栃木県日光市
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奥日光

 日光というと、大きく分けて2つの側面があります。東照宮に代表される日光山内と、戦場ヶ原を中心とする奥日光地域。前者が人工的な遺産であるのに対し、後者は自然遺産。異なるタイプの観光が楽しめる稀有な観光地ですね。日本を代表する景勝地である奥日光は、風景写真や自然観察のメッカでもあります。絶好のバードウォッチングスポットであるため、初夏の繁殖シーズンには多くのバードウォッチャーが訪れます。ただし一大観光地である奥日光は、一般の観光客が相当多いので、行楽シーズンの休日は大混雑します。早めの行動を心がけましょう。今回紹介するコース自体は、一般の観光客はあまり立ち入らないのですが、そこに行くまでが大変なのですね。

 ひとくちに奥日光といっても広大な地域を含み、そこにはさまざまなスポットがあるのですが、代表的な探鳥地として戦場ヶ原を取り上げましょう。日光には霧降高原をはじめ、このほかにも多くの魅力的なコースがあるので、折を見てご紹介したいと思います。

 戦場ヶ原は、標高1400mに広がる高層湿原です。隣接する小田代ヶ原と合わせて、東西約3.5km、南北約2.5km、広さはおおよそ5〜6平方kmにもなりましょうか。ここは太古、湖だったところで、ミズゴケなどが長い年月をかけて泥炭化した高層湿原です。高層湿原というのは、ミズゴケなどが枯死しても低温のために腐敗せず、泥炭化して堆積していった結果、水面よりも高くなった地形をいいます。堆積のスピードは年に1mm程度と言われています。戦場ヶ原はだんだん乾燥化が進み、今は草原になりつつあります。湿原の周囲は、ミズナラやシラカバ、カラマツなどの森になっています。5月下旬から6月上旬にかけては、赤沼から光徳にかけて、ズミの花が咲き誇り、ハイカーの目を楽しませてくれます。ズミはバラ科の落葉高木で、サクラによく似た淡いピンク色の花を咲かせます。上高地では、俗称のコナシという名前で有名ですね。ただ、このズミという木は湿原の乾燥化を促進する木で、必ずしも歓迎すべきものではないようです。
 戦場ヶ原という地名の由来をご存知ですか? その昔、日光男体山の神様と上州赤城山の神様が、中禅寺湖の所有をめぐって戦った場所だという伝説に基づいています。実は赤城山の神様の方が優勢だったのに、どういうわけか鹿島神宮の神様が日光に加勢した結果、日光の勝利に終わったそうです。だから中禅寺湖はここにある、ということなのですね。私見ですが、戦場ヶ原はとても広いので「千畳ヶ原」というのが元々の名前だったのだと思います。箱根の仙石原も恐らく「千石原」が転じたものでしょう。

 さて今回紹介するのは、赤沼から戦場ヶ原自然研究路を進み、泉門池(いずみやどいけ)、湯滝を経て湯ノ湖の請願を一周、湯元温泉に至る、奥日光で最もポピュラーな探鳥コースです。

 駐車場とビジターセンターがある、赤沼茶屋前から出発します。途中、湯滝までトイレはありませんので、ここで済ませておきましょう。駐車場入り口と国道120号線沿いにあります。ここのトイレは、公衆トイレにしては珍しいほど清潔です。余談まで。

しばらくはミズナラの森の中を進みます。シジュウカラ、ヒガラ、コガラ、ゴジュウカラなどが見られます。300mほどで竜頭の滝方面に行く道と分岐、湯川の左岸に沿って進んでいくと、だんだん右手が開けてきます。オオルリ、キビタキ、ミソサザイなどの名歌手たちが美しい囀りを聞かせてくれます。アカゲラ、オオアカゲラ、カッコウ、ホトトギスなども常連です。湯川にはマガモが泳いでいます。ここでは水温が低いため、夏でもマガモが見られます。
 赤沼から約800m進むと湯川を離れ、湿原内の木道歩きが中心になります。開けた環境を好むホオアカやノビタキが多く見られるようになります。トビ、クマタカなどの猛禽類を見るチャンスも多いので、時々空も眺めてみましょう。

 出発から約1.7km、美しい泉門池に着きます。朝早くから歩き始めた人はここで大休止。ここからまた湯川沿いに林間の歩きになります。奥日光で最も美しい場所のひとつでしょう。比較的低い木の枝先を好むキビタキは日光市の鳥。オオルリは栃木県の県鳥でもあります。コルリやエゾムシクイなどは、美しい声ですがなかなか姿を見せてくれません。出発から約3km、小滝という小さいながら美しい滝の手前で分岐、右岸を行くコースと左岸を行くコースに分かれますが、目的地は同じ、湯滝の下に到着します。

 湯滝の脇にある坂をジグザグに標高差50mほどを登り、滝の落ち口に出ます。この滝は湯ノ湖から落ちるのですが、その落ち口を上から間近に見える珍しい滝なのですね。ちなみにこの流れは、先ほどの小滝、泉門池を経て、自然研究路に沿って流れ、竜頭の滝となったあと、中禅寺湖に注ぐときには地獄川という恐ろしげな名前になっています。

 湯ノ湖に出たら、一周してみましょう。ヤブサメの「シーシーシー」という高くか細い声、センダイムシクイ、キクイタダキの姿が見られるかもしれません。右に行くと国道120号線沿いに約1.6km、左に行くと湖沿いに約2kmで湯元温泉(バスターミナル附近)に着きます。ここからバスで赤沼まで戻ります。(410円)

 以上、約6.3kmのコースになります。出発地の赤沼の標高1390m、到着地の湯ノ湖の標高1480mで、標高差約90mですが、湯滝の坂以外はほとんど平坦です。普通に歩けば2時間ぐらいのコースですが、バードウォッチングでは3〜4時間見たいところですね。逆のコースもありうるのですが、湯元行きのバスは日光駅発で、時間があてにできないのでお勧めできません。

★裏技をひとつ。
 折りたたみ自転車を車に積んで、湯元の駐車場に車を置いて赤沼まで自転車で行きます。湯元から光徳までは下り坂、赤沼までは平坦なので、自転車でも楽です。約5.5kmですから20分程度でしょう。赤沼に自転車を置いて湯元までハイキング、帰りは赤沼で自転車を回収して帰ります。

 車数台で行く場合、赤沼に人を残して運転手だけが湯元に行き、残りの車を置いて1台で赤沼まで戻る方法もあります。これは人数と車の台数、乗車定員の問題もあって一概には言えませんが、10数人でワゴン車が2台程度あれば可能な方法です。

奥日光までの交通

※ 車で
 奥日光に至るルートは3本あります。

1.いろは坂
 東京方面からだと、東北自動車道宇都宮ICから日光宇都宮道路に入り、終点の清滝出口から約4.5kmで馬返。ここから天下のいろは坂。中禅寺湖まで約10km、標高差400mを一気に上るのは第2いろは坂、下りは第1いろは坂。いずれも一方通行です。第2は新しいだけにカーブもゆるやかで走りやすい。第1は正真正銘のヘアピンカーブで、特にカーブの内側は非常にきつい傾斜になっています。乗用車では何ということもないのですが、大型バスには難所で、下りの渋滞の原因は大型バスがカーブを一度では曲がりきれないことにあります。
 いろは坂といえば、渋滞の名所です。特に混むのは紅葉時期の10月中旬から下旬、ゴールデンウィーク、夏休みの土日など。こういう時期には上り切るのに4〜5時間かかることもざらにあります。一方通行なので引き返すことも出来ず、ひたすら耐えるのみです。この渋滞を避ける方法は混雑する時期と時間をずらすこと、渋滞が始まる前の早朝や深夜に通過してしまうことです。

2.金精峠超え
 関越自動車道沼田ICから、国道120号線を尾瀬方面に28.5kmで鎌田。左に尾瀬大橋を見ながら、道なりに国道120号線を日光方面に進みます。鎌田から24kmで金精トンネル、湯ノ湖まで6kmです。途中、丸沼、菅沼の2つの沼、ゴンドラを利用して標高2000mの白根山登山口までの空中散歩も楽しみです。
 このルートはいろは坂のような混雑はありませんが、冬季は閉鎖になります。

3.山王峠超え
 以前奥鬼怒林道、または山王林道と呼ばれていた穴場ルート。栗山村の川俣温泉から山王峠を越えて光徳まで通じています。昔はダートのかなりハードな林道でしたが、今では全線舗装されてしまいました。しかし、特に栗山村側は1.5車線中心の狭くてタイトなカーブの連続で、初心者にはきついかもしれません。混雑するようなこともないし、峠附近の紅葉は特に美しいので、私はよく利用します。

 奥日光に至る道は、このほかに男体山中腹を通る、野州原林道と志津林道をつなぐコースもありますが、一般車は通れませんので念のため。

 以上、3本のコースを紹介しましたが、日光は本州でも特に寒冷な地域で、俗に北海道並みとまで言われます。春や秋には思わぬ雪や道路の凍結に十分注意してください。

※ 公共交通機関で
 JR日光駅または東武日光駅から日光湯元行きのバスで、湯元まで約90分、1650円。ただし時間は渋滞の状況によります。

奥日光の駐車場事情
 今回は、赤沼発のコースを取り上げましたので、赤沼駐車場を使うことになります。奥日光にはこのほかにも各地に駐車場がありますので、コースにあわせて上手に利用したいものです。くれぐれも路上駐車はご遠慮ください。

■ 菖蒲ケ浜
 中禅寺湖畔、竜頭の滝よりやや手前にある駐車場。割とすいているので穴場的存在。ここを起点に中禅寺湖の遊覧船に乗るのも一興です。特に千手ケ浜のクリンソウが最盛期を迎える6月には、千手ケ浜行きの船が出ます。

■ 竜頭の滝下
 国道120号線が中禅寺湖を離れて約600m行ったカーブの右側、竜頭の滝を目前に見る名所、地獄茶屋の前にある駐車場。ここはメジャーな観光スポットで、観光客が集中します。観光シーズンにはすぐ満車になってしまいます。早朝ならばOKでしょう。

■ 竜頭の滝上
 先ほどの地獄茶屋前の駐車場から国道120号線をくねくねと1.3kmほど、標高差で60mほど上ったところの左側にあります。竜頭の滝を橋の上から眺められるとあって、人気のある場所です。先の駐車場ほど混雑はしませんが、駐車台数は30台程度でしょうか。

■ 赤沼
 竜頭の滝上から、約700m。右手に赤沼茶屋の看板、左手には公衆トイレのあるところを右折してすぐの場所です。小田代や千手ヶ浜に行くバスの発着地でもあるため、最も混雑する駐車場です。小田代はアマチュアカメラマンのメッカ。小田代への早朝バスは4:00始発なので、前日の夜から泊り込みの人も大勢います。駐車台数はかなり多いのですが、行楽シーズンの休日、9時過ぎにここに駐車しようとしてもまず無理です。少し先の三本松の駐車場に停めて15分ほど歩くのが頭のいいやり方。

■ 三本松
 赤沼から約1km先。赤沼が満車でも、三本松は比較的余裕があります。ここが満車の時は奥日光全体がよほど混んでいる証拠です。

■ 湯滝
 ここで紹介する駐車場のうちで、唯一有料の駐車場ですが、超有名観光スポットのため、やはり混雑は避けられません。三本松から約2.3km、国道120号線から左に折れ、直進すると料金所があります。駐車台数もそれほど多くありませんので観光シーズンには渋滞になります。国道沿いの湯滝上にも、わずかですが駐車スペースがあります。湯滝を上から眺められるスポットです。

■ 光徳牧場
 国道120号線からは離れてしまいますが、穴場的な場所。三本松から約1.1km、光徳牧場の入り口を右折して約1.5km、右手に駐車場があります。ここは特別混雑するようなことはありませんし、赤沼まで3.5km、湯滝まで3km程度ですから、ハイキングにはちょうどよい距離です。奥日光は歩いてこそ魅力があるのですから。
 また、光徳牧場、光徳沼附近もバードウォッチングの好適地です。

■ 湯ノ湖
 湯ノ湖周辺には、数箇所あります。早い時間帯ならば、ほぼ大丈夫でしょう。

一味変わった見所

■ 旧イタリア大使館夏季別荘
 1928年に、建築家アントニン・レーモンド(1888年、チェコ生まれ)の設計によって建てられ、最近までイタリア大使館の別荘として使われてきましたが、1998年に栃木県の所有になり、2000年から一般公開されています。この附近には、大正から昭和初期にかけて多くの外国公館関係の別荘が建てられました。このような時代を偲ぶものとして、建物内の展示とともに、建物自体を最大の展示物として構想されたものです。中禅寺湖を望む、恵まれた自然のなかに建つ木造2階建ての瀟洒な建築です。外観を特徴づけている杉皮とコケラ板の市松貼は、竣工当時の姿をを再現したものです。中宮祠から中禅寺湖道路方面に向かってすぐのところにあります。

■ 日光田母沢御用邸
 東照宮からいろは坂方面に少し行くと、日光田母沢御用邸記念公園があります。御用邸は、明治以降に建てられた皇室の別邸であって、塩原、熱海、鎌倉など12箇所を数えましたが、今では大半が失われ、現在では那須や葉山などを残すのみになっています。
 田母沢御用邸は、建築当時の全容をほぼ留めている唯一のもので、1996年に国から払い下げを受けた栃木県が修復工事を行い、2000年から一般公開されています。
 敷地は大谷川の南岸に広がる33000坪、もとは地元の日光銀行の頭取を務めた小林年保の別邸があったところで、宮内省が買収し、当時の赤坂離宮の一部を移築。その後移築や新築、増築を繰り返しました。大正時代には大正天皇の御用邸として大規模な増築が行われ、現在では約4470uの規模になっています。公開されているのは建物の一部ですが、日本建築の粋を集めた造作の見事さを堪能してください。食堂床の寄せ木細工や障子の格子(縦横の桟が交互に組み合わされている)、畳の縁の模様の合わせ方など見所いっぱいです。
 江戸、明治、大正の各時代の建築様式が渾然と一体になった極めて見ごたえのある建築となっています。庭園も見物です。