ふりつづく砂の夜に



ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく
時間からの出口はない
びっしょり雨にぬれた宇宙の
記憶にないこの今を
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく
いつであれ 今生まれたばかり
渦まくかたつむりの秋に
水は静かに燃えている
青いソバの花がゆれている
ほらみんな去年の雪のようにとけ去っていく
でもなえることなく
歩いていく
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを


ここはどこなのか いつなのか
何もつながらない空の下
こわれかけのベンチにしゃがみ
ぼく自身につまづいたり すべったり
でも離れられないで
ひとつぶの涙の輝きを心に
歩いていく
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを

こぼれ落ちる光の化石の中にひびきわたる蝉の声
かわいた鮫の眼にうつる白い地球の骨たち
まぼろしがまぼろしを訪ねていく

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

さびついた犬たちのぼろぼろの息が街を流れる
昼も夜もそびえたつコンクリートと油の山に入りこみ
鉄のきのこをかみつづける
しわくちゃな紫色の空の下
ふりつづく砂の夜に
応えはない
不確しかな青い地球の眼とひげが迷い道のように広がっている

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

脂肪の上にのぼる十五夜の月
もだえ泣く くじらたちの声
船は自らを捨て とめどない痛みをすすりながら沈んでいく
大地は誰に話しかけるでもなく
そっと水の手をのばし
道ばたの笑いをすくいとる
水の家の地球にばらまかれた渦まき状の子宮には
赤い八百屋の店があり
小さな記憶の木の枝にぶらさがったラジオが
黒くひからびた眼と唇を売っている
ぼくの手はそこに一本の目印しとして
灰色の鳩をほじくる

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

目かくしされたラクダの声が
こわれた骨と皮にこだましている
黒こげの土の壁がブドウ色の血を吐き
焼けただれた手が破れた本を開き
ページをめくる
空がゆれる
本が閉じられる
ぼろぼろの心で止めどなくもつれあいはしたのだが
誰も出口にたどりつけない
それとも いつの間にかみんな出ていってしまっているのか
しのびよる夕闇の中で
ひきちぎられた顔が行ったり来たりしている

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

潮がきて 潮がいった
とり残されたぼくには何の意味もない
砂の上にうかんだ顔の中に
いくつもの鉄の太陽
いくつもの焼き焦げた月
そしてまたとり残されたぼくには何の意味もない
うる覚えの田舎道をたどっていく
タンポポが風にゆれている

ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく

あってないこの今
見えるが見えないに沈んでいく
たわわな陽の光りをあび つわぶきの花の渦まく中を
ほんだわらややしの実と一緒に
魚たち鳥たちの話しをもらいながら
ぶらぶらと
ぶらぶらと いのちを
歩いていく
ふりつづく砂の夜に
応えはない