本 ミステリ(日本)
漂流巌流島
高井忍著(2008年) 東京創元社
若手シナリオライターとベテラン監督が、居酒屋で新作時代劇の打合せをしながら、有名な歴史上の出来
事の裏に隠された「真実」を推理していくという、歴史ミステリ連作集。
駆け出しのシナリオライターである語り手の「僕」は、演出家の三木から声を掛けられる。アクション、ホラー、コメディ、お色気もの、舞い込む仕事はなんで
も引き受ける三木が今回手がけるのは、時代劇オムニバス。「実録チャンバラ外伝巻之壱」というビデオ映画で、歴史上の出来事を4つとりあげている。三木
は、最初はそのうちの1本だけを監督することになっていたのだが、他のエピソードを撮るはずだった監督たちが次々と降板し、早く安く作品を仕上げることで
定評のある三木に次々とお鉢が回ってくる。「僕」は、三木に命じられて、それぞれの出来事に関する資料を集め、使えそうなネタ捜しをする。二人はドラマ化
についての検討を重ねていくが、やがて、資料に残された記録から小さな疑問が生じ、意外な事実が浮かび上がってくる。人使いの荒い監督に振り回される新人
の「僕」と、いい加減そうでいていざとなると鋭い洞察力で核心を突く三木監督のコンビが愉快である。(2009.2)
☆漂流巌流島
1612(慶長17)年の宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘をテーマとする。「僕」は、さまざまな資料
を集めて監督に報告する。が、巌流と円明流という二つの兵法の対立から始まったとされるこのあまりに有名な決闘の実際は、調べれば調べるほど、世間一般に
知れ渡っている「巌流島の決闘」の内容から遠ざかっていく。宮本武蔵は遅刻しなかったし、佐々木小次郎は刀の鞘を投げ捨てなかった。それどころか、決闘の
相手は、そもそも佐々木小次郎ではなく、さらに宮本武蔵という名の武士は何人もいたらしい・・・。慶長17年の潮の流れまで算出し、決闘の真相に迫る。
☆亡霊忠臣蔵
1702(元禄15)年12月15日の赤穂浪士による吉良邸討ち入り。討ち入り後、浪士たちの身柄
は4軒の武家に預けられた。中でも最も多くの浪士たちを預かった細川越中守綱利は、討ち入りを支持し浪士らを厚遇した。が、やがて浪士たちは46人全員が
死罪となる。「僕」と三木監督は、この浪士たちの処分が当時における処罰として適切であったか否かを知るため、江戸城中で起こった他の刃傷沙汰を調べるこ
とに。三木監督は、1747(延享4)年に起こった刃傷事件(旗本板倉修理が細川宗孝を襲撃、死に至らしめる)に注目、被害者細川の死に関わる陰鬱な「事
実」を導き出す。
☆慟哭新選組
テーマは、1864(元治元)年の池田屋事件。池田屋に集まっていた長州や土州出身の尊皇攘夷の志
士たちを近藤勇率いる新選組が急襲、多くの死者を出した。これは、「何しろ明治維新を一年、二年、それどころか三年は遅らせた」あるいは「全く逆に歴史の
弾みをつけて、明治維新を一年、二年、いやいや三年は早めた」と論議されるほどの、幕末史上有名な事件である。池田屋にいた志士たちは28名ほど。これに
対し近藤側は、もろもろの事情があってその場にいあわせたのは、近藤、永倉新八、藤堂平助、沖田総司の4人のみ。近藤はたった4人で踏み込む決意をし、決
行する。このあまりに無謀な決断に三木監督は疑問を抱く。当時の状況と近藤の生い立ちや言動から、なぜ彼がこのような行為に至ったのか、その悲愴な真意を
探っていく。
☆彷徨鍵屋之辻
曾我兄弟の仇討ち、赤穂浪士の仇討ちと並ぶ日本三大仇討ちの一つである鍵屋の辻の仇討ち。
1634(寛永11)年、旧池田家士渡辺数馬が、弟の仇敵河合又五郎を討った話で、助太刀した数馬の姉婿、荒木又右衛門の三十六人斬りで有名であるらし
い。数馬等の一行は仇敵を追って旅をしていたが、ついに江戸に向かう河合の一行を発見する。彼等は伊賀の国上野の小田町にある辻で出会い、斬り合いとなっ
た。河合ら一行は実際には36人もいなかったのだが、この敵の一行の人数に三木監督は目をつける。討ち手方の証言では敵の数は11人となっているが、関
係者を引き取った武家の記録では10人となっているのだ。荒木又右衛門が、処遇が決まって解放された後、たった2週間で死去していた事実も絡めて、三木監
督が謎の11人目の正体を暴く。
参考:「荒木又右衛門」(長谷川伸著)
(あいうえお順)
DEATH NOTE アナザーノート
ロサンゼルスBB連続殺人事件
西尾維新著(2006年)
原作:大場つぐみ、小畑健
集英社
映画化もされた少年ジャンプの人気まんがの人気キャラ、Lが登場するミステリ小説。Lは、世界各地で難事件
を解決し、世界中の警察に一目置かれている正体不明の名探偵。まんがでもおなじみのFBI捜査官南空なおみが、Lの指揮のもとで連続殺人事件の捜査にあた
る様子が描かれる。
パソコンと携帯電話を通しての南空とLとのやりとりと、事件現場に現れた謎の探偵「竜崎」と南空の推理くら
べとで物語は展開していく。
アメリカ、ロサンジェルスで、年齢も性別も職業もまちまちの3人の男女が、自室で他殺死体で発見される。いずれの場合も部屋は密室状態で、壁にわら人形が
打ち付けら
れていた。が、3人の接点は不明である。
第一の殺人は、7月31日に発生。被害者は、ビリーブ・ブライズメイドという44歳の男性フリーライター。死因は絞殺。部屋の壁には4体のわら人形が打ち
付けられていた。
第二の殺人は、8月4日に発生。被害者は、クオーター・クイーンという名の13歳の少女。死因は撲殺。わら人形の数は3体。
第三の殺人は、8月13日に発生。被害者は、バックヤード・ボトムスラッシュという28歳の女性銀行員。死因は刺殺。わら人形の数は2体。
南空と竜崎が、以上の事件現場を訪れ、それぞれの場所に隠されたメッセージを発見し、次の犯行を予測する過程は、事件の捜査というよりは、パズルの解きく
らべといった感じ。途中でLが指摘する犯人の名は、ビヨンド・バースデー。登場人物の名前の奇妙さが、本編のまんがを思わせる。
Lの後継者候補として育てられ、Lに対して複雑な思いを抱くメロことミハエル・ケールが語り手となっているせいか、語り口はちょっと投げやりでかなりかっ
こつけである。(2007.11)
関連漫画:「DEATH NOTE デスノート」
関連映画:「デスノート」 「デスノート the Last name」「L change the WorLd」
魔人探偵脳噛ネウロ 世界の果てには蝶が舞う
松井優征、東山彰良著(2007年)
集英社
少年ジャンプに連載中の人気まんが「魔人探偵脳噛ネウロ」に
登場する刑事笹塚衛士を主人公にした小説。
ネウロは、謎を主食とする魔人で、大好物の謎を求めて魔界から人間界にやってきた。女子高校生桂木弥子を傀儡として私立探偵にしたて、自分は助手になりす
まし事件の情報を集め真相を究明してはその謎を味わっている。
笹塚は、彼らが事件現場でいつも出くわす警視庁捜査一課の刑事。常に低いテンションでありながら、射撃の腕は一流、刑事としても有能であることのアンバラ
ンスが人気のキャラクターと言ったところだろうか。世界的犯罪者である怪盗X(サイ)に家族を惨殺された過去を持つ。この小説は、その悲惨な事件の後失踪
した、彼の空白の1年間を描いたものである。警官になる前の、若き日の笹塚が南米でマフィア絡みの殺人事件に遭遇する。
家族の死から立ち直れず、悪夢に悩まされていた笹塚衛士は、南米の町をあてもなくバイクで疾走する日々を送っていた。ある日、ホテルの部屋
の中に、羽に奇
妙なマークを描かれた蝶が舞い込んでくる。蝶は、一人の少女が、死者の霊を慰めるため、飛ばせていたのだった。
笹塚は、日系マフィアのボス、エンゾー・ナツメとその孫娘エマと知り合いになる。屋敷で起こった殺人事件の謎を解いたことから、一家に居候し、ボディガー
ドのトガシから射撃を習うことに。殺人は、ナツメ・ファミリアに怨みを持った人間が復讐のために行っていたのだったが、やがて正体を現した犯人は、エマを
誘拐し、エンゾーに日系大
統領候補暗殺の指令を出してくる。
話は軽快にテンポよく進み、出てくる人物たちもなかなか愉快で魅力的。クライマックスは、蝶を頼り
にエマの居場所をつ
きとめ、暗殺を食い止めるまでのサスペンスが楽しめる。「蝶」のイメージが一貫して作品全体を貫いているのがいい。(2007.11)
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