NAKED-DISTANCE
「見て見て、もっとわたしを見て!」
「見てるよ。いつもと変わらない」
「もっとちゃんと見て。もっとちゃんと」
「じゃあ、服を脱いで、こっちにおいでよ」
「ほらほら、どう?」
「やっぱりいつもと変わらない」
「ちゃんと、ちゃんと見て」
「毛穴が見える。鮫みたいだ」
「違うよ。目を見てよ」
「目? 近すぎて寄り目になっちゃうよ。あ、ぼくの顔が見える」
「だめだめ。ちゃんとわたしを見て!」
「覗き込んでる、ぼくが見える」
「だめだってば。わたしを、ちゃんと見てよ」
「水晶体が見える。網膜が見える」
「もっとちゃんと」
「銀歯が見える。虫歯が見える。さっき食べたバジルの葉がくっついている」
「もっともっと」
「呼吸を浴びて喉の奥に頭を突っ込む。気道が見える。消化液に溶けた食べ物の滓が見える」
「ちゃんとちゃんと」
「ピンク色の内蔵が見える。生温い風が通る。熱帯のように蒸し暑い」
「わたしをちゃんともっと」
「変な匂いだ。狭くて苦しくて息苦しい。もう動けない。と思ったら外に出た」
「もっとちゃんとわたしをちゃんともっと」
「ぐちゃぐちゃの肉の塊。ここに入るともう行き止まり。引き返すより他はない」
「見た見た? わたしをちゃんと見た?」
「見たよ。とりえず一通り。だから今夜はもう眠ろう。ピントを合わせるには距離が必要だ」
「じゃあおやすみなさい」
「おやすみなさい」
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