大きな筍たち2

 予備校講師稼業の役得。その2です。その1に引き続いてお楽しみください。
 竹薮にエネルギーをくれた/いまもくれている
大きな筍たち2 
 情報の性質上、仮名です。

  べぇ〜  愚痴  みなみ  さくら

     

べぇ〜

 

 

 べぇ〜は普通の女子だ。確か、とある年の私立選抜組にいた。努力型の優秀な女子だった。残念ながら第一志望には落ちたが、本人はいたって満足で、竹薮の方ががっかりしていた記憶がある。

 特徴はなんといっても字だ。細いシャーペンなんだが、いわば、明朝体の字なのだ。
 きっちりはっきりのタチなんだな。
 一度、なんだか竹薮がはったりで切れた(ふり)らしく、その時ほんとうに怖かったといまでもいう。竹薮はもちろん怒ったフリなので、生徒達もそれなりに受け応えして、「やるか」とかなんとか勉強したフリしてるのかと思ってたら、ほんとに怖かったらしい。竹薮の芝居も満更でもない。っふ。

 その後、大学にはいってからもバイトにくるようになった。
 夏の合宿にべぇ〜も竹薮も参加。同じ宿だろうか、なにもってく?なんてメールのやりとりして楽しみにして当日。

 集合場所にいったら、バスがない!!
 
なんでだ?
 もう何年も集合場所は東京駅の丸の内口と決まってるでしょ。

 あわてて、電話。その時はアイ−ンが添乗員だった。
「竹薮だけど、バスどこ?」
「先生、いまどこですか?」
「いつものとこ」
「今年から変わってます。八重洲に来てください。」

 が〜ん!

 バスには皆、無線が積んであり、竹薮のドジが全車に流れていた。
 東京駅の丸の内と八重洲は下手すりゃ30分かかる。八重洲からちょっと距離のある場所に止まっている場所までふうふういって辿り着く。平謝りして乗り込む。

 竹薮が最後という悲惨な結果。

 バスが出発してすぐにメール

「先生、何やってるんですか!
ちゃんとこなくちゃだめじゃないですか!
ホントにもう!!」

 わ〜い、叱られちゃった。
 こういうのなんか安心。
 というわけで、しっかり管理されてその後も安心した関係が続いている。

 べぇ〜は竹薮を叱り飛ばす女傑である。
(031217)
                        
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現在東京女子大四年生。来年社会人。


愚痴

今日、元生徒五人とメールその他で話した。
そんな予備校講師っているかな。
なんでそういうことになるかっていうと、一度できた関係をけして竹薮の側からは放棄しないからだ。そして元生徒の間違いはきちんと指摘する。それは年長者としては仕方ない当たり前じゃないか。それにしても、今年はほんとにレスキューコールが多い。

お願いだ。世の中の大人。もっと若いもんの話を聞いてやってくれ。
竹薮、正直半分にしてほしいです。ちょっともて過ぎ。

(040710)
                        
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みなみ

 昨夜、みなみと御飯を食べた。
 みなみは今25才だそうだ。ピアノをやるために音楽の大学に入ったのだが、断念。もう一度大学を受けなおす時に、竹薮の生徒だったのだ。

 変わった子だった。

 みなみとの最初の記憶は教室から講師室への移動の時だ。なんとなくつれだって歩いてみなみと話した。席について弁当をたべようと取り出した時にみなみがいった。

「先生がたべるとこ見てていいですか」

 普通は聞かないで居座りつづけるか、気をきかして去るかのどちらかだ。ちょっとないセリフだから、びっくりした。いいよと返事して、食事しながら、なんとなく時間が過ぎた。
 そういうことが何度かくりかえされた。彼女が語る自分史は大変な話だった。たいていのことには驚かない竹薮だが、みなみの話にたいしては語るべき言葉をもたなかった。そうなんだ、そうなんだとただ相槌をうつばかりだった。
 二学期、彼女は教室にいなかった。勉強を続けられる状態ではなかったからだ。

 ありがたいことに彼女には力が合ったので、センターの英語だけでとある大学の福祉学科に合格4年をすごした。その間の試行錯誤は凄まじいものだったと思う。彼女は自分を手に入れるためにほんとうに足掻いた。その足掻きがあまりに的外れなこともあり、苦しむみなみに厳しい言葉をなげたこともあった。彼女はいつもしずかにきれいに微笑んでいたが、その内面がどんなにくるしかっただろうか。そして、今もまたどれほどにくるしいか。それを思う時、昨夜みなみが竹薮の目の前にすわって何かものを食べていて、明日どころか、夏の予定を話していること自体奇跡のように思えた。しかし、そこにいるのはみなみであることにちがいはない。

 大学を出て、みなみはとある特別擁護老人ホームの介護職員になった。あのみなみが一年間、無遅刻、無欠勤、早退もなし。月に六、七回の夜勤もこなしたのだという。ほんとに奇跡だ。しかし、みなみは一年間働いてみて、自分には無理だと判断したできたのに、そう判断したのだ何ごとも気合いではすまない。それは大人の判断ではない。やはり、一週間に二、三日の仕事で、ゆっくりじっくり向かいあう仕事がしたいと、通信教育で学士入学し、社会福祉士をめざしている。今回はそのスクーリングのための上京だったのだ。

 みなみはきれいで性格もやさしいから、これまでもよくもてた。でも今度こそ、みなみを理解してくれる方がいて結婚したそうだ。「みかけは全然カッコよくないです。おいやん/親父/のような人です」といって眼を細くして笑った。そういう人が一番だろう。でも、みなみはこどもを産むのが恐いといった。みなみとしてもっともなことだ。こどもによってみなみがより一層幸福になるか、不幸になるか。どっちに転ぶかは予測がつかない。幸福になる可能性を考えて、不幸の危険をおかすのはあまりに大きな賭けだから。その選択は辛いだろう。今回もまた、わたしは「そうだね」というしかなかった。

 どうしてみなみはあの苦しみのはてに、こうして笑っていられるのだろう。

 どうしてみなみは、あんなふうに前向きに考えていけるのだろう。

ひとが生きるということは、ほんとうに不思議だ。
竹薮はみなみがいきてしまう不思議を思う。
みなみは生かされている。その生かされていることを受け入れたんだと思う。

どんな人でも、これは受け入れるべきなんだ。

受け入れるしかないと覚悟を決め、本当に受け入れたら、
奇跡がおこる。
みなみのように。

みなみの結婚祝は何がいいだろうと話し合い、フライパンか圧力鍋にすることにした。
ほんとうによかった。ほんとうにほんとうによかった。
(040722)

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さくら

竹薮組一番のお姉さん。
賢い

状況把握に長けていている。
さくらと同期には、まあちゃんという王様がいるし、この期はすでに東尾誠志郎や俥屋コロッケが登場しているくらい、こい面々がそろった学年だったのだ。その中のヒメである。しっかりコンサバなので竹薮みたいな野良とは違う世界の住人だが、ヒメの懐は深く、ずっと付き合いが続いている。ヒメは最近、専業主婦になりヒマがふえ、接触が増えた。ネットの力もある。現在マイミクです。

まだ生徒だった頃、竹薮の心中はなんでもお見通しの立派なねえさんだった。
たとえば、竹薮がまあちゃんのファンであることなど、え?そんなこと誰でも知ってるでしょ?という感じ。決してそうではなかったと思う。

それなのに、前世は石にだったにちがいないという英語講師には、ちょっと叱られただけで泣いてしまう純情ぶりを発揮?!なんなの?と信じられなかった。竹薮未経験の少女領域でほんとび不可解だった記憶がある。だって矛盾じゃん。後年その点について問いつめると、「わかんないけど泣いちゃうんだもん」という、まさに少女パターンでこれまた面喰らった。

さて、さくらがまだ学生だった頃、まあちゃんと東尾と4人で飲んだ。一軒目は竹薮が払い、ちょうど持ち合わせがなかったので、後は割勘ねというつもりで、今日はもう出ないよといったところ

さくら「せんせ、お財布見せて」
竹薮「?」と財布を渡す
さくら「ほらぁ、カードがあるじゃない。
    このカードは○○日締めの●●日払い。
    ちょうど講習分があるよね。」にこっ

この台詞はだれでもいえるものではない。
さくらの場合こういうこと言っても、まったくいやらしくない。
育ちの良さか。

就職は某損保。
当時竹薮は学童の委員をしており、学童の保険を見直しすることになり、市との交渉役になった。さて、何を保障してほしいかという描きはあるが、それが保険の約款上どのようにのっかってくるのかはまったくわからない。そこで、さくらに電話。

はたして、通常のそういう場合の保険の仕組みというのを、概括的に説明してくれ、要求のコツ、かんどころ、キーワードをさらっとレクチャー。はぁ〜〜〜〜っ。納得。
おかげで要求は貫徹できた。我が市の学童の保険は通常とはひと味ちがったものになった。
やっぱ、立派なねえさんなのである。

こうかくと、すごいキャリアな感じだと思うでしょ。
ちがうのよ。
彼女のアイデンティティーは、あのシュガーボイスを抜きにはかたれない。
ほんと「コットンキャンディーボイス」なんだよ。

このミスマッチもまた、さくら。ね。

(051226)
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