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Novels図書
『私の中のあなた』 ジョディ・ピコー  ハヤカワ文庫

映画化されて話題になりました。13歳の少女アナの両親は、彼女を白血病の姉ケイトのドナーにするべく、ケイトとの遺伝的適合性を付与して計画的に誕生させた。生まれたときからケイトに様々なものを提供し続けてきたアナはしかし、腎臓の片方を提供する段になって、ついに提供を拒み、要求する両親を提訴する。いったいアナに何があったのか。

映画は割と評判が良く、原作のこれも書評では好評でありましたが、読んでみた感想。冗長過ぎ。「アナに何があったのか?」という問いに対しての回答は、ほとんど1ページで足りるのですが、そこに至るまでの過程を上下巻かけて、ひたすら引き延ばしていたようにしか思えなかった。悪いけど、最初と最後だけ読んで途中を省略しても、何の問題もありません。この家族の過去の確執はともかく、アナの弁護士と訴訟後見人(訴訟にあたって、訴訟期間中に未成年の擁護者となる人)の焼けぼっくい恋愛とか、アナたちの母親の姉との葛藤とか、ただの蛇足としか思えません。

そもそも、この物語は命をめぐる葛藤がテーマであるだけに、アナだけでなく家族それぞれのつらい立場に説得力と共感が不可欠なはずなのですが、アナ母は一応母である私の目から見ても共感できない分からず屋でしかなかったし、ケイトは最後まで何を考えてるのか分からないままだったし。とどめに、アナの姉に対する愛と葛藤さえも、そこにたどり着く前にさらっと流されてしまった感じ。

で、結末がまた、唐突すぎてなんだコレ?感動するには、トンデモ過ぎました。

結論。『半神』16ページの爪のアカでも飲んでください。

Novels図書
『魚神』 千早 茜  集英社

デビュー作にして、泉鏡花賞受賞作。
いつとも分からない時代の、どこともいえない島の物語。「本土」から見捨てられ、遊郭と漁業くらいしかないこの島で生きる、孤児の兄妹が主人公です。いっしょに拾われ、お互いしか見えない、必要ない濃密な絆とともに成長した2人。ゆくゆくは売られる運命を受け入れながらも、彼等の別離は予想外の形で訪れ、悲劇を誘う。

耽美で幻想的かつ、どこか近未来SFのような猥雑感。ストーリーは王道な恋愛譚でもあり特に美文という印象はありませんでしたが、純にして濃密な感情表現はなかなか読み応えがありました。次作が楽しみ。

Novels図書
『夜想曲集』 カズオ・イシグロ/土屋政雄  早川書房

『私を離さないで』のカズオ・イシグロさんの新作で「音楽と夕暮れをめぐる短編集」とのこと。その通り、様々な形で音楽に関わる人々が織りなす、人生の綾を描いた5編の物語です。
巷の評価はかなり高かったのですが、読んでみたところはちょっと微妙。黄昏に似合いそうな音楽、下り坂に差し掛かった人生への、感傷とノスタルジーに満ちた物語を期待していたのですが、少し違ったので。

それぞれの物語はいずれも、輝きを失って色あせていく人生のある瞬間を切り取っています。そして音楽は、そんな人生を彩るでなく、むしろ人間関係の不協和音の象徴として存在していたようでした。愛する妻との思い出の曲を、もはや彼女が受け容れないとか。音楽家を夢見る若者の熱と、家業に追われるその家族との温度差とか。それらは本人たち的には悲劇なのでしょうが、作者がその状況を、一歩引いたところから突き放して描いていたせいか、どことなくシュールなコメディの匂いがしていました。萩尾望都的スプラスティックを彷彿させましたが、同情も共感もできないダメ大人のイタさは、見ていてもそっとしんどかったです。

『百姓貴族』1巻 荒川 弘 ウィングスComicsDX

『ハガレン』の荒川さんの、何と農業エッセイ!知らなかった、こんなの出ていたのね。それにしても、掲載誌の「ウンポコ」って、てっきりBL系マンガ誌かと思っていました。ちなみに、今はWings本誌に移ったらしい。

昔から荒川さんは自画像が牛だったし、『ハガレン』の巻末おまけマンガ等で、実家の酪農家の厳しさを舌鋒鋭く説いていたし(親近感)、そういう内輪話がたっぷり拝めるものと期待して読みました。いやー、予想通り、面白い!それにしても、こんだけシビアな話を、てらいなく面白く読ませられるというのは、やはりこの人タダ者ではありません。

北海道開拓地の牧場経営の話。しゃれにならんシビアな労働。野生動物との戦い。お父様のパワフルな家系。農業高校の生活。
よく言われることですが、荒川さんの北の大地に根ざしたハードな生活経験が、『ハガレン』等でリアルな生命の重みと、シビアな現実を描写していく上での糧となっているのは確かだと思う。エド達が単細胞に見えながらも、意外に現実主義なのは、人間が生きるために他の命を犠牲にし、利用してきた現実を見据えた作者の眼差しが、そこにあるからなのかもしれません。

『とめはねっ!』1〜6巻 河合克敏 ヤングサンデーComics

NHKドラマ化で話題になってきた書道(蘊蓄)マンガ。昨年末あたりからぼちぼち読んでいたのですが、最初の印象は「思ったより地味」。正直、3巻くらいまでは、黙々と「習字」している気分で、淡々と読みました。

舞台は、鎌倉にある鈴里高校の書道部。部員が足りずに存続が危ぶまれていた書道部に、強引に入部させられたのは、気の弱い帰国子女の少年、大江縁(ゆかり)と、柔道部のスター選手の望月結希。書道はズブの素人であった2人が、3人の先輩部員と、何かと蘊蓄の長い顧問の教師に導かれ、次第に書道の奥深さにハマって行きます。

最近では書道もパフォーマンス要素を取り入れたりと、いろいろあるのは知っていましたが、なるほど、実はこれだけいろいろ細かくジャンル分けされているものなのか。最新刊は「書の甲子園」なるものがテーマだったのですが、さすが「甲子園」と呼ばれるだけのことはありました。あれだけ大々的に開催されるものとは知らなかった。

などという未知の世界を、新入部員の2人とともに追体験することにより、じわじわと書の世界のおもしろさが分かってきます。登場時はインパクト今イチと思っていた登場人物たちも、ようやく味が出てきてなかなかクセになりそうです。とりあえず、4巻の「篆刻」(ハンコを作ること)はやってみたいかも。

ともかくも、翌年の「書の甲子園」という目標に向かって動き出した鈴校書道部でした。彼等の明日はどっちだ。