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2009年 4月度
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Novels
『卵のふわふわ』 宇江佐 真理  講談社文庫

これも少し前に読んだもの。江戸庶民の暮らしを描いた人情もの、というやつでしょうか。美味しそうなタイトルから、いかにも幸せそうなほのぼのした話を期待したのですが、内容はややビターでした。

奉行所の同心の家に縁あって嫁いだ、主人公のおのぶ。婚家の舅も姑もいい人で、食い道楽な舅の忠右衛門は、のぶの作る料理を、いつも子どものように、うれしそうに食べてくれる。が、肝心の夫の正一郎は、結婚当初からのぶへのよそよそしい態度を変えようとしなかった。正一郎には、のぶとの縁談の前に、痛い目に遭わされた女性がいたらしい。それを知ったところで、どうすればいいのか分からないまま、のぶの心はどうしようもなくふさいでいくのだった…。

実はこの手の、ミステリーでもファンタジーでもない江戸の人情ものの、どこがおもしろいのかが、常々疑問でした。妖怪も捕り物も出てこないリアル江戸は、特に武家の妻子は、どう考えても現代より貧乏で窮屈だろうし。タテマエな武士道って、あまり好きじゃないし。良妻賢母の儒教的道徳って、虫酸が走るほどイヤだし。身分やらお役めやらに抑圧され、藩という組織の歯車であることに苦悩する孤高のヒロイズムとかも、どうも趣味ではございません。
かといって、その辺があまりゆるくて、価値観だけ現代人だったりすると、じゃあなんでわざわざ江戸を舞台にしているのか?という根本的な疑問が浮かんでしまいます。

で、本作ですが、江戸の庶民を、現代とあまり価値観の違わない人々に描いているので、そこはとっつきやすいのではないでしょうか。メインは夫婦の関係修復ですが、現代的ラブストーリー風味で楽しめました。この主人公は、なんだかんだ言って、我が儘であまり我慢しないし、周囲もけっこうそれを許しているところがあります。

また、江戸の風俗としては、紹介される食べ物が、小道具として効いていたので、そのあたりのさじ加減は上手いと思いました。ただ、のぶは偏食が多いので、のぶ視点での食べ物描写があまり美味しそうに見えなかったのが、もったいなかったかも。
Novels図書
『エッジ』上下 鈴木光司  角川書店

『リング』の鈴木さんの最新作。実は、『リング』は好きでしたが、『らせん』は、あの強引な展開に、もう一つついていけなかった記憶があります。その後しばらく、鈴木さんはホラーから手を引いてしまったこともあり、本当に、読むのは久々でした。

で、感想。果てしなくビミョー。地球の各地で起こる、謎の人間消失事件。研究機関のスーパーコンピュータがとらえた、世界の数学的歪み。それらは、この世界の崩壊の前兆なのか?空前のスケールで描かれる終末の物語。すみません、下巻の冒頭にあった推薦コメントがナイト・シャマラン監督からだというのが、すべてを象徴している気がします。つまりは虚仮おどし。竜頭蛇尾、大山鳴動してなんとやら。って、言い過ぎ?

とにかく、SF的にここまで壮大なネタに挑み、なんとか形にしたという意欲と力業は買いましょう。が、あまりに壮大すぎて結果的に、リアリティ皆無のトンデモになってしまったのも事実であります。主人公の父親が失踪したというささやかな話が、瞬く間に巨大化し、宇宙規模のスケールになってしまったあたりは、『総門谷』かい!という乾いたツッコミで受け流すしかありませんでした。
凡人に、π(パイ)の数値が変わってしまったことで恐怖を感じるのは無理です。いったい、明日宇宙が崩壊すると知ってしまった小市民に、どんなリアクションを期待されているのでしょう。つーか、何も知らず、悩む暇もなく、崩壊ではなくあっさりと「消失」していけるのなら、それは地球に対する何よりの慈悲なのではないかと、と思ってもいいですか。無理ありまくりです。

ただ、同じネタでも、もう少し登場人物が魅力的だったら、小説的におもしろくなったかも、と思わないでもない。主人公のバツイチキャリアウーマンも、相手役の中年男も類型的で魅力に乏しいし、2人の恋愛描写もそこだけ無駄にリアルな辛気くささ。ここまで大ボラを吹くなら、もう腹をくくってとことん荒唐無稽かつ、ヒロイックに突き抜けてくれた方が、まだ楽しめたかもしれません。

が、これだけ途中は難ありまくりでも、結末まで読むと、とーちゃんの件等、伏線のほとんどが、一応回収はされます。なので、不思議と結末では、まあいいかという云う気分になってしまったのでした。まあ、本をぶん投げたいほどでもないかと。だから本当に、果てしなくビミョー、な読後感でありました。


Novels
『影武者徳川家康』上中下 隆 慶一郎  新潮社文庫

少し前に読みながら、感想を上げていなかった本作は、『花の慶次』の原作者が奔放な想像力を駆使して描いた戦国絵巻。本物の家康が、関ヶ原の戦闘中に暗殺されてしまったため、彼の影武者であった世良田二郎三郎が家康に成り代わって生きるという、大胆な設定です。さぞや荒唐無稽かと思いきや、史実をよくふまえてあって、案外これもありかと思えてくるところがすごい。例の島左近も活躍しており、 時代的にも、『関ヶ原』のまんま続きのように、違和感なく読めました。

さて、せっかく天下が定まりかけたこの時に、家康に死なれては困る者たちの思惑により、家康としての芝居を続けることになった二郎三郎。この田舎芝居を仕組んだ面々は、譜代家臣の本多正信や、本多忠勝らと、嫡子秀忠。その場ではとえりあえず利害が一致したものの、やがて、それぞれの思惑がたちまち軋轢を生じ始めます。

主人公の二郎三郎に一貫して敵対するのは、秀忠。悲しいくらい小物ながら、小狡い冷血漢でもある不肖の2代目は、この影武者を征夷大将軍に据えたら、とっとと殺して将軍位を奪うつもりでいたのですが、戦乱の世をこれまで生き延び、ここに来て腹をくくった男の意外な抵抗に遭い、予想外の苦戦を強いられることになります。

二郎三郎は生き延びるために、更に秀忠への嫌悪感もあって、彼に権力を渡さぬようできる限りのことをします。あるときは表向きの政治で、またある時は、お互いの配下の忍びによる武力闘争で、この2人が繰り広げる壮絶な死闘が全編を通しての見物でした。ともあれ、基本は肩の凝らない痛快時代劇でした。面白かったあ。

Novels図書
『関ヶ原』上中下 司馬遼太郎  新潮社文庫

今年のNHK大河ドラマ『天地人』は、元々何かと気になる素材であったところに、トンデモな脚本と演出とが投入されたことにより、どうにも素通りできない、強烈なイロモノ磁場を形成してしまった模様。どうやら磁場に干渉されたらしく、個人的にプチ戦国ブームが到来中。本作は、未読の司馬作品の1つでしたが、直江山城守も登場すると聞いたので、この機会に読んでみました。

天下分け目の関ヶ原で激突した二大勢力を率いた、家康と三成。1966年の作品なので、そのあたりの描写は、現実的な腹黒タヌキの家康と、潔癖で理想主義者だが、大将の器ではなかった三成という、王道ど真ん中な描かれ方でした。まあ、東軍は勝つべくして勝ったと言うことで。
去る彦根築城400年祭で、大人気だった「ひこにゃん」に便乗して、目つきの悪い「いしだみつにゃん」や、「しまさこにゃん」が活躍したことを思い出しました。ちなみに、三成の家臣というより、同志であった島左近は、そんな三成の苦手な政治的部分をフォローすべく苦心しますが、やはり根は武将らしく権謀において家康の敵ではないといった役所。萌えます。

本作の見所はやはり、決戦に向かって右往左往する武将たちの群像劇でしょうか。
司馬さんの戦国ものは他に『功名が辻』、『夏草の賦』、『播磨灘物語』と読了済みですが、それぞれに本作にかぶるエピソードがありました。年代を確認したところ、『夏草の賦』や『播磨灘〜』はこの後の発行なので、群像劇を描いているうちに、中の一人にスポットを当てたくなったということなのでしょうか。いいなあ、きっとこの頃の司馬さんは、スポットを当てたい人物がたくさんいたんだろうなあ。

ちなみに、直江兼続は本作中では、直江状をつきつけたことで家康の怒りを買い、戦いの準備に走らせるところまで登場してそれきり。関ヶ原後の後日譚をちょっとだけ読んでみたかったかも。


『夏目友人帳』1〜4巻 緑川ゆき 花とゆめComics

アニメ化で話題になっていた本作。夕方から再放送が始まったのを娘が観て、原作を読みたいと言い出した。古本屋で探しまくったが見つからず、仕方なく買った新刊の1巻はなんと29版。売れてるんだねえ。

主人公夏目貴志は、祖母のレイコから、妖が見えてしまう能力と、彼女の「友人帳」を受け継いだ。「友人帳」は、祖母が霊力で負かしたあやかしの名を書き綴ったもので、名前の載ったあやかしを丸ごと支配できるだけの力を秘めている。が、お人好しの夏目は基本的に、名前は持ち主に返すべきと思い、時に危険な目にも遭いながら、日々それを実行しているのだった。

この手の妖怪ものは、『百鬼夜行抄』を筆頭に、山ほどありますが、これは怖さはほとんどなく、ファンタジー比重が大きいのが特徴のようです。現在、7巻まで出ているので、おいおい揃えるとは思いますが、私的にはもう、おなかいっぱいな感じ。もちろん、にゃんこ先生は可愛いし(つーか、それだけが救い)、時折、ほろっとくるところもあるのですが。正直、夏目のいいこちゃんぶりが鼻についてしまって…。

あやかしが揃いも揃って、ウェットで人間くさかったり。人間との交流が気恥ずかしいくらい純粋だったり、これでもかの泣かせがあったりが、肌に合わない。人間と異界とは、もう少し価値観の齟齬があってしかるべきだと思うし、両者の交流はもっと飄々としていた方が好きだなあ。すみません、これは純粋に好みの問題なのですけど…。