白雄関連俳書

加舎白雄「発句篇」


新年

   くすし一羽亭初会に

この中にわかきはたれぞ屠蘇の酒



   としありてこのかみの家にあそぶ。

ふるさとや梅に柳にはなしあり



風かほれかほれ菩薩の北面

さうぶ湯やさうぶ寄くる乳のあたり

かくの如く滝にぬれけり夏衣

旅人に旅びと見せよといひけんも思ひあはすの折から、紀枝なる者、青樽を携(へ)来(た)るに我人興に入(り)て

冷し酒旅人我をうらやまん

   碓氷峠にて

ひなぐもりかならずよ山ほとゝぎす

子規なくや夜明の海がなる

なかんづく鮎の尾赤し千曲川

   なれにし魚生ぬしが葆光洞にあそびて

馬ほこりも蝿も忘れしひと間哉



浅間山のいかりたえてんたのむ哉

吹(き)つくしのちは草ねにあきの風

   鴫立沢にありしころ

沢蟹のあゆみさしけり秋の暮

   雨塘が午明楼上

月ひと夜出しほの森は忘れざる

姨すてや月をむかしのかゞみなる

嫗捨や松島や広沢や石山や須广や明石や黒戸のはまむさし野はほどちかみ、清き渚はるかなりけり。

名月や眼(まなこ)ふさげば海と山

葉生姜や手にとるからに酒の事



馬巷に春秋菴ふたゝびなりぬ。詞友の丹誠大かたならぬをこの日わが二翁につゝしんで告す。

初しぐれ艸の菴にてはなかりけり

   鶴見橋上

朝夕や鶴の餌まきが橋の霜

   七日善光寺へまいりて

ありがたや三児も雪をふみきやす

武野中毛呂の邑長橿寮碩布があるじして蕉翁忌いとなむ日、行嚢に蔵したる遺像を壁にたれつゝ其(の)徳光の一燈をかいたて謹(ん)で諸子と風雲をいのる

担ひもて毛呂に翁のしぐれかな

   寛政元年十一月六日

捨てられぬものはこころよ冬籠

   野火留にて

妻も子も榾火に籠る野守かな

五升菴とよぶ洛の蝶夢坊が閑居をとひて

冬ちかし炭われ瓢先見せよ

うらおもて木の葉浮べるさび江かな

出雲崎ほど近く佐渡の孤洲にうちむかひて

佐渡遠く木がくれに渡る鷹もがな

雪香がもとにあそぶに、あるじは師が門人松琴老人の孫子なりと聞(き)て一花に対す。

親の親の風情や嗣て石蕗の花

   東阿あざりがもと(を)とひて

咲(き)しより冬野(を)越(え)てとひし梅

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