小説 「上申書」


            「上申書」
   
   
   
 今回の世間を騒がせた私とKちゃんの事件について、反省している事や考えて
いる事、言いたい事を書けというので書きます。
 でも、悪いことをしたとは思っていますが何をどうしたら反省できるのかが、
私は判りません。
 五才の時に私は両親を交通事故で、一度に亡くしました。それから、弟と二人
で施設で育てられました。施設のおかあさんからも、何か悪いことを私がするた
びに「反省しなさい」と言われましたが、どうやれば反省した事になるのかが判
りませんでした。
 もう、やってしまった事をいくら考えてもやってしまった悪い事が、なかった
ことになるわけではないからです。
 私は八才の時に弟を殺してしまいました。
おかあさんは、「あなたのせいじゃない」と、言ってくれましたが、弟が両親の
ように交通事故で死んだのは私のせいだと思っています。
 そのころ施設には低学年の子供が乗れる大きさの自転車が二台あって、私はそ
れに乗るのが好きでした。弟は自転車の後ろから走ってついてきます。まだ、六
才くらいでしたから、走る姿が小さくて可愛いかったのをはっきりと覚えています。
 私が少し自転車のスピードをあげると、弟は泣きだします。私が離れた所で自転
車を止めて待っていると、弟は泣いたまま走ってきて私に抱きつき、いつまでも、
いつまでも泣きやみません。そのうち、私も悲しくなってきて一緒に泣きます。
それは、悲しい気分なのか、甘い気分なのか、まるで自分と弟が世界で一番哀しい
子供になったような気持ちで、私は度々、そういうふうにして、弟と泣いていまし
た。弟にしても、悪い気分ではなかったようでした。私と弟の誰にも言えない秘密
の儀式だったのです。
 ある日、いつもと同じに私が弟を引き離しにかかると、弟はそのままクルリと背
中を向けて別の方向に歩きだしました。あわてて私も自転車の向きを変えて弟の所
に走って行きました。
 「今日はおねえちゃんのあとを走って追いかけない。だから、一緒に泣かないん
  だ。」
怒った顔で弟は言いました。施設の年上の男の子に、私と抱きあって泣いているの
を見られ、そのことでからかわれていたと聞いたのは、もう死んでしまった後でし
た。その時、弟に秘密を拒否されただけでなく、儀式そのものをバカにされたみた
いで、悔しくて、それに、恥ずかしくて「バカ」と大声で怒鳴るとそのまま弟を置
き去りにして別の所に遊びにいったのです。弟はその後一人で遊んでいて、結局、
車にはねられて死んでしまいました。
 私のせいではないとは判っていますが、でも、私の心の中では、私が弟を殺した
のと同じ事なのです。私がやってしまったことが、弟を死なせました。そして、K
ちゃんが警察の人に撃たれて死んだのも私のせいだと思います。
 反省できるものなら反省したいと思いますが、でも、どうすれば良いのかが判り
ません。
 同じ事を繰り返さないようにするにはどうしたら良いのかを考えなさいと、警察
の人が言いましたが、私はああいうのと同じ状況だったら、絶対に同じ事しかでき
ないと思います。何回やっても、同じ事しかできません。
 Kちゃんとの事を書きたいと思います。取調で何回も話した事ですが、その事を
書きます。こうして書いているうちに、今の私の考えと、その時の私の考えが、違
っている所があるかもしれない。そういう所があったら、多分、それが私の反省な
のだと思います。
   
 私はKちゃんが好きだったし、Kちゃんも私が好きだったし、それで、流産して
しまったけれどお腹の赤ん坊もいれて、三人で生きていこうと思ったのです。
 私はUというヤクザの女でした。施設にいたからという理由ではなくて、私は勉
強が嫌いだったし夜の街でフラフラしているのが好きだつたので、中学を卒業する
と、引き留めてくれたおかあさんを後に施設を出て、遊び仲間の何人かとアパート
を借りて住み始めました。夜の街をフラフラと遊んでいるうちに気がつくとUの女
になっていました。始めはUはものすごく優しかった。何でも買ってくれたし、U
の子分の、私より年上の怖い顔をしたヤクザたちも私に敬語を使ったりして、とて
も、良い気分でした。
 でも、その後は地獄のようでした。クスリを使われ、どこの誰ともしらない男た
ちに何度も何度も抱かれ、そんな毎日でした。私は、まだ十七でした。
 いつものように、Uのマンションでクスリを打たれ子分の一人に面白半分に、私
は犯されていました。そこに、Kちゃんが現われたのです。十六の私から見てもK
ちゃんはとても子供っぽく見えました。Kちゃんは、犯されている私を見て、最初
は興奮したと言っていました。私はクスリとセックスで頭が朦朧としていて、はっ
きりとはわからなかったけど、こういう自分を子供みたいな若い男の子に見られる
のは嫌だなと思っていました。
 Kちゃんは元々、Uの子分の、そのまた子分みたいで、でも、組には入ってない
と言ってたからチンピラだったと思います。
 高校を中退してすぐだと言ってたからきっと、私よりは年は下だったはずです。
KちゃんがUのマンションに頻繁に出入りするようになって、私たちはUや子分た
ちの目をかすめて話しをするようになりました。そのうちに、私たちの仲が良い事
に気が付かれ、初めは私もKちゃんもヤキを入れられたりしたけれど、いつのまに
かUには公認という感じで少なくともその事で責められる事はなくなりました。
 Uの機嫌が良い時なんかは、二人で買い物に出させてもらったりもしました。
でも、その時には、私は別にKちゃんが好きだったというほどでもなくて、ただの
仲の良い友達くらいにしか思っていませんでした。そういうふうに、Kちやんが友
達になっても、その事をUが気にしなくなっても、私の生活は変わらずに地獄みた
いなものでした。相変わらず、クスリとセックスを強制されていました。時にはK
ちゃんの目の前でやられた事もあります。Kちゃんは怒った目つきで私を見ていて、
そのことがつらかったです。
 二人でコソコソと話す時は、別に私を責めるような事はなかった。Kちゃんが言
うにはUが憎かったけれど、Uをにらむわけにはいかないので、私をにらんだそう
です。
 Kちゃんはとても無口で、話すのは私ばかりでした。私がペラペラと喋るのをK
ちゃんは真面目な顔で聞いてくれました。あるときKちゃんが私の話しを聞いて、
ふいに泣いてくれたことがありました。どんな話しだったか、もう忘れてしまった
けれど、Kちゃんは私のために泣いてくれました。私は、それからKちゃんを好き
になりました。
 Kちやんを好きになると、どうしようもなくUの所から逃げたくなりました。
私を自由にするためには、Uを殺すより他に仕方がなかったと思います。警察の人
はああいう人たちの怖さが判っていないと思います。自分たちは安全だから、Uみ
たいな鬼のような男を殺しても反省しろとか平気で言えるのです。
 私はKちゃんの事を何にも知りません。警察病院の霊安室で会った家族の人たち
の事も何も聞いてませんでした。私はなぜだかKちゃんも孤児だと思いこんでいま
した。
 だから、霊安室でKちゃんのお父さんが泣きながら、
 「あなたにはすまない事をしました。あのバカのために、とんでもない事になっ
  てしまって。」
と、言われたときも、私は心の中で、Kちゃんはわたしのものだ、と思っていまし
た。いまさら、家族です、と出てこられては嫌だとも思いました。お母さんは私の
顔を、とうとう、最後まで見ませんでした。 台の上に横たわる、まだ血塗れのK
ちゃんの手を握りしめ、泣いていました。もしかするとお母さんは私がいることに
さえ、気が付いていなかったのかもしれない。Kちゃんのお姉さんだけが、はっき
りと私を憎んでいるようでした。私はすべて見透かされているようで、とても怖い
と思い、お姉さんの目を見ることができませんでした。
 話しを戻します。私とKちゃんは、Uが一人でいるときを狙って殺しました。U
が銃を隠している所は知っていたので簡単でした。でも、KちゃんはUを撃ったあ
と、トイレに駆けこむといつまでも出てきませんでした。吐き気と下痢でどうしよ
うもなかったと、後で教えてくれました。
 それから、私たちの旅行が始まりました。Uを殺して、私たちがただですむわけ
はないと十分に判っていました。だから、私たちはUの仲間に捕まるまで日本中を
旅行して廻ろうと話し合っていました。
 「どうしようもなくなったら死んじゃえば良いんだから。」
私が言うと、Kちゃんは嬉しそうに笑ってうなずきます。
 「俺はおまえと一緒に死ぬんだったら、ちっとも怖くない。」
Kちゃんは言いました。だから二人で自殺の練習とかしました。Uの所から持って
きた銃にはタマがまだ四発残っていたので、その銃で死のうと思っていました。
最初にKちゃんが私の心臓を撃ちます。それで私は何とか頑張って、今度はKちゃ
んが自分の心臓を撃つのを待ちます。私とKちゃんの心臓にタマが当たったら、二
人とも頑張らないで手をつないで死のうと話し合いました。タマを抜いた銃で何回
も練習しました。真夜中のラブホテルとかで眠くなるまで、何度も何度も練習しま
した。
 私たちは、Uの所から持ち逃げしたお金を遣っていました。かなりの金額だった
ので、そのお金で二ヶ月位はいろんな所に行って遊べました。
 心配していたヤクザの方も私たちが殺したとは思ってなかったみたいです。対立
組織の犯行ではないかと新聞やテレビでも言っていました。私やKちゃんが居たと
いうことも、ヤクザが思い出すまで判らなかったと、後で警察の人に聞きました。
 ヤクザたちは、Uが殺された時に私たちが部屋に居なかったと思っていたらしく
て、部屋が警察やヤクザたちでゴタゴタしているのを見て二人でどこかに行ったの
だろう、と思っていたそうです。ヤクザにしてみれば、私はUのロリコン趣味を満
足させるための人形みたいなものだったし、Kちゃんにしてみても、Uの部屋住み
の子分みたいな事をしていても、実際はまだ子供あつかいで、KちゃんがUを殺す
なんて、そんな事は考えもしなかったと、ヤクザは言っていたそうです。
 追われている様子がないことに気が付くと私たちは、だんだんと行動が大胆にな
ってきました。あるとき、気まぐれで舞い戻った街で、Uのマンションで何回か私
を抱いた事がある子分の一人に会った事もあります。さすがに私とKちゃんの顔は
ひきつりましたが、相手はベロベロに酔っていて私たちには気が付かなかったよう
です。
 私がホッとしているとKちゃんは、
 「あいつも殺してやろうか。」
と、言いました。私が止めるとKちゃんは、人混みの中をフラフラと去っていくヤ
クザの背中の方に、ツバをはきかけました。
 「今日はやめとくけど、いつか、あそこでおまえを抱いた奴を一人残らず殺して
  やるからな。」
と、言ってくれました。
 私たちはいつか、お金を遣い果たしていました。Kちゃんが、気の弱そうな学生
やサラリーマンからお金を脅し取ったり、コンビニ強盗を遠くの街でやったり、車
のカギを壊して中のお金をとったり、空き巣泥棒をしたりして、暮らしました。
 私には、Kちゃんは何もさせませんでした。私が美人局でバカオヤジを引っかけ
ようよと、言っても、Kちゃんは怒った顔で、
 「もう、おまえは悪い事をしたらいけないんだ。」
と、言いました。警察でも随分、私のやった悪い事を調べて、私に、
 「おまえ一人だけ良い子になろうとしても無駄なんだよ。全部、調べてやるから
  な。Kもかわいそうな奴だよな。女房みたいにしていた女に、全部、悪い事を
  おっかぶさせられてな。」
と、言ったりしました。私は悔しくて泣きながら、
 「じゃあ、全部、私がやらした事にすれば良いでしょう。」
と、言いました。今、考えると、その時に悔し紛れに叫んだ事が本当の事だったの
かもしれないと思います。私とKちゃんの本当の関係を考えると、Kちゃんのやっ
た悪い事は私の責任だったんです。
 Kちゃんはお金を脅して盗る時も泥棒をする時も、なんでもかんでも、悪い事を
する前は、本当はとっても気が小さい人だから、緊張して顔なんか真っ白になるく
らいで、そういえば、コンビニ強盗をする前なんかガタガタ震えていて、可愛そう
なくらいだった。
 悪いことがうまくいって、お金をポケットから取り出して私に渡す時なんかは、
今度は興奮で顔を真っ赤にして、そのくせ、私が嬉しくてキスかなんかしてあげる
と、ものすごく照れていたりしました。
 逃げ始めて三か月くらいして、私は生理がずっと来ていない事に気が付きました。
 つわりとか言うのみたいに、気持ちが悪くなったりして、妊娠したと思いました。
しばらくKちゃんに言おうか迷いました。お腹の赤ちゃんのお父さんが、Kちゃん
でない事は判っていました。ずっと悩んで、それで言ってしまおうと決めて、それ
でも言えなくて、そんなふうにしていたらKちゃんが先に気が付きました。
 「妊娠してるのか。」
Kちゃんに何も言えないでいると、Kちゃんは私を抱きしめて、
 「逃げるのも、死ぬのもやめだ。家族を作るんだ。」
と、言いました。私は、涙がどんどん出て止まりませんでした。
 「Kちゃんがお父さんじゃないんだよ。」
私が泣きながら言うと、Kちゃんは、
 「関係ないよ。」
と、言って私に口づけをしました。私はKちゃんに言いたい事や聞きたいことが、一
杯、有ったけど、全部、どうでもいいやと思いました。
 私とKちゃんは大きな街に出ることにしました。大きな街の方が仕事や住むところ
が簡単に見つかりそうだったからです。でも、うまくいきませんでした。大きな街で
は、アパートを借りるにしても、いろいろの費用が高くて、とても手がでません。
 Kちゃんが悪い事をしたとしても一回や二回の事では、とても追い付きません。
よほど、大金の稼げる事でもしないことには無理だったのです。大きな街をあきらめ
て、私とKちゃんは、地方の街に行きました。でも、地方の街でも状況はほとんど変
わりません。それでも親切な不動産屋さんに、格安の費用で安いアパートを世話して
もらう事ができました。その格安の費用はKちゃんが夜の繁華街で三人のサラリーマ
ンから別々に貰ってきました。
 「これで、もう俺は悪い事はしなくするんだ。仕事を探してまっとうに生きて行く
  んだから。」
Kちゃんが言い、私も何か働く所を探そうと思いました。
 最後のラブホテルの夜でした。コンビニで買ってきた、おにぎりやサンドイッチや
スナックに、ケーキをつけてパーティーをしました。
 でも、結局、その時にはヤクザにも警察にも、Uを殺したのは私たちだという事が、
ばれていたわけです。ヤクザの対立組織との話しがどうしてもかみ合わないで、よく
調べたらUの銃が一丁無くなっていたこと、お金もまとまって無くなっている事が判
ったのだそうです。一番いけなかったのは、Kちゃんがコンビニ強盗で、店員を脅す
のに銃を見せたことです。店員はモデルガンマニアで銃の名前がそこから警察に判っ
てしまいました。
 ヤクザは警察から聞いたその情報で、KちゃんがUを殺したのだと感づいたのだそ
うです。それで、不動産屋でアパートを決めた時には警察もヤクザも私たちを探して
いたわけです。
 それでも、しばらくは私たちは平和に安いアパートで暮らしていました。元々、住
んでいた街とは相当離れていたことや、Kちゃんが真面目に働きだしたこと、それに、
私たち二人とも未成年だったのでテレビや新聞は具体的な事は何も報道しなかったこ
となどが、良かったのだと思います。
 私たちは新聞もテレビも見ていなかったので、しばらくはそんな事になっていると
は気がつきませんでした。
 「暴力団幹部のUさんが、射殺死体で発見された事件について、警察は当初、対立
  する組織の犯行との見方を持っていたが、捜査の結果、当時、Uさん宅に出入り
  していた未成年の男女二人が事件に深い関与をしているものとして、この男女の
  行方を追っている。」
ある日、Kちゃんが仕事から帰ってくるなりズボンのポケットからクシャクシャにな
った新聞の切り抜きを出しました。
 「店の古新聞を片付けろと言われて。そしたら、でっかく出てたんだ。ばれちゃっ
  た。どうしよう。やばいよ。」
Kちゃんは真っ白い顔をして震えていました。私も震えて、二人で顔を見つめあうば
かりでした。
 「大丈夫だよ。ここに住んでるなんて、判る訳がないよ。大丈夫だよ。」
Kちゃんは泣きだしました。
 「もう駄目に決まってるだろ。警察だけじゃなくて、ヤクザだって追っかけてくる
  んだぞ。もう駄目だよ。」
私も泣きました。
 「いいよ、どうしようもなくなったら、死ねば良いよ。ねえ、いよいよドアの外ま
  で警察やヤクザがきたらKちゃんの銃で死のう。練習したから大丈夫だよ。
  ねえ…それまでは、今まで通りに暮らそう。ねえ、そうしようよ。Kちゃん、大
  丈夫でしょう。暮らしていけるよね。それで私と死ねるよね。」
Kちゃんは私を抱きしめると何も言わないで泣いていました。私も泣いていました。
 私は、Kちゃんと私が、世界で一番不幸な人間だと思いながら泣き続けました。それ
は、悲しいような、甘いような、小さい頃に弟とやった秘密の儀式みたいで、ものすご
く怖いけど、でも、どこか懐かしいものでした。
 しばらく、そうやって泣いた後、Kちゃんが言いました。
 「そうだ。死のうな。もう、どうしようもなくなったら、その時は死のうな。でも、
  おまえのお腹の赤ちゃんはいいのか。一緒に死んでも構わないのか。」
私のまだ大きくもなっていないお腹に耳を付けました。
 「仕方がないよ。この子が産まれる時まで大丈夫だったら産むけど、その前に駄目に
  なったら、一緒に連れていこうよ。それで、三人であっちの世界で暮らそうよ。」
それで私は少しだけ落ち着くことができました。Kちゃんもそうみたいでした。
 しばらくは何事も起きませんでした。Kちゃんは真面目に仕事に行っていたし、アパ
ートのドアが突然、真夜中に叩かれる事もありませんでした。道でおまわりさんと擦れ
違っても、こっちに気が付くこともありません。
 Kちゃんが仕事場から持ち帰ってくる新聞にも、もう二度とあの記事を見ることはあ
りませんでした。少し、安心しはじめた頃でした。
 ヤクザが先に私たちを見つけました。親切な不動産屋さんが、どこかの小さな暴力団
と関係があって、その繋がりから廻ってきた私たちの写真を見たのだそうです。
 ヤクザたちは慎重でした。しばらくは遠くからアパートを見張っていたそうです。
 Kちゃんが持っている銃を怖れていたそうです。
 Kちゃんがいつもの朝のように仕事に行くと、入れ替わるように四人のヤクザが部屋
に来ました。
 「おとなしくしてろよ。俺達はKだけ殺せばいいんだから。おまえは命は助けること
  に決まったんだ。その後は知らないけどな。」
頭の毛を全部剃った男が言いました。
 「銃はどこにある。Uさんの所から持って行った銃だよ。」
 私は本当に知りませんでした。銃はずっとKちゃんが持っていて、普段、どこにある
のかも知りませんでした。
 私がそう言うと、ヤクザたちは、それ以上の質問はしませんでした。
 夕方まで、私は何度も何度もヤクザたちに犯されました。酷いこともされました。
そのことは書けません。思い出したくもありません。
 その日はKちゃんの初めての給料の出る日で、Kちゃんは帰りがけに不動産屋さんで
家賃を払ってくることになっていました。
 後で警察の人から聞いた話しだと、不動産屋さんは詳しい事情を何も知らないままに、
Kちゃんにヤクザが捜しているらしいと、忠告してくれたのだそうです。
 でも、その時には警察もヤクザの動きから私たちの居場所は判っていたと聞きました。
もっと、いえ、もう少し早く警察の人が来てくれていたら、Kちゃんだけが死なないで
すんだかもしれません。
 不動産屋さんから話しを聞いたKちゃんは銃を取りにいったらしいです。どこに隠し
ていたかは、今でも判らないと言っていたけれど、Kちゃんはどこかに隠しておいた銃
を持ってアパートに戻って来ました。
 ヤクザはドアを開けるKちゃんを、やはり子供だとバカにしていたようで、四人と
も何の準備もしていませんでした。私を抱いていたので、みんなほとんど裸でした。
 私も裸のまま畳の上に転がされていました。酷い事をされ、何回も犯されたために
赤ちゃんはとっくに流れてしまったようで、私はお腹が痛くて唸っていました。
 「赤ちゃんは。」
Kちゃんは、割と落ち着いた声で聞きました。
 「自分の心配でもしてろ。これから、本部に連れてって、たっぷりといじめてや
  るからな。」
私が首を横に振るのにかぶせるようにヤクザは言いました。
 Kちゃんは下を向いて震えています。
 「ちょっと待ってろよ。今、服を着るからな。」
ヤクザは立ち上がり服を着はじめました。
 「おまえも着ろよ。一緒に行くんだよ。」
一人のヤクザが私の髪の毛を掴んで引っ張った途端、
 「それ以上触るな。」
と、Kちゃんは怒鳴り、腰の後ろに隠していた銃を撃ちました。タマは私の髪を引
っ張っていた奴にではなく、その横でズボンをはいていた頭を剃ったヤクザのお腹
に当たりました。私も含めて、残った三人のヤクザは呆然としていました。Kちゃ
んは続けて二発撃ちました。タマは私の髪を掴んだまま呆然としているヤクザの胸
に当たりました。
 もう一発は窓ガラスに当たりました。大きな音をたてて窓ガラスが割れました。
残された二人のヤクザは、その割れた窓から外に飛びだしました。
 「ちくしょう。」
Kちゃんは、私を抱き起こしながら口の中でつぶやくように言いました。
 「ごめんね。ごめんね。」
私はお腹が痛くてどうしようもありませんでした。何か言いたくても、それしか言
えません。
 「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。」
何度も何度も言い続けます。やがて、パトカーのサイレンが近づいてきます。
 「死のう、ねえ、死のう。」
私は言いました。
 「もうタマが一つしかないよ。」
Kちゃんは怒りながら言いました。
 「これじゃあ、死ねないよ。」
 「じゃあ、首を絞めて、それで私を先に殺して。私が死んだら、後から来てね。」
Kちゃんは私の首に手を廻して力をこめました。私の意識が遠くなり始めた時に警察
が来ました。
 「やめろ、もういい、もう大丈夫だ。心配ないから。」
 そんな声が遠くで聞こえました。なにかKちゃんの怒鳴る声。警察の人の声。そし
て、Kちゃんが私の首から手を離して撃った銃の音。警察の人の撃った銃の音。Kち
ゃんが倒れる音と振動。そういったことが遠くの方で起きた他人事のような感じで、
実際、それからの事は何も覚えていません。
 次に気がつくと警察病院のベットの中でした。
   
 もう書くことがなくなりました。これで全部です。私は反省することができなかっ
た。詳しく思いだして書いたけれど、違う考えになっているところはありませんでし
た。もう一度、Kちゃんと会ったところに戻してもらえたとしても、やっぱり、こう
なっていたと思います。
   
 迷ったけれど、最後に誰にも言わなかった事を書いておきます。多分、誰も信じて
はくれないと思うけれど、私とKちゃんはセックスをしたことがありません。
 一度もです。Kちゃんは、多分、私に対してだけインポになってしまったらしいの
です。初めてUのマンションで、私と会った時のショックが大きくてダメになったら
しいのです。前にも書いたけど、私はUのオモチャになっていて、滅茶苦茶にされて
いたのです。その光景が強烈な印象になって、私を抱こうとするとダメになってしま
うのだそうです。逃げ始めて、最初の頃は何回か試したのですが、やっぱりダメでし
た。Kちゃんは見ていて気の毒なくらいに落ち込んでいましたが、私は平気でした。
私はKちゃんと一緒のフトンで抱きしめあって眠れるだけで幸せだったのです。
 別にだからどうと言うわけではなくて、ただ、書き留めておきたかったのです。
 これで本当に終わりにします。



   

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