一茶関連俳書


『なにぶくろ』

文化9年(1812年)刊。竹堂一峨編。序文は一茶と成美

森田元夢の十三回忌に今日庵を再興した記念集。

   秋之部

  古人
水の色は水にもどるや秋の風
   元夢

  兵庫
あきかぜや割木のうへを這ふ螢
   一草

  本宮
縁ありて蛙とりつく經木かな
   冥々

  信濃
ふぢ豆に引たふさるゝ萩の花
   若人

  カヒ
識の馬士どのや草のはな
   一作

  南部
芒よりうまれし山をすゝきより
   素郷

  古人
花芙蓉さびしいはわが心にて
   恒丸

  白石
水音やこんな奥には菊と家
   乙二

  下総
犬蓼や立秋顔のふじの色
   南道

夕暮や秋のからすの一羽飛
   松井

蓙きれの鳶にもならずあきの暮
   洞々

  上総
置露や手にとるやうな夜の空
   子盛

  
山陰や鳥が立ても霧臭し
   素玩

  シナノ
山里は罪なき月の見やうかな
   蕉雨

  サガミ
見せ申厄介はなし月一夜
   南謨

   冬之部

四方からしぐれよせても不二の山
   春蟻

  カヒ
霜の夜や甲斐に居なじむ膝頭
   嵐外

大雪のあらし山からふり初る
   諫圃

  南部
月一夜まかせておけば小雪ふる
   平角

  石ノマキ
寒ければ雨の手づまも變りけり
   曰人

さむければ棚の菅蓑さへそよぐ
   其堂

  古人
はね炭や月夜月夜の草の庵
   浙江

不拍子は炭がはねてもひとり哉
   一瓢

小鴨にもよそよそしさや都鳥
   道彦

はつ河豚や無尽取たるもどり足
   巣兆

  花マキ
芒ほどさむい物なし手を切て
   鷄路

妻なしのひとへ山茶花咲にけり
   兀雨

  上総
いやさうに枯芦そよぐ日暮哉
   白老

  ヒタチ
冬の日のとり落しては海くれぬ
   翠兄

  仙台
冬来ても木隠れ安し三日の月
   雄淵

  サガミ
世を行も拍子ものなり鉢鼓
   葛三

  下総
臘八や月は真上にして寒し
   雨塘

   春之部

  下総
人の来て元日にする庵かな
   恒丸妻

  下総
ひよ鳥の拾ふて行やうめの花
   鶴老

春の草お七が墓に人見ゆる
   成美

  安房
抹香のこぼれては咲すみれ哉
   杉長

  上總
野の宮の風除つばき咲にけり
   里丸

花さけや仏法わたる蝦夷が島
   一茶

まんぢう(ゆう)のけぶりもかよへ花の雲
   久藏

  肥後
春のうみ一寸見よ鼾かゝぬうち
   対竹

  ゝ(下総)
はるの月寝しづまりなる間(あひ)の村
   一堂

見し鐘をやどりに聞や春の月
   午心

  シナノ
はるさめにみな寝た家か伏見あたりの村
   如毛

鶯のなくほど啼てお帰りか
   車両

  上総
うぐひすの尾をそらし啼野風かな
   素迪

  ムサシ
うぐひすの丁子含める音色哉
   荘丹

  ムサシ
井戸端の豆腐に移る小蝶かな
   国村

  シナノ
尻がるにちどりも帰る朝南風(みなみ)
   湖光

二日灸さよの中やま又越ん
   完来

  甲斐
炉を塞ぐ心誘ひぬ縁の先
   一作

  ナゴヤ
灯の見ゆる戸も正月の宵寝哉
   士朗

   夏之部

  下総
昼過の槇の高さよ更衣
   月船

  下総
鵜ひとつを追まはすなり船のもの
   一白

  出羽
蚊の中に立すてゝある灯(ともし)かな
   長翠

  シナノ
竹にふる雨や月夜のかたつぶり
   雲帯

  下フサ
杓子とる嫁が作りしけしの花
   兄直
※「杓」は手偏に「夕」

  下総
竹の皮朝々人に落るなり
   近嶺

  ムサシ
嶋山の茂りに入し潮かな
   星布

  安房
うつくしう留主を遣ふぞ杜若
   郁賀

  下フサ
夏山や日和さだめぬ温泉(ゆ)のけぶり
   斗囿

  シナノ
往道に清水の風のかゝりけり
   素檗

  サガミ
河べりの暮くらからず夏の家
   雉啄

  シナノ
身ひとつの暑をさますかげもなし
   虎杖

  ムサシ
水無月や蝶も小浪もうごく物
   双烏

  武蔵
夕顔の咲たつ里か足あらひ
   五渡

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