平和な夜だった。
あまりにも平和すぎて退屈な、しかし貴重な時間。
いつだって夜は待ち遠しい。
いつだって夜は静かで、安らげる。
……はずだった。
夜が退屈だったのだろうか、退屈だからみょんな事が起きたのだろうか。
どちらにせよその日白玉楼は、今までに無い……いやここ最近一回はあったかも知れない騒々しい夜に囚われようとしていた。
――夜は本当は寂しいから、いつだって賑やかな方が良いのだ。
「なんでこうなのかしら?」
亡霊の姫君は扇で仰ぎながら、月を見つめている。
亡霊だから涼しいと言えば涼しいし、涼しくないと思えば涼しくない。
要は気分の問題だった。
「そうそう、風情ね。妖夢にはその辺が足りていないのよ、きっと」
何もこんな夜に庭掃除をする必要は無い。
夜はもっと、ゆとりを持つべきだと言うのに……
「いつからそこに居たのか知らないけど、掃除は朝するものだって、習わなかったの?」
これは説教ものだ。と何かしら理由をつけて妖夢と少し話をするため、西行寺幽々子は面白おかしく振り向いた。
半人半霊の少女、魂魄妖夢はいつものどこか間違った――しかし本人は至って真剣な仕事の顔をしていなかった。
虚ろ。それでいて瞳の奥だけ赤々と、両の刀を構えたまま微動だにしない。
「あら、ひょっとして……さっき?」
さっきと、殺気のニュアンスが混じったらしい。が幽々子にとってはどちらでも一向に構わない。どちらも何となく歓迎したい気分だった。
――何故だか知らないが、顕界では弾幕遊びと言うものが流行っていた。
ある種極まったコミュニケーション、ある種あいさつ代わり。
慣れてくると一日に六回はこなせるらしい。
実際、一人そんな少女が遊びに来た。
その時は他のことで手一杯で、さして歓迎出来なかったが……あの時の何とも言えない高揚感は、亡霊と言えども癖になりそうな遊びだった。
が、冥界にそんな物好きは居ない。仮に居たとしても、姫である幽々子は恐れ多くて誘ったりはしない。
だが、そう言えば一人だけ居たのだ。――いや半人か。一振りで幽霊10匹分の殺傷力を持つ長刀『楼観剣』を持つお抱え庭師、この目の前の少女妖夢。
遊び相手としては、十分すぎると言えた。
まして、どこかの誰かさんが主従関係によって生じる手加減をすっぱ抜いて下さったご様子。つまるところ――
「せっかくだから楽しみましょう、妖夢」
幽々子はそんなこんなで、せっかくだから赤い瞳を瞬かせてこのみょんな一時を喜んで受け入れた。
無言で応じる妖夢。はっきり言って真面目な上に無口だとかなり救いようが無い。
「……返事無し。後で罰掃除よ」
罰も何も、掃除するのが妖夢の仕事だがそれはそれとして、優雅に扇を広げ直す。
――瞬、と一足飛びに低い姿勢から長刀が横薙ぎに振るわれ、半瞬置いて四方に小さき御霊が散る。遅く、早く、緩急をつけながら、静かだった庭を覆い尽くしていく。
幽々子は宙へ飛び退り、扇を一扇ぎ。美しく、儚き蝶の群れが一斉に羽ばたく。
辺りに居た亡霊達がざわめきだした。こんなことは、今までに一度も無い、大事だ。
口々にそう言い合い、やがて……仲間を呼んで賭けが始まった。
亡霊はいつだって陽気なのだ。
「すっかりお祭り。別にいいけど、祭り囃子が足りないわよ」
にわかのどんちゃん騒ぎを見下ろしながら幽々子はナイフ、のようなものを創り出し、妖夢を目で追う。
うっかり。
どさくさに紛れて、妖夢は姿を消していた。
代わりに伸びる赤い魂の列。まさかナイフを投げつける訳にもいかず、蒼い魂で絡めとるように押さえ込む。
それがあだとなった。
「――ッ、妖夢」
上空から手加減も何も無く、袈裟懸けに斬りかかってくる妖夢。左胸からへそ元まで刃が走り、次いで霊的な亀裂が走る。
「遊びじゃない、そう言いたいのね、妖夢」
返し刃に乗り、幽々子は努めて静かにたずねた。
返す言葉は無く、ただ両の刃が闘気に包まれていた。
「今はまだ未熟なれど、妖夢はいずれわしを越えるでしょう。師として、その瞬間に立ち会えぬのが心残りか……幽々子様、願わくば」
「皆まで言わないで妖忌翁、楽しみなのは私も同じよ」
『……かかるよに影もかはらず澄む月を、見る我が身さへうらめしきかな』
「妖忌が認めた天賦の才、見せてごらんなさいな」
昔を想う幽々子、一瞬妖忌が託した言葉が甦る。それは無念、無念の残滓。
そして、ほのかに立ち上る気高き霊気に応じるかのように、幻の蝶が瞬きいでる
無数の蝶が咲き誇り、生と死を分かつ冥道へと誘う只中を、妖夢は幾千の斬光と共に駆け抜ける。
後に続く無数の衝撃が蝶を刻み、糸の如き閃きにより塵と化す。
構えが変わる、天地上下、刃が空間すら切り裂く。
緩やかに、時さえも……一時的に歪む。
それでも、艶やかに蝶は舞う。切り刻まれた数だけ増えていき、しかし空を埋め尽くしても月明かりは変わらず地を照らし続ける。
亡霊達は、だからこそ変わらず一夜の空祭りを楽しむ。
だが、妖夢の剣は振るうほどに鋭さを増していく。今の彼女の剣は無心であり、一切の手心無く、純粋なまでに昇華された刃。――無無の剣。
故に、遮るものあらば斬って捨てられていた。
「迷いの無い刃、大したものね。でも、周りの迷惑ってものがあるでしょ」
幽々子は諭すように蝶で出来た車輪を回し、誘う。
それは結界、入ることは出来ても出ることは出来ない。蝶であり、蜘蛛の巣でもある生と死の囲い。
……おぞましいまでに美しい、まるで夢見心地なる蝶の輪舞。
幻の真夜を激しく交錯する、生死の境界。
真剣が瞬く。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ――六つ。迷いを断ち割り、誘う蝶の群れをまた散らす。
傍から見れば、それは奇怪にして無邪気な子供の遊び。路傍の戯れ。
いや、事実そうなのだろう。満ち足りた表情で、少女達の一夜遊びは続く。
妖夢が動く。一念を剣に託し、囲いを自らが創り出す囲いで以て貫かんと。
刹那、蒼き剣閃が幾重にも伸び、重なりが綻びを生じ、結界の中心へと真っ直ぐに疾る。
真白き闇夜を妖夢が駆ける。幻に幻を用いて正し、ただ現を信じ――斬る。
幽々子にとってそれは、妬ましくも愛しい光景。
決して手に入れることの出来ない、零れ落ちていく一つの希望。人の生きざま。
剣気が輪となり、幻が消え行く。
切っ先一分、紙一重のすれ違いの最中、幽々子は思う。
「……妖夢、あなたが私に未来を見せてくれるとでも言うの?」
妖夢は答えない。ただ、剣で以て応えた。
「ッ、妖夢」
絹が裂ける音がする。御魂の悲鳴がこだまする。
呪詛か、哀哭か、幽々子の想いに惹かれ、蝶が一斉に現れて飛び描く。
結界を、一大結界を。
けれど、夢を破り現は……否、未来は走破する。一瞬とも無限ともつかない時の中で、剣鬼と化した妖夢の剣が幽々子を捉える。
(嗚呼、この一太刀を浴びれば、私は生まれ変われるのかしら?)
変わりたい想い、変わらない身体。けれど……
「――違う、私はまだ微睡んでいたい。それが例え覚めない永久の眠りだとしても」
幽々子は抱く、未だ小さな、美しい夢を。
「また独りになるのは……嫌」
感情を抑えきれず、吐き出す。無制御の力が渦巻き、広がり、そしてかき消えた。
「……幽々子、様?」
「――妖夢!」
どこまでも純粋な、だからこそ子供染みた想いが、ある種別の未来を導き出す。
「いたたっ、な、何でいきなり殴るんですか、幽々子様〜」
それはそれとして、とりあえず殴っておく。
「いやいや、まだ寝ぼけているのかと」
「寝ぼけてって、あれ? 私、今まで何を……」
「狐狗狸さんね」
「はい? えーと、それはさすがに違うと思いますけど」
「いやいやいや、私はそこで見ている彼女に言っているのよ」
幽々子は急に明後日の方向を指さして、いつものようなぼけたんとした顔をしながら告げる。
「幽々子様ー、そんな場所に何――何!?」
空が割れ、一つの眼が少女達を凝視する。
明らかな怪異。
「あらあら、いつから気づいていたのかしら?」
「最初からよ。ごきげんよう、八雲の。最近はよく眠れて?」
「あなたのおかげで、それはもうぐっすりよ」
隙間が広がり、ふりふりひらひらした寝間着姿の気だるそうな少女が姿を現す。
「……またあなたですか、紫様」
「ご挨拶ね。遊びに来ただけよ?」
「それがいつも大事に発展するからっ! ああもう、とにかく一体何のようですか!」
「そうそう、結局なんだったの?」
質問責め、にも関わらずあっけらかんと紫は答える。
「遊びよ、あえてひねくれば実験といってもいいかしら」
「……ご説明を」
妖夢の利き腕が振るえていた。
「せっかちね」
「ほんとね」
「幽々子様まで一緒になって巻き込まれないで下さいっ!」
「簀巻き?」
「寝間着同盟。……冗談よ、やーねー」
扇子で扇ぎながら笑う紫。これではどちらかと言うと扇子同盟だ。
「うちの橙何だけど」
「饅頭を盗んで行った子?」
「見ていたなら止めて下さいよ、幽々子様〜」
「絵本を読みたいって甘えるから作ってあげたのよ、能天気幽霊と生真面目半幽霊の話」
「どこかで聞いた話ね〜」
「どこかでって、明らかに私達のことじゃないですかっ!」
妖夢一人だけが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「で、橙が『紫様ー、楼観剣は能天気幽霊も斬れるんじゃないんですか? どうして半幽霊は能天気幽霊を斬らないんでしょう』とか聞いてくるから、つい試してみたくなったのよ」
「なるほどねー」
一時、かなり静まり返る。聞こえ来るは虫の鳴き声。
不意に、剣気が混ざった。
「……お覚悟を」
あえて意訳するなら、ぶっ殺す。そんな感じだった。
「でも、まさか饅頭を盗み食いするなんて」
「まあ妖夢、そんなことをしてたの?」
「こんな遊び成功するとは思ってなかったわ。だって、生真面目な庭師が饅頭の盗み食いをする訳が無いもの」
「言えてるわねー」
剣気は、いつの間にか哀愁に変わっていた。
「ううっ、そ、それは……」
「ところで」
「何かしら?」
「うちの庭が散らかっているのだけれど」
「さすがに酷いわね、それじゃあせっかくだから家の方にお邪魔しようかしら?」
「お茶は出せないわよ」
「持参よ」
うちひしがれる妖夢をほったらかしに、盛り上がる幽々子と紫。
「と言う訳で後は任せたわ、妖夢」
冷酷なまでに白く輝く真月の明かり。
よくよく下を見ると、亡霊さん達は騒ぎ疲れて眠って? いる。そうなると、後は庭師である妖夢の出番となる訳だ。
間近で見ると、うんざりするほど派手に散らかっていた。
「……こんなの、一人じゃ無理ですよ、幽々子様ぁ〜」
「あの、お手伝いしましょうか?」
落ち込む妖夢の肩にそっとさしのべられる手。
「みょん」
その後 苦労人同士で新しい友情が生れたとか 生れなかったとか……
――教えて紫先生! あるいは ゆかりんのどーんとやってみよう―― 糸冬
初めましての人は初めまして、一度どこかで見たことがあるネチョい人は二度目まして
と言う訳で、リクエストSS永夜抄バージョンです。色々考察を仕込んでます、が物書きは作品で勝負! らしいので何も書きません……わかる人だけわかってやって下さい(^^; 新スペルカードとかその辺ごにょごにょ
弾幕バトルこそ東方! と言うことでそれしかない作品ですが、これで某店長センセに一矢報いることが出来るだろうか、うーむ
少なくとも (´-`) だけで終わらないことを祈りつつ(ネチョかったからなあ ……縁があればまたどこかで〜ではは
……しかし さすが公式いぢられキャラ いぢるのが楽だワ〜
きっと妖忌おんじも いぢって楽しんでたんでしょうなあ
――いやそこ! 変な想像しないっ!
犯人:サティ 『鉄錆妖精庭園』
http://web1.incl.ne.jp/saty/
※期待するようなものは 何もありません
メモ書き
apparitional 幻の 幽霊 亡霊 幻影 突然現れたもの 出現
六道 衆生が善悪の業によっておもむき住む六つの迷界 地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天
地面に大路・小路の形を描き 銭を投げて競う子供の遊び
葬式で ひつぎを担ぐ役の人
永劫 無限に長い年月
ギャストリ(ghastly) ひどい ゾッとするような 恐ろしい おぞましい ものすごい 青ざめた
華胥 ひるね 午睡 よい気持ちで昼寝をする
デイゾルブ 分解 溶かす 解散する 解消する 取り消す 感情を抑えきれず (力が)薄れていく
――画面が暗くなるのにオーバーラップして次の画面が現れる場面転換法