機械人間キカイジャーの不安
正義のヒーロー、機械人間キカイジャーは黄昏の中にいた。黄昏といっても日はとっくに落ちている。黄昏は地面の上に広がっている。まるで夕日が落下したように、悪の秘密結社スリラー軍団の戦闘員たちが地面に転がって燃えていた。ぼうと赤い炎が夜の闇を夕焼け色に染めていた。天がひっくり返ったようだった。
普段は喫茶店のマスターをしている博士の最終兵器『エメラルドバスター』の威力は格別だった。核兵器並の威力でスリラー軍団の壊滅に成功した。めでたく最終回を迎えるはずだったのだが、キカイジャーの気持ちは晴れやかではなかった。なにしろ目標を失ってしまった。
正義のため、平和のために毎週戦ってきたが、今思えばキカイジャーの気持ちを本当にわかっていたのは、博士でも恋人のケイコでもなく、同じように機械人間に改造されたスリラー軍団ではなかったか。変身したときのキカイジャーの力は100馬力に相当するが、その力を充分発揮できたのはスリラー軍団と戦っていたときに他ならない。スリラー軍団が壊滅した今となっては、無用どころか核廃棄物並に危険で物騒な力だった。スリラー軍団がいたからこそ子供たちは応援してくれた。しかし、今となってはもう誰も歓迎してくれないだろう。
スリラー軍団は毎週恐ろしくも愉快な刺客を送り込んできた。時間が来ると必殺技『キカイジャー・ビーム』を浴びて派手に爆発し、死んでいった。全エネルギーを込めたビームを発射するのは快感だった。自分を追い込み、能力の限界を極めてパワーアップしていくことはたしかに辛かったが、今となってはいい思い出だ。あんなに物事に真剣に取り組んだことは一度もなかった。なにせ世界平和がかかっていた。そのあまりにも大きな、立派な目標を失った今、自分になにが残されているだろう。
やがて地面の炎は燃え尽き、鉄の燃えた匂い、油の匂いを残して闇の中に消えるだろう。機械人間キカイジャーは消えゆく最後の炎を見つめながら深い溜息をついた。季節はもう秋であった。
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