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テクノの項でも述べたように、いわゆる一般層で「テクノ」という言葉が用いられる場合、トランス、ハウス、ドラムンベース等をも含めた「広義としてのテクノ」という意味を持つことが多い。よってその中味まではともかく、「テクノ」という言葉自体の知名度は、他のクラブ系のジャンルに比べて遥かに高い。だが、それに比べると「ハウス」という言葉の知名度自体は非常に低い。
しかし普段の生活においてハウスという音楽に触れる機会は意外に多い。テレビやラジオからハウスが聴こえてくることは珍しくないし、ポップスをダンス向けにリミックスした場合、そのほとんどはハウスに仕上がっている。そういう意味で、ハウスは名前こそ認知度は高くないものの、音楽自体の一般層への浸透度ではテクノやドラムンベースなどの他のジャンルよりもなじみが深いのである(ただし、決してテレビなどでは流されないようなハウスもあるのであるが、それについては後述)。
ハウスはテクノと共に、アメリカ発祥の音楽であり、もともと白人の音楽ではなかった。例によって歴史に関してはここでは詳しくは触れないが、ヨーロッパにハウスが伝わり、そこで「白人産のハウス」が興ったのである。よってハウスにはそういう意味で、二つの流れがある。もちろんクロスオーヴァーしているものも当然存在するので、はっきりと区別する必要は無いだろう。しかし社会的、文化的条件が聴き手だけでなく作り手へも影響を与えていることは言うまでもなく明らかである。
ここではハウスそれ単体を見ていくよりも、歴史的にもつながりが深いテクノとの音楽的な違いを浮かび上がらせながら、ハウスを見ていきたい。
クラブミュージックに興味を持ち始めると、多くの人が疑問に持つのが、「ハウスとテクノの違いって何だろ?」というものである。掲示板でもこの問いはいつまで経っても絶えることがない。メディアも積極的にはこの問いに対する回答を出そうとはしない(「そんなジャンルわけなんかどうだっていいよ」「音楽そのものを楽しもう」という回答はよく見かけるのであるが)。このふたつの違いは、説明が困難なのである。その原因は、この問いにおける「テクノ」がどういったものを指しているのか分かりにくいところにある。
テクノ全てに共通しているのは「フリーマインド」である。リズムは何だって良いし(無くてもよい)、どんな音色を使おうがどんな展開になろうがどんなブレイクだろうが、なんだって許される。音楽的な教養を高く受けた者たちの一部の目からすれば、コード進行やハーモニーを無視している(というか、作り手が知らないだけというケースも…)ことが多いテクノは、自分たちの愛する音楽とは全く違うものと映るかもしれず、ひょっとしたら音楽とさえ認めたくもないかもしれない。音楽的知識に必ずしも詳しいとは言えなかった若き日のケンイシイがデジタルシンセサイザー一台のみでエクスペリメンタルなテクノを創造し、そしてそれが海外のレーベルからデビューリリースされたという事実は、テクノの「フリーマインド」によったところが大きい。
しかしフリーマインドであるということは裏を返せば「何でもアリ」なのであり、「テクノ」という音楽が含むスタイルは、もはや「ポップス」という言葉と同じくらい多様化し、曖昧なものとなっている。ミニマルや初期のトランスのようにクラブ(現場)に直結したものもあれば、音響系やアンビエントなど、「踊らせない」ものまで非常に幅が広いのである。
よって「テクノとハウスの違いは?」と問われると、「テクノって言ってもいろんなスタイルがあるし…」となってしまうのだ。
ここからようやくハウスの話になるのだが、ハウスも当然革新的な性質はある程度持っている。しかしハウスには(とひとくくりに語るのは危険かもしれないが)、「お決まりごと」、というか慣用句的なもの(もっと言えば制約)が確実に存在しており、その点でテクノとは異なる部分と言えよう。 テクノの項でも述べたように、(狭義としての)テクノは躍らせることを主眼としたもの、もっと言えばダンスミュージック、さらに言えばパーティーミュージックである必要はない。常に実験精神が求められ、だからこそリズムにおいても何ら制約はない。しかし、ハウスは根本的な性質からパーティーミュージックであり、どの人も等しく楽しめるものでなければならない。もっと言えば、ある程度の普遍性が求められるのである。
この「どの人も等しく楽しめる」という部分が重要であり、ハウスの制約はこの考えから来ているといってもよい。例えばリズムに注目してみよう。ハウスのリズムは一小節に四分音符で四つキックが入る、いわゆる「四つ打ち」が基本である(さらに裏打ちハイハット、二拍目と四拍目のクラップなどもあるのだが、なによりも大事なのはこの「四つ打ち」である)。この四つ打ちという心臓の鼓動音にも似たリズムはおそらく人類上最も原始的であり、最もなじみやすく、体に直接作用するものであろう。よって聴く方、踊る方にとっては容易に体を動かすことができるリズムパターンであり、聴かせる、躍らせるDJ側にとっても決まったパターンで鳴るこのリズムは「つなぎやすい」という意味で大切であった。
次にリズム以外の部分に注目してみよう。ハウスは他のジャンルに比べ、非常にヴォーカルものが多いのである。これはハウスがより「楽曲的」であるためである。「楽曲的」というのはハーモニー、キー、コード進行、展開などの部分のことを言っているのであるが、クラブミュージックは音楽的知識は無くとも曲はある程度作れる。むしろ「知っていると逆にそれが自由な創造性の発揮の邪魔になる」という考えさえ一部にはあるくらいである。しかしハウスではこうした制約(と言っていいのかどうか分からないが)のもとに作られたものが多く、言ってしまえば「まとも」な曲が多いのである。「まとも」だからこそヴォーカルが乗せやすいのであるし、テレビやラジオからもよく流れるのだし、ダンスリミックスといえばほとんどがハウスなのだ(最近はユーロトランス系のアーティストも多いが)。楽曲性の強くないハウスでも、官能的なボイスサンプルを入れたり、非常に有名な曲と曲同士を重ね合わせて、それを「新曲」としてリリースしてしまったり、全てはパーティーミュージックという「楽しませよう」とする性質が基本となっている。
「テクノは男性的な雰囲気、ハウスは女性的な雰囲気」という言葉がある。この言葉は色々な意味で非常に的を射ていると個人的には思っている(ジェンダー的な面での問題はあるであろうが)。この言葉はテクノとハウスの違いに対するひとつの答えになるかもしれない。
ところで、白人がハウスを一歩推し進めて、そしてよりフロア寄りに作られたものにハードハウスや、プログレッシヴハウスなどがある。
細かい部分は「ジャンル内ジャンル解説」を参照してもらいたい。
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