スパイ100





スパイ100(ヒャク)は、言っちゃ何だが取り立てて語るべきエピソードもない、月並みなスパイだったよ。プロボクサーが高校の頃に番長だったと聞いても誰も驚かないのと同じように、奴もスパイなら誰もが持っている当然の能力しか、持っていなかった。

最後の任務でしくじった100は、捕らえられ、絶対に自分の意志で嘘をつくことはできないという強力な自白剤を注射された。頭痛と吐き気が襲ってきて、目の前が真っ白になった頃、尋問は始まった。

「おまえの任務は何なのか?」
……潜入と……コードの書き換え。
「うむ。誰の命令を受けた?」
……おれは……フリーだ。
「ほう、依頼人は?」
……A社。
「あっさり吐いたな。ついでに訊いておこう。おまえの名は?」
……100。あとは偽名で、ボルザノ、ソーチャトロン、ヴィクトル……。
「100だってコードネームだろう。じゃあ国籍は?」
……ロシア、日本、モンゴル……イスラエル、UAE、アルゼンチン……。
「多すぎるな。いまどこに住んでいる?」
……ブリスベン……台北、デュースブルグ……サンフランシスコ……。
「いいだろう、じゃあ家族は?」
いない。
「友人は?」
いない。
「恋人は?」
いない。
「じゃあ、おまえの正体を知っている者はこの世に誰一人いないのか?」
……いない。
「なんてこった……おまえ、それで寂しくはないのか?」

スパイ100は、ほんとうにありきたりのスパイだった。最後の質問に何と答えたかは、同業者なら聞かなくてもわかるよな。



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