スパイ59





スパイ59(ゴキュウ)は、少々繊細すぎたのさ。

59は音楽が好きだった。自分でもピアノを弾いて、特にショパンに心酔していて、暇を見つけては演奏会に行くほどだったんだ。59は優れた耳を持っていた。でもそれが奴にとって命取りだったわけだ。

59はビルに侵入し、捕まってしまった。椅子の上に縛られて。身動きできないでいた。すると敵は奇妙な装置を運んできた。装置と呼ぶにはあまりに粗末なもので、夏休みの自由研究よりも出来が悪い。それは頭をぐるりと覆うようにできた、空のアルミ缶の束だった。59は目隠しされて、アルミ缶の束が耳に当たるようにして、頭に装着された。すると敵は──名前だけでもおぞましいので英語名で呼ばせてもらうが──無数のコックローチを持ってきて、空の缶の中に一匹ずつ入れていった。
アルミ缶の中に入れられたコックローチがどんな音を立てるか、想像できるだろうか? 硬質な殻に覆われ機械のように動く6本の足が、アルミ缶をカリカリ擦り合わせる。カリカリカリカリ、増幅されたコックローチの足音が、直接鼓膜に響き、脳をカリカリ引っかきまわす。やがてはコックローチが体中に増殖しているように感じる。体の中身がコックローチで一杯になり、内蔵を食い尽くされ、肉体はコックローチにのっとられる。寝ても醒めてもカリカリカリカリ。59は爆発するように、椅子の上で暴れ、最後には昆虫じみた悲鳴をあげて、くたばっちまった。

敵は拷問を楽しんでいた。拷問は人間の変態趣味を満たすために存在するようだ。59がノイズミュージックでも聴いていればと思うよ。そうすればちょっとは耐えられたのかもしれないぜ。金属的な、コックローチの足音に。



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