DISTANCE
打ち合わせの時間までは時間があったので、しかたなく青山のオープンカフェでカプチーノなんぞを飲んでいる。ビールの泡ならわかるが、カプチーノの泡はよくわからない30男、妻子持ち。先月から髭を生やしてみたが、これが失敗。狙ったアートな雰囲気はまったく現れず、娘さえもペテン師扱い。そんな年頃なんだろうと開き直ってみたが、「もうあの子は大人ですよ」と妻に呆れ顔で言われる始末。
オープンなカフェでカプチーノ。あまりの違和感に楽しくなってしまう。煙草に火をつけて、雑誌をパラパラ眺める。すると隣の席に座っていた、派手な洋服のおばさんが、おっさんみたいな咳をする。痰が絡むお歳なのね、と横を振り向くと、どうやら原因は煙草にあるらしく、嫌悪と軽蔑のごった煮みたいな顔をして睨んでくる。あららごめんなさいなんて自分に非があるのかと、周りを見渡して確認したが、ここは天下の青空の下、小粋でこ洒落たオープンカフェ、禁煙席は奥の方ですよと安心して、一服胸の奥まで吸い込んでやった。しかしごった煮が煮崩れを起こしてしまいそうだったので、ここは髭を生やした紳士のぼくが引き下がりましょうと煙草を消してやった。ああ、これが大人の振る舞い。隣のおばさんも根はいいレディなのか、すごすごと引き下がったのがよほどお気に召したか、すごい笑顔をプレゼントしてくれて、目の前のケーキ、ナポレオンに挑みかかっていた。
煙草の煙が広がる範囲がおおよそのテリトリーだ。煙が届く範囲に足を踏み込んだら注意しなよ。お嬢さん、この香水の匂いはなんとかなりませんかね。それから信号機みたいなお洋服も。アグレッシヴに領域を侵犯してるのですよ。いやホンマに。かなわんなぁ。ぶつぶつ言って紳士な大人からおっさんにメタモルフォーゼ。カプチーノなんてガキの飲みもんや、ビール、ビールをくれや……なんて、髭と同じペテンな関西弁を使ってみて、とにもかくにも、やっとなんとか領域回復。
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