■■■■■■

by SergeantVelie
2005/ 3/13 22:22
         
           ■■■■■



“Alone Again Naturally”
(停止ボタンを押すと、音楽は止まります)

1977年 フォックスヴィル


 25歳のピーター・ヴェリーはおもしろくなかった。
大学を出てから仕事にもつかずふらふらと遊び歩いていたが、昨年母親のモプシ―が亡くなり、とうとう金にも事欠くようになって、故郷の田舎町に舞い戻る羽目になってしまった。

 新興成金だった父親は早くに亡くなって財産は屋敷以外ほとんど残っていない。妹のモペット(21)は、母親の葬儀にも戻らなかった兄を朝夕に「親不孝もの!」と罵倒する。
 短大を出て商工会議所のタイピストをしているモペットは、フォックスヴィル警察の平警官デス・ウルフ(23)といい仲になっているのを隠しているが、ピーターはお見通しだった。
 子供の頃から頑固で正義感を振りかざし、ことごとく楯突いてきたデスなんか大嫌いだが、口うるさい妹を貰ってくれるなら大歓迎だ。




 バス、ガス、ガス・・・ガ・スン・・・・
「ちくしょうっ!」スクーターのエンジンがまた止まった。
 蹴り飛ばしたところで、今度はかかりそうもない。ピーターは悪態をつきながら、スクーターを押して丘の道を登りつづけた。
「ヘアーズ・フォックスヴィル銀行」――スクーターの横腹には、でかでかとそう描かれている。
 外回りの集金係――伯父のバックス・ヘアーズ(64)が恩着せがましく与えてくれたお仕事というわけだ。



 三ヶ月前、町で偶然フロプシーおばさん(61)に出会った途端、わっと泣きながら抱きつかれてしまった。四年前に町を出奔した従兄のベンジャミンが帰ってきたと思ったのだ。ベンジャミンとは子供の頃からそっくりだったが、今でもそうらしい。

 それ以来フロプシーは、ピーターの甘い庇護者におさまってしまった。職のない彼を夫のバックス・ヘアーズの渋い顔をなだめながら、なんとか一族の銀行に押し込んでくれた。
 目下のところ、彼女の次の関心はピーターの結婚だった。
「私の友人の娘なんだけど、とっても美人よ。少し年上だけど、どっさり持参金のある娘なの。メイドもついて来るから、お屋敷の管理も十分出来るわ」
 少し年上の美人が――五歳上の、なにかと男の噂の耐えないタビタ(30)で、ついてくるのがポッターばあさん(当時からばあさん)だとわかってからも、“どっさりの持参金”がピーターの煩悶の種だった。


 もう一つの煩悶の種はその坂の上だった。マーサ・ムーンライト(20)の家がある。遊び半分で付き合いだしたマーサは、いま“結婚準備積み立て預金”の集金でピーターが訪れるのを待ち構えているはずだ。
「ねえ、ピーター。ジューンブライドって素敵じゃないかしら」




 ピーターは傍らの藪の中に、壊れたスクーターを放り込んだ。後でトラックででも取りに来ればいい。支店長の渋い顔が浮かんだが、とりあえず町に向って坂を下る足取りは軽かった。

 途中、ロブスター邸への枝道があった。あの不景気なガラクタ骨董店「ブラスハウス」に貸し付けた返済をわずかでも取り立てて帰れば、支店長も少し機嫌がいいかもしれない。


 ピーターがドアを叩くと、主のジョー・ロブスターは不在で、ボストンの大学に行っているはずの息子のヨッシュ(22)が出てきた。
「親父に会っても、金はないと思うけどね。それにしても、ピーター、きみが銀行員とは。また似合わない職業を選んだものだね」
「余計なお世話だ。きみも今年で卒業らしいが、ボストンで大学院でも行って退屈な歴史の教授にでもなるのか」
「いや、ぼくはフォックスヴィルに戻って親父の跡をついで骨董屋の主にでもなりたいと思ってるよ。
都会の喧騒と資本主義の飽くなき欲望の闘争は、静謐なる精神の荒廃と至上の安穏を剥奪する悪の手先とも言える。田舎の停滞した無限の時の流れの底流には、変化への渇望と都会的なるものへの憧憬が」

 賢明なピーターは、口ではヨッシュにかなわないということを肝に銘じていたので、そそくさとロブスター邸を後にした。しかし、すぐにあの弁舌は借金の催促をはぐらかすものだと気づいたがあとの祭りだった。




 町に戻りついたが、銀行に足が向かないピーターはウォルター・ホワイト(27)が経営する『ダブル・ダブルダイナー』でお茶でも飲んで時間を潰すことにした。


「またさぼりですかぁ。いつものコーヒーとパンケーキでいいですねぇ」
 高校生バイトのキーリーン・ヘアーズ(17)が注文を勝手に取っていった。
 フォックスヴィル高校で同級生だったウォルター(落第を重ねた)が、ニヤニヤしながらその後姿を見送って、ピーターに囁いた。
「キーリーンが高校を卒業したら、一緒に店をやらないかとプロポーズするんだ」
「ほーっ、そうかね」
「そして、この『ダブル・ダブルダイナー』をチェーン展開するんだからさ。早く貸付係になって融資してくれよ、ピーター」
「俺は、一生銀行になんか埋もれてないよ」

 そうだ、いつかは伯父のバックスを見返してやるぐらいの大物になってやる・・・・野心満々の気持ちはあるのだが、こんな田舎町では未来は楽観できそうもなかった。

「えーぇっ、またツケですかぁ」チップを貰えないキーリーンに出て行けがしに見送られて、『ダブル・ダブルダイナー』を後にすると、足は自然に銀行へ遠回りする。



 セントラルパークの向うに建つアリス・ホテルに一人の老人が入っていく後姿が見えた。ピーターは慌てて傍らのビルの路地に潜り込んだ。

 激烈な親子喧嘩の果てに息子のベンジャミンが町を出奔してから、めっきり老いの目立つようになったバックスだが、サボっているところを見つかれば容赦ない雷を落とされるだろう。

 老人は幼稚園児ぐらいの男の子の手を引いていた。フルーツ・パーラーの方に向っているのは、その子供に何かご馳走するつもりなのだろう。
 あれはノーウェマン・ビートルが他所につくった子供のアイザック(6)に違いない。最近バックス老人のお気に入りらしく、ヘアーズ邸にも度々遊びに出かけているらしい。

「バックスはあの子を跡取りにでもするつもりなのかしらね・・・ベンのことは一言も口にしないわ」
 フロプシーが寂しそうに言っていたことも、あながち推測だけとは思えない二人の様子だった。
「冗談じゃない、バックスに一番近い親族は甥の俺なんだぞ」
 まあ、老バックスは当分くたばりそうもないが、その莫大な遺産は後々トラブルを引き起こす火種になるかもしれない。



 遺産がまるまる自分の手許に転がり込んでくるという楽しい白昼夢に耽っていると、
「どけ、どけぃっ!」いきなり突っ込んできた三輪車が、向こう脛にぶつかってきて、ピータ―は痛みに悲鳴をあげた。

「邪魔だあ、どけよ!」足下で喚いているのは、三歳ぐらいの黒い髪の男の子だった。
 自分で黒く塗りなおしたらしい三輪車を短い足でこぎながら、猛スピードで飛ばしている。
「くそっ、レイヴン先生のところのチビだな」
 フォックスヴィル高校の化学教師アナベル・レイヴンが人工授精の実験で作った子だと噂がしきりの息子だった。
三歳で微積分を解きこなすという早熟な天才児だとの噂もあったが、三輪車に乗っているところは単なる悪がきにしか見えない。

 腹を立てたピーターが、クロノの襟首を掴んで持ち上げ、その尻を蹴飛ばそうとした時、
「や、やめてください。相手はこ・・こどもじゃないですか」

 震えながら立ち塞がったのは高校生のロビン・コックリル(16)だった。
 その後ろには、中学生のハリエット・キャプラン(13)が真っ赤な顔でピーターを睨みつけている。
「こいつは今の内にしつけておかないとろくな大人にならん」
「あんたよりましな大人になるさ」
 ピーターに蹴飛ばされたクロノは三歳児にしては立派な憎まれ口を放って走り去ってしまった。

 ロビンはピーターに睨まれただけで半分気を失いかけていたが、ハリエットは石でも投げたそうに睨み返した。
 幼い頃からの彼女の憧れの偶像――ベンジャミンそっくりの従弟が、こうも正反対の粗野な乱暴者なのがどうしても我慢できないのだ。
 どうせロビンをけしかけたのも、ハリエットの差し金だろう。



 いつまでも子供相手に時間を潰しているわけにもいかず、ピーターはとぼとぼと銀行への帰途についたのだった。





――同じ頃、東洋の果ての日本・東京――
 ホステスの母の帰りを待ちながら、10歳のローズ・吉本・ヘアーズは、テレビから流れてくるピンクレディの『カルメン77』を歌い踊っていた。






                        完









BGM
                               2005/ 5/10 16:20 メッセージ: 1035 / 1035

by matorjiska



まずメイン・テーマ。ギルバート・オサリヴァンの“Alone Again Naturally”(1972)。
HPのセピア色の背景を見たとたん、これだ! と思いました。
冒頭から結末まで、これ1曲通しでもいいかもしれん。亡き両親の記憶が甦るところも詞とマッチしてる。
ただこの曲、1986年に高橋留美子の『めぞん一刻』が実写化された時のイメージソングでもあったんですよね(^^;)
あるいはそっちがフラッシュバックしてくる恐れなきにしもあらず★

ピーターのスクーターが壊れ、タビタとマーサをそれぞれ連想するシーンはマイケル・フォーチュナティで“Give Me Up”(1985)。元祖ユーロビートですな。
《ブラスハウス》でのヨッシュとのやりとりは、インストですがヘンリー・マンシーニ“The Pink Panther Theme”(1963)なんていかがでしょ?
借金取りを体よく追い返すお惚けぶりがうまく表現できたらお慰み。

『ダブル・ダブルダイナー』でのお食事にはジェイ&ザ・テクニクスの“Apples, Peaches, Pumpkin Pie”(1967)も添えよう。
クロノとハリエット、天敵の登場はずばりアバ“Does Your Mother Know”(1979)!
どーもこの辺は歌詞の内容に影響されてんな★(「ママは知ってるのかい、あんたが出歩いてることを?」)

そして銀行への帰り道は、再び“Alone Again Naturally”に戻って、ラスト部分をフェードインからピーターの後姿に被せて。

東京のローズについては、そのものずばりピンク・レディー「カルメン’77」でいいかとも思いましたが(爆)
せっかく南の島のクイーンなんだし、ここはリン・アンダーソン“Rose Garden”(1971)でしめましょう。
歌い出しの曲想が南沙織の「17才」(1971)と酷似★ 当時は盗作疑惑も囁かれたとか……(--;)


ま、こんな発想もありかと。お耳汚しにひとつ。