メランコリア
私はクレトン更紗のカーテンに頭をもたせかけながら、窓の外を眺めている。私は疲れていた。
私はフランクの妻になるはずだった。フランクと一緒に海を越えて、ブエノスアイレスで新しい生活を始めるはずだった。長い間私を縛り付けていたこの街に、別れを告げるはずだった。でも私はいま、ここにいる。父と一緒に、兄弟姉妹と一緒に、フランクのいない、ダブリンに。
母が平凡な犠牲づめの生涯を終えてから、父は私への暴力を誘惑に変えた。私は「脱出しなければならない!」と心に誓って家を飛び出した。ノースウォールの駅でフランクと落ち合って、いざ旅立とうとしたその瞬間に、頬が青ざめ、身が竦んだ。私は鉄の柵を掴んで離さなかった。フランクは私の名前を呼びながら、柵の向こう側の人混みに流されていった。
神様がもう一度チャンスをくれるなら、私は二度と怯えたりしない。フランクと一緒に列車に乗って、船に乗って、この街には戻らない。でも、フランクは行ってしまった。私をこの街から連れ出してくれる人は、もういない。
窓の外には赤い煉瓦の家が見える。ベルファーストから来た人が原っぱを買い取って家を建てたばかりのときは目に鮮やかだったけど、もうすっかり馴染みの光景になってしまった。きっとこの家は向こう何年も私の窓の前に建ち続けるだろう。やがて私の心身に染み込んで、私を縛り付けるだろう。もし取り壊されたら、私の心にぽっかり穴があいてしまうに違いない。
自分の家! 私は部屋の中を見渡す。フランクと旅立つことを決めた日から、私はこうして何年も窓の外を、そして部屋の中を眺め続けている。隅々まできれいに掃除しても、翌週には埃だらけになっているこの部屋。壊れた足踏みオルガン。壁に掛けられた、聖女マーガレット・メアリーの彩色版画。黄ばんだ写真の中にいる、名前のわからない司祭……。何も変わらない。何もかもが、かけがえなく愛おしい。何もかもが、吐き気がするほど忌まわしい。
私は壊れたオルガンを抱きしめる。壁掛け版画を抱きしめる。黄ばんだ写真を抱きしめる。赤い煉瓦の家を抱きしめる。自分の家を、抱きしめる。
私は壊れたオルガンに殺される。壁掛け版画に殺される。黄ばんだ写真に殺される。赤い煉瓦の家に殺される。自分の家に、殺される。
火葬された私は塵埃となって、この家のあちこちに、永遠に住まい続けるだろう。
階下で父が私を呼んでいる。父も老いた。声が私に甘えている。かわいそうな父。
私は憂鬱な部屋で父を抱きしめて、吐き気の眩暈の中に溶けていく。
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