〈学会情報〉
 
環境ホルモンに関する国際シンポジウムと
 日本環境ホルモン学会第一回研究発表会について
 初出雑誌 群馬県歯科医学会雑誌 第3号(平成11年3月)
                  
はじめに
去る12月11日〜13日(1998) 、上記の学会が京都市の国立京都国際会館で開催された。

 日本分泌攪乱化学物質学会( 通称: 日本環境ホルモン学会) 〔注1〕は1998年6月に発足したばかりの新しい学会であるが、いうまでもなくここで議論するのは環境ホルモンについてである。環境ホルモンとは、ホルモンではないがホルモンのように生体に作用してその内分泌系を破壊ないしは攪乱する化学物質Endocrine Disruptors (EDs) の日本語の俗称であるが、正式名である「(外因性)内分泌攪乱化学物質」では如何にも舌を噛みそうなので、学会でも今後は通称として環境ホルモンということに決定した。

 これまでEDsは研究者レベルでもマスコミでも、「ホルモン擬態物質」とか「内分泌破壊物質」とか様々な呼ばれ方をしてきたが、多少通俗的な響きはあっても今後は「環境ホルモン」という簡便な言葉で統一されてゆくことになる。

 この大会では環境ホルモン学会の第一回の研究発表と併せて国際シンポジウムが開催されたが、この方がメインであったのはいうまでもない。環境庁主催、学会後援で開催されたこのシンポジウムは、専門家向けのプロクラムが11日、12日の両日、一般社会人向けのプロクラムが13日といずれも朝から夕方までびっしり組まれ、ゲストスピーカーには22人の外国人の他、わが国のこの領域での第一人者が殆ど網羅されるといった非常に大規模なものであった.

 そのため会員の研究発表の方は、81演題が大会期間中同会場の廊下でのポスターということになったが、これも極めて盛況であり、テレビや新聞等の取材もあって、コーヒーブレークの時などは立錐の余地もない状況であった。改めてこの問題に対する国民の意識が半端なものではないことが認識させられる。歯科からの発表が大阪歯科大(歯科理工学)、阪大(大学院,薬学)の共同研究" 歯科材料および関連化学物質のエストロゲン様活性のin vitro 測定比較" の一題だけだったのは、同学の者として少し淋しい思いがした。

 環境ホルモンの一種とされるビスフェノールAの問題が生起して以来、歯科界でも、歯科理工学会や口腔病学会などでこの問題について特別講演やシンポジウムが開催されるなど活発な発表が行われているが、今後はローカルな歯科界ばかりでなく、多彩な研究者の集合体であるこのような学際的な場でも歯科からの発表が行われることが切に望まれる。

 シンポジウムの口演や質疑は全て英語・日本語の同時通訳で行われたが、その質の高さには感心した。国際会議ではいかに参加者のコミニュケーションが円滑に行われるかが成功のカギだが、この学会での通訳のレベルは私がこれまでに経験したうちでは最高である。さすが膨大な予算を握っている中央省庁の主催といえばそれまでだが、あるプロ通訳者に聞くと、その蔭では通訳者は皆ゲッソリと痩せ細るような集中力を余儀無くされるのだそうである。そしてそのコストも、とても1000人やそこらの会員規模の一学会が負担できる額ではないという。ある外国人研究者が「この問題に関してこんな規模でこれだけ整ったシンポジウムが行われたのは、環境ホルモンの研究始まって以来だろう」と賛辞を呈していたが、これは必ずしもディプロマティックランゲージばかりではなかったろう。


ウィングスプレッ宣言
世界中で環境ホルモンがこれだけ問題視されてきたのは、いうまでもなくシーア・コルボーンらの著書「Our Stolen Future 」(1) が1996年3月に出版されてからなのは周知のとおりであるが、じつはその5年も前の1991年7月に、この本で世界に衝撃を与えた様々な科学的事実を発見した研究者らが米ウィスコンシン州で会議を開き、ある合意をステートメントとして発表しているのである。それが今ではすっかり有名になった「ウィングスプレッド・コンセンサス・ステートメント」〔注2〕であるが、その会議がもたらした結果がどのようなものか、コルボーンらは本のなかで次のように述べている。

「内分泌の撹乱」という現象が表面化したのはごく最近のことであり、危険信号となような被害状況のすべてを把握するのは困難なのが現状である。とはいえ、科学および医学のさまざまな研究領域での研究結果に広く目を配れば、人類が危機に瀕しており、おそらくはすでに相当な影響をこうむっていること「内分泌系の攪乱」という問題が表面化したのはごく最近のことであり、危険ははっきりするはずだ。結局のところ、この科学版パッチワークキルトの切れ端一つ一つは、たしかにバラバラに見えても、一旦一つに織り合わされれば、実に興味深い重大な意味を帯びてくるのである。

これが(略)ウィングスプレッド(略)で開かれた内分泌攪乱に関する歴史的な会議から学びとった教訓である。(略)この夢のような会議では、人類学から動物学にいたる多彩な領域の専門家が、(略)ホルモン作用攪乱物質が野性生や実験動物、さらにはヒトに与える致命的な影響についての共通の認識を抱いていた。(略)こうした共同討議から浮かび上がってくる不吉な意味(略)に、はじめてメスが入れられ(略)、関連性は疑いの余地のない実に深刻なものであることが判明した。「野性生物を脅かしているホルモン作用攪乱物質によって、人類の未来も危機に瀕している」そう結論せざるを得なかったのである.
(長尾 力訳:奪われし未来,258-259 頁)


このステートメントが世界先進各国に与えた衝撃は想像に難くない。 その模様は、 インターネットで米環境保護庁、英保健省、欧米の環境団体や化学団体、米医師会、歯科医師会などのページにアクセスしてみれば一目瞭然であるが、何しろ環境ホルモンと目される物質が現在でも約70種類〔注3〕もある以上そのコンテンツも実に膨大であり、ざっと紹介するだけで相当な紙数を要するためここでは触れない。

 さて、今回のシンポジウムに参加したスピーカーのうち、アナ・M・ソト助教授(タフツ大学医学部)、ジョン・A・マクラクラン教授(ツーレン大学)、フレデリック・F・フォン・サール教授(ミズーリ大学)らがこの宣言の署名者であるが、いうまでも彼らは、環境ホルモンの曝露による被害のメカニズムと実態を明らかにして生体をそれより保護するといういわば原告側に立っている。これに対する被告側は、環境ホルモンを生産販売する企業ということになるが、もちろん、利害が輻輳する現代ではこう簡単には全ては割り切れない。アルビン・トフラーが「第三の波」で喝破したように、純粋な生産者 vs 消費者という構図はすでに成立しなくなっているからなので、ゴミから出るダイオキシンや水の汚染を考えてみるまでもなく、程度問題を別にすれば、誰もが被害者と同時に加害者になる。

 しかし、環境ホルモンの場合、これを生産販売している企業は、何といってもそれによって直接利益を受けている以上被告的な立場を免れえず、この両者が対立するのは当然であろう。私はこの間の事情について、フッ素問を例にとって次のように書いた。

(略)環境科学者が自己の研究結果に忠実であり、この点から人類に貢献しようとすれば、当然のことながら企業や産業およびその背後にある政府という現実の利害と衝突せざるをえないということになる。(略)また,企業には企業に雇われている科学者や弁護士がおり、彼らの重要な任務の一つは、企業に損を与えるような学説を総力をあげて潰しにかかることである。当然この両者には激しい論争が起こることは避けられない。(2)

 この両当事者があげる事実ないし問題はどんなものか、発表の演題に即して一瞥しておく。

原告の主張
 原告側が列挙する問題点は「奪われし未来」に詳しく書かれているので、それを見て頂くのが一番よいが、このシンポジウムで目を引いた演題を順不同に列挙してみると、
 
@内分泌攪乱化学物質としての環境中抗アンドロゲン物質。A内分泌攪乱と中枢神経の発生。B母親の五大湖魚類摂取量、高度塩化PCB類、および子孫の出生行動との関係(筆者注:これは米オンタリオ湖のPCB汚染した魚類を摂取した女性から産まれた子供の新生児行動評価尺度(NBAS)の成績が悪化しているという内容である)。C精液の質とばらつき:原因と結果の評価。D日本における内分泌攪乱化学物質のヒト胎児曝露や男性生殖器への影響について。 E内分泌攪乱性汚染物質に曝露した野生動物における発生異常(筆者注:マスコミで一挙に有名になった米フロリダ州アポプカ湖のワニのペニスの異常を発見したルイス・J・ジレットJr教授のワニについての最近の研究結果についてである)。F五大湖のハクトウワシにおける環境中の内分泌攪乱化学物質の調査( 筆者注:1970年代の化学物質禁止令以後, 米五大湖沿岸地域のハクトウワシの個体数は次第に増加してきているが、それは汚染が比較的少ない地域からワシを移入している結果にすぎず、この地域に営巣するワシには依然として汚染の影響が強いという研究)。G低用量の内分泌攪乱化学物質の作用( 筆者注:後ほど被告側と論争になるフォン・サール教授の発表)
 
などがある。 このうちのかなりのものが既にマスコミ等で紹介され世間に衝撃を与えているが、 改めて研究者自身の口から直接内容を聞くと気分が滅入ってくるほどショッキングである。

被告の主張
一方これらに対する被告側からの主張は、内外二人の研究者つまり、英化学会社ゼネカの上級研究員ジョン・アシュビュー氏と日本化学工業協会の川崎 一博士からそれぞれ一題づつなされたが、内容が似ているのでここでは川崎博士の発表を例にとってその主張を簡単に紹介しておく。彼の主張は次のようである。

『内分泌攪乱物質問題』には科学的に重要な争点が3つある。即ち、@『内分泌攪乱作用はごく低濃度で起こるという点。A低濃度で逆U字型に反応が起こるという点。

[注4〕B低濃度でも複数の物質が作用すれば相乗的に影響が出るという点、の3点である.しかし、@についてはトリブチルスズ(TBT)によりpptオーダーでイボニシなどの水生生物にインポセックスが起こっているものの、一般に使用されている化学物質にはこのような強い作用をもったものはない。Aについては、フォン・サール博士らの研究が発端となっているが、詳細な追試験によっても再現性はなく、事実とはいえないことが強く示唆されている。Bについては最初にこの報告を発表した研究者自身および他の研究者の追試により、すでに再現性のないことが示唆されている。

従って、PCBやDDT あるいはTBT に関しては、作用メカニズムの違いはあってもいずれも野生生物などに対して内分泌攪乱作用による影響があると考えられるが、(略)アルキルフェノール,ビスフェノールA、フタル酸エステル類、スチレンダイマー、スチレントリマーなどによる内分泌攪乱の恐れはないと考える。(内分泌撹乱化学物質に関する国際シンポジウム、プログラム・アブストラクト集、74 頁、要約・村上) 

 要するこの主張はPCBやDDT、TBTなどは確かに環境ホルモンと言えるだろうが、アルキルフェノール,ビスフェノールA以下の物質はそんな厄介なしろものではなく、その安全性についても従来の化学物質の安全性評価の手法を適用して過ちなしといっているので、さらに端的にいえば、これらの物質については環境ホルモンという毒物評価についての新たな視座を外して従来どうりの評価をしろ、というのに尽きている。

この主張は日本工業協会ばかりか、塩ビ工業環境協会のページ (3)等でも盛んに行われているが、これがメーカー側のプロパガンダなのか科学的に妥当な見解なのかについての結論はそう簡単には下せない。

前述のとうり歯科界でも、ビスフェノールAを猛毒とした「週刊現代」の扇動記事以来、シーラントやコンポジットからのビスフェノールAの問題が惹起したのは周知のとうりである。これは私に言わせれば、かつて私が予言した「嵐の前触れ」(4)の一端なのであるが、それに対する歯科界の対応は、患者の不安を解消し会員を科学的に納得させる意味では必ずしも充分ではなかった。佐藤温重名誉教授記(医歯大・歯科理工)(5)のいう、歯科教育における歯科材料等の「生物学的性質や為害作用について体系的に教育が行われている例は皆無」という欠陥のツケが回ってきているのである。シンポジウムのなかで最もホットだったこの論争は、もう一題のアシュビュー氏のものが日経新聞の記事でも紹介されているので、興味のある方は更に[注5]をご覧になっていただきたい。

 いずれにしろこの2者から喧嘩を売られた形になったサール教授は、座長から発言を求められて「追加実験をして後日公表する」ことを約束した。

 この議論を聞いていて、私には両者ともU字現象上について文献調査が不十分なように感じたので、私が知っている範囲のことを[注4]に付け加えておいた。この件に関しては近いうちに更に問題が発展してゆく可能性がある。

 いずれにしても環境ホルモン問題で化学企業が深刻な危機感を抱いているのは間違いがない。個々の企業やその連合体がインターネットで盛んに情報発信しているのがその証拠である。

 国民にとってはどんな情報にしろないよりあるのに越したことはないが、インフォメーションのなかには必ずディスインフォメーション(撹乱情報)が混じっており、情報の裏には必ず諜報があるということも知っておくべきでだ。この渦のなかで活眼を開いて自己の判断を下すにはどうしたらよいのか。答えは簡単には出そうもない。

おわりに
 国民の環境ホルモンに関する不安は、我々歯科医師の想像を絶するものがある。この問題で歯科が直面している物質は、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、カドミウム、水銀等であるが、ビスフェノールA、フタル酸エステル類等には強い異論があるこは先に紹介したとおりである。しかし、歯内療法に用いる液性の芳香族化合物についてはこれから新に問題が惹起する可能性がある。

 また、水銀についていえば、ヨーロッパ特に北欧ではこれを強く拒否する患者が普通のようで、ヒトの水銀汚染の最大の原因は歯科のアマルガムだとする意見は環境領域の論文では別に極論でも何でもなくなっている。

 筆者は過去15年ほど、故柳沢文徳名誉教授(医歯大・医・疫学)、高橋晄正博士、田村豊幸名誉教授(日大松戸歯・薬理学)らの騎尾に付して、フッ素化飲料水、フッ素入り歯磨剤や洗口液等から摂取されるフッ素の害について情報を提供する努力を続けてきた。特に柳沢博士は中性洗剤や農薬、食品添加物等による人体の汚染を警告する点ではわが国の先駆者の一人であったが、毒物に対して新な視座を開拓した環境ホルモンという概念の確立を見ずに物故されたのは残念である。 彼が一部の口腔衛生学者らの攻撃をものともせず一貫して追求したフッ素の害に即していえば,その生殖毒性、即ち、不妊、流産、精子濃度の減少や奇形発生等の作用について近年一段と研究が進みその実態が明らかにされつつある。これが環境ホルモンという新な視座から照らし出されるのも、おそらく時間の問題であろう。

 歯科医師は教育制度上、ある薬剤や化学物質の有害性とか副作用等について十分な教育を受ける機会がなく、従って心情のうえでこのような問題を忌避しがちであるが、もとより良き歯科医師たらんとするにはこんな態度は克服されてゆかねばならない。

 産婦人科医や小児科医のある人達が、ダイオキシンによる母乳の汚染という現状を前に、それでも母乳による保育を指導すべきかどうか悩んでいる姿にこそ恐らく求められる臨床家の姿があるのではなかろうか。烈しく動く時代には自らを革新することなく適応することはできない。

注1: 日本内分泌攪乱科学物質学会(環境ホルモン学会)
 事務局:〒305-0053
      茨城県つくば市小野川16-2 国立環境研究所地域G内
      E-mail:kyokow@nies.go.jp

ホーム・ページ( 学会紹介および入会案内)
 
 この学会はまだ会誌が発行されるまでには至っておらず、その代わりとしてニューズレターが発行されている。 このパンフには環境ホルモンに関するインターネット関係の情報が載っている。
 
注2:ウィングスプレッド・コンセンサス・ステートメント
                      (ウィングスプレッド宣言)
 
  この全文は「奪われし未来」[1] に付録として翻訳掲載されている。本書の長尾 力氏の訳は全体に筋の通ったいい翻訳で労作といえるが、この宣言の部分には少し不満がある。すなわち、
@ 最初が「はじめに」となっているが、原書では authors' note であり、これは「著者によるノート」とでもしないと 宣言の前文と誤解されかねない。
A 次の文節の見出しである Chemically-induced Alteration in Sexual Developmentも「ヒトおよび野生生物の性発達に及ぼされる化学物質の影響」では文意が濁る。 もとの意味は、「化学物質が引き起こす性発達の変化」であろう。B その後に続くThe problem が「前提」と訳されているが、これはやはり「問題」とすべきだ。 その次の中見出しの The purpose of the meeting の訳「会議の主旨」も、 文字通り「会議の目的」とした方がすっきりとする。
Cその他にも We estimate with confidence that:という見出しが、 ただの「評価」と訳されていたりで、この宣言文全体に漲っている一種の緊張感がこの翻訳からは伝わってこない。

 注3:環境ホルモン 
 この研究でわが国の第一人者とされ、国会でも意見を述べた井口泰泉教授(横浜市立大・理)によれば、この67〜70の化学物質は,研究の結果確定したリストではなく、たまたま論文に出ていたものをコルボーンらがリストアップしたものにすぎない。我々の身辺には5万〜10万種の化学物質があり、それを全部調査した結果が67種なのであればそれを調べれば済むが、そうではないので話が複雑だ、という。
 因みにアメリカでは環境保護庁がまず1万5千種を調査し、最終的には6万種の物質に当たって環境ホルモンの割り出しを行う計画らしい。このためは膨大な予算と作業が必要になる。学校給食の食器からビスフェノールAが出てその使用を止めても、その代わりが安全かどうかは誰も断言できないのだ。立花隆氏の言うとおり、我々は相当「ヤバイ」所で暮らしているらしい。(1998,Health Media 参照)
 また米環境保護庁は、トップの政治的意向でいまなお歯科のフッ素は安全だとする政策を変えていないが、庁内の科学者や弁護士から成るユニオンは「フッ素は危険だ」として水道フッ素化に反対しており、ユニオンが母体の庁自体を提訴することすらあえてしている。 この激しさは、 環境問題がまさに闘争であることを物語っている。
 
 注4:逆U字現象 
これについて「奪われし未来」は次のように説明している。
 逆説めくのだが、場合によっては、大量の化学物質を使用した方が、量を控え目にするよりも、被害が小さくてすむことがあるのだ。ごく微量のDESが生態に及ぼす影響を探っていくうちに、フレッド・フォン・サールは、ある事実をつきとめた。生体反応はなるほど、DES摂取量に比例して活性化していく。ところが臨界点を越えてからは、DESの量を増やすと、かえって生体反応が鎮静化を見せはじめるのである。(略)実験から得られた反応曲線は、ちょうどUの字を逆さにしたような恰好をしていた。このかたちは、内分泌系と合成汚染物質とが密接に絡み合っていることをいみじくも示唆している。(略)「生体反応は服用量に常に正比例する」という常識は、まったく通用しないのである。(275頁)

 これについてわが国の厚生省は「このような報告はまだ僅かであって再現性も確認されておらず信頼性に疑問が残るものの、従来の毒性実験や評価では、盲点として検討されないままになっている。従って、逆U字効果の存否の確認とともに、(略)作用メカニズムの確認を急ぐ必要がある。」と言っている。(内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会 中間報告,平成10年11月)
 しかし、抗結核剤ストレプトマイシンや抗カビ剤ナイスタチンの発見者である大科学者A・シェッツ教授(土壌微生物学)は、こうした不思議な現象に早くから着目してこれを「パラドクシカル・エフェクツ」と名付けて1964年にすでに2編の論文を発表しており、 「こうした現象は薬理学、毒物学、化学療法時の薬物に対する特異性、大気汚染、発ガン性物質、フッ素の為害作用、放射性降下物(原爆の死の灰)、放射線、栄養学、岩石やミネラルの風化作用、土壌の産出力などの研究データに屡々表れているものだが、再現性が難しく、 肝心の研究者自身がこれに気付いていない。私の2編の論文が他の研究者から言及されたのも、発表してから30年後のやっと1994年になってからである。」と述べ、 「この現象はヒトの単なる健康ばかりでなく、生きるか死ぬかというという所にまで影響を及ぼしていることなのだ。不幸なことに米環境保護庁、食品薬品局などの役所ばかりか科学者個人も、毒物学等の領域の研究でこんな現象が起こっているのは間違いないのに注目しない。(訳・要約・村上)」と慨嘆している。
(Law-level Fluoridation and Law-level Radiation, Tow Case Histories of Misconduct in Sciene,
URL:http://www.cadvision.com/fluoride/schatz.htm)
関係科学者はシェッツ博士の論文を精査し、これを整理してから議論する必要がありそうである。

注5:日経新聞
'98,12,21(月) 朝刊21面に次のような記事が掲載されている。
(略)最もホットな論争は、プラスチックの食器などに使われるビスフェノールAをめぐって展開した。米ミズーリ大学のフォン・サール教授が妊娠中のマウスにビスフェノールAを与えると、産まれたマウスの前立せんの重量が増すとの実験を報告した。体重1キロあたりわずか2マイクロ(マイクロは百分の1)グラムで与えなかったマウスに比べ約3割重くなった。「ビスフェノールAが女性ホルモンに似た働きをして前立せんを刺激した結果」と同教授はみる。2マイクログラムは米環境保護局の安全基準50ミリグラム(5万マイクログラム)をはるかに下回る。しかも不思議なことに、与える量を10〜100倍に増やすと影響が表れない。
 これが事実なら化学物質の毒性試験についての考え方を改めなければならない。この発表に英化学会社、ゼネカのジョン・アシュビー上級研究員は真っ向から反論した。サール教授の実験の約5倍の数のマウスを使った実験で「前立せんの重量は変化しなかった」と主張。両者は互いの実験の問題点を指摘し決着はつかず、サール教授は追加実験をして後日公表することを約束した。カップめん容器や缶詰に使っている樹脂からの化学物質溶出,男性の精子が減っているとされる問題でも同様の対立があった。(略)

かつてオゾン層破壊でも産学の研究者が鋭く対立、論争の末にフロンの有害性が明らかになり、規制につながった。環境ホルモン問題でも研究者間の論争が「対立」のまま終わるのではなく「共闘」につながる仕組みを作っていくことが必要だ。
(科学技術部 竹下敦宣)


文 献
  1. Theo Colborn, Diann Damanoski, John Peterson Myers:Our Stolen Future: ADUTTON BOOK, 1996. (邦訳あり: 長尾 力, 奪われし未来: 翔泳社,1997)
  2. 村上 徹: インターネットで見る歯科関係情報・フッ素とアマルガムの健康影響に関する問題を中心に−: 群馬県歯科医学会雑誌, 第2 巻第2 号,P16,1997.
  3. http://www.vec.gr.jp/endocrin/endocrin.htm.
  4. 2) に前出.P15.
  5. 佐藤温重編集: 歯科材料の副作用と安全性,巻頭言,学建書院,1997.