2007/08/09 (木) 7:24 pm 更新
新潮文庫。
主人公である頭の悪い女子高生文体よりも、頭のおかしいグルグル魔人文体の方が凄い。脳内でぐるぐるしてる擬音まじりの無秩序な言葉が溢れています。意識がだだ漏れ。無意識を記述するよりも意識をそのまま記述する方が、ずっと頭がおかしく感じられるのかもしれません。その上ずっと難しそうだし書くのは恥ずかしそう。
女子高生の脳内キャラのシャスティンや、グルグル魔人が一人称になることの説得力はほとんどなく、ただ面白いから書いている感じが伝わってきます。そして実際に面白い。お腹にナイフをめりこませる遊びだけでも、生理的にかなりの嫌悪感のある「森」の描写は普通にうまい。シャスティンは文才がありますね。ただし頭の悪い女子高生の見る夢の「崖」はつまらない。頭が悪いから仕方ないか。小説の中でも、桜月淡雪が「想像力が貧困」
だと指摘していますが。
短篇の「川を泳いで渡る蛇」は、舞台が調布近辺なことくらいしか共通点がない純文学らしい純文学でした。調布から自転車に乗って稲田堤まで行く話。
A-2007.04.13
新潮文庫。安部公房の、完結しているものとしては最後の長編。
夢を舞台にしたロードムービーといった感じでしょうか。これまでの長編と比較すると清々しいまでにシンプルな構造ですが、死をモチーフにしたエピソードが次々と繰り出され、先の展開は全く読めません。知るはずのないものが何故か分かったり、抜群の記憶力を保てるなど、夢としてのリアリティはかなりあります。
シンプルな構造、と書いたことについて補足。個々のエピソードは深読みしようと思えばできますし、しても結局本当のところどんな寓意が込められているのかわかりませんが(つまり難解?)、著者も『不思議の国のアリス』の影響を受けていると言っているように、構造はアリスに近いです。 アリスの中の個々のエピソードも『カンガルー・ノート』のそれと同じくらい意味がわかりにくいものだから、『不思議の国のアリス』と同じくらいわかりやすいとも同じくらいわからないとも言えます。
B+2007.02.19
新潮文庫。
面白い。たくさんのモチーフ、アイディアが詰まっています。でも舞台の採掘場跡の情景が想像しにくくなかなか疲れます。長いし。安部公房の長編の中でこれより長いのは『燃えつきた地図』くらいかな…?
安部公房らしくなく、ロジックよりもキャラクターで読ませる小説です。キャラクターが強烈な方々が出てきます。主人公もその1人です。キャラクター性を感じるのは、キャラクターに自由意志を感じるからでしょうか。それはラストの女の行動に端的に表れています。
A-2007.02.16
新潮文庫。少年がトキの密殺を企てる話。
中表紙、奥付、各ページの上部などに書かれているタイトルの文字の、「ア」だけが妙に大きく感じる、なぜだろう、と思っていたらそれはちゃんと意味のあることだったようです。細かい仕事でニヤリとさせてくれる、よく出来た本です。(偶然錯覚のような作用が働いてしまっただけで、意図されていない可能性もなくはないですが…)
文体は普通です。普通の小説です。「鏖」で顕著だった饒舌な語りは影を潜め、また、手記のようなメタな形式を採っているわけでもありません。Wikipediaの「現代文学」の項に阿部和重の名前が載っているのが嘘のようです。しかし、記述されているロジックは『無情の世界』の各短篇に通じるものがあり、少年がトキにアイデンティティを求めていくさま、およびトキの密殺が確信として導き出されるさまが見事に描かれています。
斎藤環の解説の、表紙の読解は、目から鱗でした。これは気付かなかった…。自分の、オタク文化に対する親和性が、如何に足りていないか思い知らされました。
B+2007.01.14
新潮文庫。短編集。
「トライアングルズ」は最後に出てきた「最悪の男」の存在意義がよく分かりませんでした。解説で加藤典洋が書いているように、オイディプスにおけるスフィンクスなのだとすればその存在に納得できなくもないですが、学のない自分は普通に読んだだけではそんなのわかりません。なおこの解説は、この短篇がオイディプスを下敷きにしているという事がわかった以外に、全く読む価値のないものでした。
表題作は短いながらも緊張感のある良く出来た短篇です。「鏖」はそれが長くなったような感じか。ややオチが安っぽい感じもしますが。
どの話も、読んでいる最中は饒舌な日本語、視野狭窄に伴うキチガイ論理などの効果によって楽しめますが、読んだ後に人生や社会、文化について考え思索を深めるようなことは特にないでしょう。
A-2007.01.11
新潮文庫。古本屋で最もよく見かける阿部和重の本です。
とても面白かったです。やはりハルヒのようなつまらない小説ばかり読んでいてはダメですね。反省しました。だからといって、このような空虚なポストモダン小説ばかり読んでいればいいというわけでもありません。どのように空虚かというと、やはりまともな感想が思い浮かばないところでしょうか。解説を書いている東浩紀のように、碩学でかつ精神修練によって培われた高度な抽象能力を持っていないと、まともに語ることが出来ません。
まあメタな部分は気にせずとも、物語がよく出来ていますし、感情移入も自然に行えます。つまり普通に面白い小説でもあるのです。ただし、主人公の混乱に読者は最後まで付き合わされて結局その混乱が解けず頭を悩ませることは覚悟しなければなりません。
A2007.01.10
角川スニーカー文庫。ハルヒ8冊目。中篇2つ。ついに既刊のハルヒを読破しました。
「編集長★一直線!」は部室存続を賭けた文芸部話で、共感できる素材が揃っているのですが、特に読みどころはなし。朝比奈作のポストモダン童話は就中しょうもなさすぎ。長門の抽象小説の1つ目は普通に出来が良いような気がします。
「ワンダリング・シャドウ」も特に面白くはありません。大いにマンネリ。キャラに萌えられる人は、人情に薄かったハルヒがこんなに犬のことを心配してる!とか色々思うところはあるのでしょうけど。
B2006.12.29
角川スニーカー文庫。ハルヒ7冊目。長編。長い。
時間移動によってそこそこミステリっぽい展開を見せて、新しい伏線を散りばめて、そこそこ萌えさせ、キョンが何だか成長したような事を語ります。安定していますね。「寄贈」と記されたチョコレートは良かった。
安定し過ぎていて書くことがあまりないので、言葉の誤用でも論いましょう。P299に「握りっぱなしだった記憶媒体が汗ばんでいるのに気づく。今日の命題はこれだったはずだが、これが何なのかよりも気になることができちまったな。」
とありますが、記憶媒体の真偽値が気になってしまうところです。なお、ラスト付近で「情けは人のためならず」が出てきますが、こちらは正しい意味が記述されています。意味が正しいからといって、有効に使われているわけではないのだけれど…。
B2006.12.24
角川スニーカー文庫。ハルヒ6冊目。前の巻とはうって変わってつまらない短編集。
「朝比奈ミクルの冒険」がこんなに長い話だったとは。全く酷い映画です。そもそも作中で酷い映画だとされているものの詳細を記したところで面白くなるはずがありません。
「猫はどこに行った?」もつまらない。同じく古泉の作り出した話である「孤島症候群」はそこそこ面白かったのになあ。まあ作中で古泉が「僕は犯人にも計画犯罪にも向いていません」
と言っている以上、素敵なトリックであるわけにはいかないのでしょう。古泉というよりむしろ作者の言い訳に聞こえるけど。
「朝比奈みくるの憂鬱」は、未来で重要な役割を果たす人間を助けるというのが『T・Pぼん』っぽくてちょっと良いですね。ちょっと。ほんとにちょっと。
やっぱり変な時間や空間に迷い込んだりしないとハルヒは面白くないな。
B-2006.12.21
角川スニーカー文庫。ハルヒ5冊目。短編集。これは全体的に面白かったです。
「エンドレスエイト」は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』のようなもので、『ビューティフルドリーマー』好きとしてはなかなか良い短篇でした。オチはてきとうというかトンデモだけど。
「雪山症候群」も面白い。オイラーの多面体定理が如何に脈絡のない扱われ方をしていようが、結局謎のままであろうが、主人公が消失の後始末をしていないことに気付くところだけで十分面白かったというか戦慄を与えられたから問題なしです。過去に戻って自分(達)を助ける、というのは『のび太の大魔境』みたいで好きです。
B+2006.12.18
角川スニーカー文庫。ハルヒ4冊目。
3巻まで読んだと言うと、ハルヒ信者の方々はせめて4巻までは読めと言ってきます。つまり4巻は傑作のようです。確かに、これまでよりは面白かったような気がします。まあまあSFっぽくて。といっても、これまでに比べてSFっぽさが3割増しされた程度ですから、多くの人々はこれをキャラクター萌え小説として享受しているのだと思われます。そうでなければ、あまりに物語の教養が足りなくて、こういった話が新鮮に思えてしまう方々なのでしょう。小学生とか…いや、中学生でもいいか。いずれにしても、この巻は、萌え小説としてもこれまでよりクオリティが高いですし、傑作とされているのも納得です。
B+2006.12.17
角川スニーカー文庫。ハルヒ3冊目。短編集。
表題作の野球をやる話は実につまらない。
「笹の葉ラプソディ」はまあまあ。何かの伏線になるのかな。
「ミステリックサイン」はなんとも安直な話だけれど、この話の警句は、コンピュータ部の部長なんかやってる奴にかわいい彼女がいるはずがない、ということでしょうか…と考えると少し面白く思えてきます。
「孤島症候群」はかなり番外編的な話。密室殺人が起こります。まあまあ面白いですが、未来人や宇宙人や超能力者がいる中で密室殺人ミステリーをやられても、どうせ世界は何でもありなのだからと思えてしまって、密室のゲーム性を感じにくく、読んでいてもトリックがあまり気にならないという問題があります。
B2006.08.21
角川スニーカー文庫。ハルヒ2冊目。
ハルヒを読んでいると、だめだ、だめだ、って言われます。確かに、実にバカにされそうな感じであります。尊敬されなくなったり、不当な差別を受ける可能性すらあります。何故このようなものを読んでいるのでしょうか。きちんとした理由があれば、これらの問題を回避できるかもしれません。何かあるかなあ。
この巻のハルヒは常にドキュンであり、したがってうざいドキュンに振り回される溜息の出る話となっています。でもオチはそんなに嫌いじゃない。予想はできなかったので。あとは、左右の目の色が異なる、目からビームなど、くだらないフィクションの基本を押さえた設定が良かったです。
B2006.07.24
角川スニーカー文庫。
序盤ではハルヒは異物感のあるキャラクターでしたが、読み進めていくにつれ(相対的に)ただのドキュンとして認識できるようになります。それが最も面白かったところです。
SFネタはよくわからない。こんなにメタ度の強いものがここまでメジャーになってしまうのはやはり不思議な感じがしますが、時代の趨勢を反映しているのでしょう。気付けば自分の描いている漫画だってメタなものばかり。メタなものを描いていてはメジャーになれないのではないか、といった不安を感じる事になりますが、それをハルヒによって拭い去る事が出来ます。
なお、K宮に「nitaさんハルヒの感想も書いてくださいよ」「2chに貼るから」「多分恐ろしいことになるよ?」「掲示板は荒れ、絵版は下品な絵ばかりになり、サーバはアクセス過多でダウンし……」「すべからく間違ってたくだらんとか書けよ」「最低と書くんだ」
などと言われ、頑張って批判しようとしたのだけれど、失敗しました。
P97の「すべからく」の用法は誤用かどうか微妙。「五月の中旬に転校することになった学生がすべからく謎的存在なのだとしたら、日本全国には謎の転校生がたくさんいるんじゃないかと思うぞ。」
B+2006.06.27
2年以上前にBLUFFer少年から借りた児童文学です。ようやく読む。遅すぎ。
阿修羅と言う名前の魔法使いが出てきます。地の文では、「阿修羅」と漢字で書かれることも、「あしゅら」とひらがなで書かれることもあります。これは、視点を変化させている為でしょうか。何だか曖昧な感じだけれど。
難しい(?)漢字や造語に付けられた意訳のようなフリガナが独特です。呪を「エナジ」と読ませるような。独特すぎてとても自然に読めません。小学生が間違って英語を覚えてしまう危険性があります。また、「なにげに」という言葉を使っていますが、児童文学なのに、地の文なのに、宜しくない言葉遣いです。
話は普通でした。そのため、上に書いた事や、主人公が母親を「ままさん」と読んでいることなどが印象に残っています。
B2006.01.25
角川文庫。
安定して面白いけれど、過去を振り返って、だから今はこうしなければならない、みたいな心理描写がさすがにくどいかな、と思いました。いやもうすごくすごくものすごく真面目で。真面目なのが嫌いなわけではないけど、巧も豪も著者も一様に真面目というかパラノで、著者以外には解釈を許さないかのような頑固さがあります。容赦なくテクストを読み砕く他者から、どのように小説を防衛したら良いか考えさせられました。何が言いたいのかというとつまり、著者のあとがき面白い。
B+2004.10.06
角川文庫。
コミケで高野さんに借りました。高野曰く「今まで読んだ中で一番好きな本」
。さすがにかなり良く出来ていると思いました。加えて、「おれ、おまえ好きじゃ」
とかそういう台詞を織り交ぜればそりゃあ人気が出るだろうなあと。
バッテリー間の視点変更が自然で巧いです。どうでもいいかもですが「なんかオリックスみたいな名前じゃな」
という台詞が印象に残りました。あと、「松井とかイチローとか藪とか」
という台詞は時代を感じさせますが、藪のメジャー行きを予言しているようでもないですか(ないって)。
B+2004.09.02
角川文庫。
かねてより自分は、「オタク」の対義語は「一般人」ではなく「普通人」だと主張していましたが、この本では「狂人」の対義語として「普通人」が用いられています。ならば当然「オタク」の対義語も「普通人」でなければならないはずです。自分の主張はより一層堅固なものとなりました。
B+2004.07.01 上巻読了
呉智英の元ネタ(ペンネームの)。ようやく読み終わる。
最後の方は急展開過ぎてよく分かりませんでしたが、読みにくい古文調のあたりよりは楽しく読めました。急展開の前のたくさんの謎が解明されるあたりも面白かった。でも、この急展開とか解剖台上の少女とか分からない事ばかりでストレスが溜まります。実験的な手法は1935年当時としては珍しいものだったのかもしれませんが(もっとも、今これと同じようなことをやろうとしたら結構恥ずかしいと思う。でも自分は恥ずかしげもなくやってしまいそう…とか、そういったところではかなり考えさせられた小説です)、それを楽しむにしてもさすがに長くて大変でした。凄い小説であることは確かだと思うけれど、「読んで良かった」とはっきり言えるかというと…難しいかも。
正木博士の木魚叩いているあたりの文章って錫屋氏っぽい。気の所為かも。
B+2004.08.30 下巻読了
角川文庫。ブックオフで100円でたくさん売っているのをよく見ます。自分は一年くらい前に10円で買いました。
内容は、ふつうでした。
最近は鷺沢萠の小説がよく教科書に載っているようですね。確かに載せ易そうですが、このような小説を「正しく」読解しなければならないのかと思うと、国語が嫌いになりそうです。こういうのは深く考えないで読むのが良いのではないかと…。
B2004.04.16
幻冬舎文庫。
これまでに読んだ乙一作品の中で最も良かったです。社会性に欠ける人間が社会性に欠ける人間と触れ合う事により、お互いに社会性を取り戻してゆく…というか取り戻すかもしれない話で、そのような登場人物に感情移入出来てしまうのは、自分がコミュニケーション弱者として生きてきたことの証明でしょうか? まあ乙一の小説を読むと 大体そんなふうな事を思ってしまうけど、この作品ではコミュニケーション弱者同士が巡り会って起こる奇跡みたいなものが非常に丁寧に描かれており、コミュニケーション弱小説としてとりわけ普遍的で、そして書かれなければならない内容です。
A2004.04.13
短編集。これまでに読んだ乙一の短編集の中では最も良かったです。
表題作の「石ノ目」は、普通は何となく「石ノ眼」と題してしまいそうなところなのに、画数の少ない字を選んでしまうのは画数の少ないペンネームを持った作者らしくて良いですね。「画力はすぐに上達したが」
という言い回しがちょっと気になりました。
「はじめ」はとても良かったです。ここまで身も蓋もなく書いて、ちゃんとしたお話になるのはすごいなあ。
「BLUE」は、人形作家がピストル自殺した原因の解明を楽しみに読み進めていたのですが、そのまま読み終えてしまい困りました。割と普通の話です。まあこれはこれで。それにしても、ブルーは全然『奴隷』じゃなかったですね。
「はじめ」とは違う次元で身も蓋もない「平面いぬ。」は刺青が動く話。刺青が動くと言ったら津野裕子の傑作「Identical Twin's Garden」を挙げないわけにはいきません。津野裕子最高! 自分の周りには津野裕子の漫画を賞賛する者が一人も居らず、常々残念に思っているところですがそれはともかく、乙一は手紙で物語を終わらせる事に何か拘りでもあるのでしょうか? 身も蓋もない手法が冴え渡るこの話でそれをやられると、最後だけもの凄く律儀な印象が残ります。律儀な締め、というのは乙一の特徴だと思っているのですが、この話は特に。
A-2004.04.05
集英社文庫。光波氏から借りたものですが、「店長おすすめの一冊!」
(その下に集英社文庫
と記載)と書かれた赤い帯が付いています。本の流通のシステムはよく分かりませんが、これは、『里見の謎』の「オススメRPG」シールと同じようなものなのか、本当に店長がおすすめしていて店で帯を付けているのか、どちらなのでしょう。(それ以外の可能性も高そうですが…)
本の中身は、トイレの○○○さん(ネタバレではなく目次にも書いてあるのだけど、書くと脱力するので伏せ字にする)の話「A MASKED BALL」と、こっくりさんの話「天帝妖狐」の中編二つです。
前者はともかく、後者は本当にホラーのようでした。ひらがなや異形の描写が小林泰三っぽいからです(適当な理由…)。しかし、『失踪HOLIDAY』の「しあわせは子猫のかたち」と似たような、綺麗事を並べた手紙の結末が、自分の好みばかりでなく着想の点から見ても気になりました。導入はすごく好きなんだけどなあ。文庫化にあたり大幅に書き直されたらしいので、オリジナルのジャンプJブックス版も読んでみたいです。ところで、「早苗」という字は夜木の独断で決定されたのでしょうか。そうだとすれば、随分と勝手ですね。
そんなわけで、感覚的には「A MASKED BALL」の方が好きですが、こちらは完成度が段違いに落ちます。V3=前川先生っていう理解で正しいのでしょうか。変な伏線が多くてすっきりしないなあ。あと、後藤先生が被害を受けるのが理不尽過ぎます!
B+2004.03.26
集英社文庫…のデザインってダサくないですか? 見慣れていない所為かなあ。
表題作は乙一のデビュー作。16歳の時に書かれたものだそうで、まったくもって癪ですね。従ってそんなに冷静に読めるはずもなく…と思ったのですが、冷静に読めてしまいました。これはどうしたものかと思ったら、既に自分は16歳から程遠い年齢なのでした。それゆえに対抗心なんて燃やせるはずもなくて。なんということでしょう! それはともかく、漫画みたいな展開のくせに、小説であることを生かした内容で、しっかり面白かったです。
併録の「優子」も面白いですが、強引過ぎるオチと、政義と優子がまったく同じ料理に手をつけず、そのまま食べ残している
事に対する説明が成されなかったのが残念です。
B+2004.03.14
角川スニーカー文庫。
「しあわせは子猫のかたち」は最後クサ過ぎです。よく出来ていて面白い話なのだけど…。『さみしさの周波数』の「未来予報」もそうですが、クサ過ぎるものはあまり好きになれないようです。エクリチュールのクサさも然る事ながら、うまく生きられない
主人公が何だか知らないけど希望に満ち溢れてしまうのですよどうしましょう。
自分もそういう話を書かなくてはならないと思いました。
「失踪HOLIDAY」は、よく出来ていて面白くて、主人公のエゴイスティックな性格の為あまりクサくない話です。巧く行き過ぎだ!とは思うけれど、一気に解明される真相はとても楽しめました。
B+2004.02.06
角川スニーカー文庫。
「未来予報」は挿絵が多くて良かったです。尤もこれ以外に、挿絵をふんだんに使えそうな作品はこの短編集には含まれていませんが…。傘をこの世から抹殺したいという主人公の設定が、ストーリーに生きて来なかったのは残念です。
「手を握る泥棒の物語」は、少なくとも絵には描きにくい状況を、巧く書いていると思います。「フィルムの中の少女」はとても面白かった! 話は普通の、割と安っぽいホラーなのですが、あまりにも構成が見事なので…。ああ巧いなあ。くそう。「失はれた物語」は何だか小説みたいでした。実際に小説なのだから当たり前ですが…。
B+2004.01.24
新潮文庫。
極めてシンプルにまとまっているお話。会話文が多くを占めているので、すらすらと読む事が出来ます。短いし、確実に面白い。そしてその面白さは、読み始めてすぐに分かることでしょう。
気になるのは、「期待はずれでしたか……魅力ないですか……ぼくじゃ、やはり、役不足だったのかなあ……」
という文です。会話文だけれど、安部公房でも誤用している!ならば自分も誤用してやる!とか思ったり思わなかったり。
そう、ぼくは、なんとしてでも知りたいのだ。いったい、この表記は、間違った用法が正しい用法に負けたせいなのか。それとも、正しい用法が間違った用法に負けたせいなのか。法廷の外にいるあなたに、お尋ねしたいのです。いまあなたが使っている、その言葉は、はたして正しい用法なのでしょうか、それとも間違った用法なのでしょうか……
小説の最後の文章をアレンジしてみました。あんまり面白くなりませんでしたが、ともかくこんな感じで、何が間違っていて何が正しいのか、そして誤用かどうか、なんてわからなくなる話なのです。
A-2003.12.20
新潮文庫。
『箱男』よりずっと読み易くてビックリです。ストーリーも、『箱男』よりはわけがわかります。ただ、病院なのか町なのかよく分からない話の舞台が、果たしてどんな地形なのかどうにも把握出来ません。この感覚は……『ZORK』!!
手記形式には、ラストをどう処理するか、という問題があります。この作品では、最後の<付記>がいつどのように書かれたものなのか曖昧なままです。自分だったら、付記=明日の新聞ということで締めにしてしまいたいところですが、それはやっぱり凡人の考えで、曖昧でありながら本当は深遠な意味があるのでしょうきっと。
分かり易い分、読んでいる途中は『箱男』より面白いような気がしたけれど、それでも『箱男』の方が好きかなあ。実際に箱を作って遊ぶ、みたいな事が『密会』では出来ないから。盗聴器を仕掛けて遊ぶのは、箱のように手軽ではないですし、『密会』に固有の要素でもありません。
A2003.10.22
新潮文庫。
『三四郎』でも主人公は暇を持て余しており、東大生のくせに何でそんなに暇なんだこの野郎、と言いたくなりましたが、最早学生でもないくせに働こうとしない『それから』はもっと酷い。っていうか羨ましい。自分も働かないで生きていきたいものです。と、最近よく言っている気がするので、ある意味この小説は大きな心の支えとなりました。
解説に次のようにあります。
漱石の苦心は、この大介の大転向を如何にして自然に発展させるかにあった。更に、「誠の愛で、やむなく社会の外に押し流されて行く」その誠の愛、厳粛な必死の愛の本質を描いて、人妻を恋するというような普通の道徳から言えば不都合極まる事を、さらに高い道徳から言えば尤もと思われるように読者を納得させることにあった。
同じように、三十歳にもなってモラトリアムに留まるというような普通の道徳から言えば不都合極まる事を、さらに高い道徳から言えば尤もと思われるように納得させられてしまうのです。なるほどなあ、そりゃあ働けない、というか、働くべきではないよなあ、働かないのは尤もだ…と。
B+2003.10.14
「いばらの森」と「白き花びら」の二本立て。「いばらの森」は途中までは結構面白かったのだけど、真相が解明されるといまいちに思えて仕方ありません。しかし、その辺の不満は「白き花びら」で見事に解消されます。
ところで、SF研の鯛焼きうどん氏(=S氏)が一ヶ月半ほど前に次のようなメールを送ってきました。
「逝ってよし!」
「オマエモナー」
さわやかな深夜の挨拶が、腐りきった掲示板にこだまする。
モナー様のお庭に集う厨房たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けてゆく。
汚れを知り尽くした心身を包むのは、深い色の画面。
スレッドの流れは乱さないように、板でクソスレは立てないように、ゆっくりと考えるのがここでのたしなみ。 もちろん、スプリクトで2ゲットズサー!!などといった、はしたない厨房など存在していようはずもない。
私立2ちゃんねr(略
モナー様のお庭
というのはどうかと思うけど、粋な代替案が思い付かないので、不満は解消されません。
B2003.09.10
新潮文庫。
『桜の園』繋がりってことで、と軽い気持ちで読んだのですが、やばい…滅茶苦茶面白いです。かず子が上原に宛てた三通の手紙なんて、最高ではないですか。読んだ後で、「革命」や「戦闘開始」といった言葉を見ると、全てこの小説のパロディなんじゃないかと思えてきます。
上品なモノローグ、というのも初めは新鮮でした。上品な台詞、ってだけならよく見るけれど。ただし、本当に上品なのはかず子の母親であって、その存在が反映されにくくなる中盤以降のモノローグは、ちっとも上品に見えなくなります。
A-2003.09.03
SF研の自分はオタクじゃないと主張する自称常識人が、「共感出来るから読め、俺は共感出来た」と言います。これに共感出来る人間は明らかにオタクだ、と前知識から決めつけたくなるのは当然ですが、読みもしないのにその自称常識人のことを「オタクだオタクだ」と罵るのも悪いので、ちゃんと読む。
やっぱりその自称常識人はオタクだと思いました。
しかし、彼は綿密に話してくれました。この作品のどこに共感出来るポイントがあるのかを。
彼は、幸せ度数が大きくない事が最近の悩みのようです。そして、小学校の時のクラスで同窓会がやりたいそうです。何故小学校の時のクラスで同窓会がやりたいのかというと、「宗教女(子)」が大きく関係してきます。小学校の時の「宗教女(子)」との素敵な思い出を反芻して、「あの時もっとうまくやっていれば現在の幸せ度数はもっと大きくなっていただろうに」と後悔しているのです。詳細を書くのはさすがに憚られますが(既に十分詳しいような気もしますが)、その話は滅茶苦茶面白かったので、この小説を読んだ甲斐は十分にありました。
個人的にも、「(ニセ)宗教女(子)」としてのヒロインの描写は読みどころだと思います。その他の読みどころと言えばトリップでしょうか。
B+2003.08.03
一般的に先の展開が読めると称される話であっても、頭が悪い為か、先がはっきり読める事はめったにありません。そんな自分にも話の先が読めるという楽しみを提供してくれるこの小説を読み終わった日に、SF研のS氏から北朝鮮で「将軍様がみてる」開始
などというメールが唐突に届きました。
「金正日将軍様万歳」
「金正日将軍様万歳」
さわやかな朝の挨拶が、澄み切った青空にこだまする。
金正日将軍様のお庭に集う乙女達が(ry
先が読めません。
B2003.06.14
コバルト文庫を読むのは初めてですが、「マリみて」が初めてだという人は他にもきっと沢山居ることでしょう。
これまで「マリみて」について知り得た唯一の情報源は、大先輩のこーわさんのサイトなので、読むと、どうしてもこーわさんの絵柄が想起されてしまう。読み終わる頃になって、ようやく挿絵の絵柄に慣れました。
発明部というのは、フィクションの学園においてはスタンダードな存在なのでしょうか。
読んだら薔薇っていう漢字が書けるようになるかな、って思ったけど、やっぱり書けません。
B2003.06.05
ミステリーは殆ど読んだことがありません。もしかしたらこれが初めて読む長編ミステリー小説かも。成る程、これがミステリーというものなのですね(激しく勘違いしてる可能性大)。
こんな何の変哲も無さそうなタイトルにもちゃんとした意図があって、さすが小林泰三だと思わされますが、オチが全く分かりません。もう一度読まないとダメなのかもしれませんが、もう一度読んでもしっかりと理解出来るとはあまり考えられないし、時間も無いので(文庫だと400Pある)、今はもどかしい気持ちで一杯です。
B+2002.11.24
P190、P199、P213、P244、P287に「エロ本」という単語が出てきます。更にP290には「エロゲー」が。それらは全て別々の文脈で現れます。それはいい。しかし、いや、だからこそ、そんなに世界はエロ本中心に回っていると言いたいのかと(エロ本と言いたいだけちゃうんかと、とはさすがに思いませんでしたが)。エ○ゲーマーZide的にはどうでしょう? 世界はエロゲー中心に回っていますか?
これまで、このシリーズの三冊しか秋山瑞人の小説は読んでいないのですが、ディテールの豊かさ(という言い回しが有効なのかわかりませんが)には強く惹かれるものがあります。それなのに、「エロ本」などという安直極まりない言葉が高頻度で出てくると、これは裏に何かあるのではないかと疑わざるを得ないわけです。
でも間違いなく面白いので、今後の展開が楽しみです。
A-2002.10.18
これでは司法試験を受けるために大学を中退した意味がないではないか――
良いなあ、とても良い(↑)。大まかなストーリーは如何にも小林泰三としか言いようが無く、そんなに目新しいものではありませんが、論理的ダメ人間(勝手に命名)がとても労しく思えて面白かったです。
ところで、主人公の所持していた本の内容についてはノータッチですか。「ソフトとハード、メモリとディスプレイを一体化させた究極の存在」が結局金になるだけなんて、いささか不満ではあります。折角の本なのに。そう思えてしまうのは、『人獣細工』の「本」の影響でしょうか。
B+2002.09.24
大場惑というと、『イース』のノベライズとか書いてた人ですか。読んだことはありませんが。ああ、ファルコム繋がり? 関係ないかな…。
「20xx年x月 ○○○○(←場所)」という題の付けられた十数のまとまりで構成されていて、時間的に多少交差します。なので、目次を見て(ページの上端でもいいのだけれど)、時間軸を確認しながら読み進めていったのですが、どうにもおかしい。絶対おかしい。はてさてこれはどういうことか…って、よく見ると目次が間違っていました。
新海誠以上に人物の描けない人が挿し絵を描いているという点においては面白かったです。
B-2002.09.22
『人獣細工』『吸血狩り』『本』を収録。
『人獣細工』は、描写の巧さが際だつ作品です。医学的な面についてはよくわからないので何とも言えませんが、大方予想出来たラストなのにこんなに怖いのは何故だろう。これまでに読んだ小林泰三作品の中では、最も感情移入系ホラーでした。というか感情移入しないホラーってどんなだ。いや、まあ、とにかく怖いのです。
『吸血狩り』は変化球なジュブナイルですが、二通りの解釈はどちらも釈然としないなあ…。
『本』、本書はこれに尽きてもいいです。本にしろ音楽にしろ、人間に多大な影響を、しかもほぼ無条件に与える芸術、この作品中では「絶対芸術」と呼ばれるものがそれに値します。そんなメタな概念を擁した作品はそこそこ多いと思われますが、未だ素晴らしい完成度を誇るものに出会ったことがありません。自分でも書いてみましたが、どんなものになったかは言うまい。
さて、この作品も、残念なことに満足出来るものではありませんでした。しかし「絶対芸術」(便宜上そう呼ぶ事にする)の役割が、多くの作品では特定の人間の欲望を満たす事にある(世界征服とか)のですが、本作は一線を画し、なんと「共生」。更に伝播も行われる。そこが、本書はこれに尽きてもいい、と言える所以であります。
A-2002.07.14
短編集。『肉食屋敷』『ジャンク』『妻への三通の告白』『獣の記憶』を収録。
表題作は、オチを理解するのに大変な想像力が必要な気がします。自分には難しいなあ…。何ともイメージし辛い。
『玩具修理者』で魅せたグロテスクな描写で読者を引き込む『ジャンク』は、人間の脳がCPUやメモリとして使われる事、ナイフの柄が手を握る事など、世界観には魅力的な要素がたくさん詰まっているのですが、この人にしては話が極めて単純で、オチも予想し易いので、もっと多くのページを使ってこの世界を表現して欲しかったです。
『妻への三通の告白』は、三通目を読み始めたところで初めて、それぞれが別々に書かれた手紙だと言うことに気付いてビックリ。まあ、普通の人はすぐに気付くでしょうけど。「この作品の題材はギリシャ神話にも遡るほど古いものだが」とあとがきにあるように、そう目新しいものではないのですが、読み返してみると意外に完成度が高い事に気付きました。意外に、というのは、ラストで文章がおかしくなる事があまりにも唐突で、手紙の存在自体の説得力が欠けてしまうように思えたからです。
『獣の記憶』はラストが凄すぎてお話になりません。かなり誉め言葉です。この本の中では最も気に入りました。
B+2002.07.11
やはりとても面白いです。ジュニア小説としてほぼ完璧ではないでしょうか(きちんと完結すればの話)。もっとも、今までに読んだジュニア小説といえば、乙一作品とブギーポップくらいなものですが。
前巻から気になっているのは、浅羽夕子のメンタリティにどうにもリアリティを感じ取れないという事です。そもそも何がリアルかわかるはずも無いので、とにかくリアルに思えないなあというだけ。一方、須藤晶穂のそれはかなり宜しいです。リアルかどうか、というよりも文体にマッチしてて面白いから。前者がリアルに思えないのは、この文体と相性の悪い性格だからかもしれません。
それにしても旭日祭は素晴らしい学園祭ですね。体育の部も含め、全て自由参加というところが。
A-2002.07.09
ブギーポップ以外の電撃文庫を読むのは多分初めてです。長い間『イリアの夏』として記憶していました。
モノローグがとても面白く、この人がこんな調子で書いた文章ならば、話の筋がどうであれ楽しめそうな気がします。勿論この話がつまらないわけではありませんが、そのモノローグの所為か、話の進展は非常にゆったりとしていて、300ページにしてはちょっと物足りない気がするのも確か。やはり個人的に最も注目すべき点は、技巧的な文章にあります。
A-2002.06.21
活字系の友人は少ないのにも関わらず、自分の周辺ではやけに人気の小林泰三。名前の「やすみ」を「たいぞう」と読み違えてましたが、どうにもこれは他人がそう言ってるのを聞いたからなのではないかと言い訳したい所存。「図書室にこの人の本をなかなか入れてくれない」と嘆いていたN山氏かなあ。違うかも。
表題作の短編は、くるみファンが「今まで読んできた小説のなかで、一番完成度の高いものであった」
なんて言うので、それ相応に期待して読んだのですが、何故奴がそう言えたのか全く分かりませんでした。サングラスかけてる事に関するオチは良かったけど、会話の主が誰であるかはすぐにわかりそうなものだし、玩具修理者の非常に巧みな描写も、変化に乏しいので少々退屈に感じました。最後の議論もとってつけたような印象。無くて良いとは思わないけど…。そんなわけで、奴に「そんなに凄くなくて安心した」と言ったら、「何故だ何故だ」とその理由を延々と聞いてきてどうしようかと思いました。そこまで凄くないと言っただけで、十分に面白かったってば!
『玩具修理者』では不満だった理屈のせめぎ合いを徹底して繰り出してきたのが、小長編『酔歩する男』で、これは無茶苦茶面白かった。感服。晦渋になりそうな話でありながら、大変に飲み込み易いもので、例えば、キャラ自身はお互いに知っているはずの理論を、読者の為に、会話で説明してくれやがります。この話、大凡は口述なので、口述内の会話ではなくて口述内の地の文(ややこしい…)で聞き手の為に説明しても別にいいのではないか、とも思いましたが、相手が知っているであろう事をわざわざ話す研究者(多分)というのも、奇妙な空気を演出するには良かったのかもしれません。
A2002.06.03
記録に拠れば3月19日から読んでるらしい。なんとスローペースな読書でしょう。でもって、今更夏目漱石かよ、 そんなものは中学生のうちに読んでおくのが常だろ、とか言われそうに思えて結構恥ずかしい。そんな意識が間違っている事を強く強く望みます。
とりあえず楽しいです。自分の周辺の人々も声を揃えて楽しいと言うので確かだと思います。全くこんなに楽しいのに。どうしてこんなに楽しいのに。みんなExcelを使っているのか。不思議でたまりません。かく言う自分もExcelを使っているので怪異なものです。
さて、三四郎のメンタリティにはひどく共感出来るのですが、特に印象に残ったのは三つの世界構想です。現代に於いては複雑化が過ぎて、そう簡単には割り切れないような気もしますが。いや、渾然一体となっているのでしょうか。実際、『三四郎』の世界の中でも結構入り組んでいることが発覚するのですが。
三つの世界のうち、一つは大した事が書かれないのでともかくとして、その他二つは本当に興味深く感じられました。批評が日常である世界(かなり恣意的なような、そんなに恣意的でもないような…)にはこの上ない憧れを抱きますし、美禰子の描写は際だって丁重です。そして、最終的に「楽しい」と云う感覚が残るのは、与次郎の所為でしょうか。嗚呼本当に良いキャラだ。
A2002.05.30
著しく現代であること。このシリーズのキャラクターは、そんな意識があってこそ作られると思うのですが(何も考えてない可能性も高いが)、残念ながら旧態依然の彼等は幾たびの劣化コピー(しかも自作自演含む)を経ており、言葉遊びのアプローチを変位させる程の事しか出来なくなっていました。
それがそんなにつまらないと言うわけでも無いのですが、とりあえず肩すかしな収束で、しかもそれは目次を見れば大体予想の付く事だったりします。目次は、何も変わってない、進歩がないと言うことを見事に例証してくれました。まあそんなものが有っても無くても、ただただ不思議文体が、慣れれば心地よく頭に入っては消えてゆき、親しめなければ殊に末期的な日本語だけが耿々と記憶に留まるばかりです。
B2002.04.28
これは注意して読まねば理解不能だろうと思い、一字一句逃さぬよう、舐めるように読んでいましたが(借り物なので本当に舐めるわけにはいかない)、実はこれは恋愛ものであることが判明し(確かに「看護婦との絶望的な愛」と裏表紙に書いてある)、舐めるようにこれを読むのは非常にヤバイというか落ち着けるはずがなく、狼狽せざるを得ませんでした。これもきっと安倍公房の用意した巧妙な罠なのでしょう。罠だらけ。
罠である以上、間接的な戯れとなる。勿論直接(刹那?)的なおかしみも多く、「インク切れ」等、自分のちょっぴりかつ漠然とやりたかった事の遙か上を行っており、唸りまくりですが、『S・カルマ氏の犯罪』に比べて数段回りくどい。そして結局わかりません。読み落としも多数あることでしょう。だからと言ってこれが楽しめないなんて事はありえず、寧ろだからこそ、これは至上のエンターテイメントと言えます。結局解せないながらも、発見の量は並大抵ではありません。
『S・カルマ氏の犯罪』同様、インターネットに於ける匿名性を想起するのは当然ですが、これが妙に心に染みる。箱を被って世界を覗く(多分)男の話、そんな説明だけだとギャグとしか捉えられませんが、読み終わると、全然違う。恋愛ものだから当然? いや恋愛ものでないと言えないこともないような気もする。匿名の悲しみを感じるからだろうか。そういえば、「デジタルの悲しみ」などと以前誰かが言ってましたね。インターネットが広まったのは最早随分と昔の話のような気がしますが、今こそ読まれるべき小説。自分には新しすぎるとさえ感じました。今行っている行動を省みたりなんかすると。
しかしそれもこの作品の一面に過ぎません。これは非常に多角的に楽しめる作品なのだから。今度読むときはどんな見方や解釈を発見できるだろうか。
A+2002.02.28
初めて読む安部公房。『S・カルマ氏の犯罪』(芥川賞)『バベルの塔の狸』『赤い繭(掌編「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」が含まれる)』の三部構成。
フィクションを作る上での見本的作品だと思った『S・カルマ氏の犯罪』。あらゆる現象に対し、我々は理屈でしか対抗出来ないのか。散発的に見れば非常にわかりやすいエンターテイメントです。好き。
ただし、俯瞰して、ましてやこの文庫本一冊として見れば、自分はとても分かった気にはなれないでしょう。それは、最後に収録されている『赤い繭』内の掌編、「事業」に於ける「彼の中の彼」の意味が全く掴めないこと、壁というテーマを頭の中で整理出来ない部分があること(「魔法のチョーク」ほどわかりやすくなくてもいいのだけど)、などなどたくさんあるけれど、石川淳という人の書く、震撼させられるほどに格好いい「序」の意味を、自分はよく汲めないことからもう決定的。日本語を、もっとわかりたい。
A2002.02.27
まったくもって暗く辛い話。ページ数の割には、話は単純、特に目新しいとは思えません。人によっては、読んで単に気分が悪くなるだけなのかもしれない。でも、これは非常に注目に値する作品だと思っています。
何より特筆すべき点、小学5年生である主人公、その描写の何と丁寧でリアルな事! こんなにも、主人公の心情に共感出来る小説は初めてだ。(自分にとっては)小学生独特の、積極性の無さ故のやるせなさというか…(無論、それは一部の人か)。虐げられ続ける事になるキャラの心情に共感出来るということは、社会的弱者の性質を備えている訳で、そんなに嬉しいことではないけれども、でもやっぱ凄い。少しばかり、似通ったシチュエーションを繰り返しているので、冗長な感もしないことはありませんでしたが、その描写に尽きるので良し!
しかし後半、主人公は、助けを借りながらも、話の展開としては割と自然に積極的な行動を取るので、「積極性の無さ故の共感出来る要素」というものは薄れてきます。終盤、極限状況ながら凄く落ち着いているので、共感できるはずがない。…そういう話なんだから仕方ないけど。しかし…これで泣ける程、既にピュアでは無いのが、悲しいやらかたじけないやら。
後半部分を読みながら、イヤホンでYMOの『テクノデリック』を聞いていたのですが、これが実に合ってたまらなかった。四章以降のBGMには、是非とも『テクノデリック』を聞きましょう。運が良ければ、クライマックスで坂本龍一の「PROLOGUE」〜「EPILOGUE」が流れて感動出来る…かもしれません。「体操」と「KEY」はマッチしないので飛ばして下さい。
B+2001.11.25
光波氏より借りる。短編三作品収録。光波氏が推すのは、三つ目の『華歌』で、時間が無いながらも最低限これだけはと、最初に読了。確かに面白い作品です。ただ、光波氏が推す理由である、妙なトリックは自分にはちょっと駄目だった。ラストで読者の想定を覆すものなのですが、それが突然すぎて辛かった。腑に落ちない。もうちょっとわかりやすい伏線でもあれば、もっと違った印象を受けるとは思うのですが。でも他の部分は凄く巧みで、他のも読まねばと思わせてくれました。
一つ目の『Calling You』は、私的にこの本の中でベスト。タイムパラドックスネタ(パラドックスじゃないかも…)は凄く好きですが、時間差がたったの一時間というところが新鮮。ストーリーの完成度も非常に高い。読後、テーマとか考えると結局なんなんだかサッパリわからなくなってしまいましたが、読んでる途中はそんなこと気にさせないくらい楽しめました。
『傷−KIZ/KIDS』も巧い作品です。でも他の二作品に比べると些か普通かな…。
文章にも負けず、挿し絵もかなり好きなのですが、書名は好きではありません。自分だったらまず買わなそうな気が。ちなみに、スニーカー文庫を読むのは初めてでありました。
A-2001.11.11
Copyright © NITA. All rights reserved.