでに報告された、高レベルのフッ素に曝露された人間の場合と同様であるだけに重大である。(強調原文)


黒田氏の記述は、期せずして次に紹介する論文10、11、12、13の絶好の解説となっている。黒田氏の文中にある様々な有害化学物質を、「フッ素」という言葉に置き換えて次の4編の論文を読んでみると、フッ素による虫歯予防という手段が、いかに時代遅れになってしまったものかがよく分かるのである。後述するように、アメリカではADHDもLDも、非行少年および犯罪者に多く認められる素因として、犯罪学者から近年著しく注目されている現象である。
 本筋に戻ろう。
次の3論文は、アメリカばかりか世界中のフッ素研究者に、深刻な衝撃を与えたといってよい。それは研究の質が極めて高く、その結論の妥当性が如何にも説得力に富んでいるからである。虫歯予防に使用するフッ化ナトリウムには、強い中枢神経毒性がある。しかも、それがアルミニウムと共働作用する時には、アルツハイマー病の有力な因子となる可能性がある。
 ここで想起しておきたいのは、負に帯電するフッ素イオンは、正に帯電するあらゆる金属イオンと活発に結合するという無機化学的な事実である。興味のある方は、このアブストラクトだけではなく、さらに原著をお読み頂きたい。

★ 紹介論文10
Mullenix PJ, Denbesten PK, Schunior A, Kernan WJ, Neurotoxicity of sodium fluoride in rats, Neurotoxicology Teratology, 1995 March,17(2):169-177.



フッ素(F) には、組織に石灰化を起こす作用があることは知られているが、発達しつつある脳にどのような作用を及ぼすかは、これまで考慮されなかった。この研究では、Sprague-Dawleyラットを用い、胎児期、離乳期、成獣の各個体にフッ化ナトリウム(NaF)を曝露させ、行動、体重、プラスマ中および脳中のフッ素レベルを測定比較した。胎児期の曝露のためには、妊娠14-18日または17-19 日の母獣に、体重kgあたり0.13mgのNaF または塩水を皮下注射により投与した。乳獣には0.75、100 、125 ppm の濃度のF を含む飲料水を6 または20週間与え、生後3 か月の成獣には100 ppm F の飲料水を6 週間与えた。行動テストは、コンピューターによる行動パターン認知システムにより行った。この装置で、新奇な環境における行動、行動開始の計測、時間の合計、時間構造の分類を行った。フッ素の曝露は、一般的な行動パターンとともに特異的な行動欠損を、性, 曝露量に従って惹起した。オスでは胎生17-19 日のものが最も感受性が高かったが、メスでは、乳獣期および成獣期に曝露を受けたものの方が敏感であった。フッ素を投与した後の検査では、行動に対するフッ素の作用の重篤度は、プラスマ中のFレベルと、脳の特定の領域のフッ素濃度とに直結して増加していた。この相関性は、このラットモデルのプラスマ中のフッ素濃度(0.059− 0.640 ppm F)が、これまでに報告された、高レベルのフッ素に曝露された人間の場合と同様であるだけに重大である。(強調原文)

★ 紹介論文11
Varner JA, Jensen KF, Horvath W, Issacson RL, The Neurotoxicological Evaluation Of The Chronic Administration Of Aluminum-Fluoride and Sodium-Fluoride, Society for Neuroscience Annual Meeting; San Diego, CA, 1995 Nov, abstract.



この研究は、フッ化アルミニウムとそれと等しいごく低濃度のフッ化ナトリウムを飲料水中に混ぜて与え、神経毒の慢性摂取による結果を検討したのもである。3.5月齢−4.5月齢のLEラット27匹を用いた。動物は飲料水の内容別すなわち、コントロール、NaF 、AlF 別に3群に分けた。飲料水は52週間を通じて自由に与えた。研究期間を通じて、コントロール群に比べてAlF群の動物が、明らかに多数死亡した。組織学的研究は、次の染色法により行った。いずれも、神経細胞の消失はNaF群、コントロール群に比較してAlF 群に著明であり、左半球および両半球の歯状回に認められた。AlF 群において毒物が引き起こす異常は左半球の皮質により明らかであり、右半球の海馬にも変化が認められた。海馬の好銀性の反応は、両処理群とも共通していた。βアミロイド反応の生成は、両毒群とも視床において増加していた。より多くのIgM抗体反応の生成が、両処理群のラットの右半球の皮質に認められた。脳および腎全体のアルミニウムの総量は、コントロールに比べて両毒群が多かった。糸球体疾患と見なすべき異常が、両処理群に認められた。この減少もしくは細胞の外観上の異常、βアミロイド、IgM、アルミニウムの存在は、フッ化アルミニウムが飲料水に混ぜて慢性的にラットに投与された場合には神経毒となでることを示している。細胞の外観上の異常、<FONT
face="MS Pゴシック">β</FONT>アミロイド、IgM、アルミニウムの存在は、フッ化アルミニウムとは多少異なっているとはいえ、フッ化ナトリウムも神経毒性を発揮することを示唆している。


★ 紹介論文12
Varner JA, Huie C, Horvath W, Jenson KF, Isaacson RL, Chronic AlF3 Administration: U Selected Histological Observations, Neurolscience Research Comunications, 1993, 13:2,


〔フルオライド編集部注〕:この研究は飲料水からのアルミニウムの摂取が、フッ素の存在で増強されることを示している。フッ素処理された動物の脳には、ほぼ2倍ものアルミニウムが蓄積するのである。1992年10月28日づけのウォールストリート・ジャーナルは、この研究に関して次のように記事を掲載した。「最も多い量を与えられた動物は、歩き方が老齢の動物特有の小刻みなものとなり・・死後のラットの脳の解剖では、新皮質と海馬から多くの細胞が消失しており、これは痴呆に関連するものであることが明らかにされた」。

 言うまでもなく、アルツハイマー病は多因子性疾患と考えられており、黒田によれば、その危険因子は、加齢やアルミニウムを含めて8項目ほどがあげられている。そのなかの有力な因子であるアルミニウムの脳のニューロン内への取り込みがフッ素で増強されるという事実は、この物質を無反省に多用しがちな歯科医師にとっては、心にとどめなければならいないことのようである。

 ニューロンは、他の臓器のように、何か月かで新しい細胞と入れ替わるというようなことがなく、一生同じ細胞が生きつづけてゆく。当然、死んだ細胞の補充はない。その意味からも、脳細胞への有害物質の蓄積は、なるべく避けて暮らすのが脳を健全に保つ要件の一つであろう。

 さて、紹介論文9の主著者であるマゥレニクス博士は、1998年8月に開催された国際フッ素研究学会で、フッ素による脳機能障害に関して特別講演を行ったが、それまでの経緯を含め、更に次のような情報をインターネットで発信している。こういう率直さが、残念ながら自己の意見の表明に慎重な日本人には真似のできない所である。彼我の研究文化の相違や、彼女が研究を行った周辺の事情がよく理解できると思われるので、その全文の訳を次に示しておく。

★ 紹介論文13
研究を要する物質として、フッ化物が最初に私の興味を引いたのは1982年であった。当時私は、ハーバード大学医学部のボストン子供精神病理病院の精神科に勤務していた。私の研究は、神経毒性の発現過程の解明に焦点をあてたものであって、環境要因や治療上の因子すなわち、放射線、鉛、アンフェタミン、フェニトイン、酸化窒素などについて考察していたのである。ボストンにあるフォーサイス小児歯科診療所の所長ジョン・ヘィン博士は、かねて神経毒性の研究に興味を抱いており、フォーサイスでこの研究を続け、それを歯科で使用される物質に応用するようにと私を招致した。彼のリストでは、フッ素が最も目立っていた。
私たちがフッ素研究を開始するまでに5年が経過した。この遅れは、技術的な改善に時間がかかったためで、特に動物モデルの行動を客観的に定量化するためのコンピューターによるパターン認知システムの開発に時間を要した。1986年の6月の初頭、フォーサイス歯科センターがこのシステムを完成したことが、ウォール・ストリート・ジャーナルやボストン・ヘラルドで報道され、我々の研究の応用範囲が広がっていった。この新技術を用いれば、子供の白血病の治療薬の神経毒性を臨床的に認識することが可能である。それと同時に、我々は「安全で効果的」な虫歯の処置といわれるフッ素についても研究を開始した。
フッ素研究をはじめた当初は、この問題はあまり我々の興味をひかず、我々は学問的にもっとエキサイティングな別なことをしたいと思っていた。歯牙フッ素症の研究用に開発した動物モデルを用いながら、我々は、フッ素を添加した水を飲むラットは、マッチさせたコントロールと同じような行動をとるものとばかり思っていた。ところが、そうではなかった。科学文献は、我々に、ラットは175ppmのフッ化物を添加した飲料水にも簡単に適応すると信じせてきた。しかし、そうではなかったのである。これまでに複数の論文が、フッ素は血液脳関門を通過しないと主張していた。しかし、通過したのである。胎児期に曝露を受けても、フッ素はその個体の行動の結果を永久に変化させないといわれていた。しかし、変化させたのだ。脳機能はフッ素によっては障害されないという我々の確信は、流砂の中に踏みこんだように沈み始めた。

我々がNeurotoxicology and Teratologyに発表した1995年の論文は、中枢神経系(CNS) の機能がフッ素で障害されるということを示した最初のin vivoの実験研究である。そしてその行動に対する作用は、フッ素の曝露を受けた個体の年齢に係わっており、フッ素が脳組織に蓄積することを示していた。フッ素に被曝した乳獣や成獣に共通して見られる行動の変化は、受胎中の場合とは異なっていたのである。受胎中に被曝した場合は、薬物で引き起こされる活動過剰などに見られる行動のようにバラバラなものであったが、乳獣や成獣での曝露は、認識力欠如に多分に関係する特殊な行動の変化へと導いた。この研究では脳の組織は調べなかったが、我々は、ラットにこのような行動をとらせるフッ素の作用は、海馬(一般に記憶と関係する脳の領域)の発達を障害することによるものであろうと示唆した。

人間やラットにおけるフッ素の中枢神経系に対する作用の閾値を確立することは、この最初の研究の目的ではなかった。しかし、人間のフッ素の被曝に関係する一つの事実が、極めて明確に現れてきた。ラットが75-125ppm 、人間が5 -10ppmのフッ素化飲料水を消費することは、ともにプラスマ中のフッ素濃度を同様な結果にする。そしてこのレベルは、骨粗鬆症のフッ素治療の場合でも観察されているが、歯科でフッ素塗布を受けた1時間後の子供では、この10倍以上にも達するのである。人間は、ラットの行動を変化させるレベルのフッ素に曝露されているのである。

我々はこのラットの研究で、フッ素が人間に、運動機能障害とIQ低下もしくは学習能力の低下をもたらす可能性があるということを結論とした。我々には十分な自信があったが、我々のデータは謎を解くほんの一部に過ぎない。その全貌はいま現れつつあるのである。その後すぐに我々は、中国の2つの疫学研究(
Fluoride・1995-1996)が、飲料水と石炭のススからのフッ素の過剰摂取で、子供たちのIQの低下が起こっている、という事実を示しているのを知った。最近のある総説(International Clinical Psychpharmacology,1994) は、フッ素の過剰の曝露を受けた人間の中枢神経系に対するフッ素の作用の症例報告のリストを示しているが、その情報のスパンは60年間近くにも及んでいる。それらの報告に共通したフッ素の作用は、記憶と集中力の障害、無気力、頭痛、抑うつ、錯乱などである。同様なテーマは、[原爆製造の] マンハッタン計画に従事した労働者に関するかつての極秘報告書でも繰り返されている。
1998年に続いているフッ素による中枢神経系の機能障害に関連する情報。 Brain Research(脳研究雑誌)に掲載された最近の論文によると、飲料水中のフッ素に慢性的に曝露されたラットは、ニューロン( 海馬)と脳血管の完璧性(血液脳関門)を危機にさらし、脳組織中のアルミニウム濃度を増加させる。 MastersとCoplanの論文(Internatinal Journal of Environmental Studies、印刷中)(訳者注 :文献13)は、飲料水フッ素化に用いるフッ素化ケイ酸が、子供の血中の鉛の濃度を増加させ、これは犯罪率の上昇やADD(注意欠陥症)や学習能力の欠如の危険因子となると報告している。

3)8月に開催された国際フッ素研究学会(ISFR)において、Lukeはフッ素が歯や骨以上に人間の松果体に蓄積し、松果体のメラトニンの合成経路がフッ素によって障害されることを報告した。
4)私もその学会で、フッ化物のステロイド(デキサメタゾン)は、非フッ化性のステロイド(プレドニゾロン)より、はるかにラットの行動を障害することを報告した。このことは、小児白血病でステロイド治療を受けている子供に関する完了したばかりの研究結果と一致する。デキサメタゾンはプレドニゾロンと比べると、IQの低下、特に読解力の低下、計算能力、短時間の仕事の記憶などを障害するのである。

フッ素の曝露は飲料水ばかりか、歯磨材や洗口剤などからも来る。水道水をフッ素化することは、それが食物や人工飲料にも含まれることになる。さまざまな薬剤にフッ素を加える傾向は、投薬を通じて,さらにフッ素の曝露を増加させている。フッ素は様々な化合物の形で、職業上の曝露や、アルミニウム、製鉄、煉瓦の製造、ガラス、石油等の産業の近くに住んでいる人たちに深刻な影響を与えている。フッ素の曝露がこんなにも身近なものである以上、我々は中枢神経系に対するフッ素の曝露を、これ以上無視してはいられないのである。
  フィリス・マゥレニクス,Ph.D



 マゥレニクス博士がこの文中で述べている『[原爆製造の]マンハッタン計画に関するかつての極秘報告書でも繰り返されている』という部分は、これだけでは何の事やら理解できかねる複雑な事実関係が背景にある。
 これはアメリカのジャーナリストによる、第二次大戦中から戦後の冷戦期にかけての米政府の原水爆開発に関する極秘文書を解読したスクープ記事が関係しているのである。
 フッ化水素は原爆に使用されるウランの精錬には不可欠の物質であって、何百万ポンドという夥しい量のフッ化水素の製造のため、工場周辺には甚だしい公害が起こった。その公害は、訴訟にまで発展する勢いとなったが、そうなると、極秘裏に進められてきた原爆の製造計画が、訴訟という公開の場で白日の下にさらされかねない。そこで危機感にとらわれた政府は、これもまた極秘のうちにフッ素の中枢神経系に対する影響を研究するとともに、その結果を含めてこれらを全て"国家の安全"の名の下にを隠蔽することにし、そればかりか、逆にフッ素は安全であるという宣伝を展開して、水道フッ素化の計画を強引に推進することとした。
 この宣伝計画を提唱したのはフッ素の推進者として歯科界で有名な薬理学者H・Cホッジであり、公衆衛生局の官僚歯科医師であるディーンやアストも深く関与していた。彼らは後に「水道フッ素化の父」と呼ばれるなど、虫歯予防にフッ素を応用する研究での世界的権威者として君臨するようになった、という内容のもの。
 フッ素応用が真摯な学問として開発されてきたとばかり信じ込んでいるナイーウ゛な日本人歯科医師にとっては、何とも衝撃的なスクープであるが、私はこの記事を最初に掲載したニューヨークの環境系の雑誌「ウェイスト・ノット」(ゴミ焼却によるダイオキシン汚染専門のニューズレター誌)の編集長の許可をとって全文を翻訳して発表しているので、興味のある方はさらにそれをお読み頂きたい。
 この記事は、全米のジャーナリストの最高の栄誉とされるピューリッアー賞の舞台であるカリフォルニア州ソノマ大学に設置されているプロジェクト・センサードによって、アメリカの大メディアが検閲して公開しなかった1998年度の重要な研究レポート25篇のうちの一つに選ばれ改めてアメリカの知識人らに衝撃を与えているものだ。
 医学が、軍事機密研究に迎合あるいは従属させられることによって如何に残酷な犯罪が生じるかは、ナチスや日本の関東軍731部隊[10,11]などの例がよく知られているが、アメリカの原爆開発も例外ではなく、大学病院で全く無関係な入院患者に、秘密裏にプルトニウムを注射して毒性を試験する等のとんでもない犯罪が戦後になって暴露され、大問題に発展した。日米開戦の直前に開始されたグランドラピッズ市等での水道フッ素化実験も、低量のフッ素の毒性に関するデータを集めるための軍事研究の試験の一つだった、というのがこのレポートの核心である。
 さて、ここでまた本題に戻る。最近次のような研究が発表された。これはニューロンの膜の生化学的研究であるが、こうしたデータが臨床レベルである意味合いを帯びてくるには、まだ多少の時間がかかるのかもしれない。

★ 紹介論文14
AGuan ZZ, Wang YN, Xiao KQ, Dai DY, Chen YH, Liu JL, Sindelar P, Dallner G. Influence of chronic fluorosis on membrane lipids in rat brain. Neurotoxicol Teratol 1998 Sep-Oct;20(5):537-42



ラットに30ppm 、100 ppm のフッ素を投与して3 、5 、7 か月間飼育した後、脳細胞膜のリン脂質を分析した。フッ素症の脳のタンパクの含有量は低下していたが、研究の全期間 を通じてDNAの含有量は安定していた。7か月に及ぶフッ素処理の後では、脳のリン脂質の総含有量は、30ppm 群と100 ppm 群で、それぞれ10% 、20% 減少していた。フッ素症に影響されたリン脂質の主な種類は、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンであった。それぞれのリン脂質の脂肪酸とアルデヒドの組成は不変であった。コレステロールとドリコールの量については、変化は検出できなかった。3か月のフッ素処理の後では、脳のユビキノンの含有量は低下していたが、7 か月では30ppm 、100 ppm 両群とも明らかに増加していた。この結果は、慢性フッ素症に罹患した脳では、リン脂質とユビキノンの含有量が変化し、膜脂質のこれらの変化が、この疾患の発病と関係していることを表しているものである。

 上記の論文や紹介論文4、5の研究機関であるGuiyang Medical Collegeとは、中国語では貴州省貴陽医学院となる。貴州省は中国内陸部の貧困地帯で、内蒙古自治区と並んでフッ素症の流行が最も激しい地域である。重症の骨フッ素症は、成人になってから発症する事が多く、肢体不自由になる者が多くて労働人口にも支障をきたすため、こういう地域では、飲料水からフッ素を除去する“改水運動”に自治体が総力をあげて取り組んでおり、改水降弗造福(水中のフッ素を除去して幸福を築こう、図1)というスローガンが村役場や給水場など至る所に大書してある。そんな状況は、問題はあっても安心して水道水が飲める日本人には、現地を見ない限り想像ができない。私は、こんな状況を視察した感想を国際フッ素研究学会雑誌で報告した。
先にも述べたとおり、今や中国はインドと並んで世界のフッ素症研究の中心地の一つであるが、最近になって、井戸水がフッ素ばかりかヒ素にも汚染されているのが少なくなく、そのため被害がいっそう重篤になっている事が判明し、ヒ素研究も活発になった。そして、中国フッ素研究学会とヒ素研究会が合併して、中国フッ素ヒ素学会として大きく発展する機運を迎えていることは、同じアジアで微量元素の毒性に興味を抱く者として喜ばしく思う。

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