小説


小 説



お気に入りの中で、このページが一番量が多いです。
紹介というより、本当に感想だけですね。
ジャンルは分けてません。ほぼ、五十音順です。



≪インデックス≫
<あ行>
・赤川 次郎  ・有栖川 有栖  ・有川 浩  ・青井 夏海
・いしい しんじ  ・石持 浅海  ・上橋 菜穂子  ・江國 香織
・大崎 梢  ・荻原 浩  ・荻原 規子  ・乙一  ・恩田 陸
<か行>
・海堂 尊  ・加納 朋子  鎌田 敏夫  ・北村 薫
・鯨 統一郎  ・久美 沙織   ・クラフト・エヴィング商會
<さ行>
・鷺沢 萠  ・佐藤 多佳子  ・小路 幸也  ・白石 一文
・管 浩江  ・瀬尾 まいこ  ・瀬名 秀明
・宗田 理 
<た行>
・高楼 方子  ・高野 和明  ・竹内 真
・田中 芳樹  ・辻内 智貴
<な行>
・梨木 香歩  ・中 勘助  ・乃南 アサ  ・西崎 憲
<は行>
・畠中 恵  ・ひかわ 玲子  ・保坂 和志
・本多 孝好
<ま行>
・松久 淳+田中 渉  ・三羽 省吾  ・森 絵都
・森 博嗣  ・森谷 明子
<や行>
  ・山本 文緒  ・湯本 香樹実  ・米澤 穂信
<わ行>
・若竹 七海





赤川 次郎
作 品 ・三毛猫ホームズシリーズ

・第九号棟シリーズ

・杉原爽香シリーズ

・南条家シリーズ

* 赤川作品は、作品数が多いので、特にお気に入りのシリーズだけご紹介します。

《三毛猫ホームズシリーズ》

片山義太郎は、女性が苦手で血が苦手な警視庁捜査一課の刑事。
両親を早く無くしたため、妹晴美と、とある事件をきっかけに居着いた 三毛猫のホームズとの三人暮らし。
頭のいいホームズと一緒に、事件を解決していく。



最初に読んだのは、中学生のとき。
ここから私の読書人生が始まりました。
昔から、推理ものやパズル関係はとても好きでしたが、このシリーズをきっかけにして、 一気に推理小説へと傾きました。
この頃は、読む本て赤川次郎オンリーでしたね。それから少しずつ、他の物語や 作家の物を読むようになりました。
もし、私の人生を変えた一冊をあげろと言うなら、このシリーズをあげるでしょう。
主人公の片山刑事、ホームズ、晴美、晴美の自称恋人石津。
出てくるキャラクターは、皆やさしく暖かいキャラばかりです。
途中までは、出て居る本を追っていってたので文庫ですが、追いついてからは新書で買ってます。 最近、新作が出て居ない気がするのですが、どうでしょう?

《第九号棟シリーズ》

鈴本芳子、20歳。大金持ちだった父がなくなって、その莫大な遺産を相続した。
が、財産目当ての親戚に、入ったら一生出てこれないと言う精神病院に入れられてしまう。
そこに居るのは、自分を架空の人物や、過去の偉人だと信じ込んでる人々。
その人たちの協力により、無事外へ出る事の出来た彼女は、 病院の中と自分の家での2重の生活をしながら、社会的に立場の弱い人たちを 助ける探偵行をはじめる。


赤川次郎のシリーズ物の中では、これが一番好きでしょう。
出てくる人物が、みんな個性的です。
思い込んでるだけでなく、そのキャラの得意な事を本当に出来てしまうあたりが、やっぱりお話。
サロメのお話を最後に、出てないんだけど、これ、続編出るのかなぁ? 出て欲しいなぁ。


《杉原爽香シリーズ》

杉原爽香、その名前のとおり、さわやかで暖かな女性。
貧乏くじを引きやすく、人から誤解されたりうらまれたりする事もあるけど、 周りの人たちは、彼女のよき理解者である。
一年一冊刊行と言う珍しいシリーズで、キャラクターたちも、 一冊に1歳ずつ年齢を重ねていく。
最初のお話で、15歳だった彼女も、01年発行の最新作では28歳。


読み始めたのは、5年目を過ぎた頃だと思います。 最初は、彼女が25歳くらいまでって言われてたんだけど、とっくに通り越して どこまで行くか分からないです。 これは読んでるとイライラするんだ。 爽香が、不当な目にあってたりするし。気になる一文とか出てきても、 翌年まで待たないといけないしね。 今年版は、終わり方が嫌なところで終わったために、毎年以上に、 胃の痛い思いをして居ます。
これの登場人物って、基本的に『弱い』人が多いのだと思うのです。

《南条家シリーズ》

南条家の双子の姉妹、麗子と美知。見た目はそっくりなくせに性格は全く正反対の二人。
麗子は、おっとりした姉。ケンと結婚し、幸子と言う娘もいる。
美知は、男勝り。女だてらに暗黒街のボスである。
お話は、麗子の結婚のお話から、現在、幸子の学校のお話までいっている。


最新作読んでないんだよなぁ。
このお話のつぼは、お手伝いさんの春子でしょう。
麗子と結婚し、裏世界から足を洗って、婿入りしたケンがかっこいいです。
それ以上にかっこいいのは、南条父だと思っているのは、私だけだろうか?
普通、娘が選んだ人間とはいえ、素性が知れないどころか、裏社会にいた奴を 自分の跡取には、据えないでしょう。
やっぱり娘が、暗黒街のボスになってるから、その手の事には、寛大なのかしら?

有栖川 有栖
作 品
マジックミラー(講談社)

《マジックミラー》

3月最後の日、小説家の空知は担当者と打ち合わせがてら酒を飲んだ。 その帰り道、かつての恋人の妹、ユカリと再会する。
古美術商に嫁いだユカリの姉、恵が、別荘で殺された。 怪しいのは亭主の新一と、その双子の弟健一。 しかし、二人のアリバイは完璧だった。
やがて、同じ場所で第二の殺人が起こる。 兄弟のどちらかが被害者らしいが、その死体からは、 頭と手首が失われていた。
第一、第二の殺人事件の犯人は誰なのか? アリバイは崩せるのか?
空知は仕事そっちのけで事件を追うが、 その事件を崩していくのは、ユカリが雇った探偵だった。


『九つの殺人メルヘン』を ご紹介いただいたとき、一緒に教えていただいた本です。
先に読んだのは上記の本なので、私は立て続けに『騙された!』感を味わう事になりました。
時刻表を使ったアリバイ作りは、私も乗り物に疎いので苦手なので、 崩されていくトリックより、空知のアリバイトリックの講義の方が面白かったです。
これは、一定方向からだけものを見ちゃいけなかったというより、 それぞれ書かれてる文章の、その前後にあるものを、 感じ取らなければならなかったと思った本でした。
ラストの『新しいトリックは出来ましたか?』という担当者のセリフが、 殺人を誘導しているようで怖かったですね。
この本の主人公は、正しい意味で空知だったと思います。

有川 浩
作 品 ・レインツリーの国(新潮社)

・海の底(角川書店)

《レインツリーの国》

中学生の頃に読んだ、ライトノベル。 ラストにちょっとしたトラウマを残した「伸行」は、その日、ネットでその本を検索してみた。
行き当たったのは「レインツリーの国」と言うサイト、感想を書いたのは「ひとみ」という女性。 その感想が気に入って、早速メールを出した事から、二人は知り合う。
メールの内容、打てば響くような言葉の応酬に、すっかり「ひとみ」にほれ込んでしまった 伸行は、「一回会ってみたい、無理なら電話でもいい」とメールを打った。 返ってきたのは「会うだけなら」というもの。 有頂天で出かけていった伸行だが、実際に会う「ひとみ」は、ネット上とは違いテンポが合わず、 不可思議とも取れる言動に、多少イライラも感じる。
決定的なエレベーターの重量オーバーの音が響いた時、伸行は、彼女の秘密を知った。
「ひとみ」は、聴覚障害者だった・・・。



著者の代表作『図書館戦争』シリーズの二作目に出てくる作中作。 そちらでは、ちょっとした意味をもってこの本が存在するそうですが、 これはそれとは全く無関係の、ボーイ・ミーツ・ガールの恋愛小説です。
タイトルからして、衝撃がありました。昔好きだったアーティストの曲の歌詞かと思った。
中身は、もっと衝撃的でした。
周りに少しは居ても「聴覚障害者」と呼ばれる人たちと、親しく接する事ってそうはないと思う。 それだけに、一括りにしてしまって、当事者たちはすごく嫌な思いをしてるんだろうなぁと、 読んでて初めて知る事や、反省する点も多々出てくる。
「ひとみ」は、それを前面に出して、伸行は出来る限りそれに応えるのだけど、 伸行本人の抱えていた心の傷の方が、私には痛かったな。
皆、つらい経験とか傷つけられた事とか、あるんだよ。
それが人それぞれなだけで、誰か一人の傷が、世界で唯一一番の不幸じゃないし、悲しみじゃない。 自分が傷ついて痛い思いをするなら、相手だって、痛い思いをする。
しかもそれが、自分と同じじゃない事に。
理解できない悲しみや苦しみだけど、自分が別の事ででもつらい経験を持つなら、 相手の事も考えて思い遣ってあげられると思うんだ。
どちらの気持ちもわかるから、これは正直、内容そのものも、身につまされるところが一杯あったな。
著者は、これを書く時、参考文献の体験談を読んで、どきっとする事とか、 「自分もやってるかも」と思う事がたくさんあったんだそうだ。 そのエピソードを出来るだけ盛り込んだので、「恋愛小説」としては、すごく回りくどいし、 わくわくどきどきするだけの物じゃない。 でも「人と人との関わり」を、恋愛を通してものすごく分かりやすく表現されていると思う。
色んな意味で、考えさせられるお話でした。

《海の底》

桜祭りで米軍横須賀基地が解放された日、横須賀は正体不明の巨大甲殻類に襲われた。
知らせを受けて、入港したばかりの潜水艦「きりしお」は沖へ出航を試みるが、 既に海の中は、甲殻類で一杯だった。 艦長の指示の元、丘へあがろうとした乗組員、夏木大和と冬原春臣は、逃げそびれた 子供たちを救出し艦内に立てこもるが、その際、艦長・川邊が命を落とす。
警察機動隊の厳戒態勢がしかれる中、甲殻類の正体も明らかになる。 それは、本来は体長数センチにしかならないエビだった。



先にメインとなる、夏木、冬原の出てくる短編集を読んだ事から、興味を持って読んだ本です。
一言で言えば「ありえねぇ!」だと思う。けど、実際、本当にありえなくないかも知れないから 恐ろしい。今、地球そのものが温暖化で変化し続けてる中、今までと住んでる環境が変わって 生き物が進化する事だって、ないとは言えないから。
この本の醍醐味は二つに分かれていて、現代の警察のあり方と 子供たちと大人たちのコミュニケーション、世の中のあり方だと思う。
外の緊迫した空気に比べ、対立していても、潜水艦内の平和だった事。 ただ、子供たちを取り巻く大人の世界がこれ程屈折してるものなのかと、 嫌悪感は否めなかったね。
子供は、大人のための「道具」じゃない。大人がちゃんと「大人」になってなかったら、 子供に何も伝えられない。
この話に出てくるそれで屈折しちゃった子供は、正しく頭の良い子だったらしく 自分で気付いたけど、それを認めて受け入れるまでには、時間が掛かったし、 親たちが、「自分」を理解してくれない生き物と気付いた時にはそれまで腹が立ってた事も 忘れて同情したし、見につまされる気もしたよ。
この話、えらい早い段階で甲殻類が登場して、川邊艦長があっさりお亡くなりになってます。 機動隊の人たちの話とか、物語の主軸が「怪物退治」な事を考えると、 更にその先の話がこれだけ長かった事を考えると当たり前なのだけど、 もう少し、前振りが欲しかったなと。
たまたま私は、短編集を先に読んでたから、まだ艦長と夏木たちとの関わりが深かったと 書かれても理解できるけど、これから読んだ人は、言葉だけで説明されてる印象を持つんじゃないかと 思うよ。 なので、文庫化される時には、艦長が生きていた頃の話を混ぜてもらえないかと希望している。
これは正直、グロい話がダメな人は、出だしから進むのが大変だと思う。 私も、艦に立てこもる辺りの件が読めなくて、中々先へ進めなかった。
話としては面白い。
毎回思うのは、この作者は、よくこれだけ子供と親のことと、社会の成り立ちを見ているなと言う事。 分かってても、改めて文章にされてようやく納得と思う事が多くて、 世の中の事を、もっと注意して見なくちゃだめだなぁと思う。

(文庫版追記)
文庫版巻末の番外編は、本編の冒頭で説明だけされていた「前夜の大騒動」。
文章そのものが結構緊迫した書き方をされてるので、そこだけ読むとクーデターか何かかと 思うのだけど、先に結果を知ってて、何をやってるかがわかってるだけに、 何をやっててもニヤニヤ笑って読んでしまう。
信頼できる上司や先輩の存在ってのは、部下にとっては、頼もしいものだね。
以前ハードカバーを読んだ時に、川邊艦長が生きてた時のお話が読みたいと思ってたので、 この番外編はとても嬉しかった。
本編は文庫になるにあたり、多少文章が加筆されたり表現が変えられている。 大体は、説明文だったところが「」書きの台詞調になってるんじゃないかな? 元のままの方が好きだったなと思うところと、分かりやすくなったと思うところと両方だね。

青井 夏海
作 品 ・陽だまりの迷宮(ハルキ文庫)

《陽だまりの迷宮》

『不思議なことが起きる家』。
子供の頃、生夫は、そんな事を思っていた。
再婚同士で、最終的に2男9女の11人兄弟となり、その末っ子として生まれ育った生夫。
元気に会計事務所を切り盛りしていた父が、入院して一月足らずでなくなった同じ日に、 母も他界し、生前の二人の希望で、骨は、海に散骨した。
それから1年。
7番目の姉、茅弥が「散骨した四阿から夕日を見よう」と言い出し赴くと、 そこに居たのは案の定、言いだしっぺの茅弥だけだった。
次に誰が来るかを二人で予想しながら、生夫は、昔起こった事件の数々と、 それを解決してくれた、下宿人の『ヨモギさん』を、思い出すのだった。



私の大好きな、日常の些細なミステリーを書いた作品です。
回想という事になってますが、これは、小学生時代の生夫のお話なのですね。
末っ子の生夫は、いつも女姉弟におもちゃにされてる存在で、体も弱かったから寝込む事も多く、 家にいる事が多かった。 たった一人の兄、『光』とは、9歳も年が離れてた上、 家族全員に対してそっけないので、対等に話してもらった事もない。 幼い頃の生夫にとって、『ヨモギさん』だけが、男同士として、対等に扱ってくれた人だった。
これは生夫の視点で書かれた話なので、そのまま読んでいくと、矛盾に気づかない。
生夫の周りで起こった事件ではなく、『ヨモギさん』に関する謎を、 今度は茅弥が解いていく。
本当は、ちょっと頭をひねって考えれば、分かるはずなんだけど、 最後の茅弥の謎解きを聞くまで、全然気づかなかったなぁ。
男兄弟って言うのは、年が離れてても「兄弟」なんだね。
姉妹は、どんなに年が離れてても「女同士」だもんね。
良いお話でしたよ。
『兄弟』って良いなと、素直に思えるお話でした。
謎そのものも、途中から真剣に悩むけど、『ヨモギさん』の謎の解き方と、 その最後に付け加えられる言葉が良かったです。
『ヨモギさん』は、生夫に、人としての優しさを、教えてくれてたんだろうと思うのですよ。 「薄情者が多い」という生夫の言葉を受け取りながら、茅弥は、決してそうは思っておらず、 皆にとって、生夫は、大切な「弟」だったんだなと、思うような話でした。
タイトルの「陽だまり」って言うのが、ぴったりはまりましたよ。

いしい しんじ
作 品 ・ぶらんこ乗り (梶@新潮社)

・プラネタリウムのふたご(講談社文庫)

《ぶらんこ乗り》

ある日おばあちゃんに、「出てきた」といわれたノートの束。 それは、『私』の弟が、お話を綴ったノートだった。
小さい頃から頭が良くて、悪戯の天才で、ブランコにのるのが上手で、 指を鳴らすのが得意な、今はもういない私の弟。
雹が喉を直撃して声を失った後、弟は、動物の話を理解するようになった。
そして、姉弟を、悲しい事件が襲う・・・。



感想、というより、本の内容を語るには、もう一回読み返さないと駄目なんだろう。 でも、一回読むだけで、今はいっぱいいっぱい。
ひどくさびしくてやさしくて、かなしくてあたたかい。 まるで正反対のものが、それこそブランコが行き交うように、 引力で引き合うように重なってたお話でした。
この本を読んでると、自分が知っているけど既に忘れてしまった、 又は思い出したくない『何か』が、掘り起こされていくような感じがした。
とにかく泣いた。
文、というか、『言葉』であらわせなくても、『私』の気持ちを、知っている。
改めて言葉にされると、わかりすぎて、痛くて痛くて痛くて、 すごく、すごく、すごく、泣いた。
読み終わるには、とてもたくさんの時間が必要だった。
気持ちの中に、いろんな感情があふれてきて、 「お話」の内容が、途中でなくなっちゃうんだ。
本当は、もっと細かく深く語りたいんだけど、 そうするには何回も読まないといけなくて、読んだらきっと、 最初に感じた気持ちが薄れていってしまいそうだったから、 きっと、このまま載せたほうがいいんだと思った。

内容で気になったのは、動物の記述かなぁ?
行動そのものは同じでも、その元にあるものが本の内容のとおりだとは思えなかった。
動物の世界は、自然に直結した世界で、人間が生きてく場所よりずっと厳しいけど、
でも、本能で(人間から見れば)残酷な事をしていても、 彼らは、仲間を思っていないわけじゃないんだと思う。
そうあってほしいと思う。

《プラネタリウムのふたご》

工場からの煙の為、星の見えない村のプラネタリウムで拾われ、彗星にちなんだ名前をつけられた 双子の男の子、テンペルとタットル。
村にサーカスがきた後、テンペルは手品師に、タットルは父と同じ星の語り部になった。
熊が住むといわれる山に伝わる「まっくろくておおきなもの」。 その意味の為すものが、やがて、二人に重い運命をかせる。



いしい氏の話は、読むにもある種の覚悟がいれば、感想を書くのにも覚悟がいると思う。 心に重い衝撃を受けて、絶対泣いてしまうのが、もう、分かってしまう。 このお話は、そういう先に待ち受けてるものを覚悟しながら、 物語そのものは、とても穏やかに進んでいく。
見た目がそっくりな双子は、性格はそれなりに違ってても、 別々の道を歩むようになって、初めて「個」の存在になったんだろう。
山に棲む者というのは、場所によっては信仰する対象にもなりうるし、 奉る儀式は「神事」とも言われ、二人が育った村は、熊狩りのため山に入る 儀式がちょうどそんな感じ。
これ、「感想」を書くのがすごく難しいお話なんですよ。 面白いとか、楽しいとか、悲しいとか、感情を表す言葉はたくさんあっても、 そんな言葉ではとても足りない気がするんですよね。
プラネタリウムが舞台の一つだから、星や空に纏わる話を読んでるのは、 やっぱり興味深かった。 それが真実でも作り話でも、空を見上げて星を見る事には、 とても意味があるんだと思う。 もし全然違う土地に行って、自分が見知った星を見る機会があれば、 ふるさとを思うように懐かしく思うんじゃないかと思う。

石持 浅海
作 品 ・まっすぐ進め

《まっすぐ進め》

川端直幸は、ある日、書店で美しい女性を見かける。 まるで絵画の様な美しさだと感動を覚えたその女性は、手首に二つの時計をしていた。
その特徴を、飲み仲間の友人に話したところ、友人の会社の同僚である事が分かり、 直幸はその女性「高野 秋」と出会う。
時計の秘密を解き明かした直幸は秋と交際を始めるが、 関係が深まっても、彼女の闇の本当の意味はわからないままだった。
そして、秋生まれの彼女の誕生日、直幸は、その意味を知る事となる。



久しぶりに面白い本を読んだなぁと思うのが、最初の感想。
内容もだけど、作り方というか、話の運び方が面白い。
日常を題材にしたミステリーは、HPを作るようになって数多く読んだけど、 謎の方から飛び込んでくるのではなく、見たものを疑問に感じて謎にしてしまう話は、 多分、初めてだ。
話は、川端直幸と、友人の彼女で同じく飲み仲間の太田千草が交互に語り部を務める連作短編集。
直幸が語ってる時には、自分の事であり、「当事者」である秋の事、 千草が語ってる時には、直幸自身の事を、主観的にも客観的にも見て描かれていて、 この話は、直幸と秋の二人を中心に進められている。
謎そのものは、「よくそんなの見て思いつくね」と言いたくなる様なもので、 謎解きが面白いと言うよりは、その着眼点に驚かされる。
主に解決に導くのが直幸で、千草から見た彼は、「賢くて優しくて、奥ゆかしくて、まっすぐ」。 タイトルの「まっすぐ進め」は直幸の名前の象徴で、「幸せに向かって、まっすぐ進め」という 意味らしい。
最後の最後まで引っ張って、ようやく解き明かされる秋の秘密。 事実だけを客観的に見れば、本人にしてみればショックだよね、で済んでしまう事だけど、 客観的にだけ見れない様に話を持って行ってる様に思える。
5話で構成される連作短編だけど、その謎の全部が、人の心理を解き明かすというか、 心の描写を解くように出来てるんだ。 サスペンスだったり、ミステリーは、全部、犯人の心理描写からその犯行なりが始まってる ものだけど、心理そのものに焦点を当ててるのが、この本の醍醐味であり、 面白いところなんだろうと思う。
直幸と秋は出会うべくして出会ったという訳ではないので、 出会えてよかったねぇと正直なところ、ほっとした。 出会えなければ、二人はずっと「独り」の心を抱えて生きなくてはならなかっただろうからね。
偶然、だけれども、「必然」でもあったんだなと思う。 でも多分、会えるはずの人でも、人間同士は縁が結べなくてすれ違ったりもするから、 本当に、すれ違わなくて良かったよ。

上橋 菜穂子
作 品 ・狐笛のかなた

《狐笛のかなた》

『あわい』に生まれ、主様の使い魔として生きる野火は、 人を殺した帰り、子狐の姿で小夜と出会い助けられた。
小夜は、『聞き耳』という、人の心を聴く力をもち、 春名の国の呪者の末裔であった。
小夜はその時助けてくれた『森蔭屋敷』の小春丸と友達になるが、 彼らは、それぞれの願いとは関係なく、 過去の因縁と呪いの渦に引き込まれていく。



内容が濃すぎて、どう感想をまとめたらいいのかわかりません。 なので、ほとんど紹介だけです。
登場人物全てが、自分たちでもどうにもならない物に 引きずられているような印象を受ける話でした。 が、かわいそうと思う人はいませんでしたね。 読み方が淡白だったからではなく、 皆、そうして生きるには、それぞれの理由がはっきりしていたからだと思います。
歴史小説というより、童話に近い感じでしょうか。
あとがきにも少しありましたが、多分、作者さんが一番書きたかったのは、 物語の細々した恨みつらみではなく、 ラストで跳ね回って遊ぶ、狐の親子だったのだと思います。
この作者さんに関しては、私が語るまでも無く、 とても有名な方なので、お好きな方が納得いくか、 別シリーズの方が面白いと思うかは、考え方の違いなんでしょうね。
表紙の色と、夜桜をバックに、狐がはねている絵の印象的な本でした。

江國 香織
作 品
・つめたいよるに

・ホテル カクタス(集英社文庫)

《つめたいよるに》

大切な犬デユークが死んだ次の日に、ハンサムな男の子とめぐり合ったお話 『デューク』のお話を巻頭に、前半はファンタジー、 後半は、食べるものに関する言葉や、物を題材に、『人間』と、その関係を 暖かくまとめた短編集。
デビュー作、『桃子』を含む、21篇収録。



これの感想を、今まで書いてなかったのが、ちょっと不思議かも。
最初は、本当に普通の短編のつもりで読んでたのだけど、 関東のお話の終わる頃、あれ?と思った。
これは、普通の物語ではないんだと。
どちらか言うと、ファンタジーというか、お伽話を読んでいるような 感覚で読めます。
後半は、普通に普通のお話なんだけど、人間模様が面白いです。
江國さんの本は、これが一番最初に読んだ本なんだけど、 この人は、人間を温かく見つめてる人だと思います。
逆に、ものすごくシビアにみてるのかも、知れないんだけどね。

《ホテル カクタス》

ある街の東のはずれに、古いアパートがありました。 ホテル カクタス、というのが、
そのアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。
ホテル カクタスには、帽子ときゅうりと数字の2が住んでいました (中庭には黒猫も住んでいました)。
(本文より抜粋)



これはまず、出だしの分に惹かれました。
どこにでもある街の、どこにでもある古いアパートの紹介。
そこに住んでる住人たち。
もうそれだけで、好きになると分かってしまった本でした。
この登場人物が面白いのです。 『帽子』『きゅうり』『数字の2』
あだ名かと思ったら、本当にそのものなんですよ。
だって、帽子は競馬の帰り、バス代も出なくて2に被って帰って もらわなくてはならなかったし、きゅうりは、日に焼けて青々と みずみずしくなっていくんですもの。 (数字の2だけ、そういう描写がなかったな)
性格も好みもまるで違う彼らは、だけど、お互いがとても 気に入っていて、客観的に見れば気があわなそうなのに、 中身はそうじゃない事を知ってる。 そんな3人が出会って仲良くなって、あたりまえの日常を過ごしていくお話でした。
誰にでも、こんな日常があるんじゃないのかな? そういうのが、とても幸せに映りました。
とっても気になってる事だけ付け加えると、 きゅうりはまっすぐだから椅子に座らないんだけど、 所々、『ベンチに座る』描写が出てきたり、 『自転車に乗る』描写が出てきてるんだけど、どうなってるんだろう?

大崎 梢
作 品 ・夏のくじら(文藝春秋)

・平台がおまちかね(創元推理)

《夏のくじら》

4年前、篤史は祖父母の居る高知で、いとこと一緒によさこいのチームに参加した。 その思い出は、少し苦く思い出したくない部分も残している。
4年後、大学生になるとき、高知の大学を選んだ。
東京に住み、周りからもどうしてなのかと問われる中、 自分でも曖昧にしていた理由は、4年前、よさこいチームで一緒だった、 初恋の人を探す為だった。




地元のお祭りが大好きな私は、お祭りの風景を思い浮かべながら、この話を読んだ。
地元の夏祭りに、毎年よさこいの時間が設けられてて、本当に衣装も音楽も多種多彩。 だけど、雰囲気だけは抜群に良い。
踊りと祭りそのものに、高知のおおらかさが現れてる、それが「よさこい」だと思う。

簡単に言ってしまうなら、「boy meets girl」のお話。
主人公篤史は、ハタから聞いたら「何だそりゃ?」という、だけど本人は本当に真剣な理由で 東京から高知の大学に入って、地元商店街のよさこいチームに参加しながら、 当時のチームの人や同じチームのスタッフからヒントを貰い、少しずつ初恋の人に近づく。
従兄弟の多郎は、家族に「見込みのない片思い」といわれながら、 迷いに迷って「役者になる」という夢を叶える為に、祭りが終わったら東京へ出る。
この二人を主軸に、祭りの熱気、灯り、非日常、そんなものに彩られながら、 登場人物それぞれの想いが交差する。
彼らが参加するのは6年ぶりに復活した商店街のチームで、 その中に良くゲットしたと思われる踊りの天才的な人物が居て、 私は最初、篤史の初恋の人の件を読んだ時、「姫」と異名をとるこの人(男性)を 女性と間違えてたのかと思ったけど、そうじゃなかったんだね。
これ、主人公視点のせいか、主人公と一緒に初恋の人である「いずみさん」を探す脳で読んでた。
推理部分があるものだと最初に気付いて、第三者視点で読んでれば、 多分、もっと早くにいずみさんの正体については判ったかもしれない。
物語の端々に、ヒントとその人そのものが見え隠れしている。
「いずみさん」は篤史の事を覚えててくれて、探してくれてる事も知ってて、 真実と本人にたどり着くのを、ドキドキしながら待ってた。
祭り特有の「吊橋効果」で、「いずみさん」も、篤史を 前とは違う気持ちで好きになっててくれたらいいなと思った。
主人公とチームの人たちと一緒に、ドキドキしながら、早く早くと思いながら読んでた。
彼らは、お祭りが終わった後、どうするんだろう?
どうなるんだろう?
来年の事は、考えてるんだろうか?
続きはないんだけど、その先が、すっごく気になる。

《平台がおまちかね》

井辻智紀は、老舗ながら中堅の明林書房の新人営業マン。 他の出版社の個性的な営業マンたちに囲まれ、今日も元気に奮闘中。
そんな智紀の前には、時々不思議な事件が舞い込んでくる。
自社本をたくさん売ってくれた書店の店長さんに冷たくあしらわれ、 熱心な書店員さんは最近何かがきっかけで元気をなくし、 文学賞の授賞式に受賞者が謎の失踪!!
今は編集部にいる前任者の吉野や、他者の先輩営業マンに助けられながら、 成長していく姿を描く。




この人の作品で、書店物となると、おそらく『配達あかずきん』の方が 有名なのでしょうが、私はこちらの方が好きだった。 書店が中心のお話は、そこそこ読んでると思うのだけど、 出版社が、しかも書店を回る営業がメインの話って、読んだ事ないと思うんだ。
井辻くんは、大学時代から明林の編集部でバイトしていて、 それがきっかけで正社員にならないか?と持ちかけられる。 勿論本は好きだが、編集部には行きたくなかった彼には、配属先が営業だった事は 正に願ったり適ったり。 その理由も中々面白く、個人的にはすごく納得できるのだけど、 それを目の前で切に訴えかけられたら、確かにちょっと引くかもね。
書店内がメインの話だと、お客様とか入荷した本が謎になる事が多いと思う。 彼は営業なので、書店員さんやお店そのもの、作家にも謎の目線が向けられてるところが、 謎の幅が広くて面白いと思うんだ。 この本では、主人公が探偵役なので、同じ目線で一緒に謎を追えるのも、 ストレスが無くてよいところ。
きっと、そういう風に書かれてるんだろうなと言う策略(笑)に乗っかって、 先輩の吉野さんがお気に入り。
文庫版で、井辻君がひつじの被り物をしていて、それが最初不思議だったんだけど、 中を読んで納得した。
「ひつじくん」と、他者の営業マンから呼ばれてたからだったんだね。

荻原 浩
作 品 ・なかよし小鳩組(集英社文庫)

《なかよし小鳩組》

倒産寸前の広告代理店、「ユニバーサル広告社」に勤める杉山。
久しぶりに舞い込んだ大きな仕事は、何と、ヤクザ「小鳩組」のイメージアップ戦略だった。 法律とヤクザを敵に回しかねない状況で、杉山たちは、何とかクライアントの期待に 添えるような、アイデアを搾り出す。
一方、私生活では、離婚した妻が引き取った娘が家出して転がり込んで来る・・・。



読んで一言、「面白かった!」
笑えるし、真剣にのめりこめるし、それで居て、ほろっときてしまうようなところが たくさんのお話でした。
こういうお話で、こういう登場人物って、良いなぁと思う。 ただ、「良いなぁ」とだけ思えるお話って、すごく面白い。 キャラクターが皆良いと思えるお話も、そうは無いと思う。
なんていうか、話の流れもそうだけど、登場人物のそれぞれの事情を重視して読んでたので、 全体の話をまとめて感想は逆に難しい。
ヤクザ何て出てるけど、その人たちだって、強いわけじゃない。 みんな弱い部分を持っていて、分かってるけど、どうしようもない部分を 抱えて、それでも、それぞれの場所で生きている。 すごく、一生懸命に生きてるわけじゃないと思う。 寧ろ、堕落してる部分の方が多いけど、かといって、人生を投げてるわけじゃないんだよね。
その最たるものが、主人公の杉山。
このお話は、杉山の、人生の再スタートのお話でもあるらしい。 本当にどうしようもなかった自分を、社のため、娘のため、離婚して再婚した後、 病気になった元妻のため、何より、自分の為に、何とかしようと走り始める姿がすごく良かった。 だからなのかな?最後のマラソンのシーンは、何とも言えない感動がこみ上げて、 泣いてしまった。
個人的には、後半出てきた勝也がお気に入り。
そして、途中から、「ピーちゃん河田」に全部持っていかれました!

荻原 規子
作 品
・樹上のゆりかご(理論社)

・これは王国のかぎ

・空色勾玉

・白鳥異伝

・薄紅天女

・風神秘抄

《樹上のゆりかご》

辰川高校は、男女の比率が3:1、学校を挙げて盛り上がる3つのイベントがあり、 その運営の全てが、学生に任されている。
2年生の『上田ひろみ』は、男性中心の学校内の細々した事に 説明しがたい居心地の悪さを感じている。
元クラスメートに誘われて、合唱祭、そして生徒会の メンバーとなり、イベント運営に勤しむ事になったが、 合唱祭の当日におきた事件がきっかけで、『辰川高校』の本質を 考える事となる。


上田ひろみが主人公のお話は、これが2作目に当たるらしく、 本作の所々に、その内容が出てきます。が、前作がファンタジーだったのとは違い、 こちらは、主人公の学校を舞台とした青春物語なので、前作を知らない私も 普通に読めました。
これは、自分が経験してきたイベントが含まれるせいか、昔を思い出しながら 読んでしまい、少し読んでは思いをはせていたので、最初全然進まなかったのですが、 第一の事件が始まった頃から、本腰入れて読み始めました。推理小説かと思ったのですよ。 でも、そういう訳ではなかったらしい。最初から、犯人が分かってしまっているから。
ある女生徒が犯人な訳ですが、その反抗が問題というより、彼女の心の中にある 葛藤と憤り(って言うのが、私には一番しっくり来るかな?)が、大事なポイントになってます。
いわゆる『男性社会』、表立ってはいないけど、その全ての中に女性を否定する 『顔のない名前のないもの』。
女子の多い学校で暮らした私には、分かりかねる部分もあるんだけど、 女だから、彼女の言ってる事も理解できました。
このお話の中でポイントになってくるのは、『江藤夏郎』って言う男の子だと思う。
お子様のようで、難しい事にも気が回るしさりげないし、分かってないようで分かってる。 男の子って、こういう感じだよね、と思いましたね。
この本に関しては、毎度の事だけど、色んな事を思いながら読んでたので、 箇条書きのように、色んな感想が出てくるんですよ。 200字詰め原稿用紙、2枚分感想文を書けって言われても、出来るかもしれない。
この続きのお話を読みたいね。上田ひろみが主人公のお話ではなく、『樹上のゆりかご』っていう お話の続きを。
人間と人間がかかわって、成長していく以上のドラマって、そうないと思うからね。

《これは王国のかぎ》

上田ひろみは、15歳になる直前に失恋した。
自分の思い人は、よりにもよって、自分の親友とくっついてしまったのだ。
そんな事を知らない親友は、誕生日のお祝いに 初デートで買ってきたドナルドダックのぬいぐるみをくれた。
『自分をやめたい』と、なきながら眠って、次に目が覚めた時は、 アラビアンナイトの世界にいた。
しかも、自分は『魔神族』(ジン)となって。


上記『樹上のゆりかご』の前作に当たります。が、 主人公が同じというだけで、全く違うお話といっても大丈夫でしょう。
最初がファンがジーで、次が青春小説って言うのも面白い。
共通しているのは、マザーグースが最初に来ているのと、 劇中劇を使っている事くらい。そういった感じの、シリーズなのですね。
この本を読みながら、続編で彼女は、確かに成長しているんだと思いました。
考え方とか、話し方とか、具体的なものでなく、雰囲気ですが、 この本での彼女は、まだ少女のような感じがする。
上記は、少し落ち着いた雰囲気です。丁度、大人になり始めた位の。
この本は児童文学だけど、大体の人は、何歳くらいの時に読むんだろう?
続編が、主人公が成長したお話だと、いいね。 読者も歳をとっているわけだから、余計に共感しやすくなると思う。
このお話は、3段階構成の劇中劇です。
まず、ひろみのいる現実の世界。自分が嫌で嫌で、自分じゃなくなったのが、 『魔神族』(ジン)になったアラビアンナイトの世界。 そして、アラビアンナイトのお話をつむいだ『千夜一夜の物語』の世界。
作中で、彼女は『ジャニ』という名前をもらいます。
アラビアンナイトのお話は、全部知ってるわけでなく、あいまい何だけど、 多分、全部の要素を取り入れたお話になってると思います。
冒険活劇でした。面白かったんですよ。
最後、彼女は現実の世界に戻ってくるわけですが、 自分じゃない自分になるという事は、少し、成長するというか、今までの自分から 脱皮するの方が、しっくりくるかもと、思うようなラストでした。
ひろみは、その後、自分が『魔神族』として過ごした世界に 行く事は無かったのでしょうが、案外、自分が知らないだけで、 夢の中で行ってるのかもしれません。
そう、考えるほうが、楽しいお話だと思ってます。
続編同様、これも、続編とは全く別のものとして、 『これは王国のかぎ』の続きを読みたいと思いました。

《空色勾玉》

輝の大御神を祭る羽柴の村娘『狭也』。
彼女は6歳のとき孤児となり、今の両親に育てられた。 昔の記憶もすっかり癒え、今の悩みは時折見る『鬼』のゆめ。 だが、のどかな暮らしは、祭りの夜に消し飛んだ。
恐れていた『鬼』が来て、過去の秘密と運命を告げていった。
憧れていた都で待っていた絶望の末、 彼女は握らされた『水の乙女』の勾玉の導きで、 大蛇の剣とそれを守る『風の若子』と出会った・・・。


神と人が、同じ世界に暮らしていた頃のお話。
よみながら、伊耶那岐の尊、伊耶那美の尊の話を思い出すなぁと思ってたら、 ベースがそれだった。 これは、その神の『子供たち』のお話。
それなりに厚さのある本なのに、読んでると全然そんな風に感じない。
途中読みながら、まともな感想は書けないだろうなぁと思った。 物語が壮大すぎて、頭の中でまとまらない。
自分を『非力』だと感じる主人公が、時折かわいそうに思い、 人間とは、神に比べれば、何も出来ない存在だとも思った。
それでも、ちっぽけだとは思わなかったな。
本の中で書かれてる、自然の風景や移り変わりが美しいと思うように、 人が、限られた時間の中で、一生懸命に生きてる事は、すばらしいと思ったから。
永遠に生きる事が、羨ましいとは思わないしな。
残されたほうがつらいものだからね。
だから『闇』に憧れるもう一人の主人公の気持ちは、すごくよく理解できた。
この本は、もう一人の主人公である『風の若子』稚羽矢(ちはや)の 天然ぶりが、正しい意味で面白かった。
しかし、先に『これは王国のかぎ』を読んでしまったので、 どうしてもそちらと重なってしまうのは、仕方ないかも。
解釈の仕方にもよるけど、coccoの『樹海の糸』聞きながら読むと、 結構はまる。
一応、中学生からに指定された本だけど、 多分、私にとっては、今読むから面白いんだと思うよ。

《白鳥異伝》

捨て子だった小倶那は、橘の一族の長の家に引き取られ、 娘の遠子とは、双子のように育った。
12の年、小倶那は皇子の影武者として都へ出る。
遠子と、強くなって再会する約束をして。
皇子が謀反人となり、その身代わりとしてつかまった小倶那は、 実の母、そして『大蛇の剣』と出会い、遠子との絆は絶たれてしまった。
大王の策略により三野の里を焼き払った小倶那を倒すべく、 橘の一族が守護する勾玉を集め、『玉の御統』の勇者になろうと かの地へ旅立つ遠子。
やがて4つの勾玉を集め、勇者となった遠子と、 大王の日継となった小倶那は、船の上で再会する。


上記、空色勾玉の続編。ヤマトタケルの伝説を元にしたお話です。
『オロチ』が前回出てきて、確か、オロチが出てくるのは 違うお話だよなぁと思ってたら、でましたね。
遠子が、勾玉を集めるまでのお話が、一番面白かったですね。 後半は、小倶那の自分の内との戦いになっちゃうので。
このお話は、所々笑えたわぁ。
前半の二人がとても子供らしいので、 自分の人生を変えるほど大きな出来事にあって、 急に大人にならないといけなくなった二人が、何だか可哀想でした。
このお話は、主人公2人より、周りを固める人物のほうに 魅力を感じましたね。
これは、ファンタジーって言われて納得いく作品です。 相当分厚い本ですが、腰据えて読み始めると一気です。
読みながら、これは次巻への土台になるのかな? と思う部分が、2ヶ所くらいありました。

《薄紅天女》

東の板東の地、同い年の甥と叔父の阿高と藤太は『二連』と呼ばれ、 互いを一番近い存在と理解していた。
藤太に思う女性が出来た時、些細なすれ違いが生じる。
阿高は蝦夷達に『火の女神の生まれ変わり』と告げられ、 母の面影を求めて北へ発つ。
都から『阿高を探しにきた』という少将坂上田村麻呂とともに、 藤太と仲間は阿高を追う。
一方、物の怪の跳梁する都では、皇太子安殿皇子が病んでいた。
兄を助けたい皇女苑上は、少年の姿に身を窶し、 『都に近づく災厄』に立ち向かおうとする。
しかし、その災厄によって、都にはびこる物の怪の正体を知る事となる。


勾玉シリーズ、3部作の最終巻です。 この話の元になった話は、私は全く知らないので、 全く普通の物語のようでした。
前巻で行方のわからなくなっていた明い玉が出てきます。 表題が『薄紅』だったから、それをめぐるお話かなぁと思ったら、 ちょっと違いましたね。ついでに、主人公は前作に出てきた 巫女さんの子孫かな?と思ってた。こちらもはずした。
この本については、感想云々より、 読みながら思いついちゃった事のほうが自分的にインパクト強くて、 他は全部すっ飛んでしまいました。
『薄紅』『天女』って、どっかで聞き覚えがあると思ったら、 ガラスの仮面だ。あれで最も重要な役で『紅天女』って出てきたんだ。
どうも題名がおざなりになってしまった気もするので、 ちゃんと天女が出てきてくれると面白かったのにと思います。
多分、天女に例えられるだろうという人は、後半出てこなかったので それがちょっと残念でしたね。主人公が天女になってくれると、 よかったかもしれない。でもそうすると、お話が変わっちゃうか。

《風神秘抄》

平安末期、坂東武者の子として生まれた草十郎は、平治の乱に源氏方として参戦したが、 平氏を討てず敗走した。
幼い頼朝を助けて一行から脱落した草十郎は、盗賊を生業とする正蔵に助けられる。
傷が癒えた頃、再び京に出向き見たものは、将と慕った義平の晒された首だった。
絶望した時、草十郎は、魂鎮めの舞を踊る糸世と出会う。
武家の子として生まれながら、人と関わるのが苦手で笛ばかり吹いていた草十郎は、 人前で笛を「鳴らす」事が出来ないが、糸世の舞っている場所では、それが出来る事に気づく。
二人の舞と笛は、異界へと通じる強大な力を持っていた。 時の上皇は自らの延命のために二人を利用するが、その途中で糸世は異界へと 飛ばされてしまう。
糸世を取り戻すため、人間を学びにきたという鳥彦王の導きを得て、 草十郎は、青墓、そして、熊野を目指す。


「勾玉シリーズ」ではありませんが、古代ファンタジーのお話です。 違うお話ですが、「鳥彦王」が出てきたり、草十郎の苗字が「足立」だったり、 舞台は「豊葦原」という事で、同一設定と見てよいのだと思って読みました。
糸世が出てきて、更に異界への門も出てくるものですから、 そういう流れが主流なのかと思ったら、どちらかというと、 草十郎の自分探しといった方が、私には印象が深かったですね。
草十郎と言う人が、あまり自分を良く分かっていないらしく、彼の目線で見ると、 本人の姿があまりよく分かりません。 鳥彦王の目、糸世の目、更に直接草十郎と関わった人や、 糸世を通じて知り合った人達の目を通じて、やっと、「草十郎」という人物が見えてきます。 鳥の声を聞き分ける「精妙な耳」、異界へ通じる門を開く笛の音、 生きていく中で自然と身に着けた身のこなしと、「神」に近い部分はあるのだと思いますが、 本人が自分を良く分かっていないおとぼけな感じなので、 逆に拍子抜けしちゃいますね。
作文中では、鳥彦王との会話の中の、「一人と一羽で十分」というせりふが好きでした。
一冊の本の中に、たくさんの場面と人物が登場するので、じっくり読むとそうでもないのですが、 一気に読むと、随分長いお話を一瞬で読んだ感覚になるような感じです。
個人的には、草十郎と鳥彦王の掛け合いが好きですね。 内容や正式な場面での言葉遣いは昔風ですが、それぞれの普通の会話は現代風なので、 そのギャップも面白かったです。
この本の中で、私のお気に入りは、もちろん鳥彦王。
「勾玉シリーズ」では、最初のお話が一番好きだったので、それに関わりのある 存在の登場は、かなりうれしかったです。
余談ですが、鳥彦王の正妃なら、私はさみどり姫が良いと思う所存でございます。


乙一
作 品 ・失踪HOLIDAY(角川文庫)

《失踪HOLIDAY》

14歳の冬休み、大金持ちの一人娘『ナオ』は、 継母とけんかして家出した。 家出した先は、使用人棟である隣の建物。 ナオは住み込みで働く『クニコ』の部屋に居座り、 家族を監視する事にした。 だが、些細な悪戯心から思わぬ事態に発展していく。 (表題他、短編『しあわせは子猫のかたち』収録)

『子供』というものを見たような気がしましたよ。
些細なことがきっかけで、誘拐を企て、それが大事になってしまったと言うお話。
ナオは元々母親が再婚して大金持ちの家の子になって、 その母親は8歳の時に他界してしまって、 今いる家を、自分の居場所として思っていいのか 考えてしまったところから、全てのお話が始まってると思います。
話を読みながら、子供っぽい我侭とか苛立ちもしましたけど、 子供って、そもそも我侭で身勝手なものだよね。
作中に『見返りを要求しない人々』と言う言葉が出てくるのですが、 このお話は、全てがその一言に要約されると思う。
親が、いるでしょう?
例えば何かあっても、無条件で自分の味方になってくれる人。
ナオの父親となった人はその想いだけでナオを育ててくれた。
皆、見返りを要求しない愛情に包まれて育ち、いつかそれを返していくのだと思う。 それは、自分の子供であったり、身近な大切な人であったり。
ナオは子どもの頃、血の繋がった親を亡くして以来、 『見返りを要求しない愛情』というものを見失ってしまったのかもしれない。 それを確かめるために今回の事を企てたと言ってもいいのかもしれない。 『信じていいんだ』と言う言葉を、彼女にかけてあげたい。
悪戯だった誘拐は、実はクニコの存在により、 本当の誘拐事件になってしまうのだけれど、 この犯人たち(クニコとその旦那)が、また優しかった。
(そもそも、身代金を要求する事にしたのは、 やっぱり金が欲しかったのか、動機がいまいち私には不可解なのだけど)
結果として誘拐は自分たちの企みになってしまったけど、 決して、ナオが不利になるような事はしなかった。 ナオの心に、傷を残すような事もしなかった。
親とは別に、彼女たちは、ナオを包んでくれる存在になるのだと思う。
狭い三畳間に置かれていた懐かしいコタツで丸まりながら、 ナオは本当に安らげるものを、見つけたんだったらいいと思う。

ここまで書いておきながら、私は表題のお話より、 『しあわせは子猫のかたち』の方が好きだった。
人見知りで不器用で、上手く社会生活を送っていけない(と思ってる)主人公。
この少年の名前、最後まで出てこなかった。
孤独な彼に寄り添ってくれたのは、白い子猫と幽霊となった女性。
彼女らは、少年の傍らに在るだけで良かった。 それだけで充分だった。
幸せってきっとそんなもん。
形になってるものを見つけようって言う方が難しい。
生きていくのは、不器用じゃなくったって難しい。
私だってそうだ。
私だって、相当不器用な方だけど。
きっと、上手く生きてる人たちだって、どっかで気詰まりなものを 感じてるのかもしれない。
でも側にいてくれる人がいたら、信じられる人がいたら、 多分、それだけで生きていける。
そんなものだと思う。

この本て、実は推理小説だったんだね。
作中に書かれた事件が、謎解きを必要とするとは、思わなかった。

恩田 陸
作 品
・不安な童話 (祥伝社文庫)

・光の帝国ー常野物語ー (集英社文庫)

・木曜組曲(徳間文庫)

・ドミノ(角川文庫)

蒲公英草紙ー常野物語ー(鰹W英社)

《不安な童話》

大学教授の秘書古橋万由子は、変死した天才画家『高槻倫子』の遺作展覧会で、 強烈なデジャヴに襲われて失神する。
その後、その息子である『秒』から「あなたは母の生まれ変わりです。」と言われる。
秒と行動をともにするうちに、万由子の見るデジャヴは、 彼女を殺した犯人へとたどり着く・・・。


ミステリーと言うより、心理サスペンスの印象を受けましたね。
昔から、推理小説は赤川次郎くらいしか読まなかったので、 たまに別の作家さんの本を読むと、何だかとても新鮮です。
この方の作品は、わくわくする感じを受けながらも、根底で、ヒヤっとする何かがあるようで、 一度読み始めると、一気に読んでしまいます。
ラストの先生の謎解きが面白かったです。 それ以前に、まるで関係なさそうな登場人物全てが、関わりあったという その話の持っていき方が、お見事でした。

《光の帝国ー常野物語ー》

『常野』から来たといわれる人々には、皆それぞれ不思議な能力があった。
普通の人々の中に埋もれてひっそり暮らす彼らは、何のために存在するのだろうか?


私にとって、夏が一番の読書の季節です。 なぜなら、書店に各出版社ごとに、文庫をまとめて出してくれてるから。
今年の夏、紹介文を呼んで手にとったのがこれです。
やさしくて暖かくて、だからこそ哀しい印象を受けました。
こういうファンタジー色が強い物は、大好きなのです。
絶対、話続いてると思うんだけど、続編は何時出てくれるのだろう? 早く出てくれないと、消化不良を起こしそうだ。

《木曜組曲》

4年前、耽美派小説の巨匠『重松時子』が、薬物死した。
彼女の亡くなった週の木曜日を挟んだ3日間、時子に縁の深い女性5人が、 今年も「うぐいす館」を、訪れる。
和やかな夕食会は、『フジシロチヒロ』からのゆりの花束と、謎のメッセージを切欠に、 告発、告白大会へと発展する。
時子の死は、本当に自殺だったのか、それとも他殺だったのか。
5人の女性小説家の、推理と謎解きが始まる。


いつやるのか知らないけど、映画になるそうです。
私はこの本読み始めて、映画というより、舞台の脚本を読んでる様だと思いました。
それくらいはっきり、舞台が目に浮かんだのです。私は客席からそれを観ているのです。
映像にしたら、5人の女性たちのモノローグは、どんな風に出すのかと楽しみに思いながら、 これは、やっぱり本になってて、読むから面白いんだとも思いました。
読み始めての印象は、とても穏やかで不安定で辛辣でした。
和やかそうに見えて、皆それぞれに、隠し事や確執があるところが恐ろしいです。
このお話、途中まで、謎は謎のままで終わると思っていたので、 最後の意外な結末を見た時には、『フジシロチヒロ』のメッセージの意味に、 深く納得しました。
ただ偶然が重なっただけで、人が死ぬ事もあるのだと。
その偶然が、周到に仕組まれた事だったという事が、このお話の怖いところでしょうか。
話の内容からすれば、絵里子が主人公だと思いますが、 このお話の本当の主人公は、重松時子その人のような気がします。
亡くなって尚、影響力のある女性。
永遠に逃れられない、絶対的な存在に、5人の女性たちが、 どれほど、畏敬の念を表していたか、しみじみと伝わってきました。
恩田陸女史の作品は、これで3作目。
そんなに厚くない文庫本ですが、ものすごく読み応えがありましたよ。 内容が、濃かったです。

《ドミノ》

その日、東京の不快指数はかなり高かった。
生命保険会社では、その月の目標達成の為に、1億円の契約書が待たれていた。
雨で止まった電車に乗ってた、契約書を持ってる部長を、 昔馴染みの頼みで迎えに来た、ピザ屋の店長。
劇のオーディションを受けに来た少女が二人。
痴情のもつれでそれぞれの計画を立てる男女3人。
筑波から、俳句仲間とのオフ会に出てきた老人。
ある映画を題材に、推理力を競い合う大学生。 その映画監督とペットと、通訳兼世話役の女性。
過激派「まだらの紐」のメンバーが爆発させようとしている、 試作品の爆弾をめぐって、大混乱となるなか、それぞれの事情を抱えた 人間たちが集まってくる。
その全てを巻き込んだパニックとなる舞台は東京駅。


私これ、出来れば家で読みたかった。 近所迷惑になってもいいから、大声で笑い出したかった。 職場と電車の中で読んでたから、必死で声を殺したわ。 と言うような内容の、パニックコメディです。
ちょうど東京駅を中心に、ぐるぐると何かが渦巻いているような 雰囲気で物語りは進んでいきます。
登場人物28人と1匹は、全員がその関係者で主人公でした。
色んな人たちの色んな関係と状況が入り乱れてるので、 改めて説明しようとするととても難しいです。
私がやっぱり注目してたのは、生命保険会社の契約書。
大雨の中最高速度200K/M以上ですっ飛ばされ、 天国行きかけた部長のあたりが申し訳ないけど、すさまじく笑った。
その他にも、私の笑いのツボを押さえが言葉が ばしばし出てきて、これはもう、時間を開けて読むのがつらかった。
最終的に、この場に集まった人たちの事情は決着を見ましたが、 物語の主軸にあたる爆弾事件が、半分未解決のままなのが気になります。
非常に好きだった登場人物は、やっぱり生命保険会社の事務員3人でしょう。
後は、映画監督のペット『ダリオ』。
私、彼はずっと犬なんだと思っていたので、 最後、イグアナだと知った時には『やられた!!』と思ったよ。

《蒲公英草紙―常野物語―》

峰子は、病気のお嬢様の相手をする為にお屋敷に上がった。 一つ年上の聡子さまと初めて会った時、その人から光が差しているような、不思議な感覚を覚える。
ある日、お屋敷に、『春田葉太郎さま』のご一家が現れる。 彼らは、聡子様と同じ不思議な雰囲気と、不思議なお役目を持っていた。
段々と聡子様は元気になっていったが、どこか遠くを見ているようにも見えた。
そして、大きな台風が村を襲う・・・。


いっそ、あらすじをものすごく細かく書きたかったですよ。 時代はずっと過去に戻って、20世紀が始まったばかりの頃、 語り手の峰子の視点でかかれてました。
前作にも出てきてた、『春田家』のご先祖が出てきます。
常野物語は、話全体の雰囲気がとてもとても優しくて、 とても、悲しいと思っています。
時代に緩やかに乗りながら、流されず、お役目を全うする『常野一族』。 峰子から見て『不思議』に思えた聡子さまにも同じ血が流れていて、 その話をされるところが、この本だけでなく、これから先の常野物語にとって、 大事なシーンなのだと思いました。
何となく予想されていた展開になったのですが、やっぱり大泣きでしたね。 でも、あんなふうに、遺された人に、自分の気持ちを伝えられるなら、 それは遺された側にも、遺した側にも、たいそう幸せな事ではないかと思います。
お話の締めくくりは、第二次大戦の終戦日で、それまでの語りは、 おばあさんになった峰子が、夢の中で過去を思い返していたという内容になっていました。
この本は、感想をどう述べていいのか、分からないですね。
常野の一族の人達そのもののように、穏やかに緩やかに流れていくような物語なので、 内容で悲しい事が書かれていても、それも全て受け入れないといけないという気にさせられます。 そんな内容なので、月並みな言葉しかでてこないし、それでは伝えきれないという感じもします。
個人的には、お屋敷にいた人々が面白くて好きでしたね。 主人公たちが地味なのに対し、個性の強い人達がそろっていて、 この人達のおかげで、物語が所々華やいで見えました。

海堂 尊
作 品
・チーム・バチスタの栄光(宝島社)

《チーム・バチスタの栄光》

神経内科・不定愁訴外来(通称:愚痴外来)の講師、田口は、ある日、病院長から直々にある依頼を受ける。 それは、この病院において、バチスタ手術の連勝記録を伸ばし続けてきた、 「チーム・バチスタ」専門チームの手術に関する内部調査だった。
これまで成功を収め続けてきたこのチームは、ここ数例、立て続けに術中死が起こっている。 医療事故か、悪意によって引き起こされた事態なのか、それは、内密ではあったが、 チームリーダー桐生から、病院長を通しての依頼だった。
日本中が注目していた海外の少年ゲリラの手術が成功した後、田口の目の前で起こった術中死。 手に負えなくなった田口は、病院長に相談の上、リスクマネジメント委員会を召集させるが、 同時に、病院には、厚生労働省の役人である、「曲者」白鳥圭輔もやってきた・・・。


最初に知ったのは、映画化に際し、新聞に載っていた竹内結子さんのコメントを読んだ時。 「爆笑しながら読んだミステリーは初めてだった!」との言葉で、 じゃぁ読んでみようと思ったこの本。「このミステリーがすごい!」の大賞をとった作品だそうです。
確かに、面白い!
腹抱えて読む事はなかったけど、とにかく時間を忘れて読んだミステリーは、本当に久しぶり。
舞台が病院、医療ミスがテーマの話だから、専門用語も飛び交うし、 更に医師たちの思惑や出世競争なども絡んではきますが、主人公がそれを掻い潜って、 しかも時には出世の階段を下りようとさえした事のある人物だったので、不快な感じはしませんでしたね。
田口講師は、こうした病院内の「歪み」のまるっきり外に居るような人だった。 そして、人の話を、沈黙も含めて全て、聞き遂げて受け止める人だったから、 適任だったのでしょう。
今、お医者さんでも患者さんにきちんと説明できない人もいるらしく、 先日ニュースでも問題になってた。 コミュニケーションのとり方を知らず、勉強だけしてき医療に携わってる人間が いかに多いかって事だよね。
何をしたら相手は怒り、許してもらう為に、もちろん自分の責務を全うする為に、 力を尽くすのは当たり前の事だ。桐生医師は、全くこんな感じの人。
病院も人の集まる場所だから、それぞれの思惑や考えなどもあって、「歪み」のある場所だと思う。 そこを、まっすぐ進んでいけば、ぶつかるか破れる。
桐生医師は、破る為に進んで、犯人は、進んでぶつかったんだと思う。 「医者も壊れる」って言う言葉が、妙に納得だった。 人間は、多少歪んでる位の方が、生き易いのかもしれない。それが出来ない人が こうやって壊れたり、傷ついてくじけたりするのかもしれない。
この話、白鳥氏が出てきてからの方が面白かったっていう人の方が多いと思うんだけど、 私は寧ろイライラしちゃって駄目だった。 ミステリーは一定方向から見ちゃ駄目だし、事態をひっくり返さないと解決しないし、 白鳥氏は正にうってつけなんだけど、人間性が駄目なのよね・・・。 この人にこそ、「つける薬はない!」って言葉がよく似合いそうな気がしたわ。
桐生医師や田口講師のような人が、病院内に増えてくれると嬉しいね。 お医者さんを信頼できなきゃ、診て貰えないもの。
きっと、不定愁訴外来のような場所が、本当なら病院の一番必要なところなんだろうね。

加納 朋子
作 品
・ななつのこ(創元推理文庫)

・魔法飛行(創元推理文庫)

・掌の中の小鳥(創元推理文庫)

・いちばん初めにあった海(角川文庫)

・ガラスの麒麟(講談社文庫)

・月曜日の水玉模様(集英社)

・沙羅は和子の名を呼ぶ(集英社)

・螺旋階段のアリス(文藝春秋)

・ささら さや(幻冬舎)

・虹の国のアリス(文藝春秋)

・コッペリア(講談社)

・レイン・レインボウ(鰹W英社)

・スペース(東京創幻社)

・てるてるあした(幻冬舎)

・モノレールねこ(兜カ藝春秋)


《ななつのこ》

短大生の入江駒子は、表紙の絵に惹かれて滅多に買わないハードカバーの本を手に取る。 それが、『ななつのこ』と言う題名の本だった。
読んだ後、生まれて初めて作者にファンレターを書くと、思いがけず返事がきた。
その返事には、駒子が手紙で書いた日常の謎をとく解決編が書かれていた。
文通めいた手紙のやり取りは、回を重ねる。そんな折、彼女は、『瀬尾』と言う男性と知り合う。



加納作品は、これが一番最初に読んだ本。
読もうと思ったのは、本当にたまたまです。
何か暇つぶしになる本はないかと探しにいって、平積みになってる本を手に取った、 それも、一回で買う事を決めたのではなく、何度も見つけてはあらすじ読んで、 ようやく買った一冊。
それだけ考えただけあって、これは、とてもお気に入りになりました。 今までこの人の本を、知らなかったのが、勿体無いくらい。
普段、ちょっと疑問に思った事、どこにでもあるような疑問が、事件になり、 それをといていくのが、またお見事。
推理小説とまではいきませんが、その見事な伏線の張り方と、解決の仕方に 全く『やられた!』としか言いようがありませんでした。
これでも、推理小説暦約15年を誇るので、自分の頭で解決できなかった事に、 深い憤りを感じます!

《魔法飛行》

『ななつのこ』の続編。
『佐伯綾乃』さんと出会って、駒子は、自分も物語を書いてみようかな?と思い立つ。 そしてそれは、『瀬尾さん』にあっさり受け入れられた。
学校の中、普段の生活の中から、些細な疑問や不思議を推理小説仕立てで 彼女は、物語にしていく。
その物語は、点からやがて線を結び、クリスマス当日、とんでもない事件となった。

上記『ななつのこ』の続編です。
最初は、そんなに面白いと思わなかったんだ。連作短編だから、あたりまえかもしれないけど、 一話事の話に、つながりがあるように思えなかったし、わけがわからないと思ったのが、 最初の感想。
だがしかし!最後の話で、その全ての点が線と成ったときには、 前作以上に『やられた!』と思いました。
それほど、伏線の張り方が、見事なのです。 いわれてみれば、確かにそんなシーンもあったと思うのですが、いわれなければ、 物語の背景として、見落としてしまうような物が、全て伏線なのです。
だから、前作以上に気に入って、これ買ったの去年ですが、内容知っているのに 10回以上、読みました。そのたびに、うならされます。

《掌の中の小鳥》

冬城圭介は、会社の義理で参加した退屈なパーティで、真っ赤なワンピースの天使に出会う。
彼女とともに、パーティを抜け出した圭介は、小さな事件に満ちた彼女の日常を知るにつれ、 退屈と無縁になっていく自分に気づく。
その舞台は、パーティを抜け出して たまたま入ったカクテルの店『エッグ・スタンド』。


これは、ななつのこのシリーズを読んだ後、よく行くサイトの管理人さんから、 お話を伺って、是非読みたい!と思い、友達に図書館で借りてもらった直後、 文庫本になっているのを見つけたと言う、一粒で二度おいしいかも知れない本でした。
魔法飛行より先に読んでいたら、この本一番すきになってただろうな。
何たって、ヒロイン『穂村紗英』が、すごく魅力的なのです。
ハードカバーのあとがきで、作者が『自分が男だったら絶対惚れてる女性』と称したのも、 うなづけます。
どちらかいうと、話の内容より、登場人物のほうに目が行きます。 それくらい、登場人物が魅力的なのです。

《いちばん初めにあった海》

堀井千波は、周囲の騒音に嫌気がさし、引越しの準備をはじめた。
その最中に『いちばん初めにあった海』と言う本を見つける。読んだ憶えのないその本の間から、 『YUKI』と言う人物から届いた未開封の手紙を見つける。
全く心当たりのない人間からの手紙、不可解な内容、それをきっかけに 千波の過去の記憶をたどる旅が始まる。
他にもう一遍、『化石の樹』収録。


この本を読んで、昔好きだった漫画を思い出しました。
それにも、『子供は海からやってくる』とあったのです。
この本の題名である『いちばん最初の海』は、子供が生まれる前にいた海、 つまり、母体の中をさしています。
感動しましたね。加納作品の中で、これがいちばん感動しました。
出産を控えたお母さんとか、子育てに行き詰まってしまった方に、読んでください!って、 手渡したい一冊かもしれないです。

《ガラスの麒麟》

『あたし、殺されたの』
通り魔に殺された、17歳の女子高生、安藤麻衣子。
彼女の心の闇から紡ぎだされる、連作短編集。
事件を解決していくのは、養護教諭、神野菜生子。
養護教諭という立場から、青少年の脆い精神を見つめ、 麻衣子から『魔女』と称された彼女は、やがて、犯人へとたどり着く。


これは、内容をご紹介するのが難しい。
ちょうど、少年犯罪のドラマをよく見ていた時期に読んだんだったかもしれません。
加納作品にしては、珍しく『殺人』なんて物が出てきたから、普通の推理小説かと 思いました。
各話事に、主人公が代わるので、全くつながりがないのかと思えば、 全然思いもしなかったところでつながりがあったりして、それを追っていくだけでも、 面白いです。
最終的には、精神論のようにも感じましたが、とりあえず、野間さんとの恋愛は その後どうなったのか、気になるところだったりします。

《月曜日の水玉模様》

アットホームな小さな会社の事務員、片桐陶子。
彼女の目を通して、会社の周りで起こる、ちょっとした事件を 見つめた連作短編集。
日常と現実。その中で、ちょっと周りを見ると事件はいくらでもあるように思える 社会人にとっては、楽しいようなありがたくないような一冊。


私の友人は、これが一番面白かったそうです。
話の内容からすれば、陶子の立場や、電車通勤の様子、会社の上司まで 全部見に覚えがあるようなないような感じがしますから、社会人をやってる 女性にとっては、一番感情移入がしやすいかもしれません。
推理ものとか、ミステリーとか言うより、本当に普通の物語として、読んでしまいました。 最後の謎解きになって『そういえば、推理ものだった』と思い出したような、 楽しい一冊でした。

《沙羅は和子の名を呼ぶ》

表題含む、10篇からなる短編集。
和子は、新しく引っ越した社宅で『沙羅』という少女と、友達になる。 が、『沙羅』は、他の人には見えない架空の存在であるらしい。
ある時、和子の父親一樹は、昔付き合っていた女性と結婚し、『沙羅』という娘を持つ 父親になっている白昼夢を見る。(『沙羅は和子の名を呼ぶ』より)

今までの連作短編ではなく、本当に短編集です。
加納朋子女史の本では、読んだのは一番最後ですが、 発行年月日見ると、ここに来るらしいので、埋めます。
不可視の存在というか、実在するけどいない存在というかが、出てくる話でまとめられてます。
表題になってる『沙羅は和子の名を呼ぶ』は、SFっぽいお話でしたね。
人の感情が時空を超えるというか、パラレルワールドが存在するお話。 私は、こういうの大好きなんです。
話の内容なら、8編目の『商店街の夜』が面白かったです。
実際おきても面白いと思うけど、それを素直に信じる主人公の人柄が、よかったのです。

《螺旋階段のアリス》

仁木順平は、会社の一種の『リストラ政策』にのっとり、私立探偵をはじめた。
そのドアを最初にノックしたのは、どう見ても10代の女の子、市村安梨沙。
突然探偵助手になってしまった安梨沙だが、これが仁木より、よっぽど探偵らしい。
一番の謎である、安梨沙の素性を隠したまま、物語は二人の探偵によって 進められていく。


私が、加納朋子女史を知ったときに、最新刊だった本です。
おじさんと可愛いお嬢さんと言う、推理小説にはありがちな設定ですが、 どちらもなかなか良い味を出しています。
私が読んだ中ではこれが一番、推理ものらしいと思いました。
一本通ってる、隠しテーマの中に『夫婦』と言う物があるように思います。
事件の中で知り合った夫婦。主人公仁木本人の伴侶、最後に明かされた安梨沙の 結婚問題も。
後は、女性の在り方かな?
今まで、父親の『お人形』だった安梨沙と、キャリアウーマンの仁木の妻、鞠子。
その対称なようで、同じような面も読んでて面白かったです。

《ささら さや》

さやの夫は、ユウ坊が生まれてから2ヶ月で、事故死する。
頼りなく気が弱いさやが心配な彼は、幽霊になって、彼女とユウ坊の傍に残る。
彼は、自分が見える人に、限定一回、乗り移る事が出来る事を知った。
夫の親族に、ユウ坊の親権を渡すように言われたさやは、ささら市へ 逃げるように、移り住む。
そこで彼女は、自分やユウ坊の助けと成ってくれる、友人と出会う。


加納作品を読み始めた当時、連載中とされていた作品だと思います。
日本ミステリーの棚で見つけてきたのに、2話目を読むまで、ミステリーって事を 忘れてました。
旦那じゃないけど、私も相当短気な上、勝気なので、さやを見てるとイライラしました。
それでも、この本が暖かくやさしい印象を受けるのは、 やっぱり、さやの人柄によるのだと思います。
一話事に成長していくユウ坊も、登場人物も皆大好きで、すごく大事に読みました。
ミステリーとか、推理物って、一気に読むタイプなのですが、 読み終わるのが、勿体無かったです。
最後に、さやが立ち直りの兆しを見せてくれた事が、やっぱりほっとしました。
でも、ある程度吹っ切れても、完全に立ち直るには、ハンパじゃない時間がかかる事を、 知っているから、話の先を考えると、少し不安かも・・・。

《虹の国のアリス》

家出したまま、仁木の娘の家に居候している探偵助手の安梨沙。
父親との間に立ってくれそうな人をやっとのことで聞き出した仁木は、 その当人篠原八重子に会いに行く。
八重子は『主婦道』と名づけた教室の先生であり、安梨沙も時々顔を出していた。
仁木は、その教室の『生徒』の一人から、相談事を持ちかけられる。(『虹の国のアリスより』)


以前読んだ『螺旋階段のアリス』の続編です。
読んだ最初の感想は、ちょっと的外れだったけど、 仁木が探偵らしくなってるという事でした。 前作では、半分くらい安梨沙に頼っていた仁木が、 このお話では、依頼人の話と数少ない情報から、事件を解決に導いてます。
安梨沙の言葉そのままに言うなら前作では『お人形』のようだった安梨沙が、 本当の意味で人間らしくなってきました。
今回、子供の話が出だしだったので、全部その関連のお話かと思ったら、 そうでもなかったみたい。
加納女史の作品はどれもそうですが、注意深く読んでいると、 ちゃんとヒントが隠されている。 それが、あんまり何気なく日常的な意味でかかれているので、 毎回読み逃してしまうのが『やれれたー!』と思う理由ですね。

《コッペリア》

彼は『人形』に恋をした。その人形は、生きて動いて、彼の目の前にいる・・・。
幼い頃両親を殺され、養父母に育てられた了は、『人形』という存在に、 強く惹かれる。
遠い親戚の家に遊びに行き、そこで『あやこちゃん』という同い年の女の子と出会った 聖子は、両親の離婚後アングラの劇団に入り、今や看板女優『聖』として、 名が通っている。
話は彼ら二人の語りが、交互に入る形で進められ、そしてある共通点に出会う。
それは人形作家『如月まゆら』の作った人形だった・・・。


『新境地』って帯に書いてありました。確かに新境地だったなぁ。 私加納作品で、こんな後ろ暗そうな話って、確かに読んだ覚えが無いよ。
了と聖子、私はこの二人が向き合うのは、もっと物語りの終盤だと思って読んでました。 そのある一点に向かって、話は進められているんだと。
最後のほうを読みながら、どう考えても了の行動では無いような 話が出てきて、この二人が語ってるものと思ってた中に、 全く別の語りが入ってる事を知りました。
物語の真中にいるのは、何時だって『如月まゆら』。
そして、彼女とかかわった人達の物語といってもいいのかもしれない。
この如月まゆらという人が、ハタから見るとある意味怖い人物なのだけど、 大層魅力的な感じがするよ。 それは彼女を『知る』人達の目線が、そういう風に写しているからかもしれない。
『人形』という言葉と存在を象徴としながら、 その実、やっぱり人間が主人公のお話でしたね。
これ、どう感想をまとめても、表面滑っちゃうと思う。
場が盛り上がってく中盤部分より、謎解きのラストの つながりが面白いと思ったミステリーも、そうは無いでしょう。
読みながら『これ、本当に加納朋子さんが書いたのか?』と何度も思いましたが、 この読みやすさと、最後に来る『騙されたー!』感は、間違いなく加納作品です。

《レイン・レインボウ》

高校時代の弱小ソフトボール部のメンバーは、チームメイトの『牧 知寿子』の突然の 死によって、久しぶりに顔を合わせた。 しかし、その場に、最初にその事を知らせてきた知寿子の『親友』 長瀬里穂の姿は無かった・・・。
メンバーたちは、それぞれ高校時代や知寿子の思い出を通して、 今ある自分たちを振り返る。


『水曜日の水玉模様』の続編に当たります。
前作が、片桐陶子の一人称で、彼女の目から見た話になってるのに対し、 今回は、高校時代、陶子にかかわったメンバーが、それぞれの目から見た 陶子の話になってるともいえます。
謎のかけ方からとき方まで、なるほど加納作品といった感じでした。
オムニバス形式の7編でまとめられ、それぞれの章に虹の7色の題名が使われています。 その色が、それぞれのキャラクターを表している色でもあり、 個人の中に存在する人格?というか性格がそれくらいはあるというのも表しているようです。
各章の色がちゃんと虹の色なのは、後から気が付きました。
赤、だいだい、黄色、緑、青、藍色、紫(正確には菫色)
その色全てが、『牧知寿子』という人物を表した感じ。
この色って、プリズムを通さないと見えなくて、もう一度プリズムを通すと無色に戻るんだけど、 無色に戻した色が『長瀬里穂』かな?という感じがしました。
面白かったんですよ。
『コッペリア』を読んだすぐあとに読んだし、過去にも読んだ内容と展開が似ているので、 初読では軽く感じちゃう話だと思います。
ただ、短編集なので、何かの時に、手にとってしまう本なんだよね。
そして、読み返すほど「ああ、こういうことなのか」とか、「こういうのって良く分かるなぁ」と 思うような心情が浮かび上がってくるお話だと思います。
私は、緑の章が一番それが強かったかな。
そうそう、「不公平だ!」って思う事って、あるんだよね。 でもそれを言葉にしてしまうと、ひどく軽くて薄っぺらい感じがして、 自分がただの我侭を言っているようにしか思えなくなってきて、それがまたがっくりきたり するんだよね。
それぞれが「自分の居場所」を見つけようとしている話だったなと、何度か読み返した時に思いましたね。

≪スペース≫

駒子が瀬尾さんに送った、たくさんの手紙。
それは、駒子が投げたボールであり、瀬尾さんに返して欲しいボールでもあり、 そして何より、取って置きの隠し玉だった。 その手紙に隠された謎を、瀬尾さんはいとも簡単に解いていく。
手紙をやり取りする当事者たちの、行間の『スペース』。
真実は、その中に隠されていた。
手紙を書いたのは?その中に秘められた思いとは?


駒子シリーズの三作目。
『魔法飛行』のすぐ後のお正月から、物語は始まります。
このお話、半分、ラブストーリーでしたね。
なんていうか、今回は『騙された』と言うより、 注意力が散漫だったと、自分で思いました。 今回のお話は、ある意味、『駒子』と言う人物を、 外側から見た感じがします。
『スペース』と言う言葉の意味、私は最初、『宇宙』の意味にとってましたが、違ったんだね。
2部構成になっていて、前半は駒子の、後半は、手紙を書いた張本人の 一人称になっています。
誰でも、一度は分岐点に立つんだと思う。
そこから進んだ場所は、その時の状況を考えれば間違いじゃないと思う。
そう思ったら、元居た位置に戻って、やり直すことは出来ると思う。
駒子の持ってる謎や、駒子自身の謎はどんどん解けてると思うのに、 瀬尾さんの謎は深まるばかりな気がしてますよ。
「そうだったのか!」って思う部分が出てくるほど、 瀬尾さんという人物を、何も知らない事に気付かされていくような気がします。
たった一つの行動が、ほんの些細な事が、 自分にとって、とても深い意味を持つものになる事、よく知っています。
ラストのセリフから、駒子は瀬尾さんと上手く行ったらしい事が伺えますが、 それまでに何があったのか、まだ、謎は続いているのか気になります。
何かの本によれば、駒子シリーズは4部作になってるそうなので、 最終巻で全部分かるのかなと思っています。

《てるてるあした》

両親の借金により、夜逃げ同然に逃げる事になった照代。
頼った先は、母の遠い親戚に当たるらしい、鈴木久代さんという人。
言われた住所にやってきてみれば、そこには全然違う人が住んでいるし、 まるっきり関係ない人に身の上話をする羽目になるしでもう散々。 本当なら、今頃苦労して入った高校に、何の疑問もなく通ってるはずなのにと、 まるで変わってしまった生活に戸惑い、ふてくされる毎日。 その上、久代さんの家には、自分にだけ見える幽霊まで出てきた。
今までとは全く違う人達に囲まれて生活しながら、照代は、 生きる事と今までほとんど知らなかった母の事を知る事になる。


『ささらさや』の続編です。
今回は、舞台が同じ佐々良市で前回とかぶってるキャラクターは出ているけど、 主人公は全然違う、15歳の女の子です。
照代目線で、彼女を主軸に見ていくと、見えてくるものと最後まで見えなかったものが ありますね。 最後の最後に謎が明かされるまで、彼女は、母親の愛情を、心からは信じられずに 居たんじゃないかと思います。 自分につけられた名前の持つ意味を理解して、 初めて、親を親として見えたような感じでしたね。
最後の謎解きのあたり、色々考えながら読みましたよ。
人生は、年齢ではなく、経験が物を言うと思います。
主人公の女の子は、私の半分の年だけど、家をなくし、家族をなくし、 無関係なのに自分を置いてくれた尊敬する人物を亡くし、 普通の15歳なら、きっと「あたりまえ」に持ってるものを全部なくして、 今までの自分を、全てなくしてしまった感じがありました。 それでもまた新しい大切なものを作る事も、全く違う形に生まれ変わらせる事も 出来たから、その瞬間から、新しい彼女が出来上がってくるのだろうと思います。 作中で、ヒビの入ってしまったガラスのりんごが象徴してるかな。
母と子供の絆って言うのかな? そういうのをあらわしたお話だと思います。
親が親らしくって言うのは、何だかとても難しいね。 親と子以前に、親でも子供でも、「一人の人間」として存在するものだと、 言われてるような気がしましたよ。
前作では本当に赤ちゃんだったユウ坊が、立って歩くようになってるだけでも ちょっと感動でした。
これから先、この話が長く続くシリーズになるのかは分かりませんが、 彼の成長は、「ささらシリーズ」の主軸だと思います。

《モノレールねこ》

ある日家の縁側で干してあった座布団に、のびのびとくつろいでいるデブ猫を見つけた。 デブで不細工なその猫は、時々、サトルの家に来るようになった。
猫嫌いのお母さんに言われて、遠くへ捨ててきたはずのその猫は、ある日、首に 赤い首輪をつけて戻ってきた。
サトルはちょっとした思い付きで、その首輪に猫の名前を尋ねるメモを挟んでみた。 そのメモは、首輪をつけた(しかし飼い主ではない)『タカキ』から返事が来て、 猫を通じた、短い文通が始まった。


連作ではない、完全な短編集です。 「家族愛」をテーマに書かれたお話をまとめたものだそうです。
一番最初の「モノレールねこ」を読んだ時には、随分ほのぼのとした印象だったのですが、 その後のお話が泣きっぱなしでした。 個人的には「セイムタイム・ネクストイヤー」が群を抜いて好きだったでしょうか。
全話に共通してるのは必ず誰か(又は何か)が死ぬと言う事。
亡くなった人や何かが遺してくれたものって、すごく大きいと思うんだよ。 もう絶対に手に入らないのに、永遠にあるものだから。 思い出だったり心だったり。 それを手助けしてくれる周りの心が、優しかったね。
全部のお話を通して、私が感じたのは、こんな感じでした。
実はこの本が発売になるのを知ったのは、挿絵を書いた菊池健さんの作品を紹介するブログを 読んだから。
やっぱり菊池さんの絵はよいなぁ。色使いと絵の雰囲気が暖かくて。
表紙の不細工な猫の絵を見ながら「この子が死んじゃったんだなあ・・・」と思うと、 後から涙が出てきます。

鎌田 敏夫
作 品 ・四人家族(角川文庫)

《四人家族》

20年専業主婦だった妻靖子が、突然仕事をはじめたいと言い出した。 しかもその場所は京都。
「この家に、波風を立たせたいの」
そういって夫婦で話し合い、ベンチャー企業に転職したばかりの夫信之は、 妻の就職に賛成する。
今まで親と家庭に甘えきっていた大学生の娘・友紀と、高校生の息子・徹也は 反対し混乱するが、やがてお互いに向き合い、それぞれの人生について、 また、家族の生き方について考え始める。


この本のテーマは『家族』。それもほのぼのとした『仲良し家族』では無く、 お互いがお互いの存在を認め合い、主張し、『家庭』とは『そこにあるものではなく、 作り上げていくもの』というのを、テーマにしている。
人生の敷かれたレールに乗って生きてきた父であり夫である信之は、 妻の決断ではじめて自分が今まで人生を本当に考えてこなかった事を知る。
娘友紀は、バイト先の店長との恋愛を通し、 両親を『一人の人間』として見る事が出来るようになり、 家族皆の絆を作る中心になろうとする。
息子徹也は大学受験を目の前にして、自分のやろうとしている事に意味をもてず悩み、 母の生き方を理解できずにいたが、『自分にとっての大学受験』の意味を 再度考え始めたとき、初めて母の行動を理解する。
いいセリフとか、人生を考える上で必要になってくるセリフがたくさんつまってました。
真剣に読めば、自分の人生の振り返りと、過去の分岐点について、 思い出すことが出来る本でした。
感想は・・・どう考えても徒然話に書いた方がよさそうな事ばっかり浮かんで、 えらく長くなりそうなので、折りをみて書いていこうと思います。
『女性には、何度も人生を考える節目がある』という靖子のセリフを読んだ時、 『この人って、女性なのか?』と思いました。
作者は『人間』というものを、よく見ているのだと思います。
何気なく調べて初めて知りましたが、ドラマの脚本を書いてる人だったのですね。 よく知った名前のドラマがたくさん紹介されてました。
でも私は、この人の作品だったら、活字で読むべきだと思う。
一対一で向き合える本という形で、出会ったほうが幸せだと思う。

北村 薫
作 品
・冬のオペラ(中央公論新社)

・ターン(新潮社版)

・リセット(新潮社版)

《冬のオペラ》

姫宮あゆみの勤める、不動産屋のビルの上の階に『自称・名探偵』の巫弓彦がやってくる。
彼は、自分が本当に『名探偵』だと思っており、自分の推理に見合う事件でないと扱わない。
普段はフリーアルバイターをしている巫に興味を持ったあゆみは、巫の事件の記録者を 買って出る。


何かの本のあとがきで、この人の本は面白いと聞いたところから、読もうと思った最初の一冊。
主人公あゆみが、巫名探偵の顔を描写しているのを読むと、どうにも 『うみにん』を思い出して、仕方ないです。
本を先に読んでたんだけど、初めてうみにんの顔を見た時には、『こういう顔か!』と思って 大笑いしちゃいました。
短編の推理ものですが、少し長めの短編です。
2話は、土地カンのある人なら、すぐ思い当たるかもしれませんね。
折角ですから、続編が出てくれると嬉しいのですが。 もしかして、文庫になってないだけで、出てたりするかしら?

《ターン》

銅版画家の真希は、29歳。ある日、ダンプと衝突する。
気が付くと、真希は自宅の座椅子でまどろんでいた。3時15分。
その世界には、真希のほかに誰もいない。そして、3時15分になると どこへいても、自宅へ戻って座椅子でまどろんでいるのだ。
永遠に続くかと思われた時間が150日を過ぎた午後、電話がなった・・・。


01年10月に、映画が公開されましたね。
つい最近読んだ中では、私の大絶賛の作品です。
北村氏の言いたい『頭の中で響いている声』と言うのは、すごくよく分かります。 自分の頭の中でものを考えるとき、その声は、自分の声だろうか?と、確かに私も考えます。
本当は全く違うのかもしれません。
このお話は、二人称で、真希の心の中で聞こえている声が、 真希自身に語りかけるような感じになっています。
感動しましたよ。
映画もぜひ見たかったけど、場所の都合上、いけませんでした。 これ、レンタルビデオでてるかなぁ?

《リセット》

戦前、まだ家が裕福だった頃、真澄は友人の家で修一と出会う。 やがて戦争がはじまり、引き合う二人の魂は過酷な運命に飲み込まれていく。
時代が移り場所が移り、全く違う場所、違う形で二つの魂は再会する。


これは一筋縄では行かないぞと思ったのは、ここに紹介するあらすじを考えた時でした。
いわば、輪廻転生のお話しです。
戦時中、爆撃で修一は死んでしまい、真澄はその事にずっと負い目を持っていた。 周りの友人たちの顛末を読んでも、その時代が 人が生きるのにいかに過酷だったのか、分かるような気がしました。
この本、先へ行って読み返しをしながら読んだ本でした。 第2部に入ってから場面が一気に変わってよく分からなかったので、 先にたどり着くところを読んでから戻ってきました。
どうしてこういう書き方になったのか、謎が解けた一文は、感動物でした。
最終的に『和彦』として生まれ変わった修一と、『真知子』として生まれ変わった 真澄の魂は、一緒になるわけなのですが、これ、うーん、 生まれ変わった意味があったのか疑問に思った部分でもありました。
基本的に輪廻転生は信じてるんです。 ただ、生まれ変わったら違う名前と体で、前世とは全く違う人生を歩むわけでしょう? 前世での知り合いや恋人に会ったって、その人(この場合は真澄)にとって 同じ存在ではありえないわけでしょう。 そうしたらやっぱり『別人』なわけですよ。 現に作中に『あなたは「あなた」として生きて』っていう、真澄のセリフも出てきますし。
これを読んで『修一と真澄が、生まれ変わってようやく結ばれた』と思う人が 殆どだと思います。多分、作者さんも、それを意図してると思います。 私は、上記の疑問から、全く逆の発想をしました。
『彼らは、和彦と真知子として結ばれるために、前世で修一と真澄として出会いがあった』 というもの。
この感想こそ矛盾してるだろうといわれればそれまでですが、 そう考えないと、わざわざ生まれ変わってる意味が無いように思えたのですよ。
『そのときに向かって動いてる』って、誰かの歌に無かったっけ? 私にとって、このお話しは、正にそんな感じでした。 二人が結ばれた時でも、一緒に獅子座流星群を見るその時でも。
表題になってる『リセット』ですが、実は、この題名と中身の内容が どう一致するのか良く分かりません。 『リセット』には『骨接ぎ』という意味もあって、確かに骨接ぎに行くシーンとかも 出てるんだけど、これが『ターン』という題名でも、良かったのではないかと思います。 (全国的に有名になっちゃったアレが無ければ、もしかして この本の題名『リング』とかになってたりして・・・。)
細かく細かく読んでいけば、語りたいところはもっとたくさんあります。 北村氏の本を読んでて思うのは、自分が表現の仕様の無い感情を、 文という形に出来るんだという事。
前作『ターン』では、自分のうちから聞こえてくる声でしたが、 『リセット』では、全然違う場所に居ても、自分と同じ事を考えてる人間が居る という事でした。

鯨 統一郎
作 品 ・九つの殺人メルヘン(光文社)

・新・世界の七不思議(創元推理文庫)

《九つの殺人メルヘン》

刑事の工藤、犯罪心理学者の山内は、日本酒のバー<森へ抜ける道>の常連。 そこのマスター島と3人で、『厄年トリオ』なんて話をよくする。
ある日、そこに『桜川 東子』という女子大生が現れる。
彼女は迷宮入り仕掛けている事件や、事故に見せかけられた事件を、 メルヘンになぞらえて、次々解決に導いていく。
八つの殺人事件が解決に導かれ、九つ目の人を殺していない殺人は、 彼女自身の手で行われた・・・。


同じ作家の別の本を読んだとき、教えてくださった方から紹介頂いた本です。
連作短編の、お話になっています。
この作家さんの本は、会話形式で進み、間々で突っ込みが入り、それがまた面白いです。
舞台が日本酒のバーという事もあり、日本全国のお酒の説明や、 おつまみなど、細かい説明が入ってるので、物語色が強いというか、 奥が深くなっている気がします。
『厄年トリオ』の会話には、当時見ていたテレビ番組の話、タレントの話、本の話などが 出て来るので、そういう面でも楽しめる本です。
最初読んだとき、『やられた・・・!』と思いましたね。 ミステリーは、一定方向から見ちゃいけないというのを思い出しました。
この本は、有栖川有栖氏が、 『マジックミラー』で、 アリバイトリックを九つのパターンに分類しているのを元に、 その全てのパターンを並べる事に挑戦した本だそうです。 (本書の中に、有栖川氏の名前と、作品名が出てきます。)
一つのお話の終わりは必ず同じセリフで、『外でねずみが鳴いた』というのですが、 本のラストと照らし合わせると、私、一つしか思い浮ばない。
江戸時代の義賊『ねずみ小僧 次郎吉』。
これは伏線なのか、結果論なのか、最後まで読んでもやっぱりよく分からなかった。
この本そのものは凄く面白かったんだけど、 裏を知っちゃったので、メルヘンを読めなくなりそうですよ・・・。

《新・世界の七不思議》

来日中のペンシルベニア大学教授、ジョゼフ・ハートマンは、 同じく歴史学者の早乙女静香と京都へ旅行へ行く約束になっていたのだが、 尽くキャンセルされる事情に遭い、更に、場末のバーで飲む羽目になる。 ところが、一見うらぶれてるように見えるバーの酒もつまみも絶品で、 おまけに、常連らしい宮田六郎と静香の歴史バトルを拝聴する事になり、 唸りを上げる。 今まで解明されずにいた、遺跡や偉人の謎が解き明かされて行く度に、 ジョゼフは、このバーへ行くのが楽しみになっていった。

鯨氏のデビュー作である、『邪馬台国はどこですか?』の姉妹版。
歴史談義に磨きがかかってました。 前作は、どちらかというと歴史の教科書を読んでる気分でしたが、 今回の本は、自分の興味のある事が題材に上がってる為か、 ジョゼフさん同様、絶賛の声を上げてしまいました。
ここに書かれてる事が、本当に、新事実だったら楽しいですね。
日本とはまるで関係ない国にある遺跡や事実が、 実は、日本とも深くかかわりがあるという結論に結びつき、 それが逆に、世界から日本に渡ったのではなく、日本から世界に広まったのではないか?と 言う、ラストの、一歩間違えば乱暴になりそうな説。 それを納得させられるのですから、お見事です。
自分の好きな遺跡としては、ナスカの地上絵とモアイ像。
特にモアイ像は、中学の時の文化祭で、世界の名所、旧所、遺跡を作ろうという企画を打ちたて、 粘土で作った事があったためなのか、非常に思い入れが深いです。
裏話ですが、この時、教室の後ろのドアに、ウエスタン調の扉を釘で打ち付け、 しばらく閉じる事が出来なくなってました。 かなり頑丈に、しかも立派に出来たシロモノでした。
この本は、たくさんの参考文献やHPなども活用していて、 それを一つ一つ拾っていくのも面白いです。 多分、私が生まれてから、母に一番最初に教えてもらった本、 『コンチキ号漂流記』の名前に、こんなところで出会うと思いませんでした。 これがモアイ像に関係する話ですから、覚えてないつもりでも、記憶のどこかに 残ってたのかもしれない。
更に、舞台が「バー」ですから、様々なカクテルやそのレシピや名前の由来、 更につまみとして出るはずの無い料理の数々もまた楽しい要素でした。 巻末に記されていた参考文献で、一番興味があったのが、 「ドカンと、うまいつまみ」と言う本だった事も、ここに記しておきましょう。

久美 沙織
作 品 ・丘の家のミッキー

《丘の家のミッキー》

浅葉未来、中学三年生。華賀学園の中心である『ソロリティ』のメンバー。
父の突然の思い立ちで、神奈川県の葉山へ引っ越す事になった。
学校の規定で、華賀から転校を余儀なくされた未来は、カルチャーショックを受ける。
だが・・・。


私が、中学生くらいのときに読んでた作品です。
最近、改訂版出ましたね。
全10巻からなるシリーズで、6巻までは中学生。7巻からは高校生になります。
私が鎌倉大好きになったのは、この作品が元でしょう。
今でも何でこんなにハマったのか、よく分かって無いんです。 それでも、やっぱりこのお話は面白かった。
中学生向きですが、以前読んだ人なら、改訂版を読んでも楽しいです。 10数年昔なだけなのに、注釈文が着いてるのです。 それがなくても、分かっちゃうのは、 それだけ私が、年を取ったという事なのかしらねえ・・・。

クラフト・エヴィング商會
作 品 ・クラウド・コレクター<手帖版>雲をつかむような話

≪クラウド・コレクター<手帖版>雲をつかむような話

クラフト・エヴィング商會の3代目、吉田浩美は、 ある日、祖父が雑誌に載せた『雲、賈ります』という広告を見つける。
そして倉庫から、祖父のものと思われる旅行かばんの中から、 謎の国『アゾット』の旅日記を綴った手帖と、干からびた木の実らしきもの、 21個の空き壜を見つける。
子供の頃、『ここから一番遠いところ』として聞いた、アゾット。
21個のエリアからなる、祖父の空想旅行の手記を、3代目は解き明かしていく。


どこからでも見えて、どこにでもある『あたりまえ』の話を集め、 それこそ誠に不思議!と思わせる、とても不思議な本だったと思います。
雲って普通はつかめないでしょう?
見えてるのにつかめないもの、あるのにないものと言った感じのお話でしたね。
物語とはいえ、哲学的な部分も多く、気持ちで感じて読むと言うより、 頭で割り切ろうとする読み方をしてたので、 途中、とても難しくて大変でした。
誰だって、一番遠い(いや、一番深いというべきなのかな、私には)のは、 自分の心の中だというのが、私の『結論』です。
同心円を描いて進んでいく世界。
その中心の穴である『0』。
空っぽの壜の中に、言葉と記憶と忘却を閉じ込めて、 『雲 賈ります』とした、初代の在り方が好きですね。
「ひぃ、ふぅ、みぃ」の呪文の言葉。
間でオズの話が出てましたが、そういえば、 ドロシーがカンザスへ帰るときも、踵を3回鳴らしたなと思い出しました。
「ここ」から始まり、「ここ」へ帰るお話、 日記の最後を読みながら、私はやっぱり泣きました。
それこそ、『人はどうして涙を流すのでしょう』?
雲が好きです。
空を見る事は、雲の変化を見る事と、星の動きを見ることだと思います。
全く同じに見えながら、少しずつ動いていく星の動きとかね、 『同心円』て、こういうのかなと、思いましたよ。