DISTANCE3
中学生のころだったっけ。あのとき、わたしは必死の道化を演じていたのだった。そう、あのときは中学生だった。夏の終わり、日が落ちるのが早かった。まだ蝉が鳴いていたのかもしれない。姿の見えない蝉が。教室は暗かったが、電気をつけずに話し合っていた。文化祭の季節だったと思う。夕焼け、教室の影。電気をつけることは、沈みかけた夕日に対する冒涜だということをみんなが知っていた。美しい時間だった。わたしは自分専用の鏡を持っていた。全身が映る大きな鏡。顔つきやポーズを念入りにチェックしては、彼女を笑わせようと必死だった。
初恋というものは特別なものであるらしい。
わたしは布団の上に横たわっていた。真っ暗な天井を見上げていた。天井には一枚の鏡が浮かんでいた。とても小さな、遠い鏡。わたしはほとんど見えなくなった目を細めた。すると鏡の中には、あのとき、けっして見えなかった彼女の姿が映し出されていた。彼女は鏡の右端の方に、体が半分見切れて座っていた。彼女は机に肘をついて、微笑んでいた。ややうつむいた顔、両目は視点の定まらない半眼、静かな微笑。
床は消え、老体は暗い底へと下降していく。天井の鏡はどんどん遠くなっていくが、鏡に映し出される彼女は、ますます鮮やかになっていく。どうしてあのとき気づかなかったのだろう。わたしが今わかることは、どんどんと遠くなっていくあの鏡が、彼女とわたしのちょうど中間地点にあるだろうということだけだ。ひょっとしたら彼女は、わたしの傍らにいるのかもしれない。部屋の壁を隔てた、すぐ側にいるのかもしれない。しかしそれを知ることはできない。鏡を見て想像するばかり。
やがて夕日は地平線に沈むだろう。教室は暗くなって、あのとき、中学生だったわたしたちは燃え尽きた写真のように、溶けて黒く変色するだろう。顔は笑ったまま。点となって遥か遠くに浮かぶ鏡は、もはや星のようにしか見えないだろう。声だけが残される。あのときの笑い声が、遠く──。
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