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本来ならば、ここの項目は「プログレッシヴ・ハウス」という名前にすべきなのかもしれない。しかし、UKをはじめとしたメディアがもはや「Progressive」という表記だけをすることが珍しくなくなってしまったことからも分かるように、もはや「ハウス」という尻尾の部分にはさほどこだわる必要はないのではないか。なぜなら21世紀になり、プログレッシヴDJといっても、トランス寄りのものをかけるDJもいれば、ファンキーなハウスに回帰しているDJもいれば、ハウスの基本的な手法である「4つ打ち」から脱却したものをかけるDJもいる。いや、そもそもこれらを区別なくかけるDJもおり、非常に広いものになってきたからである。そういう事情を鑑みて、ここでは「プログレッシヴ」という名前で項目を設置するに至った。
では、何がプログレッシヴなのか。このことを考えるに際し、Dave Seamanの発言が参考になる。彼はプログレッシヴを「ダンスフロアで機能するフォーミュラをキープしつつも、何か新しいことをやろうとしている音楽やスピリッツのこと」と捉え、「プログレッシヴにルールはなく」、「それぞれプログレッシヴに対して持っているアイディアやイメージは違う」ので出来上がるサウンドはそれぞれ異なるが、どれもがプログレッシヴであると言う。だから、「そういう意味でプログレッシヴはジャンルというよりはシーンだ」と述べている(『Loud』, April 2001)。
もちろんこれは少なくともDave Seamanという一人の人物の考えの一端に過ぎないのかもしれないが、ある時は雑誌の編集長として、ある時はDJとして、シーンに深く関わってきた彼の言葉には、決して小さくはない意味があろう。ちなみにもし彼のGlobal Underground 022 Melbourneをまだ聴いてない方がいたら、ぜひ聴いていただきたい。もはやカテゴライズするのが愚かしいと思えるほどに様々なスタイルの音楽が集まってひとつの流れを形成しており、そこではまさしく上の彼の言葉の正しさが証明されている。
「プログレッシヴ」という言葉は今までにもロックやジャズなどにも用いられ、ジャンルとしても認知されていた。どちらにも共通するのは、Dave Seamanの言葉を借りるならば、「何か新しいことをやろうとしているスピリッツ」であり、特に「プログレッシヴ・ロック」は現代の一般社会で「プログレ」と言えば「プログレッシヴ・ロック」を指すほど世界的に知られていった。つまり、ジャズの要素を取り入れたり、電子音楽の要素を取り入れたり、サイケデリックな要素を取り入れたりなど、幅広かったのである。そして、Kraftwerkも当時はこの「プログレッシヴ・ロック」の枠内で認知されていた。
ちなみに、「プログレッシヴ」という冠がついて来た音楽、つまり、ロック、ジャズ、ハウス、トランスなど。これらは全てメジャーシーンにおいても受け入れられやすい音楽、すなわち、お決まりの手法・要素が多くある音楽であり、そういう意味では、「プログレッシヴ」なものは、オルタナティヴ的な、ある種そういった保守的な、コマーシャリズム的なもので溢れつつあるシーンへの反動的な意思の表れとも考えられる(逆に言えば、元からメジャーシーンでは受け入れられないような音楽、あるいはシーン全体がそもそも革新性が非常に高い音楽へは、「プログレッシヴ」という形容はあまり必要ない)。例えば、2000年のプログレッシヴ・サウンドの盛り上がりは、1999年のエピック/ユーロ・トランスの再ブームへの反発の影響も大きく、トランス→プログレッシヴという人気の流れは、リスナーだけでなく、DJの間においても見られたことである。
閑話休題。クラブシーンにおける「プログレッシヴ」において重要なのは、Dave Seamanの言うとおり、「ダンスフロアで機能するフォーミュラ」である。つまり、既存のフォーマットから脱却し新たな次元での表現を試みようという精神を持ちつつも、ダンサブルであることが求められているのである。現在はダビーなもの、パーカッシヴなもの、ファンキーなものなどが主流であるが、別にこれらがプログレッシヴの「ルール」ではないし、逆に言えば、これらを「ルール」と捉えてしまうことは、シーンの保守化・固定化につながりかねない。同じ場所に留まり、同じ音を出し続けるのではなく、柔軟なマインドで音楽に接するのが、本来の「プログレッシヴ」というシーンなのではないだろうか。
また、プログレッシヴ系のDJのプレイやミックスCDを聴いてみれば分かることであるが、プログレッシヴのシーンは他のスタイルと様々な影響を及ぼしあっている。以下ではそのうちのいくつかを見ていこう。
もともとこのシーンが、ハウスにおけるプログレスがスタート地点だったことからも分かるように、リズムやベース、BPMやヴォーカル、セクシャルな雰囲気の部分など、依然として現在も色々な面においてハウスの要素が取り入られている曲が多いのは事実である。アメリカで誕生したハウスのUK的解釈、もっと言えば白人的解釈がプログレッシヴ・ハウスであり(ダブの生誕地ジャマイカ系の移民が多かった国であったことももちろん関係があろう)、それがアメリカで逆輸入のような形で広まり、ハード・ハウスやガラージ・ハウスと同じように盛り上がったことは興味深い。
プログレッシヴのDJの中にはもはやまんまハウスというものをかけるDJもおり、ハウスから脱却しようとするDJも入れば、ハウスに回帰しようとするDJもいるのである。繰り返しになってしまうが、プログレッシヴにルールは無い。
90年代前半にUKで生まれたプログレッシヴ・ハウスであるが、当時のプログレッシヴ・ハウスの名門レーベルであったGuerillaを運営してきたWilliam Orbitはとあるインタビューの中で、以下のような発言をしている。
「...(プログレッシヴハウスを)最近は『トランス』と呼ぶらしいけど、...」
プログレッシヴ・ハウスに早くから関わってきた彼の認識から分かるように、元々プログレッシヴ・ハウスとトランスは強いつながりを持っていた。90年代初頭に誕生したトランス(主にドイツ、ベルギー)は「プログレッシヴ・ハウス」として紹介されたこともあったし、実際音像も明確に区別できないことも多々あった。それはつまり、プログレッシヴ・ハウスの「Progress(=「進化」「前進」)」の仕方が多様であったとも言えるであろう(実際レーベルでもありパーティー名でもありアーティスト名でもあるBedrockの中心人物John Digweedは、トランスが再び脚光を浴び始めた99年頃はまだ一部では「トランスDJ」として紹介されていた)。
しかし、彼が「プログレッシヴDJ」として認知されるようになったのと時をほぼ同じくして、プログレッシヴハウス自体もまた、トランスとは異なる道を歩き始めた。すなわちよりパーカッシヴに、よりグルーヴィーに、よりダビーになり、さらによりハウシーなものが主流となっていき、分かりやすさや派手さよりも、クラブミュージックの根幹を成すリズムとベースのノリが重要な要素となっていったのである。
ところで、テクノ解説のところでも述べたように、エピック/ユーロ・トランスが人気を得たのは、ポップス同様、確固としたフォーマットが出来ているからである。本来革新的であるクラブミュージックの多くは、門外漢には楽しめるポイントが分からないことがある。しかしエピック/ユーロ・トランスの多くはフォーマットがあるため、言ってみれば「分かりやすい」のである。そのフォーマットは今更ながら説明はあまり必要ないと思うが、主なものとしては「はっきりとした展開」「分かりやすいブレイクとドラムロール」「キャッチーなメロディと音色」あたりであろう。
さて、そこにプログレッシヴなマインドが入るとどうなるか。当然ながら上で挙げたような要素の価値は失われ、むしろそうしたものから脱却をしようという意思が働く。要するに、比較的ミニマルな展開であったり、リズムやブレイクの仕方を工夫したり、分かりやすいメロディが無かったり、少しエグい音色・音処理を用いたりするのである。もちろんこれらも当然「ルール」ではなく、プログレッシヴの仕方はアーティストによって様々である。しかし、ひとつ注目したいのは、トップ・クラスのトランスDJの一人であろうTiestoが、既存のフォーマットから脱却をしようとしている点であろう。
一部ではこうしたサウンドを「プログレシヴ・トランス」と呼ぶこともある。
多くのプログレッシヴ・サウンドの特徴であるダビーな部分などは一部のゴア/サイケデリック・トランスとも共鳴する部分があり、保守的でない、プログレッシヴなトランス勢のサウンドがプログレッシヴ系のDJによって支持されたり、作風もプログレッシヴ寄りになることは珍しくない。違う畑の者同士がコラボレートしたり、同じミックスCDに入ったりと、かなりの接近が見られるのは、とても興味深い部分である。
プログレッシヴ・サウンドはその性格上、基本的には常に新しさを追い求めていくものである(それはこのジャンルに限ったことではないけれど)。そんな中、先述したように、ハウスの最も根幹的な制約は4つ打ちであろうが、もはやこの制約からさえも脱却しているものもある。つまりブレイクスを使ったサウンドがDJ達に支持されたのである。そうしたサウンドはニュースクールブレイクスと重なる部分もあり、プロレッシヴDJの多くがブレイクスを取り入れているという事態はなんら不可思議なことではない。これはプログレッシヴな精神から見れば当然ではあることではあるが、Global UndergroundにJames Lavelleが2度起用され、どちらもブレイクスが中心だったことが象徴しているように、この流れが今後どうなっていくのかは、注目である。
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