一茶関連俳書



『随斎筆記』

(上 巻)

文化八年 随斎筆記 抜書

夏目成美が当時の諸国俳人の句を集録したものに一茶が逐次追録したもの。


  甲斐
祝儀とて力も入れず小松引
   可都里

  信州
五月雨の最初に松は老にけり
   素檗

桃尻に鴎もなるか帰雁
   蕉雨

きのふにも降べき物を春の雨
   若人

  水戸
駒鳥に大黒舞を見せうもの
   遅月

  ヒゴ
時鳥風はなかなか声長し
   対竹

  サガミ
家の子のわびごとすみし花見哉
   葛三

  房州
正月も日暮のありて杖の先
   杉長

  
門松に来てもせばるや四十雀
   道彦

  信州
鶯の藪から棒のはつ音哉
   春甫

  エド
鶯の声や力も入れずして
   春蟻

花の木も独は立たぬ日陰哉
   葛三

古郷やとうふ屋出来て春雨
   巣兆

格別の咲所なる菫かな
   奇淵

鶯の気にも入けり東山
   三津人

  ナゴヤ
なでしこの露をれしたる川原哉
   士朗

死残る人のおほさよ盆の月
   岳輅

手一合白魚買ん梅の花
   一草

   松前にわたらんとして舟をまつとき

  みちのく
思ふにも波をしほ(を)りの月よ哉
   乙二

散事を忘れず萩の少づゝ
    同

水かけて明くしたり苔の花
    同

しづかさや掌へさす百合の影
   曰人

茶の鍋の垣にかゝるや梅の花
   平角

  ミチノク
踏はづし雲ふみはづし時鳥
   雄淵

松竹に思ひも入れず鷦鷯(みそさざい)
   成美

  エド
二日灸小夜の中山又越ん
   完来

  カヒ
はつ雪や浪につい居る都鳥
   嵐外

  水戸
はつ春の人とも見ゆる妻子哉
   湖中

夕げしき鵜の足水にはじまりぬ
   乙二

花の雨ねらひすまして濡にけり
   葛三

   六浦夜泊

  ミチノク
夜時雨や鐘なる所称名寺
   冥々

草むらの蜂ノ巣を守りて暑哉
   完来

時鳥まだ見に来ずや角田川
   巣兆

秋の夜の相手がましき灯(ともし)哉
   春蟻

鶯の腹ふくれけり小春山
   柳荘

  古人
春の人是も柳にかくれけり
   臥央

  サガミ
時雨(しぐるる)や野は近づきの女郎花
   雉啄

  ミチノク
烏さへ鳴かず人目もかれ柏
   雨考

  古人
よき扇かざして通る四月哉
   五明

   ゝ
名月や二人が間の火打箱
   菊明

物問に来やすき門の柳哉
   八千坊

   甲斐猿橋

橋下に雲にも入るか時鳥
   対竹

   恒丸
人の来て元日にする庵かな
   

  ヲク
へなたりをへなへなと吹柳哉
   乙二

  ムサシ
(きり)の実が何か申ぞ春の風
   菜英

紅海は大太刀をさす若衆哉
   荘丹

なけなしの梅をさいさい霰哉
   児石

稲妻のなければなくて閑也
   葛三

行春や今日迄のふばたらき
   虎杖

待宵や仏もしらぬひぢ枕
   午心

  ムサシ
山かげやふいと千鳥に日のあたる
   碩布

星の秋撫子の御子も咲といふ
   葛三

  ナンブ
梅がゝの姿をいはゞ黒茶碗
   素郷

  ミチノク
蕣にけずりとらるゝ心かな
   巣居

寒空や筏にのせし鍋の迹
   乙二

時雨けりほちほち高き竹の節
    同

春の水あかるく見へ(え)て暮にけり
   如毛

鳴神の絶間を登る鵜飼哉
   柳荘

  上州
鶏頭の露しみ込んで仕廻けり
   雨什

   伯蔵司画

世は芒穂にこそいでね皆狐
   二柳

   弁慶画

花すゝき一夜はなびけむさし坊
   蕪村

  下総
さく梅のうしろに不二の御顔哉
   月船

うしろからおぼろ月夜と成にけり
    同

親と子や在所の雪の二日降る
    同

花守がよ所の花見る月よ哉
    同

  エド
雨風の杖の先也秋の山
   一峨

   筆捨山

筆取て向へば山の笑ひけり
   蓼太

  武州
稲妻や黄昏かけて有磯海
   国村

  シナノ
初空や門に橋あり柳あり
   呂芳

  シナノ
啄木や軒の蔦にはよりも来ず
   春甫

(あの)桃が流来かよ春がすみ
   一茶

  ヒタチ
八ツ過の浦淋しくも心天
   翠兄

  成田山
加茂川につゝかけたりや心天
   素迪

  下総
鶯もあくもの喰や老仲間
   雨塘

  上ズサ
菊の香や在家もはやく灯のとぼる
   砂明

門の木に階子(はしご)かゝりて夜寒哉
   一茶

  上ズサ
おく露や手にとるやうな夜の空
   子盛

口切のすぐにかは(わ)くやゆりの花
   耒耜

(下 巻)

朝虹や寒だけ立し箱根山
   洞々
文化五年四月廿二日没
黒こそ男はよけれ田植笠
   丈水

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