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Novels 『リリエンタールの末裔』 上田早夕里   ハヤカワ文庫

上田さんのSF短編集。熱っぽい筆致で綴られた4編の中短編が収録されています。

表題作「リリエンタール〜」は『華竜の宮』と同じ海面上昇後の世界を舞台にしたサイドストーリー。「マグネフィオ」/「ナイト・ブルーの記録」は人の脳・知覚・記憶をテーマにした短編。最後の中編「幻のクロノメーター」は、18世紀のロンドンを舞台に、大航海用の「狂わない時計」製作に挑戦する技術者たちの苦闘を史実と虚構を交えて描いたもの。

全体的には少し、短編としてのオチが弱い印象もありました。読後感に明快な、皮肉や残酷さ、悲哀といった、直に感情に訴えるキレがなかったので。「人間」を突き放して俯瞰しきれない優しさ、もしくはぬるさを感じてしまった。
中編の「幻のクロノメーター」はなかなか読み応えがあったのですが、史実部分のおもしろさに、挿入されたSF部分がついていけなかった気がするのが残念。宇宙から来た万能アイテムが、あの時代のマッドエンジニアの群れに放り込まれたら、もっともっと凄いことが起こっていたような気がするんですけど。


『私のお嬢様 〜メイド服のお嬢様 』上 樹るう   辰巳出版

「なんちゃってビクトリアンコメディ」最新巻。掲載誌での連載は終了済みとのことなので、次の下巻で完結となります。物語は佳境で、「私生児」と言われていたミリーの生い立ちの件がメインになっています。

前巻でミリーが、グレイトン伯爵令嬢レディ・ローズから受け取った手紙。ミリーが生まれた前後の事情から、グレイトン伯爵が彼女の父親と目されており、レディ・ローズは彼女の異母姉にあたる。ミリーは、ローズの手紙で会いたいと請われて、メリーとステア先生と共に、グレイトン伯爵家を訪れたのだったが…。

内容はかなりシリアスでしたが、ラブラブ度もまた高し。いやあ、やっぱりいいなあ、このほんわか感。でしたが、一難去って、というところで、下巻に続きます。2月発売の下巻が、待ちきれません。

Novels 『菓子フェスの庭』  上田早夕里   角川春樹文庫

パティシエを目指し洋菓子店ロワゾ・ドールで修行する森沢夏織さんの物語二作目。前作『ラ・パティスリー』は凝ったミステリーでしたが、洋菓子店を舞台にした熱いお仕事話とミステリーな仕掛けとが、ややミスマッチだった感もありましたが、さて。

百貨店企画部に勤務する武藤隆史は、様々な商品関連のイベントを運営するのが仕事だったが、初めて自ら担当することになった企画が、よりによってスイーツを扱う「菓子フェス」であったことで悩んでいた。自慢ではないが、甘い物がなにより苦手であった武藤にとって、菓子フェス参加の洋菓子店巡りは拷問でしかない。そんな武藤が、優しい甘みのスイーツという可能性を思いついたことから、ロワゾ・ドールにそのコンセプトで新作を依頼する。「男性にも好まれるような菓子」を注文された夏織は、新作の開発に全力を注ぐが…。

ということで今回は、百貨店とパティシエのそれぞれから、スイーツに熱く取り組む業界物語でした。新作お菓子を巡っての、ほとんど少年漫画的なバトル(?)がもう美味しそうで。おかげで、今回ミステリー要素がほとんど無かったことに気づいたのは、読み終えてしばらくしてからでした。
ちなみに、ラブ要素は何気に濃厚だったので、次はショコラ・ド・ルイの方にも注入よろしくです。おもしろかった。

『銀の匙』2巻  荒川 弘   少年サンデーComics

話題の農業高校の青春2巻目。どうでもいいが、月刊誌連載の頃より、単行本発行間隔が長いってどうよ。ともあれ、やっと出た2巻は、「八軒ピザを焼く」「夏休みのアルバイト」の2本立てです(ホント)。

ピザ編は、ただひたすら美味そう。『もやしもん』で農大の春祭中に自給自足していた話を思い出しました。あまり平時にやると、誰も自宅に帰らなくなると言われていた、農大の食的豊かさを感じさせるエピソードでしたが、力を結集したときのエゾノーもそんな感じ。つーか、ピザ食いてえ。

そして、夏休み。実家に帰りたくない八軒は、労働力として大モテ。結局、御影の家に滞在して酪農を手伝う事になりましたが…。まあ、そこにあったのは、甘酸っぱさのカケラもない、日本の農業の過酷な現実。さすがに見ていてめげます。
ヘタレ八軒は、田舎生活へのカルチャーショックを乗り越え、がんばってはいますが、全然修行が足らず、未だ労働力未満といったところ。まだ、夏休みは長そうです。

Novels 『さよならドビュッシー』  中山七里   宝島社文庫
 
『おやすみラフマニノフ』

『さよならドビュッシー』は2010年度「このミス大賞」の大賞受賞作。
主人公はピアニストを志す女子高校生。火災で資産家の祖父と従姉を喪い、自身も大やけどを負ってしまう。一時は演奏家としての未来を絶望視されたものの、音大非常勤講師の岬洋介氏の指導により、奇跡的にピアノ演奏に復帰できた主人公。彼女はまた、祖父の莫大な資産の相続人でもあった。やがて彼女の周辺で、不審な事故が続発するが…。

一方『〜ラフマニノフ』の方はまた独立した話ですが、探偵役は同じ岬洋介先生というつながりです。学内オケのコンサート準備中の音大で、2億円のストラディバリのチェロが厳重に管理された保管庫から忽然と消えた。それを皮切りに、オケの周辺で次々に起こる事件。果たして犯人の意図は?コンサートの妨害なのか。

どちらも、演奏家を志す若者の、芸術的苦闘と成長を熱っぽく描きつつ、それをガチなミステリーとうまく融合させていました。傍目には作者の音楽に対する知識と造形は相当なものに思えたし、探偵役の岬先生の人物造形も好みでした。なかなかの当たりだったと思います。

ただ、2作続けて読むと、それだけでパターンが見えちゃった気もして、詰めはもう一つ。主人公か身近な人が、必ず不幸になるお約束のような気がする。スポ根並に努力しても結局報われねーよなあ。