モーターを回せ!





ウルフはイサカM37ショットガンを片手に人混みの最後列に立っていた。
人混みはゆっくりと、半歩ずつほどしか前に進まない。蒸し暑く、ウルフの陽に焼けた皮膚からは止めどなく汗が噴き出している。ワイルドにカールしているはずの頭髪がしなびたアルファルファのように額に張り付いている。
(仕方ない、ハーレーに故障はつきものだ、それにしてもこの国の奴らはすげえ、この蒸し暑さと人混みに文句一つ言わず、じっと黙って改札を出る順番を待っていやがる……)
握りしめた切符が汗で柔らかくなってきた。肩や腹の素肌が露出していても、風が吹いていなければ暑さは同じだった。愛着あるレザーのベストやパンツも、いまのウルフには身体を締め付ける拘束衣のようにしか感じられない。時折ウルフの方を一瞥する者もいたが、ひと睨みされるとすぐに目をそらした。
ジリジリと進むうちに、渋滞の原因がわかった。自動改札機が全部故障しているのだ。乗客が切符や定期を入れると、吸い込んだ勢いでそのまま向こう側へ発射されてしまう。乗客たちは舌打ちしたり、「なんだよ」とか「あらあら」などと言ってはいるが、概ね従順に、飛ばされた定期を拾いに行く。そして皆が皆、定期を入れるときに一呼吸躊躇するから、人の流れが滞っているのだ。
(おれは切符だからそのまま放っておけばいい、ぜんぶ故障してるのが悪いんだ、おれは急いでるんだぜ……)
ウルフはそう自分に言い聞かせたが、地面に落ちた切符を放置して駅を出ることができるような性分ではなかった。
(なあに、それならそれで、出てくるタイミングを見計らってキャッチしてやればいいのさ、切符を入れてすぐに手を伸ばせば必ず取れる)
ウルフはネクストバッターズサークルに立つ打者のように、切符や定期が吸引されてから発射されるまでの間合いをつかもうとしている。しかし、
(ワン、ツ……は、はええ!)
吸引と発射のタイミングはほぼ同じで、とてもではないがキャッチなどできそうもなかった。そうこうしているうちに、ウルフの順番が来てしまった。そのとき、ウルフの顔からふっと迷いが消えた。嫌な汗も瞬時にひいた。ウルフは切符を入れる。

発射され宙を舞う切符に、ウルフのM37が火を噴いた。



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