家出命令
コンコンコン
窓を外から叩く音がする。
パソコンのディスプレイから目を離して窓に近寄りカーテンを開けると、
そこにはミニスカにキャミソールという薄着の女の子が座っていた。
「ちーっす」
「何やってるの?」
「いやー、まぁた家出命令出ちゃってさぁ」
「今何時だと思ってるの?」
「まあ、想像するに大体深夜3時過ぎ?」
「当たり。なんでそんな時間にこんなところにいるの?」
「だ・か・ら、家出命令出ちゃってさ」
彼女は土下座をした。
「今晩泊めて!」
ボクは窓を開けてあげた。
「うっわーあったけー。ん?何何?エロゲーやってたの?」
「違うよ。学校の課題」
「相変わらずお堅いねぇ。っはー、やわらけー」
勝手にベッドに寝転んでくつろぐ。
「で、今度は何やって家出命令くらったの?」
くるりと器用に起き上がった彼女はあぐらを書く。
スカートがめくれてパンツが丸見えだが、そんなことを気にする雰囲気はない。
「それがさ、聞いてくれる?」
彼女はぺらぺらといろんなことを喋った。
昼の学校のこと。
夜の街のこと。
男友達のこと。
女友達のこと。
カレシのこと。
ボクは学校の課題をやりながらそれとなく右の耳から左の耳へそういう雑多な話を聞き流していた。
「ちょっとぉ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。それで、なんで家出命令なんて出たの?」
「それがさー、帰ってきたら家族みんな寝てんのよ。信じられる?愛すべき娘がまだ帰ってきてないっていうのに戸締りしちゃうわみんな寝ちゃうわ扉叩いても誰も起きてこないわ信じらんないよね」
「そりゃ終電も終わった時間に帰ってくるとは誰も思わないんじゃない?なんでこんな時間に」
カレシの家に泊まってくればよかったのに、とは言わなかった。
「だってさー、あいつのとこのベッド臭いんだもん。ヤるときはあんまり気になんないんだけどねー寝るには向かないね。なんで男って臭いんだろ」
「知らないよ」
「あはは、その点あんたは違うね。あんたのベッド柔らかいし暖かいしいい匂いするし〜」
ボクのベッドを縦横無尽に蹂躙しながら彼女は笑う。
「家出命令はわかったよ。それでなんでボクの部屋に来るのさ」
「・・・来ちゃいけない?」
きょとんとした表情でそう返されてもな・・・言葉が見つからない
「いけなくはないけど・・・」
「じゃあいーじゃん」
「こんな時間に女の子がそんな格好でさ」
「別にさー、あんたわたしに何もできないじゃん」
ベッドから転がるように立ち上がり、彼女はすすすっと近づいてくる。
「そ・れ・と・も、何かしたい?」
「別に」
「あははー」
くるくる回りながらベッドに倒れこむ彼女。
まったく・・・昔から変な娘だけど変わってない。
カチッ
時計の針が深夜、いやもう早朝か。
4時を告げた。
ボクはパソコンの電源を落とした。
「あれ、寝ちゃうの?」
部屋着を脱いでパジャマに着替える。
「けっこうかわいいの着てるのね〜」
彼女はずっと楽しそうに話している。
「ほら、もうちょっとつめて。入れてよ」
「いや〜ん、えっち〜」
「何もできるわけないだろ、変な声出すな」
ニヤニヤしながら彼女は掛け布団を広げる。
「『さあ、こっち来いよ』」
「誰のモノマネなんだよ」
でもまあ、ベッドに入らないと眠れない。
結局狭いベッドに二人並んだ。
手を伸ばして電気を消す。
「こうやってると修学旅行のときを思い出すねー」
「先週も同じこと言ってたでしょ」
「そうだっけ?まあほら、でも修学旅行のときって好きな子の話とかしなかった?」
「・・・」
「いたいた、そうやって寝たふりするやつ。えいこら起きろっ」
いきなり脇腹をつつかれて布団の中でもんどりうつ。
「あはは〜」
「寝かせろよっ」
「あいあい、すいませんでした。おやすみなさいませー」
彼女が黙った。
急に空気が凍ったかのように部屋は静まり返った。
この1時間弱の間に彼女はどれだけの言葉を口にしたのだろう。
彼女のおかげで課題はあまり進まなかったが、代わりに・・・
何も得てはいない。
本当にただ邪魔なだけだった。
「わたし、あんたのこと好きよ」
さっきまでとは全然違う口調で彼女が何か言っている。
「好きじゃなかったら、こんな風に遊びに来ないんだから」
寝言だと思って聞き流すことにする。
「感謝しなさいよ。根暗なあんたに社会のことを教えてあげてるんだから」
いつも聞き流すことにしている。
「・・・あんたが・・・男ならいいのに・・・」
こんなに無意味で邪魔な彼女といつも一緒に寝ているのは。
ボクも彼女が好きだから。
こんなボクを好きと言ってくれる彼女が好きだから。
ずっと、これからも一緒にいたいと思わせてくれるから。
ボクは彼女の家出命令を待っている。
ボクは彼女を待っている。
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