『つげ義春とぼく』(桃源行)


〜栃木・那須『北温泉』〜

つげ義春が北温泉を訪れたのは昭和51年11月。



北温泉は今でもつげ義春が描いたイラストのまま。

つげ義春の栃木・那須『北温泉』は芭蕉の句で始まる。

一家(ひとつや)に遊女も寝たり萩と月

 『おくのほそ道』のこの一句は周知のように越後路の浮身宿で芭蕉がたまたま遊女と相宿した一夕、一興にして得た佳吟である。

元禄2年(1689年) 7月12日、市振の宿で詠んだもの。

 行くさきざき、わたしたちの同行はきまって老婆であり、でなければ病者であった。今度の北温泉行とて変わらない。わたしたちをまっているのは、皺首をのべあう老婆、無聊(ぶりょう)をもてあそぶ病人のいくたりかであった。

『北温泉』は自炊設備もある湯治宿。

湯治宿だが、最近は秘湯ブームで若い女性もやってくる。

 あったはずであった。──が、しかし当夜、わたしたちは空耳ではなくすぐ「一間隔ての面の方に」若い女の声をきき、芭蕉の一句の寝入りとなる羽目となった。芭蕉は寝入った……。わたしは寝入りがたく輾転(てんてん)くりかえした。

「梅の間」、「竹の間」、「松の間」があり、それぞれ昭和、明治、安政の建物。

「一間隔ての面の方に」若い女の声が聞こえることも珍しくないだろう。

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