マジカルファンクション
ぴんとはりつめるような冷たい冬でも、午後の空気は比較的穏やかである。
丘の上にある学校の一教室は穏やかな暖房の風に暖められ、退屈な授業の声とあいまって快適な睡眠のための空間となる。
「この世には三つの流派、五つの属性、そして三つの発動形式がある。
魔法の発動には通例副属性と魔法属性の二つを指定する必要があり、それを踏まえると魔法式の種類は基本魔法と呼ばれる10種類の効果だけでも、3*5*5*3*10=2250通りの魔法式があることになる。
さらに君たちそれぞれにも属性があるため、これは5倍され、君たちが扱うことが許されている基本魔法だけで11250通りの魔法式がある。
佐藤、君たちには基本魔法の他にも許されている魔法があるな。なんだか答えてみろ。」
先生が教壇の上から教室の奥で寝ている生徒を指名する
生徒は隣の生徒につつかれておきあがり、寝ぼけた目をこすりながら立つ。
「え・・・っと、すいません、もう一度お願いします。」
クラスを哄笑が包む。
「まったく、きちんと話を聞いていろよ、じゃあ前の佐々木、答えてみろ。」
寝ぼけている生徒の前に座っていた眼鏡の優等生風の生徒が立ち上がる。
「はい、基本魔法の他に僕たちに許されているのはオリジナルファンクション、個人魔法式と呼ばれる魔法です。
オリジナルファンクションは基本魔法の組み合わせで作られ、僕た一人一人が一つだけ作ることができる重要なものです。」
「よし、さすが佐々木はしっかり予習しているな。みんな佐々木を見習って勉強しろよー」
ここは魔法が普通に使われる世界。
高校から上では『魔法史』『魔法実験』『魔法理論』などの授業が行われる。
そんな高校を卒業すると、あるものは日常の助けに、あるものは世界の真理を見極めるために、世の中で魔法を使っていく。
そんな場所がここ、私立柳魔法高等学校(通称ヤナ魔高)。
そんな学校の放課後校舎裏。
さきほどの授業で見事にクラスの哄笑を買った佐藤重光は子分二人を連れてイライラしていた。
「くっそ!」
重光はごみ箱を思いっきり蹴飛ばす。
ごみ箱は中身をぶちまけ、転がった。
両脇で子分がおろおろしている。
「佐藤さん、きにしちゃいけませんぜ。どうせあいつはレベル1なんすから。」
「そうですそうです。」
重光はぎろりと子分二人をにらむ。
「ちきしょう!、レベル3の俺様があんなレベル1にも満たない雑魚と比べられるなんて、それが許せねえ!」
重光は学ランの襟元を指差す。そこには校章と並んで☆が三つ描かれたバッジがついている。
「くっそ!くっそ!ファイアタク!」
腕を振り下ろしながらさきほどぶちまけられたごみにむかって叫ぶ。
腕の先から、炎がほとばしり、ぶちまけられたごみに火がつく。
ごみは数秒で消し炭と化し、灰は風に流れていった。
「・・・っくしょう・・・こんなんじゃぜんぜんおさまらねえ」
「佐藤さん、あれなんてどうですか?」
子分その1が指差した方向は、渡り廊下。
そこには数人の女子生徒がきゃいきゃいと歩いていた。
「ほぉう・・・そいつはいい案だ。」
三々五々生徒が帰っていく校舎、その廊下を先ほど授業で見事に答えた生徒、佐々木翔は歩いていた。
「ちょっと、翔、まちなさいって」
翔は後ろから呼ばれて、立ち止まらず振り返った。
歩く姿を見てもやはり優等生、である。
「・・・杏子か」
「幼馴染が待ちなさいっていってるんだから待ちなさいよ。」
セーラー服のリボンを揺らしながら杏子ははるか後ろの女の子たちの集団から飛び出して翔の隣に並んだ。
二人が並ぶと微妙に杏子のほうが背が高い。
肌は日に焼け、快活そうな彼女と翔ではどこに接点があるのか傍目にはわからないだろう。
「いいの?」
翔は歩き出しながら後ろの女の子の集団を目で指す。
見られたのを自覚したのか女の子たちはひそひそと何か話しながら二人のほうをみている。
「いいっていいって。どーせあんなの今日の放課後のケーキ屋さんのことしか話してないんだし」
走って乱れたリボンを杏子が直していると、その手元を翔がじっと見ている。
「ど、どこみてんのよ」
「バッジ」
顔を赤くしている杏子をよそに翔は前を向く。
「翔、その人のバッジをうらやましそうに見る目やめたほうがいいよ〜。眼鏡で視線わかりづらいからって、わかる人はわかるんだから。特に女子のを見るのはやめたほうがいい。誤解されるから。」
杏子は自分の胸元を見下ろし、☆が五つ並んだバッジを見、それから翔の襟元を見た。
「仕方ないだろ・・・うらやましいのは本当なんだから・・・僕のは☆0だし」
翔は自分の襟をなでながらバッジを隠した。そこには☆が一つもないバッジがあった。
「・・・翔・・・」
「レベルを示すこのバッジ、レベルが高い人にとっては誇りかもしれないけど、僕にとってはただのバッジ、いやそれ以下さ。
いくら勉強ができてもこれがあるだけでみんな僕のことを魔法を使えない無能だと思うんだからね。」
翔は自嘲気味に笑って、目を細める。
「ほら、杏子、幼馴染ってだけでいっしょにいるとせっかくレベル5の君も僕と一緒にされちゃうよ?」
「なにいってんのよ、あんなにはあんたのよさがあるでしょう。」
「・・・」
二人はやがて職員室の前に来る。
そこで翔は立ち止まった。
もちろん杏子も隣に止まる。
「僕は先生に用事あるから。」
「そう・・・あのさ、その用事どれぐらいで終わるの?」
「魔法理論でわからないところがあったから質問に行くんだ。どれぐらいかかるかわかんないよ」
「そっか・・・」
杏子が何か言いたげにしていると、後ろにいた女の子たちが追いついてきた。
「杏子ー行かないの?」
「今日でクリスマスフェア終わっちゃうんだよ?」
ばらばらと杏子に声をかけながら通り過ぎていく女の子たち。
杏子はあせって翔に早口で言う。
「あ、えっと、その質問終わったら電話くれない?」
「なんで?」
「もう!なんでもいいからっ!」
「・・・わかった」
「じゃ、約束したからね?電話待ってるから!」
杏子はくるりと体の向きを変えて女の子たちに追いつくために走り出した。
翔はがらりと職員室の扉を開けた。
女の子たちに追いついた杏子は校門に向かって校庭を歩いていた。
突然、その前に重光が立ちはだかる。
ざわざわと女の子の波が割れて、重光がそこに入り込む。
「おい、ちょっとまてよ」
重光の隣を通り過ぎようとする杏子の肩を強引に重光がつかむ
強気に見上げる杏子を見下ろす重光。
背が頭一つ以上違うのに、そのにらみ合いは数秒続いた。
「なんですか?」
「おいおい、つれねえなあ。同じクラスのオトモダチがいっしょに遊ぼうっていってるのにその態度はないんじゃないの?」
「やめてっ」
「てめえの彼氏のことでちょっと用があるんだけどな」
「・・・彼氏じゃないわよ」
悔しそうに言う杏子の表情を見て、にやりと笑った重光は杏子の耳元に顔を近づけて数言しゃべる。
「・・!」
杏子の表情が変わり、重光の笑みがさらに大きくなる。
「きてくれるよな?」
女の子たちは校門近くで心配そうな顔をして待っている。
杏子は一端そこに走っていき、笑顔で話す。
「ちょっと用事ができちゃった。ごめん、この埋め合わせはどっかでするからさ、今日はキャンセルしていい?」
「ちょっと杏子、大丈夫なの?あの佐藤って悪で有名じゃない。一人でいったら何されるか・・」
「あの、翔君呼んでこようか?」
「いいっていいって。」
杏子は笑顔で手を振って重光の下へ走り戻る。
重光と子分の三人に囲まれ、校庭の隅のほうに連れて行かれる杏子。
「ねえ・・・あれぜったいまずいって。」
「佐藤ってお父さんが警察の偉い人でお母さんが教育庁の偉い人なんでしょ・・」
「だよね・・・やばいよね」
「うん、わたし、ちょっと佐々木君呼んでくる。」
翔は職員室で先生の隣に立ち、大きくうなずいていた。
「なるほど、そういうことだったんですね」
「そうなんだよ。そこのところはもっと上に進んでからやる部分だから、興味があったら自分で調べてみるとあとで役にたつよ」
「ありがとうございます」
翔がお礼をいって職員室を出ると、ちょうど勢いよく廊下をかけて女の子が一人やってきた。
それはさっきまで校門で杏子を待っていた一人であった。
「・・・あ!佐々木君!佐々木君、た、大変なの」
「?」
「杏子が、杏子が、佐藤と一緒に校舎裏に」
「佐藤?」
「・・あの、うちのクラスのレベル3の、不良の。杏子なら負けることないとは思うけど」
「・・・じゃあ大丈夫じゃない?」
「・・・でも!三人が相手なんだよ?」
翔の目の色が変わった。
校舎裏ではイベント用の道具などを入れる倉庫の前で杏子が囲まれていた。
倉庫の扉によっかかるようにして、杏子は背を預ける。
「さあ、きてあげたわよ?その道具はどこ?」
「俺だって身の危険を顧みずもってきたスペシャルアイテムだぜ〜?こんな人の目に触れるところで出せるわけねーじゃん」
「じゃどうするのよ?」
「こん中でやんだよ」
重光は倉庫の鍵に掌を向けた。
「アンロック」
がちゃりと音を上げて大きな南京錠が落ちる。
「さあ、中入りな」
二人が中に入ると、外から子分が鍵をしめた。
「ちょ、ちょっとなんで二人っきりになるのよ?」
「言ったろ、魔力を増やす方法を教えてやるってさ」
重光は下卑た笑みを浮かべながら上着を脱ぎ始める。
「お前だって知ってるだろう?昔っから魔力を上げる代表的な方法、他人の魔力を体内にとりいれる方法をさぁ?」
重光はじろじろと杏子の胸の辺りをなめるように見る。
そこそこふくよかな胸には☆五つのバッジが存在を誇示している。
杏子は重光をにらんで手を向ける。
「忘れたの?わたしはレベル5、あなたはレベル3」
杏子の視線が佐藤の襟元を見る。そこには☆三つのバッジ。
「魔法の打ち合いならあなたがわたしにかなう道理はないのよ?」
重光はにやにやと笑いながらYシャツを脱ぎ捨てる。
「やってみろよ」
杏子の目に尋常ではない光が宿る。
「ウォウアタク!」
声だけがむなしく倉庫に響き渡る。
「??・・ウォウアタク!・・・ウォウミナス!・・ウォウシルド!」
退がりながら叫ぶ杏子の背がとん、と壁に触れる。
「・・・」
杏子の顔が青くなる。逆に重光の顔はこれから起こる快楽を想像して赤く染まっている。
「ここは俺が結界はったからよ。俺以外は魔法をうてねえんだよ」
だんっと重光が杏子を抱くように壁に手をつく。
杏子は力なくへたりこみ、うつむく。
「幼馴染思いの杏子ちゃん、俺がその方法を直々に伝授してやるよ」
「・・・しょ、しょ・・う・・・たすけて」
重光がズボンのベルトに手をかけたとき、突然背後で『っごーん』と大きな音がした。
振り返ると、倉庫の扉が大きく開け放たれ、翔が立っていた。
「・・・こんなところで何してるんだ。」
重光はいよいよ嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「はっはっはっはっは、まさかこないのかと思ったぜ、まあ、そんときゃそんときでこの女がオレのものになるだけなんだけどなぁ!」
杏子はおびえた瞳で翔を見る。
「翔・・・なんでここに」
「いいから杏子から離れろよ」
「んー?頭のいい佐々木翔君なのに状況がよくわかっていないみたいだなぁ?」
重光は杏子の襟をつかむと無理やり立たせた。
「こっちは人質つき。ついでに3対1。お前の圧倒的不利だってわかってんのか?」
「・・・・」
翔が倉庫の鍵を開けるときは何もしなかった子分たちが後ろから翔を挟み撃ちにしようと身構える。
「まー、別にハンデなしの一対一でも俺がお前に負ける道理はねえんだけどな?」
「杏子、なんだってこんなやつについてったんだよ、こうなるのは目に見えてたじゃないか」
杏子はじっと地面を見つめて何もしゃべらない。かわりに重光が楽しそうにしゃべりだした。
「俺が言ってやったのさ『君の大好きな幼馴染の魔力を増やす方法を教えてあげようか?』ってなぁ!」
翔は軽く唇をかむ。
「杏子・・・僕は別に魔力がないことを負い目に感じてはいないって言ったじゃないか。」
「でも・・でも・・・わたしっ」
杏子が何か言いたげな瞳で翔を見るが、それを遮って重光が声を上げる。
「さあ!おしゃべりはここまでだ。そろそろオレの奴隷になってもらうぜ〜?」
重光がずいっと大きく一歩踏み出す。
気圧されるように翔は一歩退く。
一歩進む重光、一歩退がる翔。
それが数回繰り返され、やがて二人とも倉庫の外に出た。
「ちなみに、結界はこの校舎裏ほとんどを覆ってるからな。逃げようったってそう簡単にはいかねえぜ?」
「・・・結界は見た。水を殺す土の結界だった・・・あと二回」
翔がじりじりと間合いを取りながらぶつぶつと何かつぶやく。
「あん?なんかしようとしても無駄だぜ?ここは俺様の魔力以外の魔法は発動しねえからな。まあ、そんなこともともとお前には関係ねえだろうけどな?!」
いい加減翔を追うのに飽きたのか、重光は足を止めて翔をにらむ。
「・・たく、俺様はレベル3だってのに、お前と、レベル0のお前と、なんでこの学校に入れたのかわかんねえお前となんだって比べられなきゃいけねえんだ。いくら勉強ができたって実際に魔法が使えねえんじゃ意味ねえだろうが!」
重光は片手を翔に向ける。その指が複雑に空中をなぞる。
「翔!逃げて!!」
「ファイアタク!」
空中に輝く図形が出来上がり、そこから炎の塊が飛び出し翔を襲う!
すんでのところで横っ飛びしてその塊を避ける翔。
「・・・陣を使った火の攻撃魔法ね・・・あと一回」
「見かけによらずすばやいじゃねえか。おい!」
重光は子分を呼ぶ。
「この女が逃げねえように捕まえてろ。あと手出すんじゃねえ。俺がいいって言うまでそこで見てろ」
「了解しやした!」
子分二人が杏子の両脇を抱えて倉庫の方へ逃げる。
「さあ・・・両手が自由になったぜ・・これでてめえもおしまいだ。」
にやにやと笑いながら重光が両手を横に広げる。
「お前が全く魔力がないレベル0ってのは別にどうでもいいんだよ。だがな、俺様の顔に泥を塗りたくったのはゆるさねえ。安心しな、殺しゃしねえよ。俺もこの年で殺人犯にはなりたくねえからな。ま、あれだ。ケンカの末、むきになって使った魔法が腕の一本ぐらい使えなくしちまっただけだよ。・・・親父に言えばその程度なんとでもなる」
翔は軽く笑って口を開いた。
「全く、お金持ちで権力持ちなぼんぼんほど性質の悪いものはないね」
「んだと?!」
今までいつでも避けられるように身構えていた翔は背筋を伸ばし、堂々と立った。
「馬鹿が力を持つことほど危ないことはない、って言ったのさ。」
重光の額に血管が浮かぶ。その顔はどんどん赤くなり、鬼のような形相になっていった。
「翔!挑発なんかして、殺されたらどうするの!」
「オーケーオーケー。頭でっかちな佐々木君はどうやらその自慢の頭を砕いてほしいみたいだな」
ふっと、前に崩れるように重光がしゃがむ。
「?」
翔が首をかしげた瞬間、地面から翔の顔めがけて金属の槍が飛び出してきた。
「っつ!!」
首をかしげたおかげで顔面を貫かれることはなかった。
しかし、顔の真横を掠めた槍は眼鏡のつるを切り裂き、翔の顔に薄い傷をつけた。
「運がよかったな。呪文なしの魔法をよけるなんてなかなかできることじゃねえぜ?」
しゃがんだまま顔を上げた重光はにやにやと笑う。両手を地面について、その両手は常にせわしなく動いている。
「ははは、呪文なしとは驚いた・・・陣?印か?・・・金の魔法攻撃・・か?・・・く、まだ確定しきれない」
翔は眼鏡がなくなり、目を細めて重光を見る。
しかしいまいちピントが合わない。
「次はそうはいかねえ!ゴウトリアタク!!」
重光が叫び、両手を再度地面に突き立てる。
その手が火を生み、火は地面に吸い込まれ、そして立ち尽くす翔の足元から何本もの槍が突き立つ!
「うわっと」
なんたる幸運か、眼鏡をなくした翔はよろよろとつまづき、そのおかげで槍から逃れたのだった。
「っく、本当に悪運はあるわけか。」
重光は舌打ちをして、もう一度地面に何か描きだす。
「・・・今のは・・・」
翔はふらふらと重光の方向を見て目を細める、しかししっかりと見据えることはできない。
「翔!今のは呪文、印、陣を用いたあいつのオリジナルファンクションよ!属性は金!おそらくあいつの全力!」
さっきから見ていた杏子が声を上げる。
それを聞いた翔がにやりと笑う。
「・・・ありがとう杏子。」
「なにいわせてんだ!黙らせとけ!」
重光の声で子分たちが杏子の口をふさぐ。
「佐藤君・・・もう終わりにしよう」
ついに転んだのか、いつのまにか翔がしゃがんでいた。
「ああ、そうだな。いいかげん俺の魔力も残りすくねえしな・・・食らえ!」
重光が魔法を使おうと両手を掲げる。
同時に翔も両手を掲げた。
「「ゴウトリアタク!!」」
二人が同時に呪文を言いながら地面に手をつき、そして重光の足元からだけ槍が飛び出した。
狙いがいいかげんなのか、それはほとんど重光を傷つけていないが、重光は放心して翔を見ていた。
「て、てめえ、なんでその魔法を・・」
翔の手元には重光の手元と全く同じ図形が描かれていた。
「流派は陣を得意とするアインシュタイン派。主属性は火。副属性は土。魔法属性は金。さらに呪文は一度聞いたし、陣も印も見た。流派と属性と発動形態がわかれば同じ魔法を使うなんて簡単さ。それに・・・三回も見れば君の得意とする魔法式と君の主属性、そして君の性格は把握できる。」
「んな・・・馬鹿な・・てめえは魔力のないレベル0のはず・・それに俺の魔法が発動しなかった・・・」
翔はゆっくりと立ち上がった。
その顔は優越者の笑み。
重光を見下ろしながらまるで授業で聞かれたことを答えるかのようにすらすらと答える。
「いい質問だ。これは僕の特殊体質でね。自分の魔力は皆無な代わりに、他人の魔力を使うことができるんだ。」
重光の顔が驚愕に歪む。
「まあ、それには色々と条件が必要なんだけど・・・例えば使いたい相手が魔法をうたなきゃいけないし、その魔法式を同時に完全にコピーしなきゃいけないし、結構大変なんだよ?」
瞬間、あたりの雰囲気が一変する。
重光がばっと倉庫のほうを振り向くと、そこには白目をむいて伸びている子分たち。
「あんたの結界は消させてもらったわよ。」
そして正面に向き直ると翔の隣に立つ杏子。
「・・・てめえ」
「あの子分たち、もうちょっと体を鍛えないとダメよ。わたしぐらいの女の子に簡単にやられてちゃね。ウォウヒール」
杏子は拾った眼鏡を魔法で直して翔に渡す。
「杏子、ありがとう」
「お礼を言うのはこっちよ。助けてもらったし。」
「まだだ!まだ終わってねえ!」
重光が再び地面に手をついた。
「あんた・・・こんな状態になってまだ勝てる気でいるの?」
杏子が嘆息して懐からブレスレットを出し、手につける。
しかしそれを翔が止める。
「ダメだよ杏子。君は被害者のままでなくちゃ。」
「?」
「ここは僕がやるから・・・わかってるね?」
杏子は「なるほど」というように笑ってから頷く。
「くそくそくそくそくそくそ・・・俺は!俺様はーーー!!!」
杏子が両手を上に上げる。ブレスレットがシャランと音を立てる。
それに習うように翔も両手を上に上げる。
「いくわよっ!中央から西方!そして北方へ!」
杏子が手を斜め前に下ろし、そして横に払う。
「中央から西方!そして北方へ!」
翔も手を斜め前に下ろし、そして横に払う。
「ゴウトリアタク!!」
重光が両手を地面に着くと同時に杏子と翔も叫ぶ!
「「冬よ吹雪け!壁氷雪!!」」
瞬間、あたりの地面が凍り、重光の槍はその厚い氷に阻まれ消えた。
その氷が砕け、飛び散り、重光に殺到する。
一瞬後、そこには氷に包まれた重光と、あたりにはうっすらと雪が積もっていた。
「さっすが。レベル5のオリジナルファンクションは段違いの強さだね」
翔は淡々と言う。
杏子は凍った重光に近寄り、こんこんとたたく。
「んー・・・わたしはこんな威力で打つつもりなかったんだけど?」
「まあ、僕も痛い目にあったし。少しぐらいはね。」
「でもあれね、これ見たらやったのわたしだってすぐわかっちゃうじゃない。」
「大丈夫だよ。みんな君が被害者だってわかってるし、それにあいつが言うことは『レベル0が魔法を使った』っていう奇妙なことだからどうせ信用されないさ。」
「・・・ごめんね。元はといえばわたしがあいつの言葉を信じてついてきたから」
翔はくるりと背を向けて校庭の方へ歩き出した。
「別に。それも僕のことを思ってのことなんでしょ。・・・問題ないよ。」
それに早足で追いつく杏子。
「助けてくれてありがと、翔」
「うん・・・あ、雪。」
「え、さっきの?・・・じゃない、本物ね。」
校門に向かう二人を魔法ではない本物の雪が包みだした。
「・・・ねえ、翔」
「ん?」
杏子が寒いのか顔を赤くして、ぼそっと言う。
「わたしの魔力、いる?」
「いらない」
「・・・即答しなくても」
「いらない」
「本当にいらない?」
「いらない」
「わたしはいいんだよ?」
「いらない」
雪が降る町を二人は歩いていく。
「ところで、用事は終わったけど、なんかあったの?」
「ん、ああ、今日うちでクリスマスパーティーやるの。翔もこない?」
「わかった。何時から?」
「えっとね・・・」
そこは魔法も何も関係ない普通の帰り道。
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