マース・ヒューズ

 その日も、ロイの執務室の電話は鳴り響いていた。たまたま執務室に戻ってきたところだったロイはすぐに受話器をとった。
 交換手がヒューズからの電話であることを告げる。
 (またか・・・。)
 ヒューズと電話がつながるや否や、彼はこう切り出した。
 「私だ。娘自慢なら聞かんぞ!!」
 「・・・・・・。」
 「?」
 いつもならすぐにヒューズの娘であるエリシアの自慢話が始まるのに、今日はそれがない。
 「ヒューズ?」
 彼の名を呼びかけるが返事はない。
 「ヒューズ・・・おいっ!ヒューズ!」
 「・・・ロイ・・・お前は生き・・・ろ・・・。」
 「ヒューズ!!」
 もう、彼の声は聞こえなかった。
 「ヒューズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
 ロイは叫んだが最後の力を振り絞って最後のメッセージを残した彼がその叫びを聞くことはなかった・・・。

 「大佐!!たった今ヒューズ中佐が遺体で発見されました!!」
 リザが執務室に駆け込んできたがロイの姿が見当たらない。
 「大佐?」
 彼女が彼を必死に捜していると、か細い彼の声が聞こえた。
 「・・・中尉、か・・・?」
 「!!大佐!!どうなさったのです?!」
 電話の下に書類を撒き散らしてうずくまり、顔をふさぎこんでいるロイを見つけた。
 「一体何が?!」
 「・・・ヒューズが・・・。」
 「?」
 「ヒューズが・・・ヒューズが!!」
 そこでようやく顔を上げたロイの顔は苦痛にゆがみ、涙があふれて止まるところを知らなかった。

 「私に・・・電話をしてきたんだ・・・またいつもの自慢話だと思っ・・・!!」
 「大佐!!」
 たまらずリザはロイを抱きしめた。
 「ロイ、とにかく落ち着いてください。」
 「すまない・・・。」
 ロイはされるがまま、彼女にその体を委ねた。
 「・・・私に生きろと言っていた・・・最後に。」
 「そうですか・・・。」
 「リザ、君は私の唯一の女性だ。」
 リザは少し驚いたが、話の続きを待った。
 「そしてヒューズ・・・彼も私の唯一の親友だった・・・だから君を失ったのと同じくらい、辛いんだ・・・!!」
 彼女も彼も最もロイを理解し、支えとなってくれる人間だったからこそロイにとって彼を失うことは身体の半分を失うも同じなのだ。
 それを分かっていたから、リザはこう語りかけた。
 「ロイ、私にヒューズ中佐の代わりも同時につとめることはできますか?」
 「リザ。」
 「彼の分も、私があなたの支えになります。だめ、ですか?」
 「リザ・・・!!」
 その言葉は彼にどんなに優しく響いただろう。どれだけ救われただろう。
 彼はリザを抱きしめた。

 「今日はもうお帰りになりますか?今あなたにお仕事をやらせるなんて私にはできません。」
 「そうだな。帰るよ。」
 「分かりました。」
 「リザ、君もそばにいてくれるかい?」
 「あなたが望むなら。」
 こうしてロイとリザは一緒に家へ帰っていった。
 家へ着くと、ブラックハヤテが待ち構えたように飛びつこうとしたが、ロイの様子を察し彼に寄り添ってきた。
 「くぅ〜ん。」
 「ブラックハヤテ、お前も心配してくれているのか?」 
 「ワン!!」
 (ああ、ここにもいたな・・・私の支えとなってくれる者が)
 ブラックハヤテは「そうだよ!!」と言うように吠えると、ソファに座ったロイの膝の上に乗った。
 リザが落ち着けるようにコーヒーを用意してくれたので彼はそれを持ち、ブラックハヤテの背をなでながらヒューズとの思い出をポツリポツリと語りだした。
 それにはリザと出会う前の思い出もあり、彼らの付き合いが長かったことを彼女は改めて知った。
 そしてロイは・・・話しながら無意識の内にではあるが、
 かつて母親をなくした”鋼の”エドワード・エルリック達エルリック兄弟が行った人体錬成の構築式を必死に組み立てようとする自分自身に気づいていた。
 
 翌日、ヒューズの軍葬に出席するため2人は心配そうなブラックハヤテの見送りを受けて中央へ出発した。
 正装に身を包み、軍帽を被ったロイはどこか悲愴感さえ漂わせている。葬儀をする墓地が見えてくると、彼の中に新たな悲しみがこみ上げてきた。
 「・・・っ!!」 
 「大佐。」
 ここは軍の者が運転している車の中だったので、彼の階級を口にする。
 「大丈夫です。私がいますから。」
 「ああ、ありがとう中尉。」
 ロイはリザの手を握り、墓地に着くまで放さなかった。
 墓地に着くと、彼はすっかり大佐としての威厳を併せ持って車を降り、彼女もその後に付き従って行った。
 「・・・ママ、どうしてパパ埋めちゃうの?」
 厳かに葬儀が進められ、ヒューズの眠る棺がついに土に埋められる時にエリシアがつぶやいた。
 「おじさん達、どうしてパパ埋めちゃうの?いやだよ・・・いやだよぅ。そんなことしたらパパお仕事できなくなっちゃうよぅ・・・。」
 「エリ・・・。」
 グレイシアも涙があふれて止まらず、娘を抱きしめる。
 「パパお仕事いっぱいあるって言ってたもん。いやだよ。埋めないでよ・・・・・パパ・・・・・・!!」
 「エリシアちゃん・・・!!」
 その姿にリザは涙せずにいられなかった。

 葬儀後、ロイは彼の墓の前に立っていた。
 「お前をこの手で蘇らせられたら、どんなにいいだろうな。」
 その言葉も風に乗って飛んでいく。
 「殉職で2階級特進・・・ヒューズ准将か・・・私の下について助力すると言っていた奴が私より上に行ってどうするんだ。馬鹿者が。」
 「ああ、あんな所に・・・。」
 ロイのコートを手にリザが歩み寄る。
 「大佐。風が出て冷えてきましたよ。まだお戻りにならないのですか?」
 「ああ。」
 「これをどうぞ。」
 「ありがとう。」
 彼はコートを受け取り、着込む。
 「全く・・・錬金術師とは嫌な生き物だな中尉。」
 リザは黙って彼を見つめる。
 「今・・・頭の中で人体錬成の理論を必死になって組み立ててる自分がいるんだよ。あの子らが母親を錬成しようとした気持ちが今なら分かる気がするよ。」
 「・・・・・・大丈夫ですか?」
 「大丈夫だ。」
 ロイは軍帽を被った。
 「――いかん、雨が降ってきたな。」
 「雨なんか降って・・・。」
 「いや、雨だよ。」
 彼女や死んだ彼以外には決して涙を見せない彼が空を見上げて一筋の涙を流した。
 「・・・そうですね。戻りましょう。ここは・・・・・・冷えます。」
 2人は歩き出した。一度も彼の墓を振り返ることなく・・・。
 「そういえば、君のほうがずい分寒そうじゃないか。」
 「もうすぐ車ですから平気です・・・大佐?!」
 ロイはリザの背後に回ると、彼女の目の前にコートのすそを伸ばし、その体を包み込むとそのまま後ろから抱きしめた。
 「これから少しは暖かいだろう?」
 彼の彼女のそれとは少し高い体温が冷えていた彼女の体を温めていく。
 「リザ・・・。」
 「ロイ?」
 「君は私より先に死ぬなよ。・・・死ぬ時は一緒だ。」
 「ロイ・・・。」
 「もうこれ以上、大切な人を失いたくないのだよ・・・!!」
 彼女を抱く腕にも力が入った。リザが後ろを振り向くと、彼の真剣な眼差しにぶつかった。
 「はい・・・死ぬ時は、あなたと一緒です。」
 その言葉を聞いてロイは安堵の気持ちになった。

 墓地からの帰り、2人はすぐさま事件現場へ急行した。
 その前に中央の軍法会議所で聞いた情報を得たロイは彼があの時何を伝えたかったのか考えていた。
 「大佐。アームストロング少佐をお連れしました。」
 彼の口から多くが語られることはなかった。が、ロイはその中の『エルリック兄弟の探し物』『上官に話せない』『犯行を行ったと思われる者達』という言葉から
 相手は複数かつ組織での犯行の可能性があり、軍上層部の大佐以上の地位のものが口止めしていること、
 そしてエルリック兄弟の探している『賢者の石』が何らかの形で関わっている事実を導き出した。
 「軍上層部に関わる組織と賢者の石とヒューズ中佐・・・一体どんな関わりが・・・。」
 「さぁな。私にもさっぱりだ。」
 ロイが頭をかきむしると、自然と普段の髪型へ戻った。
 「だがこのままで済むものか。」
 彼の目線が鋭いものに変わる。それは何かに焔がついた目だ。
 「もうじき私は中央に転勤になる。」
 「あら、おめでとうございます。」
 「渡りに船とはこのことだ。上層部を探ってヒューズを殺した奴を必ずいぶり出してやる。」
 「公私混同とはあなたらしくないですね。」
 「「公」も「私」もあるものか。大総統の地位をもらうのもヒューズの敵を討つのも全て私一個人の意志だ!」
 ロイは一点の曇りのないまっすぐな瞳で彼女を見据えた。
 「上層部に喰らい付くぞ。付いて来るか?」
 「何を今更。」
 リザもまっすぐに彼を見つめ、優しく微笑みながらこう付け足した。
 「あなたにどこまでも付いていく、そう決めたのは他でもない私自身なのですから。」

                                                                                       <End>


ヒューズ死ネタやってしまいました・・・書いてるとこはお葬式の場面で何度なきそうになったか・・・・。
4巻に忠実なのが原則で足らないところ(描かれてないところ)を書き足しました。 
やっぱり彼にとってヒューズは体の半分だったに違いありませんし、絶対1人の時とか泣いていたと思いますから・・・(それかリザの前で)
実はこれが一番初めに浮かんだロイアイネタだったり・・・します。でも書きたいのから書くので先に思いついたものから書くということはありませんね。
ヒューズ結構好きな感じだったのになぁ・・・もったいないですよ。あんな早くしぬなんてぇTT
彼に敬意を表して彼の名前をそのままタイトルにさせていただきましたTYT。

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