エンドマークは楽しい夜の始まり





テーブル越しに見つめ合う紳士と淑女。淑女が沈黙を破る。
「もう帰らなきゃ」
「外は寒いよ」
「フフ。ほんとうに、行かなきゃならないの」
紳士は左右の腕を組んで肘を抱える。
「凍えちゃうよ」
淑女は帽子に手をかけた。
「今日は楽しかった」
紳士は淑女を見つめたまま。
「窓を見なよ、吹雪だ」
「やだ、冗談ばっかり。すっかり遅くなっちゃった」
「手を握っていいかな」
「電話お借りしていいかしら」
「ひどい仕打ちだ」
「母が心配するの。父は私が帰るまで起きてる」
「きれいだよ」
指先をテーブルで踊らせる淑女。
「ありがとう。でも、もういられないの」
「外は寒いよ」
「姉が心配するの。兄も心配するの」
「凍っちゃうよ」
「ここは……あったかいわね」
帽子を被って立ち往生する淑女。
「音楽でもかけようか?」
「気がきくのね。でも、ノー。明日にしましょう」
「ぼくのプライドはどうなるの?」
肩をすくめる淑女の頬は緩んでいる。
「もう……どうしたらいいのかしら」
窓を親指で差す紳士。
「外は……」
淑女は帽子を脱いで椅子に腰掛け、頬杖をついた。



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