揺れる巣穴
  written by R.TAKEMURA / arranged by S.NUNOI   last update : 01.03.14




私は、私の六畳の部屋にいながらなんとかこの部屋を有効に、
広く使うことはできないか考えていた。


私の住んでいる場所は築四十年の老朽化した木造アパートの二階で、
階段はぎしぎしと軋み、玄関の扉は盛り上がった床のコンクリートが引っかかって、
開閉するときには足で強めにノックすることが必要だった。
もちろん私には広い部屋に引っ越しをするだけの経済的余裕はない。
ましてや今年は二年ごとに訪れる悪魔的な契約更新をすでに済ませているので、
あと二年は─アパートがもてばの話だが─住むことになるだろう。
この部屋と付き合って七年目になる。
私の付き合ってきたどんな女性よりも長い付き合いだ。
そう、私はこの部屋が女性的であると思っている。
ちょっとした工夫と押しが必要な玄関もそうだが、
年老いて少女趣味に磨きのかかった大家によって、
アパート「米谷荘」は「メゾン・フランボワーズ」に強制的に変えられてしまった。
私は部屋を探しに来た女性がアパートを見るなり、
部屋に入ることなく帰ってしまった例を幾度と見ている。
ここは木苺のような甘酸っぱい香りとはほど遠い、木の壁は腐りかけ、
腐蝕によって発酵した、酸えた匂いがあるばかりなのだ。
従って「メゾン・フランボワーズ」に住む住人たちはみな、
とても異国の名前には耐えられない、むさ苦しい男たちが住んでいる。
甘酸っぱい匂いを発する、独身男性の夢の園だ。
私たちにはこのアパートが、各自の部屋が女性でなければいけない。
たとえそれが幻想であっても。


しかし自分勝手な幻想であっても、
各自が部屋から想像できる女性は老婆でしかないところは極めて現実的である。
それが私には、部屋を有効に利用するためには重大なヒントを与えてくれた。
老婆の皺のように、部屋に線を引けばいい。
すなわち、六畳のこの部屋を二つに分けてしまおうということである。


言い忘れていたが私は作家である。
本として出版されたことは一度もないが、
人目に触れることのない作品を書き続けている、正真正銘の作家である。
なぜ私が部屋を分けたいと思っているかというと、作家である私が執筆に集中できるように、
生活する場所と執筆する場所を分けたいと考えているからである。
私の作品が公に認められないのは結局、生活と執筆を分けることなく
同時に行っていたからであるという結論に達した。
私の書く物は所詮インスタントラーメンであり、
蚤だらけの布団であり、穴の開いた靴下なのだ。
そんな作品を誰が読みたいと思うだろう。
週二日の燃えるゴミであり、月曜日の燃えないゴミであり、
眺めるだけのテレビ番組であり、黄ばんだ便器であり、
流しに詰まった生ゴミで、ときどき現れるゴキブリで……いや、
もうこのへんにしておこう。
とにかく私の作品はおよそ私が夢見るロマンや美しさ、つまり芸術とはほど遠い物なのだ。
私は現在二十九歳でもうすぐ三十を迎えようとしている。
私には時間がないのだ。
そこで考え出したのが生活と執筆を切り放すことである。
そして私は二つに分けるというアイデアを実行に移した。


*     *


部屋を二つに分けるというと、真ん中にカーテンを引いて分けると想像するかもしれないが、
それは違う。
床に垂直に線を引くのではなく水平に線を引く。
ただの一部屋を二階建ての構造にするのである。
床から天井までの高さは二メートル五十センチなので、
一メートル二十五センチの高さに線を引き、二つに分ける。
それはロフトのようなおまけではない。
生活の空間と執筆の空間はあくまで対等である。
そして対等でありながら、執筆の部屋を上に──つまり二階に相当するのだが──
配置することでどちらを重視しているかは一目瞭然だ。
私にとって生活は無用な、しかし生きるためには必要な、しょうがない代物に過ぎない。
できることなら生活は必要最小限で済ませたい。


私は廃棄物処理業者やリサイクル業者に電話して、二段ベッドを探し求めた。
そしてベッドを四つ手に入れて苦労しながら部屋に運び込んだ。
私にとって二段ベッドの代金や運送料などは余計な出費であったが、
執筆に専念するためと思えば安いものだ。
部屋はほんの僅かの隙間を残して二段ベッドで埋まった。
それから私は、下のベッドの板を取り除き、上と下の無用な内側の枠を切り取った。
下は足だけでも相当邪魔ではあるが、これで一応は動き回ることができるようになった。
そして一階の「生活の部屋」にはテレビやビデオ、足の低いテーブル、漫画本、
敷きっぱなしの布団や、蛍光灯の明かりが遮られているのでライトスタンドを持ち運ぶ。
重要な二階の「執筆の部屋」には絨毯を敷き、やはりリサイクルで揃えた机、椅子、本棚、
そしてワープロを運び入れた。
腰をかがめなければどちらの部屋にも入ることはできないが、
座ってしまえば、多少の圧迫感はあるものの、不自由は感じなかった。


*     *


生活の部屋は基本的に食事と眠る以外には使われなかった。
日当たりの悪い部屋で一階はますます暗さを増し、もともとつまらないと感じていた生活は、
さらにつまらないものとなった。
しかし私は清々した。
おかげで生活に費やす時間は最小限に押さえられ、これまでの無駄がなくなった。
食事をする、眠る。
他になにが必要だろう。
テレビやビデオ、漫画本も無用のものと感じ、捨てようと思う。
すると生活の部屋は急に広くなった。
今までが広すぎたのかもしれない。
生活に必要な物は部屋を半分にしても広すぎるほど少ない。
むしろ部屋を半分にすることで不必要な物を処分することができる。
これは私にとって発見だった。
ただし楽しいものではない。
生活そのものが消えてしまえばいいと思えるほど、生活は味気なく存在している。
私には飯の味もよく分からなくなった。
一刻も早く生活の部屋を離れ、執筆の部屋にこもるために、飯を喉にかき込んだ。
眠っているとき最近は夢を見ることがなくなった。
睡眠時間もどんどん減っているようだった。
私は嬉々として喜んだ。
夢を見ないのは睡眠が深い証拠で、生きていく上で最も無駄に使っている
眠っている時間が減ることは喜ばしいこと以外の何物でもない。
私の執筆に費やす時間は増大し、執筆に対する意気込みは
日に日に巨大なものに変わっていくようだった。


*     *


執筆の部屋ではワープロのキーを叩く音が爽快に鳴り響いている。
すこぶる調子が上がっていき、アイデアは指が追いつかないほど次々と浮かび、
私は心から生活と執筆とを切り放してよかったと実感した。


執筆は市役所勤めを終えた夜に行われる。
夕飯をさっさと済まし、執筆の部屋にこもる。
部屋に上がるのに初めのうちは苦労していたが、
捨てようと思っていたテレビとビデオを階段代わりに利用している。
二階の床は、所詮は廃品だった二段ベッドなので歩くとぐらぐら揺れ、軋んでいた。
だが一階と同じで、椅子に座ってしまえばなにも問題はなかった。
本を読んだり、作品を書くためには椅子が一脚あればいい。


電気をつけてワープロの電源を入れて、私の充実した長い夜が始まる。
私は初めのうちは作品を書かずに、たくさんの有名な作品に読みふけった。
今まではたんなる文学好きの素人でしかなく、本に費やすお金も少なかったので、
本棚には文庫本と古本しかなかった。
しかし極端に食費を押さえ、交際費、煙草や酒を一切やめたことで
本にお金を費やすことができるようになった。
二階の執筆の部屋は、今では分厚い本でいっぱいになり、話題の本、
あらゆる分野の図鑑や資料、哲学書や文学作品を読み揃えていった。
もはや本棚には納まりきらず、床に次々と重ねていった。


そして私は作品を書き始めた。
たくさんの作品が生み出され、それからスピードは衰えることなく
一作ごとに物語はどんどん長くなっていった。
話題のテーマ、巧妙なプロット、伏線、あっと驚くオチ、壮大な物語。
私は自分が生まれながらの作家だったのだと悟った。
名声を得るのももうすぐだと思った。
毎年応募しては落とされてきた文学賞に今年は自信を持って応募しよう。
これほどまでに長く、しかも破綻することなく、
専門家にも一般の読者にも受ける作品を書く人間は、
現代では私以外にいないだろう。
間違いなく私の名前は文学史の、一番新しいページに載ることだろう。
アパートの住人が寝静まった真夜中、次々と浮かんでくる言葉をワープロに打ち込み、
プリントアウトしては確認する。
プリントアウトされた作品の原稿はいつしか電話帳よりも厚くなっていき、
作品の一章が電話帳ほどの厚さになっていき、ドストエフスキーやジョイス、
プルーストを軽く追い抜き、このままいくと一人の作家の全集よりも長い作品になるようだった。
集中すればするほど、作品を書くスピードが上がれば上がるほど、
夜中起きている時間が長くなっていった。


気分が昂揚し、気持ちが張っていると眠らなくても大丈夫なようだった。
睡眠時間はどんどん減っていき、明け方になると二時間だけ眠って仕事に向かった。


*     *


私はどんどん痩せ衰え、顔色も悪くなり、頬もこけた。
だが不思議なくらい自分は健康であると感じていた。
今まで生きてきて、これほどの素晴らしい充実した健康を感じたことがあっただろうか。
私は確かに見た目は不健康であると思われているだろうが、
精神的にも肉体的にも健康であった。
それは作品がはっきりと証明している。
この作品は不健康な者には書けないだろう。
不健康な者にこれほどまでに長い物語を構成し、書き続けることはできまい。
これは簡単なことなのだ。
ただ部屋を二つに分けるというそれだけのことなのだ。


しかし、そんな私にも、どこかおかしな兆候が襲っていた。
たとえば睡眠時間は減っていたものの、執筆している最中に、
けっして眠っているわけではないのに、明らかに夢と思われるものを見ていることがある。
夢、それは様々な夢で、眠っているときに見る普通の、正当な夢もあるが、
それとは別の、私でありながら執筆する私とは違う人物、
つまり生活する私の視点から映し出された映像が夢のように浮かぶのだった。
私はこれがどういうことなのか、しばらく考えた。
そして私は間違いのない結論を出した。
私はどうやら分裂しているらしい。
あれほど嫌っていた生活だったために、とうとう、部屋を二つに分けたように、
私は二つに分裂してしまったのだ。
しかし不完全に分離してしまっているので、ときどき生活する私の見ている映像が、
執筆する私の視界にノイズのように映し出されるのだ。


このことに気づくと、私はさっそく生活する私と執筆する私とを完全に分離するよう試みた。
分離してしまうとどういう結果になるのかは私にも分からない。
だがどんな結果になっても面白い経験になるだろう。
私はたとえ恐ろしいことになっても小説のネタになればいいと思い、
部屋を二つに分けたように、私は生活する私と執筆する私とを分離した。


*     *


どうやら私の生活はなにも変わることなく順調に進んでいるらしい。
食事しては眠る。
私の毎日はそれ以外にあり得ない。
他にすることもなく退屈といえば退屈だった。
だが仕事にも慣れがあるように生活の単調な退屈さにも慣れてしまうものだ。
眠っているとき、執筆を続ける私の、辛い映像の夢を見なくなって以来、
私の調子はよくなった。


だが予想もしなかった事件というものが、人生においては必ず起きるものらしい。
ある日、人付き合いを絶っていた私のもとに突然女がやってきた。
夜、玄関を開けるといきなり女は泣きながら抱きついてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と、泣きながら謝るのだった。
女は私が以前付き合っていた女だった。
告白すると私は、この女と真剣に結婚しようとまで考えていた。
ところが女に、私よりも有能で将来性のある男ができて、私はあっさりと振られてしまった。
ひじょうに腹が立ち、しかし私の気持ちは真剣なものであって、
恥ずかしい話だが、私は仕事を休んで一日中泣いていた。
立ち直るまでにはずいぶんと時間が必要だった。
そして、その女が今、私の胸で泣いているのだ。
私はわけが分からなかったが、とにかく部屋に入れて話を聞いた。
予想通り、分離された奇怪な部屋を見て驚き、
部屋の説明をして話を聞くまでには時間がかかったのだが、やっと聞き出すことができた。
話を聞くとつまらないような、嬉しいような内容で、
私を振って付き合い始めた相手の男は、彼女のことなど大勢いる女のうちの
一人としか思っていなかったらしく、同棲までしていたにも関わらず、さんざん振り回され、
遊ばれたあげく捨てられたということだった。
お金もその男に全部費やしてしまったせいで行くところもなく、
私を頼る他なく、また、本当かどうかは分からないが私の優しさを思い出して、
彼女を真剣に愛してくれたのは私しかいなかったということになり、
恥ずかしさと申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、
思い切って家に来たということだった。


私は悩んだ。
私を捨てた彼女の、よりを戻したいという申し出を受け入れてしまっていいものだろうか?
だが驚くほどあっさりと、私は結論を出していた。
私は彼女を受け入れようと思う。
私はつまらなすぎる生活の単調さに慣れてしまったが、やはりつまらなかったのだ。
私を頼る彼女の泣いた顔を見ると、それまで忘れていた欲望が一気に甦ってきた。
だから私は彼女を受け入れる。
彼女がこんなにも低い天井の部屋で我慢できるというのならば。
彼女は初めて笑顔を見せて、頷いた。


*     *


奇妙な部屋での奇妙な同棲生活が始まった。
狭い部屋に寄り添って二人でいると─正確には三人だが─子供に返った気持ちになった。
子供というよりも動物に近い感覚だ。
いっそのこと新しい部屋を探して暮らそうかとも思ったが、
なにしろ二人ともお金がなかった。
そもそもお金がないのは執筆する私のせいである。
仕事をしながら執筆するためには仕事に時間を取られないようにしなくてはいけない。
仕事も生活の一部であり、私の考えではやはり必要最小限の
お金が手には入りさえすればいいのだ。
だから仕事をする私にはまったく情熱というものはない。
必然的に昇進にも縁がない。
昇進しないことは私自らが望んでいるのだ。
昇進してしまったら給料は多くなるが、その分責任も重くなり、さらに忙しくなるだろう。
それは執筆の妨げになる。
私はこの部屋から離れることはできない。
彼女も納得してくれた。


彼女は、男を見る目はないかもしれないが計算高く、賢い女ではあった。
この極めて論理的・効率的に分離された部屋に納得しないわけがない。
ただ、一つだけ注文をつけた。
「私の部屋が欲しい」
これには参った。
だがたしかに、それは賢い選択でもあるのだ。
なぜなら、この狭い部屋でずっと顔を見合わせていたら、
どんなに好きな相手でも退屈になってしまう。
自分だけの時間というものは必ず必要だ。
私は考え抜いたあげく、生活の部屋をさらに二つに分けることを提案した。
すると
「二階がいい。
生活する場所と私の部屋が隣り合っているなんていや」
と断られた。
私はしょうがなく二階の執筆の部屋を二つに分けることにした。
もうそれ以外に選択しようがないのだから、よもや執筆する私も否定できまい。


*     *


まったく迷惑な話だが私の執筆の部屋が二つに分けられることになった。
部屋に積み重ねられ、山のようになっていた原稿と本は、むりやり半分に押し込められ、
一階のベッドの床板を壁の代わりにして、執筆の部屋は無惨にも二つに分けられてしまった。
彼女の部屋には今日、振った男の部屋から取り戻してきた様々な荷物を運び入れた。
「狭すぎる」
と彼女は文句を言ったが、私はお前こそが部屋を狭くしているのだ、と言いたい。
部屋を三つ、水平に分けることも考えたが、さすがにそれは無理だろう。
私の執筆の部屋と彼女の部屋が同じ位置にあるのは気にくわないが、そのうち慣れるだろう。
すべては慣れなのだ。
私には一脚の椅子と机のスペースがあればそれでいい。
作品を書き上げるスピードは衰えることがなかった。


*     *


しばらく月日が過ぎた。
夜、布団に横になりながら、生活する私はぼんやりと考えていた。


上では執筆する私が相変わらず、いつまで経っても終わりの
見えない小説を書き続けているだろう。
ワープロのキーを叩く音が響いていたが、どういうわけか私は落ち着いた、
静かな心持ちだった。
横にはすやすやと眠っている彼女の寝顔がある。
私は将来のことをぼんやりと考えていた。
彼女が家に来てようやく落ち着いたようだった。


一つだけ困ったことがあった。
それは彼女が妊娠したことだった。
いや、正確に言うと妊娠していたようだった。
もちろん彼女はすでに妊娠していたことを知っていたのだろう。
初めて家に現れたとき、そういえば彼女は体のラインが出にくい服装をしていた。
彼女が妊娠の事実を打ち明けたのはつい最近のことだ。
最初、私の子供かと信じたが、腹の出具合がどうも計算に合わない。


たしかに彼女は賢い。
私にはもう彼女を追い出すことができないだろう。
食事は一人きりで食べるよりも二人で食べた方が楽しいし、おいしい。
そんなことよりも生まれてくる赤ん坊のことを考えていた。
赤ん坊が生まれたらどうしようか。


しかし結論は出ていた。
赤ん坊が生まれたら、大きくなったら、生活する部屋を二つに分ければいい。
それ以外に方法はない。
彼女も働いてはいるが、赤ん坊が生まれたらもうそんな余裕はなくなるだろう。
この部屋を離れることはできない。


私にはこの部屋を離れなくてもやっていける自信があった。
子供が何人生まれようと、部屋をどんどんと線を引いて分離していけばいいのだ。
生まれたときからこの奇妙な部屋の構造に慣れてしまえば、文句を言うことはないだろう。
どんどん複雑に、入り組んだ構造になるだろうが、なにも怖いものはない。
そう思うとなんだか安心した。


みんなこの生活をすればいいのだと思う。
部屋を次々に分離していくやり方を。
日本は狭いのだ。
庭付き一戸建てを所有するのが当然と思い込み、ローンに支配され、
嫌々辞めることのできない会社に勤めるよりもどれだけ気楽なことか。
老人がどんなに増えても困らない。
老人はどんどん縮んでいくのだからぴったりだろう。
とりとめもない考えが浮かんでは消えていった。
私は彼女の寝顔を見た。
口を開けて涎を垂らしているが、本当に愛らしいと思う。
私は近日中に彼女と正式に結婚しようと考えた。


そのときだった。
部屋の天井が大きな音を立てて揺れだした!


*     *


そのとき、執筆する私は大きく揺れだした床に慌てふためいていた。

床が揺れている!

私はなにもすることができず、ただ椅子にしがみついていた。
めりめりとひび割れ、砕ける音がする!

すると部屋に置いてある一切の物、本や机、ワープロ、私と椅子が
突然引き裂かれた床に開いた真っ暗な穴の中に、大きな音を立てて落ちていった!


*     *


すると二階に置いてあった一切の物、本や机、ワープロ、私と椅子が
突然引き裂かれた天井に開いた眩しい穴から、大きな音を立てて落ちてきた!

重たい図鑑や広辞苑などに頭を打ちつけられ、私は意識を失いかけた。
失いかけた意識の中でワープロが彼女のかわいらしい寝顔に直撃し、
勢いよく血が吹き出しているのが見え、白目を剥き無数の本の中に埋まっていった!

私も雪崩のように降ってくる大量の本の中に生き埋めになり、
最後にちょっとだけ出ていた私の頭の上に、執筆していた私の頭が降ってきて、
運悪く、当たり所が悪かったらしく二人とも死んでしまった!


*     *


困ったことになったと、市役所の机の上で仕事をしている私は考えていた。

部屋を失い、生活する私と執筆する私が死んでしまったおかげで、
今度は二人の役割を一人で引き受けなくてはいけなくなった。

執筆は退屈な仕事の合間にパソコンで作業をしているように見せかけてやることにしよう。
問題は生活だ。
部屋がなくなってどうやって生活していこう……。

まぁ、残業と偽ってなるべく会社に残ることにしよう。
寝る場所は……寝る場所は誰にも見つからない場所がこの市役所のどこかにはあるだろう。
市役所の構造に興味を持つ者は一人もいないだろう。
どこかに必ず抜け道がある。
部屋を失い、残業をする真面目な部下に誰が文句が言えるだろう。

多少のことはみんな目をつぶってくれるだろう。
私はそういう結論に達した。



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