災難の町:Accident Town

災難の都

by alexander_k_9


 前口上

当代の後兎壷帝の御悩み、神無月になりては、いと重くおわします。



≪ああ・・・まって。
宮中随一の才女の誉れ高い的少納言涼鹿(まとしょうなごんすずか)のわたしでも、こんな書き方ではいくら時間があっても物語が終えられない。
めんどうだから、口語でやってしまおう。
ということで、あの誰もが忘れてしまいたい『災難の都』のドタバタをこっそり後の世に残しておこうと思うのよ≫






巻1 兎月(とげつ)

ここんとこ何代か、兎の名前の帝が続いていたんだけど、今の後兎壷帝(ごうつぼてい)が10月に危篤になられた。
まあ、結構長生きした爺さんだから、もうそろそろくたばっ・・・あわわ・・・人心一新していいんじゃない?
跡継ぎの東宮は葦の宮(よしのみや)に決まっておいでだったし、皇太子というには薹がたってる年齢だから、もう待ちくたびれておいでだったことでしょ。

御所では快癒の加持祈祷が盛んに行われていて、帝の御子であるあの比太弁理(ぴたべり)の大納言も詰めておいでとか・・・
あの方も中納言でいらしたころは、光源氏の再来かといわれ<ぴたちゅうの君>と内裏の女房たちが騒いでいたんだけど・・今じゃもう・・・お年には勝てないわね。

そもそも葦の宮は先帝の野兎法皇(のうさぎのほうおう)の第一皇子。今上帝(後兎壷帝)の第二皇子の比太弁理の君と壮絶な東宮争いがあって、敗れた比太弁理の君は泣く泣く臣籍の源氏に下られたんだっけ。
本来なら、後兎壷帝の第一皇子(比太弁理の兄)が東宮の位につかれていたんだけど、この方は10年前に神隠しにあわれて消息不明、弁邪院(べんじゃいん)と号されて葬儀まで出されたみたい。



11月に入って、後兎壷帝がやっとお隠れになり、信厚かった比叡山天台密教の家鴨阿闍梨(あひるあじゃり)の口からご遺言が発表されたんだけど、それがまあ『次代の東宮は弁邪院の皇子とすること』

弁邪院の皇子となれば、神隠しにあわれる前の東宮時代に後宮に上がられた、赤茄子の更衣(とまとのこうい=現在は髪を下ろされて赤茄子の宮)がもうけられた阿礼狗の宮(あれくのみや)。まだ御年10歳の末恐ろしいガキ・・・いえ、皇子さま。
いえね、神童とかいうんじゃなくて、女好きというか、口だけ達者というか・・・まあ、○○生意気なちびと申し上げるしかないような皇子さまなんだけど。
赤茄子の更衣も、諸々の風評のある御方。弁邪院のお父上である後兎壷帝ともなにやら訳ありとの噂が・・・阿礼狗の宮も帝の御子ではないかと秘かに囁かれていたのも、ご遺言を知ると、なにやら真実だったような。



巻2 奇麟(きりん)


入棺の日時やの御稜墓の相談に中務省(なかつかさしょう)の中の陰陽寮から派遣されてきたのが、阿倍晴明の弟子の弟子と称する陰陽師黒惑(おんみょうじくろのまどい)。相変わらず激しく格好付けて参内してきた。

「遺言など、残された者が守るかどうか、どうとでもできるもんだ」と、相変わらずの言いたい放題で、家鴨阿闍梨とは犬猿の仲――密教僧侶と陰陽師では商売敵みたいなものだしね。


帝のご遺体の傍らには泣き伏した美女が一人。それを見た黒惑(くろのまどい)の顔色が変わった。
悔しいけど、麒麟の前(きりんのまえ)は男なら誰でもクラクラくる美女。端女として御所に仕えたんだけど、いつの間にか後兎壷帝のお手がつき、御身の回りを世話する女房にランクUP、ついには片時もお側を離さなかったというぐらいのご寵愛。
でも、御簾の陰で体から光を放ったとか、麒麟の前には怪しげな噂が付きまとっていた。帝がご病気になられたのは、この女へのご寵愛が過ぎたとせいだと噂する内裏の者も多かったんだから。

「む・む・・・あの女は・・・奇麟の化生だ」黒惑が呟きながら唸った。
「まあ、麒麟なら唐の国では慈悲の神獣とか。とてもあのお方には似合わしくないんじゃないの」と、私は教養のあるところをちらつかせるチャンスは逃さない。
「麒麟とは異なる。奇なる麟(麒麟の雌)は、三千年の齢を旧ると九本の首が生え、人に化け、惑わすという」
それなら、ありうるわね。



葦の宮はその日のうちに践祚(せんそ:皇位継承)され、陰陽師黒惑が日の吉凶や御陵墓造営の方角の是非など、諸々の占を問うて、十日間の殯(もがり)の後に埋葬、13日目に即位と定まった。


葦の宮はやっと譲位の番が来て浮かれてしまい、ご遺言の東宮問題のことなんかどうでもいいから[うん、うん、OK]
陰陽師黒惑の「ご遺言に従うは凶とでております」という進言も聞く耳持たぬご様子とか。
おまけに、ご執心でいらした姫君から色よいご返事は届くしで、天にも昇るお心もちで、神妙な殯の日々もついお顔が緩みがち。





巻3 八咫烏(ヤタガラス)


次の東宮は阿礼狗の宮と誰もが思っていた時に、右大臣の王藍(おうのあい)が、なんと新たな弁邪院の皇子を探し出して東宮への擁立を申し立てられた。
弁邪院が東宮時代にご寵愛になられた白拍子薔薇芽(しらびょうしばらめ)のもうけた滋味院(じみいん)。本来ならば弁邪院の一の皇子であられるんだけど、母親の身分が低いので、幼少の頃に出家を強いられたお気の毒な境遇。薔薇女も赤茄子の更衣(とまとのこうい)の嫉妬で随分いじめられ、10年前から行方知れずだったはず。

「薔薇女(ばらめ)は、盗賊骨垂兜(とうぞくほねたれのかぶと)の手下、玻璃金剛石(はりのこんごうせき)の妻になっておるはずだ」陰陽師黒惑(おんみょうじくろのまどい)は、相変わらず訳知り顔に言う。

この陰陽師は、烏(からす)が化生した母親から生まれたと秘かに囁かれている。正体のばれた母親が別れ際に、[恋しくば尋ねきて見よ安州なる鯨の海のぬばたま烏]という歌を残したとか。
そういう噂がまんざら嘘でないような、見るからに黒尽くめの怪しい姿なのよね。
でも、私とは妙に気が合うところがあって、あれこれ情報交換する仲。
「的少納言は内裏のことは隅から隅まで何一つ見逃さないから、内裏の醜聞を仕入れるにはまことに重宝」とうそぶくところは憎らしいけど。

[滋味院は、母親の薔薇女がそんな立場では、東宮にお立ちになれるのかしら]
[右大臣王藍が肩入れしているから、葦の宮の女皇子梨世(りよ)を迎える算段であろう]
[でも、梨世姫は比太弁理の大納言が阿礼狗の宮に娶わせるおつもりよ]
比太弁理の君はいつの間にか赤茄子の宮と懇ろになって、阿礼狗の宮の後ろ盾に収まっておいでなのよね。
これで、葦の宮に皇子でもお生まれになったら、東宮問題はもっとややこしくなるのでは・・・う・ふ・ふ・・・退屈しのぎ。


なんてのんきに構えていた私まで巻き込まれるあの驚天動地の騒動の幕が切って落とされたのは、後兎壷帝の崩御から12日目の夜だった。



巻4 葦切


元来、葦の宮(よしのみや)は花鳥風月を愛でられる風流を解する御君。帝になりたいなどという野望はお持ちでなく、出家でもしてのんびりしたお暮らしを望んでおられたはず。
なのに東宮にお立ちになったのは、亡き北の方のご実家――鯨の左大臣(くじらのさだいじん)が強くお引き立てになったせいに違いない。

鯨の左大臣は、齢を重ねて妖怪じみたよぼよぼの爺さんで、近頃は成り上がりの右大臣王藍に押され気味だったんだけど、葦の宮が帝にお決まりになって、我が世の春到来とばかり張り切ったみたい。でも、葦の宮にはまだ皇子がおいでにならないので、亡き北の方の妹――末の姫君を入内させようとやいやい言っておいでだった。肝心の葦の宮は別の姫君にご執心で、正妃にはその方を迎えたいと珍しく鯨の左大臣に逆らっておいでになった。

どうせ、喪中はこの後一年続き、その間は祭祀・朝賀等の諸儀礼は停止されるんだから、葦の宮が正妃をお迎えになるのもしばらく先のことになられるでしょうね。
先の北の方は既に何年も前に亡くなられて、葦の宮との間には女皇子梨世(ひめみこりよ)がお一人残されておいでなだけ。

葦の宮がご執心しきりなのは、娘ほどのお年の、亡き兵部卿の宮(野兎の法皇の弟)の女一宮李沙(おんないちのみやりさ)。淑やかな美貌は御所の公卿の間でも評判のお方だった。あの比太弁理の大納言も一途な文を送り続けて、一度も色よいお返事をいただけず、がっくりなさっておいでだったけど。
李沙姫も、帝が崩御された途端に葦の宮のかねてのお申し出を承諾されたんだから、結構計算高いご性格とみてもいいかも。。
零落されているはずなのに、美貌を頼みの玉の輿ねら・・・いえ、葦の宮が帝になられれば、中宮・皇后ともなられる身分のお方ですものね。自分の父親ぐらいの年の従兄に嫁ぐぐらいの図々しさはお手のものでしょうね。


帝になられる葦の宮の後宮を狙うのは、なにも女一宮李沙や鯨左大臣の末姫だけでなく、樫の宮御息所(かしのみやのみやすどころ)も娘の元斎宮伽祇(いつきのみやきゃし)を入内させようと画策されておいでとか。

樫の宮の御息所は、先代の野兎の法皇の未亡人。昔は鳴らした美女でいらしたようで、比太弁理の君と人の口の端に上るほどの熱愛。ついには生霊となって、比太弁理の君の奥方に取り憑いて殺してしまったとか・・・それ以来、好きなときに生霊になって徘徊できる特技を身につけられたともっぱらの噂なんだけど、信じて良いものかしら。

そして、お篭りになっている葦の宮の身の回りのお世話をしているのは、いつの間にやら麒麟の前。傍目もはばからずべたべたと寄り添って、それをまた宮も嫌がるご様子もなく、むしろ嬉しげになさってるのはなんだかね〜〜男って、身分の上下にかかわらず、考えてることは同じなんだよね〜〜とか、感慨に耽ってしまう理知的なわたくし。




巻5 狼藉


近頃、骨垂兜(ほねたれのかぶと)と名乗る盗賊が一味を率いて都を騒がせてた。
裕福な貴族の館を襲い、金品を奪うが人は殺さないというので、都人の間では人気があるとか。
もちろん検非違使は血眼になって、捕らえようとしていた。

検非違使の長官の出洲別当(いですのべっとう)は、別名<狼の別当>と称される腕利きではいらしたんだけど、どうしても盗賊骨垂兜の正体をつかめないと責められる辛いお立場。

ところが、とうとう一味の一人を捕らえて、意気揚々と参内されてきた。それが玻璃金剛石(はりのこんごうせき)と知って、私は興味津々。だって、右大臣が擁立なさっている滋味院の母親薔薇女の現在の夫だと知っているのは誰と誰なのかしら。
狼の別当は任務一筋の融通の利かないお方。おそらく右大臣の内々の脅しにも屈さないで、取調べを続行されるおつもりでしょう。

玻璃金剛石も流石に妻の名は口を割らずにいる様子だったけど、骨垂兜が貴族の生まれと白状してしまったらしい。どうせ下級の出に違いないとは思えるけど、いったいどこの一族に連なる者なのだろう。
情報通の黒惑もさすがにそこまでは知りえないのよね。

でも、崩御12日目では、宮中は帝の代替わりで盗賊どころでなく、狼の別当はいつまでたってもお召しがないので、腹を立てて帰ってしまわれた。



巻6 「ぴちゅう」―ぴかちゅう―ぴたちゅう


六条院(比太弁理大納言(ぴたべりのだいなごん)の屋敷


歩侘尼(ぽたに)「まあ、ぼっちゃま。何を泣いておいでなんです」

比太弁理の大納言 「だって、乳母や。李沙ちゃんが葦の宮のものになってしまうんだ」

歩侘尼 「なんておかわいそうなぼっちゃま。東宮の位を奪われて臣籍に下られる羽目になったのもあの葦の宮のせいだったんですものねえ。今度は、ぼっちゃまがあんなにご執心だった李沙姫を横から掻っ攫うなんて・・・ああ、もうお泣きにならないで。襁褓(むつき)のときからお育てしたかわいいぼっちゃまのために、この乳母やがなんとしても」

比太弁理の大納言 「あっ!また生霊がうろうろしてるよ」

歩侘尼 「ああ、まったく蝿のようにうるさい生霊ですねえ。樫の宮の御息所もいつまでも未練たらしい」

比太弁理の大納言 「赤茄子の宮(とまとのみや)のところへご機嫌伺いに行ってもついてくるんだ。宮もあれこれ金品を贈ってよこせって欲深いし・・・年増の女なんてまったくうんざりだ・・・う・う・・純情可憐な李沙ちゃん」

歩侘尼 「ほら、ほら、涙を吹いて鼻をかんで。光源氏もかくやの美男が台無しですよ。乳母やに任せておけば、悪いようにはいたしません」



巻7 呪詛
 

≪私が本気で書いたら○本薫の『○イン・サーガ』も真っ青の大長編をものにできるんだけど、貧乏性のサイトマスターが、「お願い、常識の範囲で(泣)」って、嘘泣きするのよね。
仕方ない、端折って書くことにするわ。飽きてきたともいうけど。≫




いよいよ明日が即位という12日目の夜、崩御された後兎壷帝がお住まいだった清涼殿の床下から、呪詛の書かれた帝の人形(ひとがた)が発見されて大騒ぎになった。

書かれていたのは、柿本人麿の本歌取り『 悪しひきの 山兎の耳(じ)のへたれ耳の なかなかしき世を 疾くこそ断たむ』
(へっぽこ兎の長〜い耳みたいにだらだら続いている世なんか早く断たれてしまえ)

これは明らかに後兎壷帝の長い御代にあてつけた呪詛に間違いないけど、なんだかセンスのない歌ねぇ。本歌はこちら。
『あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかもねむ』


女房たちが怖がって震えている傍らで、家鴨阿闍梨が顔色を変えて護摩壇を造れなどと騒ぎ立てているところへ、駆けつけた陰陽師黒惑がすかさず五芒星を描きながら祓いの咒言を唱えた。

それと同時に倚廬殿の方角から、ギャッという凄まじい悲鳴が・・・なんとそれは、明日に即位を控えられた葦の宮だったとか・・・
人々が駆けつけた時には、宮のお姿は既に消えてしまっていたので真偽のほどはわからないと私は思ったんだけど。


その場に気絶していた麒麟の前の話では(うそ臭い気もするんだけど)、突然お苦しみの葦の宮に、搭近衛少将(とうのこのえしょうしょう)が走り寄ってきて「帝への呪詛のお疑いがかけられています。このままでは、御身が危ない。すぐに宮中をお出になられたがよろしい」と強引にお勧めになられ、玄武門からお姿を消されたとか。

普段は“開かずの門”の玄武門がどうして今夜に限り、開いていたのかしら・・・


なんでも、黒惑の説明では呪詛の歌の“悪し”が“葦(あし)”さらに“葦(よし=“あし”が“悪し”に通じるのを嫌い“よし”と呼称する)”で、早く譲位してほしかった“葦”の宮の呪詛だと言うのよ。
そ、そんなんで決め付けていいものなの?


でも、逃亡したことで、葦の宮が帝を呪詛した疑いはかえって濃くなってしまったのよね。日が昇ってみると、なんとご執心だった李沙の君までが行方不明。乳母の泣きながらの話では、いきなりやってきた葦の宮が盗み出すように無理矢理抱えていかれたんですって。まあぁ、ロマンティックな恋の逃避行・・・かしら。
皇后になり損ねた李沙の君にとっては、とんだ災難に違いないわ。


巻8 芥川


追手は検非違使に任せておけば良いのに、李沙の君を盗られた比太弁理の大納言が総大将になって葦の宮の行方を血眼になって捜索を開始した。


ああ、ここからは先は人伝に聞いた話なので、これまた真偽のほどは保証できないのだけど。

黒惑の式神八咫烏(やたがらす)の案内で、追っ手が逃亡する葦の宮に追いついたのは高槻の芥川のほとり。しのつく雨の中、轟く雷鳴。宮が背に負われた李沙の君をお救いしたい比太弁理の大納言は弓を引けず。その時、突如出現した鬼が、川の中を逃げ惑う葦の宮に襲い掛かり、一口に食べてしまったと・・・

眉唾ものよねぇ・・・
でも、その場に残されていた紙片に書かれていた歌『あくたがわ みじかき葦のふしのまも あはれ此の世に わかれてよとや』
(芥川に生える短い葦の短い節みたいにあっという間にこの世にお別れをしろなんていうのかよ〜〜〜)

これは葦の宮の辞世のお歌ね。本歌は『難波がたみじかき葦のふしのまもあはで此の世をすぐしてよとや』伊勢作――ほ・ほ、つい教養が。



とにかく、比太弁理の大納言は李沙の君を伴って意気揚々と都にお戻りになり、早速にお住まいの六条院に姫をお迎えになった。
葦の宮がお亡くなりになれば、大納言の推す阿礼狗の宮が東宮どころが帝に立たれる可能性がグーンと大きくなった。そうなれば、摂政の位も夢でなく、破格のご出世。李沙の君もいそいそと乗り換えられたのに違いないわ。

お気の毒なのは葦の宮の女皇子梨世姫。お父君は鬼に食べられたことにされたまま、永楽院を号されて葬られてしまわれた。まだ11歳の梨世姫は可愛らしい御方だけど、お父上がご謀反の汚名を被せられた上に、母君も早くに亡くなられて有力な後ろ盾もないまま・・・たいそう利発な方とは伺って入るけれど、この先どうなさるのでしょう。



巻9 薔薇


誰が考えても、帝の在位がない異常事態を長く続けるわけにはいかないわよね。
早く阿礼狗の宮に践祚(せんそ)をと息巻く比太弁理大納言に対し、滋味院を還俗してお迎えしようとす右大臣王藍。朝廷は真っ二つに割れて、収束がつかない。


決着は、とんでもない方向からやってきた。

検非違使の長官出洲別当は、昔からの遺恨(多分、女を取られたとかでしょう)で比太弁理の大納言が大嫌いなのは有名な話。で、もし大納言が摂政にでもなったら出世の道は閉ざされてしまうと焦って、もはややけくそになったのか――盗賊骨垂兜の一味玻璃金剛石を捕らえたのに、誰も称賛してくれないせいもあって――金剛石を六条河原で処刑、斬首すると都中に触れを出した。
なかなか口を割らない金剛石を、首領の骨垂兜が救い出しにでも来れば一石二鳥とも考えたのかもしれない。

ところが、命乞いに駆けつけてきたのは金剛石の妻に成り果てた薔薇女。この元白拍子が滋味院の実の母親と知った別当は、黙って右大臣に恩を売ればいいものを、そこは融通の利かない正直者。
滋味院の素性が知れたと朝議に報告してしまった。
これでは滋味院の出自は疑わしいことこの上ないと公卿の意見は傾き、結果、別当は大嫌いな比太弁理の大納言に味方してしまう。


巻10 狗


バッタバッタと話は進み(お、調子が出てきた)、とうとう阿礼狗の宮が即位され、兎の御世は終わりを告げ、後の世に狗(いぬ)の御時と呼ばれる時代に移った。


阿礼狗帝は御年10歳。幼帝というので摂政におたちになったのが比太弁理太政大臣(ぴたべりのだじょうだいじん)。左右の大臣を押しのけてのご出世に、もはや我が世の春状態。

六条院のお屋敷は、李沙の君を正妻の北の方に据えられ、あまたいる妻妾方は東西南北春夏秋冬の対に振り分け、内も外も浮き浮きの満漢全席。

『此の世をば我が世とぞ思ふお団子の○(まる)たる事も美味しと思へば』と、まったくセンスの悪いお歌を、朝晩口ずさんでおいでのご様子。


阿礼狗帝はといえば、前にもお話した通り、女好きのませたガキン・・・(ご無礼を)
早速に御所内外の美しいと評判の姫君方のリストを作成させ、これぞと思う方には年の差など意に介さず、入内の督促状を差し出される。
唐の玄宗皇帝の“後宮佳麗三千人”のハーレムが目標と公言してはばからぬ、恐るべきガキンチョ(えい!かまうもんか!)

さらに、皇后にお迎えするからと、永楽院(葦の宮)の梨世姫にも入内の催促の文を使わされたとか。さすがにこれは、国母となられた赤茄子の宮と摂政比太弁理の大臣もお止めになられた。


こうして、幼帝と摂政が二人そろって浮かれ騒いでいる頃、怪異は御所のすぐ近くまで迫ってきていた。




巻11 ぴちゅう―「ぴかちゅう」―ぴたちゅう


六条院(摂政比太弁理太政大臣の屋敷)

歩侘尼(ぽたに)「新婚だって甘やかしていれば、まあ、なんて裁縫の下手糞な嫁なんでしょ。こんな縫い目の曲がったものを、ご立派なぼっちゃまにお着せできるもんですか」

北の方李沙「姑でもない乳母のくせにうるさいばあさんね。針仕事なんて大嫌い」

生霊樫の宮「ほんと、色合わせのセンスもなんてダサイんでしょ」

北の方李沙「美人は座ってるだけでOKなのよ。おばさんは黙っててよ」

生霊樫の宮「ブスも美人も、一皮剥けば、その下は骸骨」

歩侘尼(ぽたに)「ぼっちゃまのご出世のときに縁起でもない・・・南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

北の方李沙「ああ!もう!死にかけのばあさんだの、縁起でもない生霊だのにとりつかれてやってらんないわ」


比太弁理の君「♪李沙ちゃ〜〜〜ん、ただいまあぁ〜〜」


北の方李沙「うぇ。馬鹿が帰ってきた」

生霊樫の宮「ああ・・・あんなのに何の未練があるのか、自分でもわかんないわ・・・」

歩侘尼(ぽたに)「ぼっちゃまぁ〜〜〜お帰りなさいませぇ〜〜おやつは干し柿ですよ〜」


巻12 伊勢

『諸卿、殿上に侍し、各請雨のことを議す。午三刻、愛宕山上より黒雲起つ。急に陰沢あり。俄に雷声大鳴し、清涼殿の坤の第一柱の上に堕つ』


あら、これは雷公菅原の道真公のことだった。清涼殿の坤の第一柱に堕ちたのは、巨大な伊勢海老の怪かしだったんだっけ。
跳ねた尻尾に吹っ飛ばされた摂政が昏倒。振り回される髭に突かれた帝は失神。



≪ふうっ・・・
困ったわね。これはもはや人外魔境。千軍万馬のわたしといえど、ミステリに戻れるとは思えないわ。
仕方ない、もすこしがんばるべ≫



物の怪(もののけ)出現で張り切ったのは、最近陰陽師黒惑に先を越されっぱなしの家鴨阿闍梨(あひるのあじゃり)。馬鹿でかい護摩壇を作り上げ、物の怪を憑依させる依坐(よりまし)を選び出した。
なんと、それが永楽院(葦の宮)の女一宮梨世姫とは。依坐(よりまし)が女皇子など前代未聞の出来事。何でも、姫君自ら申し出られたという。


ま・・ね。摂政の比太弁理大臣と、新帝の阿礼狗帝のお二人が被害にあったとなれば、物の怪がどなたの怨霊か、推測はつくもの。内裏でも、あれは葦の宮の・・・とひそかに囁かれていた。なんと言っても、伊勢海老は宮の大好物でもあられたし。

比汰弁理の大臣はさすがに頑丈が取り得、翌日にはよろよろと起き上がられたとか。包帯ぐるぐる巻きで、護摩壇の傍らに陣取られておいでになる。

阿礼狗帝の方は意識戻られぬまま、うんうんと唸っておいでで、お小さい方なのでさすがにおいたわしい。
と、覗いてみれば、床に伏されたまま、看病の麒麟の前の裳裾の端をしっかと握ってお離しにならない。
母君の赤茄子の宮は麒麟の前を追い出したいのはありありなのご様子だが、なにしろ帝のご執着が異様にお強い。


巻13 灰神楽


さて、護摩壇の前に几帳を張り巡らした中に、依坐(よりまし)の梨世姫がお座りになられた。その傍らには春江兎の命婦(はるえっとのみょうぶ)が取り次ぎ役に控えている。

姫君は御年11歳。可愛らしいながらも、密かな決意に凛とした佇まいでおられる。


部屋の中はもうもうたる護摩の煙で、隣の人の姿さえ、白くおぼろげである。家鴨阿闍梨の降霊の呪文が続き、やがて可愛らしい姫君の唇から、世にも恐ろしいしわがれた声がほとばしり出た。

『余は葦の宮なるぞ・・・余を呼ぶのは誰じゃ・・・』
比汰弁理の大臣は逃げ腰になったが、阿闍梨に押し出されて震える声でぼそぼそと問い掛けた。
「宮は鬼に食われたはずじゃ。だ、だれを祟る」

『取りおきし させもがつゆの みくらいは あはれひとよの あほのいぬなり

(私が取り置いていた 蓬草の露のようにはかない天皇の位についたって たった一夜しかいられまい ああ可愛そうに バカ犬め)』
姫君の口を借りて、物の怪は口惜しそうに喚いた。

これは藤原基俊の『ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり』の本歌取りね。
護摩の煙にむせながらでも、朋輩に薀蓄を垂れておくのは、忘れないわよ。


「怨霊調伏!魔邪退散!」家鴨阿闍梨は真言を唱えながら必死に護摩木を火中に投じる。
『わが妃を返せ〜〜〜李沙の君を返せ〜〜〜』怨霊の声は負けじと高くなる。
これには比汰弁理の大臣もなけなしの勇気を掻き集めて、「既に我が妻となっている李沙の君を返せとは、笑止!大人しく調伏されよ!」

怨霊の声はぎりぎりと歯噛みしていたが、いきなり護摩壇が蹴散らかされ、巻き上がる灰と降り注ぐ火の粉に人々が逃げ惑う中、再び巨大な海老の物の怪が姿を現した。
ああ、もうゴジラかキングギドラなみのロブスターではないの。

「御父上」駆け寄ろうとする梨世姫を春江兎の命婦があわてて抱きとめる。
比汰弁理の大臣は真っ先駆けて殿上を逃げ出していく。家鴨阿闍梨は護摩壇の下敷きになって、腰を抜かしてしまった。
わたしだって、こんなところはごめんだわ。

その時、弓の弦を引き鳴らす音が響き、近衛の兵を従えた塔の少将が駆け込んできた。同時に、魔を払う祭文を読み上げる陰陽師黒惑の声が響いた。


しかし、伊勢海老の怪はそんなものなど意にも介さず大暴れ。御所の柱は折れ、床は抜け、屋根は傾き―――


≪きーっ!これをどうミステリに戻せと!やってらんないわ!・・・・・やーめたっと。≫


「退け、的小納言」

え?あ・あ・あ・・・比汰弁理の君!?
そこには、最強進化のピタチュウの君が。10万ボルトとメガトンキックが伊勢海老の怪を迎え撃つ。




巻14 ピチュウ―ピカチュウ―「ピタチュウ」


この巻 雲隠れ



≪ビリッ!こんな本破いてやる!≫



                        「災難の都――未完」