スパイ45
スパイ45(ヨンゴ)の荷物の重さっていったら、「潜入」より「登頂」が任務かと思っちまうほどだった。心配性で、あれもこれもって詰め込むんだ。
モナリザのレプリカが飾られた一室に侵入すると、45は腕に血管が浮き出るくらい力を込めて慎重にリュックを床に降ろし、その奥の奥まで手を突っ込んだ。取り出したのは赤外線スコープだ。しかしリュックの重さで筋肉が硬直してたせいで、力みすぎてスコープのフレームを折っちまった。45は眉をしかめたが、すぐに予備のスコープをリュックから取り出し、赤い光の糸を確認する。(なるほど、こいつはすげえ……)
防犯装置の厳重さが、ブツの重要さを物語ってた。
ブツはモナリザの下にある机の中だと調べはついていた。45はリュックを背負い直すと、勝利の女神にウインクしようとして、思わず吹き出しそうになって口をおさえた。なぜって、お上品なモナリザに、お上品な口髭がはえてたんだ。そう、それはダヴィンチじゃなくてデュシャンのモナリザだったってわけさ。物音を立てたらアウトだからな。45は危ねえ危ねえと冷や汗を拭いながら、赤外線の網をくぐり抜けて机に近づいていく。残り5メートルというところまで近づいたとき、45はふと思った。(いや、たしかにダヴィンチのモナリザだった!)
そんなこと、気にしなきゃよかったのさ。でも心配性の45はそれが気になって気になって、身動きできなくなった。まさか……と45は赤外線スコープをはずす。消えたのは、光の蜘蛛の巣と、思った通り、モナリザの口髭だった。もう一度スコープをかける。45の鼻先に光の線が通って、モナリザの顔にはやはり口髭が……。モナリザは優雅に微笑している。(野郎……何が狙いだ?)
45は再び難儀しながら荷物を降ろし、この窮地に対処できるアイテムを探した。(これじゃない……ちがう……何でこんなものまで!?) しかしマイボウルより重いリュックの中には、役立つものが何一つ入っていない。
数時間後、憔悴した45は鼻の下に付け髭を貼って光のネットに突撃した。
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