原種の謎

 このページは、主にアクアリウム用に販売されている原種熱帯スイレンについて考察することを目的としたものです。あまり深く追求されることはありませんが、水槽用に販売されているいわゆるニムファ類は、分類や品種の確実性の面で非常にいい加減で、実のところ何がなんだかわからないところがあります。同じように深い世界であるクリプトコリネほどではありませんが、商品名と実物がまるで異なっているということもザラです。また、正体不明なもの、交雑が疑われるものも多く、混乱を極めています。このページでは、これらを”解説しよう”とか”説明しよう”とか大それた事を目的としたものでは無く、単に” 考察”してみようという軟弱なものです。なにせ情報が少なすぎて、手のつけようがないという現状もありますので、できましたらみなさまも一緒に考察していただけたらと思います。

 さて、まずは概論から書いていきましょう。
 アクアリウムでは一般的にスイレンのことを学名のNympaeaを省略してニムファと呼んでいます。ニムファというのはスイレン属の水草全般を意味する言葉ですが、アクアリウム用に販売されているものは、それらの中でも夜咲種といわれる原種がほとんどです。タイガーロータスやタイニムファなどがその例ですが、いずれも夜に花を咲かせるスイレンで、園芸用として主流となっている昼咲き品種は一部を除いて利用されていません。
 これは、夜咲き種が昼咲きに比べて弱光に強く、水槽でも育てややすいためでしょう。
 さて、このニムファですが、スイレン科スイレン属の植物ではありますが、実際にはその下に亜属という分類がもうけられており、いくつかのグループに分けられています。
 このあたりは睡蓮蓮連さんのHPが詳しいので、そちらを参考にしてください。
 先ほどアクアリウムで栽培されているニムファは夜咲が中心と書きましたが、古くから水槽で馴染みのあるタイニムファやタイガーロータスといった、アフリカや東南アジア産の夜咲種が分類されるLotus亜属は、近年分類の大きな変更があり、極めつけにシンプルになりました。
 一つはNymphaea lotus。アフリカ原産の夜咲種は、lotusやzenkeriなど数種がありましたが、全部lotusにまとめられました。微妙な違いは、すべて地域変異レベルということでしょう。
 もうひとつはpubescensで、古くから知られるrubra(タイニムファ)など、東南アジア産の原種がこれにまとめられました。
 こちらは葉の色や模様どころか、花も白、ピンク、赤などがあるのですが、すべて同一種となっています。さすがに、あれを全部同じだと言われると抵抗があるのですが・・。 まぁ、いろんな流通名で入ってくるニムファが、全部二つに分類できるとなると、楽ではありますけど。

 これらLotus亜属以外で主流になっているグループには、Brachyceras亜属があります。これは南米産ニムファのグループですが、近年南米産の水草人気が高いことから、数多く輸入されるようになっています。サンタレンドワーフニムファやラビットイヤーロータスなどが該当しますが、この亜属には似たような種が多く、流通では詳細な分類はされていません。それどころか「***産ニムファ」などと、種がまったく不明なまま産地名だけがついて輸入される例もあり、お手上げにちかい状況でもあります。ラビットイヤーロータスやプロリフェラのように個性の強い種ならわかりやすいですが、ドワーフニムファのようにソックリさんがぞろぞろいるような種の場合、同定は困難を極めます。というかムリです。まぁ、あまり細かいことは気にしない方が健康的でしょう。

 ここでは各種ごとの解説も入れていきますが、水草図鑑に載っていても、その正体がサッパリなものは掲載していません。図鑑に掲載されている学名自体がアテにならないので、調べるのも手探り状態です。まぁ、ゆっくり掲載種が増えるのをお待ちください。



Lotus亜属のニムファ
 水槽では最もなじみの深い亜属の一つでしょう。東南アジアやアフリカに産し、いわゆるタイガーロータスやタイニムファがこれに含まれます。花色は赤もしくは白、夜咲ではあるものの開花時間が長いので、園芸品種として原種や交配品種が楽しまれています。
 昼咲き種に比べると弱光に強い(水槽で言う強光は、園芸では弱光とみなされる)
ため、水槽用のニムファとしても普及したようです。

タイガーロータス
Nymphaea x lotus
原産 西アフリカ
 非常に古くから知られる水槽用熱帯スイレンです。ロータスという名前からハスと勘違いしている人が見受けられますが、れっきとしたスイレンの仲間です。鮮やかなグリーンから褐色がかった緑色の葉に、赤褐色の班が入った非常に美しい水中葉が特徴で、野外やオープンアクアで育成すると大輪の白い花を咲かせます。夜咲きですが開花時間が長く、朝方まで花を楽しめる種でもあります。葉のサイズは浮き葉で20−50cm、葉の広がりは3mに達するとのことで、かなりの大型種のようです。
 タイガーロータスにはレッドとグリーンが知られていますが、どちらも同じlotusです。葉色は違いますが、花は同じ白色をしています。この仲間では以前は独立種だったzenkeri(西アフリカ産)があり、やや小型の原種として知られていましたが、今ではこれもlotusに統合されました。
 ファームものの場合は、zenkeriの名前がついたものが販売されていることもありますが、果たして本当に西アフリカ産の旧zenkeriであるかは謎です。この名前で販売されているファームものの花は、当然かも知れませんがlotusと区別が付きません。
 葉の模様は元々バリエーションが多く、ニムファに限りませんが、種の判別にはほとんど役に立たないので、実際のところは謎だらけです。
 ちまたには、さまざまな模様の葉について、交雑説やバースのが本物だといった説が流れていますが、これらも真偽は定かでありません。
 すくなくとも、園芸でlotusとして流通しているものの水中葉は、バースものとは全然違います。どちらかというと、緑地に模様の少ない地味なタイプです。

原種と思われるタイガーロータス レッド



タイニムファ
Nymphaea x pubescens
原産 インド
 鮮やかな赤い葉が魅力のニムファですが、真紅の夜咲き大輪花は原種スイレンの中でも屈指の美しさを誇ります。このスイレンを夏に野外で育成し開花させたら、スイレンの魅力にハマる事間違い無しでしょう。赤い夜咲き園芸品種の元親として利用されているほか、ルブラの名前で原種が園芸用として育成されています。
 ところで、このグループも大きな分類変更の対象となり、pubescensとしてまとめられました。園芸ではルブラの名前のままで呼ばれていますが、学名としてのrubraは無くなってしまいました。
 水槽で栽培されているのは、pubescensの中でも旧rubraであるとされ、東南アジアから大量繁殖した球根が輸入されますが、安価なためか状態が悪いことが多く、そのまま腐らせてしまうことも多々あります。
 ところで、この旧rubrraは本来水中葉は緑色をおびていて、浮き葉は成長と共に赤色が強くなってきます。しかし、市販されているタイニムファは水中葉が赤いものが多く、本来の特徴と一致しません。おそらく商品価値を高めるために、レッドフレアのように葉が真っ赤なタイプの園芸品種の血が入れられているのではないかと思いますが、詳細は不明です。
 現地では大量に種子で繁殖しているため、形質が不安定で葉が赤いもののほか、緑色っぽいものも入荷します。交雑の可能性も高く、すでに原種の旧ルブラとは異なるものと考えたほうがよいでしょう

原種旧ルブラは葉の大きさが25−45cm、葉の広がりは2−3mと大型のスイレンで、成長力も素晴らしく育てやすいのが特徴です。この写真は植物園に展示されていたルブラですが、まだ株が若く赤みが弱い状態です。
 今後、成長と共に赤銅色が強くなってくるのでしょう。
 この葉を見るだけでもわかりますが、市販されているタイニムファとは別物です。














Brachyceras亜属のニムファ
 これはアフリカを中心に産する熱帯昼咲きスイレンのグループで、現在広く親しまれている熱帯昼咲きの園芸種は、大半がこのグループに属しています。反面、昼咲き種は光の要求が夜咲きよりうるさいと言われており、アクアリウム用としては、ほとんど栽培されていません。

トリカラーニムファ流通名:ニムファ レッドフレアあるいはミクランサ)
上記名称は筆者が勝手に付けたものですが、できれば業界関係者も改名をお願いします。
Nymphaea x micrantha
原産 不明
 筆者の周辺で最も物議をかもしたニムファです。緑と赤のモザイク状の葉に、暗褐色の班が入る美しいニムファで、浮き葉は徐々に緑一色になってきます。水中葉でもムカゴをつける特徴を持っており、このムカゴから葉が出てきたところで分離すれば、いくらでも増やすことができます。
 このスイレンの紛らわしいところは、「レッドフレア」「ミクランサ」の二つの名前で販売されていることであり、どちらの名前も間違っていることです。
 「レッドフレア」は、ルブラに似た赤い葉と真紅の夜咲き大輪花を持つ改良品種の名前(Nymphaea'RedFlare'Martin E.Randig 1938)で、当然ながらここで紹介しているニムファとは別物です。「ミクランサ」は西アフリカ原産のスイレンで、葉にムカゴを持つ特徴を持っており、数々の改良品種にこの形質が受け継がれています。この品種も同様にムカゴ種ですが、オリジナルのミクランサとは微妙に特徴が異なり、とくにブルータイプ*1はまったくの別物です。
 それじゃ、こいつは何者??というのが、このスイレンの最大の謎ですね。そもそも名前からしてややこしい。名前は炎のような葉の模様から”レッドフレア”というインボイスネームになったのでしょうが、実物のレッドフレアと区別が面倒くさいったらありゃしません。ここでは仮にトリカラーニムファと呼ぶことにしておきますが、業界にはぜひ新しい名前をつけてもらいたいものです。

03年10月追記
 この品種について、いくらかわかってきました。
 あちこちでトリカラーニムファ(仮名)の開花例について見ましたが、あまり花が一定しておりません。花色は白から青紫までいろいろで、花弁にスが見られるものもあれば、ないものもあります。
 本物のミクランサ(白花)に近い物もありますが、花弁にスの入ったものが見られることから、おそらくイスラモラダ(Islamorada)という品種の交雑あるいは実生ではないかと思われます。これは青紫の花弁にスが入る変わった品種で、葉は水槽で栽培するトリカラーニムファと同様派手な模様が入ります。
 この品種と他の品種や原種ミクランサと交雑したものか、あるいはイスラモラダの実生によって、形質が原種ミクランサとイスラモラダの間でさまざまなものが出現しているのか、そのあたりの詳細は不明です。イスラモラダが2000年くらいに登場した新品種である事を考えると、当初は原種ミクランサ(白)やその交雑種が入荷していたものが、やがてイスラモラダの交雑(青)に変わってきたのかもしれません。実際、最近は白花タイプをほとんど見かけなくなりました。
 とりあえず、現時点で水槽用に販売されているトリカラーニムファは、少なくとも白花・青紫花の2タイプがあるので、ここでは
白花  タイプA
青紫花 タイプB
と分類することにしておきます。

*1
 ミクランサ ブルータイプ(ブルーミクランサ)は、その名の通りミクランサの青花タイプですが、単なる地域変異なのか自然交雑なのか、いまひとつはっきりしません。同じアフリカ産のカーペンシスとミクランサの自然交雑種であるとの説もあり、謎の多い原種です。ただ、市販されている水草の「ミクランサ」青花とは、花弁数・形状・ともにまったく異なり、完全な別種です。少なくとも、水草として販売されている「ミクランサ」の青花が、ミクランサでない事だけは間違いありません(ややこしい話ですこと)。


トリカラーニムファ タイプA(白花タイプ)
東南亜細亜掬魚紀行さんより画像を提供していただきました。
水中葉に派手な模様が入るのはこの名前で売られているニムファの共通した特徴です。原種ミクランサに近いタイプと思われますが、原種そのものかどうかは調査してみないと何とも言えません。












トリカラーニムファタイプB(青紫花タイプ)
normani,さんより画像提供していただきました。
 このように、同じような水中葉を持ち、同じ名前で流通しているにもかかわらず、まったく違う色の花が咲きます。このタイプはよりイスラモラダに近いタイプのようで、花弁には特有のスが入っています。

 複数の株を入手して開花させましたが、面白いように微妙な違いがあり、はなはだ一定しません。かなりいい加減な品種管理(実生含む)が行われているようです。
 ただ、品種としてのいい加減さはともかく、非常に小型な品種でありながら、花弁数が多い美しい花を咲かせることから、咲かせて楽しむには最適かと思います。






ブルーミクランサ(野生個体増殖株)
 アフリカで採集された、本物のブルーミクランサです。ご覧の通りというか、トリカラーニムファの青紫花タイプとは、まったくの別物です。花弁は小さく少なく、大きく開かないため、かなり地味な印象です。華やかなトリカラーニムファとは大違いですね。やはり、トリカラーの青は園芸種の流用(交雑)ということで、確定のようです。













イスラモラダの水中葉
園芸品種、イスラモラダの水中葉です。トリカラーニムファ同様、3色混合の派手な模様が入ります。イスラモラダは水中葉にムカゴをつけませんので、以前雑誌で掲載された「ムカゴができないミクランサ」は、イスラモラダに近い形質を持つ株でしょう。
 最近は赤い色の面積が大きい株をよく見かけますので(タイプBのようです)、現状出回っているのは選別交配で葉色を派手にしているのかもしれません。





トリカラーニムファという名前について
 本文でも書きましたが、このニムファはレッドフレアでもミクランサでもありません。つまり、このニムファには正しい名前というものが無いのです。そこで、アクアリストの間で「トリカラーニムファ」という名前をしつこつ連呼し、なし崩しに「トリカラーニムファ」という名前を定着させてしまおうという勝手な計画(笑)があります。
 これを読んだみなさまも、ぜひこのニムファを「トリカラーニムファ」と呼んであげてください。


Hydrocallis亜属のニムファ
 南米に産する夜咲きスイレンのグループ。花が水面に浮かぶように咲いたり、oxypetalaのように浮き葉を出さないものがあったり、proliferaのように花から殖芽を出すものがあるなど、他の熱帯スイレンと比べると個性的な特徴を持つ種が多く含まれています。
 南米水草の人気が高いことから、普通はなかなか見られない珍種も多く輸入されるようになっていますが、まともに分類されていないようで混乱が目に付きます。

ビットイヤー ロータス
Nymphaea oxypetala
原産地 南米 エクアドル ベネズエア
 日本ではあまり見られないニムファですが、アメリカでは水草として比較的よく利用されているようです。矢尻型の特徴的な葉がウサギの耳に似ていることからラビットイヤーロータスと呼ばれており、柔らかい水中葉が非常に美しい種です。。
 南米原産のスイレン属には変わったものが多いのですが、このラビットイヤーは中でもとびっきりの変わり者と言えるでしょう。
 なんといっても、浮き葉を作らないというのは他のスイレン属には見られない特徴です。この種は水中葉の状態が通常のようで、花も水中葉のままで咲かせてくれます。環境の良い水槽であれば、美しく茂らせた葉の間からつぼみを出し、水面に白い神秘的な花を夜に咲かせる様子を鑑賞できるでしょう。
 花は他の熱帯種とは異なり水面に浮かんで開き、一日で咲き終わってしまいます。また、花茎が螺旋状になるのも特徴ですが、これは開花後に花を水中に引き込むための仕組みではないかと思われます。
 植え替えの時に球根も確認しましたが、これまた横に根茎のように伸びるタイプのようで、なかなかに変わっています。
 かなり変わった特徴の多い種ですが、流れの速い小川で、葉をなびかせながら自生している写真を見たことがあり、こうした通常のスイレン属が進出できないような所にまで生存範囲を広めるために、このような特徴を獲得したものかもしれません。

 交雑については不明ですが、日本に入ってきてからは地道に増やされているようで、実生は行われていないようです。輸入前についてはそれこそ不明ですが、かなり変わった品種だけに、おそらく原種のままではないかと思うのですが・・・。

 葉は非常に柔らかく、ちょっとしたことで傷みやすい。花は深夜にひっそりと咲く。


 他のスイレンに比べると花茎が細く、螺旋状になるという特徴を持つ。

サンタレン ドワーフニムファ
Hydrocallis亜属
Nymphaea (小種名不明)
原産地 南米 パンタナル?
 サンタレン産といわれる小型のニムファです。浮き葉は矢尻型で、花が水面に浮かぶように咲くなど、南米産ニムファに多く見られる特徴を備えた種です。
 ランナーでよく増えるため、短期間で大増殖することもあります(その割に高い)。
 花は白い夜咲きで、やや刺激の強い香りがあります。。
 詳細は不明ですが南米から採集で入ってきたようなので、おそらく交雑ではないでしょう。ただ、南米産ニムファには似たような形状・特徴のものが多く、区別がたいへん困難です。
 輸入されている株も数タイプある可能性があり、どれがどれだかはサッパリわかりません。
 このあたりは、今後調査していくしかなさそうですね。





ニムファエア プロリフェラ
Hydrocallis亜属 Nymphaea. prolifera
原産地 南米

 ゴイヤス産スイレンという名前で入ってきたものだそうです。南米産水草は人気があるためダイレクト便でさまざまなものが入ってきますが、種類のわからないものはこのように**産**といった名前で売っているようです。
 プロリフェラは大変珍しい特徴を持つスイレンの一種で、他には見られない胎生による繁殖を行います。これは花の中から直接子株が出てくるというもので、ガクの中から房のように小さな蕾状の子株が伸びている姿はたいへん奇異で面白いものです。
 筆者がこの株をわけてもらったときにもついていましたが、その後調子を崩して痛んでしまいました。現在順調に浮き葉を展開しているので、近いうちに花がみられるものと思います。
 花は深夜に短時間だけ開き、白花のようです。

プロリフェラの水中葉
模様は無く緑一色ですが、若い浮き葉にはスポットが入ります。