「メテオストーム!!」
若々しい声が聞こえるとほぼ同時に郊外の空き地に七つの火球が落ちてくる。
魔法を撃ったWIZがじっと見守る中、煙がはれると爆心地にあった緑の草はきれいに消滅していた。
轟音のあとの異様な静けさの中、唐突に拍手の音がした。
遅れて音は二つになる。
「上出来だ。」
爆発の範囲から少し外れたところに座っていた商人が偉そうにWIZを褒める。
その言葉にWIZが嬉しそうに振り向く。
「それじゃあ」
「ああ、俺が教えることはもう何もない。もうお前は完璧なフィロスだ。」
WIZは飛び跳ねんばかりに喜んで商人に駆け寄る。
「先代、ありがとうございます!」
「なぁに、俺はなんもしてないよ。お前が頑張ったからだ」
そこにサングラスをかけてタバコをくわえたモンクが割り込む。
先程のもう一つの拍手の主である。
「よく頑張ったなフィロス。今夜はお祝いだな」
大きな手で若いWIZの頭をがしがしと撫でる。
「ソウクさんもありがとうございます!」
ぺこぺこと頭を下げるWIZがはっと空中に視線を泳がせる。
「ぷらきちさんから狩り行かないかってWISきちゃいました・・」
そう言いながら恐る恐る二人の顔をうかがう。
「いいよ、行ってきな。」
商人が笑いながら手を振る。
「帰るときは連絡しろよ。パーティーの準備して待ってるから。」
ソウクはサングラスをはずして優しい瞳を細めて言った。
「はいっ」
若いフィロスは街に向かって走っていった。
残された二人。流れる雲がその形を変え、若いフィロスの背中が見えなくなった頃、商人がゆっくりと腰を上げた。
「あのぷらきちもずいぶんと強くなったもんだなぁ」
「そうだな・・・そろそろ戻るかい?最初のフィロス殿?」
茶化すように言うソウクを無視し、商人は歩き出す。
「懐かしいなその名前」
二人も街へ。自分達の家へと歩き出した。
これはゲフェンに暮らすある冒険者(たち)の物語
ミッドガッツ王国の辺境に位置する街ゲフェン。その中心には観光地でもあり、その際奥には誰も踏み込んだことがないと言われるダンジョンもある塔がある。そんな街のカプラや露店でにぎわう広場から少し離れたところ、鍛冶屋の近くに二人の家はあった。
並んでいる扉の一つを開けるとそこは1DKの小さな城。
帰るなりソウクはエプロンを身につける。
「さて、昼飯は何がいい?」
フィロスは奥の部屋で着替えてから答える。その姿は若いフィロスと瓜二つだった。若いフィロスが順調に年を重ねるとまさにこうな感じであろう。
「肉がいいな。あとで久々に魔法を使うからエネルギーがいる。」
それを聞いてソウクはぎょっとする。
「またやんのかよ。もう転売で儲けるのは飽きたのか?」
「ああ、隠居しても色々とやりたいことがあるんでね。フィロスも一人前になったしな」
そう言いながらフィロスがタンスを漁っているうちにソウクが両手の皿をダイニングテーブルに置く。
「「いただきます」」
二人で向かい合って座り、手を合わせる。食事の挨拶だ。
「今日は豚肉の冷しゃぶだ」
「エネルギーがいるっつったのによぉ」
「心は若くても体はまだオヤジなんだからこれで十分だろうが」
などと話しながらも二人の皿は空になっていった。
食後にソウクが一服しているとフィロスは再びタンスを漁りながら声を上げる。
「なあ、ノビ鎧ってどこしまったっけ?」
「今探してるところの左の奥にないか?」
フィロスがさらなる発掘を始めようとしたときにソウクがタバコの火を消して立ち上がった。
「まて。俺がやる。どうせ後で片付けるのも俺なんだ。ぐちゃぐちゃにされたくない。」
そう言われてフィロスは素直に後ろに下がる。どこかこうなることを期待していたようだ。
ソウクがタンスを探しだしてすぐに目的のものは見つかった。
厚く埃の積もったノービス用の鎧だ。
「よし、準備はそろった。覗くなよ?」
そう言ってフィロスはダイニングと部屋との仕切りを閉じた。
ソウクは気にせず露店でもらってきた蚤の市のチラシを見ていた。
「白ポ原価販売先着100名様お一人10個まで、か。アルベルタはポタもってないんだよなぁ。行くならプロ経由でイズの高速船かな・・・でもそこまでして欲しくもないか。」
やがて隣の部屋から「エロイムマハリクピリカピリララテクマクマヤコン・・・」と怪しい呪文が聞こえ始め、仕切りの隙間から怪しい煙が漏れ出してきた。
しかしソウクは気にせずチラシの隅々まで調べる。
「なんで風フィストねえかなぁ。あれがあれば河童とか倒せんのに」
さらに時が経ち「・・・ヘシン!」と最後に言って呪文が終わった。仕切りがゆっくりと開かれ怪しい煙の濃度が上がる。それが晴れるとそこには綺麗にした鎧を身につけた元フィロスのノービスがいた。肌は瑞々しく張り、四肢は若々しく脈打っている。
「うん、やっぱ若い体はいいね」
しかし偉そうなその物言いは先程までと変わらなかった。
「で、今度の名前はなんだ?」
ノービスは空中に指を躍らせる。その軌跡が光となって文字を形作る。
「Late、レイトと呼んでくれ。」
レイトは体を点検するかように各部を動かす。
「OKレイト、また俺がすることはあるか?」
「いや、今度はまともな殴りだから多分ソロでも大丈夫だ」
「そうか」
レイトは部屋の隅に隠してある金庫を開けて金を取り出す。
「じゃ、4Mほどもらってくな。」
「んなっ!?それじゃ500kも残らん、熱っ」
その言葉に驚いてタバコを落としさらに慌てるソウクを無視してレイトは家を飛び出していった。
「ったく、しゃあねえな。今度はなんになるのかね。」
ソウクは新しいタバコに火をつけながら自分もでかける準備を始めた。
「またスフィンクスで金ためるか。」
しっかり戸締りを確認し、ソウクも出かけた。
レイトが旅立ってから数週間後。
いつものようにソウクが留守番していると、この家には非常に珍しく人が訪ねてきた。
麗しい金髪をなびかせるプリーストである。
ソウクは内心緊張しながらも狭いダイニングテーブルに案内する。
「狭くて汚いところですんません」
狭いのは事実だがソウクがこまめに掃除しているために意外と綺麗である。
「そんな、綺麗じゃないですか。わたしの部屋なんて・・・もっと」
なにやら話したいこととは違いそうな雰囲気を感じたソウクは話を促す。
「あ、えと、ここにテツさんがいるって聞いて来たんです・・・」
合点がいったという様子でうなずくソウク。
「テツ、ね。あいつならもうこの世にいない、かな」
笑いながら言うソウクの言葉に彼女は顔を青くする。俯き暗い雰囲気をまといはじめる。
ソウクは席を立ち、タンスから重そうな広刃の剣を持ってくる。
「これは、テツさんが使っていた剣、ですね。」
「残ってるのはこいつだけなんだ」
ソウクは笑いをこらえながら彼女の反応を見守る。
「テツとはどこで?」
プリーストはあふれ出しそうな涙をおさえながら語りだした。
「あの方は。昔、わたしがまだアコだった頃、フェイヨンダンジョン一階でコウモリに囲まれていたわたしを助けてくれたんです。そのあともしばらく壁をしながらお話してくれて。たくさん色んなことを教えてもらいました。それが・・・剣だけを残して死んでしまうなんて」
ついに我慢できずソウクは吹き出した。
「何がおかしいんですかぁ?」
プリーストは顔を上げてソウクを睨む。
「ごめんね。この世にいないとは言ったけど、決して死んだわけじゃないんだよ。」
プリーストは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら首をかしげる。
「なんて言えばいいのかな。・・・まあ、騎士はやめちまって装備はこれ以外売っちゃったんだけど。あいつは生きてはいる。」
「転生、ですか?」
「んー、違う違う。もともとテツってのが仮の姿だって言ってたなぁ。」
「仮?」
ソウクは食器ダンスの見やすい場所においてあるフォトスタンドを持ってきた。古そうな新米マジの写真から、新しいのは若いフィロスのものまであった。その中から自分と屈強な鎧を着た騎士が写っているものをプリーストに渡す。
「こいつがテツと俺だ。」
プリーストはまた涙を浮かべながら写真を見つめる。慌ててもう一枚の写真を渡すソウク。
「で、こっちが”同じやつが写っている”写真だ」
そちらにはソウクと皮肉っぽい笑みを浮かべたウィザードが写っていた。
「こちらの方は?」
「そいつがテツの本当の姿さ。名前はフィロスっていう。」
「??」
相変わらず頭の上からクエスチョンマークはとれない。
「俺も詳しいことは知らないけど、あいつは魔法で変身してるんだと。」
「・・・へぇ」
ソウクは机の上に写真を並べた。
「これがあいつが若いとき、マジ時代の。んで、最初に変身してテツになったときの。俺があいつと義兄弟の契りを結んだとき、俺がモンクになったとき、あいつが商人になって商売を始めたとき、で、あいつが引退して、弟子をとったとき。」
プリーストはソウクの説明に従って一枚ずつ写真を見ていった。次第にその顔に微笑みが戻っていく。
「その弟子がWIZになったとき。これが一番新しいか。」
「仲がよろしいんですね。まるで家族みたい」
「まあね。俺がいないとろくに料理もしないから」
二人は笑いあって、フィロスの昔話に華をさかせた。
「それで、テツさん、じゃなくてフィロスさんは今どこにいらっしゃるんですか?テツさんではなくてもお礼がいいたいのですけど」
ソウクは苦笑しながら両手をあげた。
「それが、わからないんだ。」
「WISすれば連絡はとれるじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけど。WISするほどの用事もないからさ。あ、もちろん、あんたにあいつの今の名前を教えることはできるよ。」
ソウクはそう言って紙とペンを持ってきて、さらりと名前を書いた。
「Late(らて)・・」
「いや、本人は「レイト」と名乗ってたな。」
「レイトさん・・・職業はなんになってるんですか?」
「知らん」
プリーストが再び「え?」という顔をする。
「数週間前に旅立ってから連絡もよこさねえ。今どこで何やってるんだかまったくわからん。」
「気にならないんですか?」
「あー、なんていうかな。あいつなら大丈夫だよ。どっかでのたれじんだならアンデッドになってでもここに帰ってくる奴だから。」
「信じているんですね。」
「いや、アンデッドになって帰ってくれば俺の手で滅ぼせるからな」
ぐっと拳を握るソウク。少しの間の後に二人の笑い声が部屋を満たした。
ゲフェンタワーが長い影を街に落とす頃、ソウクは彼女の宿まで送っていた。
「まあ、そんなわけだから、その名前でWISしてあいつの近況を調べるのは自分でやってくれ」
「はい。・・なんだか緊張します」
「あ、さっきもいったけど、あいつはテツのときとは性格も外見も、文字通りキャラ変わってるから気つけてな?」
「はい。あ、わたしの宿ここですから。」
プリーストは立ち止まって振り返り、深々と頭を下げた。
「本当に色んなお話をありがとうございました。」
「いや、あいつも妙なところで顔広いから慣れてる。あいつに連絡ついたらよろしくいっといて。」
「はい。」
プリーストは夕陽に照らされ優しく微笑んだ。ソウクをそれに手を振り、ふりかえる。
次第にゲフェンの街は夜に包まれようとしていた。
二人は野原で数m離れて向き合った。レイトがじゃらりとチェインを取り出しながら不敵に笑う。
「クラニアルバックラーとTBlチェイン。対人装備のすごさ、見せてやるよ。」
対してソウクは軽く手足を伸ばすのみ。
「俺がプリだからって油断してると痛い目にあうぞ?」
「わかってるさ。殴りプリなんだろ?」
やる気満々のレイトだが相変わらずソウクはのんびりとした構えだ。
「大体、帰ってきていきなり戦おうって、自分の腕を試したいって気持ちが見え見えじゃんか」
「・・・お前、俺の名前を何人に吹聴しやがった。」
「は?・・ああ、義兄貴は意外と顔広いんだな。いろんな人が訪ねてきたよ。」
「そのせいで俺はまた妙に名が広がっちまったよ。せっかく新しい気持ちでやろうって思ったのによ」
ぐっとレイトはチェインを握りしめる。
「まあ、そういう思いもこめての『戦い』だ。お前も本気を出せ。」
(そういうことなら先にいっとけよ)と思ったソウクだが言うと余計に火に油を注ぐだけなのでやめておく。
「言いたいことがあるなら今のうちにいっておけよ?」
レイトはそう言うと構えた。
「ないよ。終わってからいくらでも言うけどな。」
ソウクもやっと少し構える。
「じゃあ、行くぞ!」
二人同時にブレス、IAをかける。レイトは続けてIMをかけ、キリエを唱え始める。
(相手を目の前にしてやるか、まだまだ前衛には慣れてないんじゃないか?)
そう思いながらソウクはそのディレイと詠唱の隙を逃さず殴りかかる。
「残念でした。」
ソウクの視界からレイトが消える。同時に背後から「キリエエルレイソン!!」と声が聞こえた。
「くっ?!」
ソウクが振り返るとレイトが余裕の表情で立っていた。
「今回はAGI型。お前程度のHITじゃかすりもしねえよ。」
「そうかねえ?」
ソウクは得意そうなレイトを見てため息一つつき、殴りかかった。
「三段掌!!連打掌!!猛龍拳!!」
軽くリズムを刻みつつ放たれる拳の連打をレイトは紙一重でかわしていく。
「む、本当にAGI型になったのか。」
ソウクは拳を止めて間合いをとる。しかしその間合いをレイトが一瞬でつめる。
「次はこっちの番だ。」
ソウクが身構えるよりも早くレイトのチェイン連打が襲う。
「きっつ・・・ヒール!!」
ソウクは受けたダメージを回復しつつも反撃するが全て回避される。
「さすがに堅いなソウク。でもお前の攻撃は俺にはあたらん。降参するなら今のうちだぞ」
ソウクはレイトの攻撃に耐えながら気を溜め始めた。
「気功!!気功!!気功!!気功!!気功!!爆裂波動!!気功!!気功!!気功!!気功!!気功!!」
それを見て攻撃を続けながらレイトが笑う。
「阿修羅か?だがお前の長い詠唱なんて軽く止められるぞ?」
瞬間、ソウクの手が今までにないほど早く動く。
「どうかな?」
「!!」
ソウクの左手とレイトのチェインを持つ右手が鎖に絡まり、二人の腕はしっかりつながれていた。
「白刃取りか?!」
一瞬驚愕するレイトだがすぐににやりと笑う。
「たしかお前の白刃取りはレベル3.指弾までしかできないだろう。苦し紛れに白刃取りしたってそんなんあたらん。」
「言っとくが俺だってお前がいない間ただ留守番してたわけじゃないぞ」
「?」
「ジョブレベルも上がった。」
「・・・!」
「白刃取りもレベル5になった。」
「ま、まさか」
レイトは逃げようと腕をふるが絡まった鎖をレイトがしっかりと握っているので間合いを広げることも出来ない。ソウクは全身に溜めた気を右手に集めだした。レイトは抵抗をやめ、ソウクを見つめた。
「ううむ、阿修羅は警戒してなかっ」
「阿修羅覇凰拳!!」
ソウクの全身全霊をかけた一撃がレイトの鳩尾を直撃する。レイトは沈黙し、勝負はついた。
レイトが目を覚ますと部屋の中にはうまそうなスープの匂いが漂っていた。台所に行くと慣れた様子でソウクが鍋を火にかけていた。
「お、起きたか。傷はいたまないな?」
「あ〜そういわれると腹が」
「・・・手加減してうったんだが、殴りっつっても貧弱なんだな。」
「いくら殴ってもかすり傷な化け物と違って繊細にできてんだよ」
「それだけ減らず口がたたけるなら大丈夫だな。」
笑ってソウクは二人分のスープを置き、二人は手をあわせた。
「「いただきます」」
食器棚のフォトスタンドには、その手をしっかりと鎖につながれて、片方は泡を吹き、片方は満面の笑みを浮かべている写真が並んでいた。
これはゲフェンに暮らすある冒険者(たち)のお話
今回はここまで
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