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2009年 2月度
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Novels図書
『ショコラティエの勲章』 上田早夕里  東京創元社

上田さんの、これはスイーツがテーマのミステリー連作短編集。
主人公は老舗和菓子店勤務の若い女性。和菓子店は通年まったりと落ち着いてるが、最近その2軒先にショコラトリーがオープンし、バレンタインの間近の季節柄、若い女性でごった返す盛況となっていた。客として覗いてみたショコラトリーで、主人公は奇妙な万引き事件に遭遇するが…。

日常ミステリーとしては、なかなか楽しめました。テーマのスイーツについても、よく調べてあって、くどいくらいの蘊蓄描写もまたよし。てんこもりの甘い描写にうっとりします。ただ、専門的な用語も多く、味を想像する前に、理解がついていかないところも時々あり。「鏡の声」で説明された菓子容器の構造なんて、言葉で言われてもなかなか分からなかったんですけど。

探偵役は、ショコラトリーの長峰シェフ。冷静沈着、何もかも見透かされそうな眼差し。職人としての真摯な努力とプライド。人間的器。文句なくいい男だが、時々、未熟な主人公の師匠モードになってしまうところあり。雰囲気として、北村薫の「円紫師匠と私」シリーズの2人を思い出しました。ただ、妻帯者だった円紫師匠と違って、主人公側片思いでもいいから、長峰シェフは恋愛モードがありか?がちょっと気になるところです。

Novels図書
『インシテミル』 米澤穂信  文芸春秋

これは設定だけ聞いて、米澤作品としてはどうかと思い、リクエストしないでいたのですが、今回たまたま図書館で見かけてGET。久々の米澤節は設定はともかく、この青臭いところがいいよなあ。

アルバイト情報誌にさらっと載っていた、時給11万2千円、7日間24時間勤務の、よく考えると怖すぎるバイト。応募した主人公含む12人は、暗鬼館なる謎の地下空間で行われる、とある実験に「モニター」として参加することになったが…。

内容は、ミステリーマニアお約束の、閉ざされた館に集まった、限られた人たちの中で連続殺人が…という、今時どうよ、な話。正直この手のミステリーは、設定のありえなさでまず引き、主人公に感情移入できずに挫折し、誰が犯人でもどうでも良くなって投げるのがパターンだったりしますが、これは面白かったです。
閉鎖空間は、まあ、ありえんだろうが、ミステリーマニアが金に糸目を付けずに作ったシミュレーション実験空間ということで、とりあえず納得。主人公は、米澤的ヘタレ探偵なのでまあよし。ついでにヒロインも、どっかで見た良家のお嬢さんタイプではありますが、得体の知れないところがなかなかいい。そしてオチも、最後まで二転三転するのを楽しめました。

いよいよ『秋期限定〜』も出るし、楽しみです。(上下巻だけど)

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『火星ダーク・バラード』 上田早夕里  角川春樹事務所

『魚舟・獣舟』がすっかり気に入ってしまった上田さんの火星を舞台にしたSF長編。第4回小松左京賞受賞作とのこと。
長編のせいか、SFとしての目新しさよりはむしろ、『スターレッド』か、はたまた『ガンダム』かという、幾分レトロな火星の雰囲気。ドームに覆われた都市、軌道エレベーター、人類の変革。地球の1/3の重力の下、スピード感溢れるハードなアクションが展開します。

主人公水島烈は火星で働くPD(刑事のようなもの)。ある日、やっと逮捕した連続殺人犯を護送中に、正体不明の幻覚に襲われ、意識を喪失してしまう。目覚めると同僚は殺害され犯人は逃亡。彼は同僚殺害の容疑をかけられ、特務機関に追われる立場になる。事件の裏に横たわる巨大な権力と陰謀。果たして、事件の真相とは…。

『魚舟・獣舟』に収録の中編、「小鳥の墓」の主人公とつながりのある話と聞いていたので、その人物に注目して読んでいたのですが、結局彼はあまり出てこなくて残念。あれだけ強烈なインパクトのある人物だったのに。

王道なハードボイルドとラブストーリー。惜しむらくは、直球過ぎて、登場人物が類型的に思えてしまったことでしょうか。悪くはなかったけど、完成度、インパクトともに、短編の方に軍配が上がりました。ハルキ文庫版は大幅加筆があったそうなので、そちらもチェックしてみたいです。


Novels
『イン・ザ・プール』/『空中ブランコ』 奥田英朗 文春文庫

長らく積読していた人気シリーズ。ふと思いついて読んでみて、すっかり気に入りました。直木賞受賞作とは知らなかったのですが、なぜか「小難しい」というイメージがあったせいでしょうか。もちろんまったくそのようなことはなく、痛快で理屈抜きに楽しめました。

伊良部総合病院の地下にひっそりと設けられた神経科は、強烈な変人で注射フェチの40代医師と、無愛想で露出趣味のある美人看護婦との2人で運営されている。彼等は、体と心の変調を抱えて飛び込んでくる患者を、暖かく迎えつつ、一風変わった方法で治療する迷コンビなのだった…。

とにかく、主役の伊良部医師の強烈さに圧倒されます。ありあまる金とヒマを持ち、素人とののしられつつも患者の生活の場にずけずけ足を突っ込み、患者が依存しているものがあればともにハマり、反面教師になることで、患者に問題を自覚させ。患者は治療の成果なのか、はたまた単なる僥倖か、かろうじて生活に支障ないレベルまで回復していくのでした。よくできたファンタジーのようですが、なんだかんだで納得させられてしまうところがすごい。読後に、すがすがしい気分になれる快作でした。


Novels
『魚舟・獣舟』 上田早夕里  光文社文庫

おおおお、これはなかなか。
いや、私には珍しく、ジャケ買いならぬタイトル買いだったのですが、それが大当たりしたもので、感動してしまいました。と、いうか、何故にこれだけの作家が、全くこれまでアンテナに引っかからなかったのかが不思議でならない。と、云うわけで、皆様にも布教すべく、レビュー一番乗りさせていただきます。

まずはこれは、SFです。5編の短編と、書き下ろし中編からなる、かなりハードなSF短編集。遺伝子工学と進化。伝奇的要素。管理社会と人間の本質、等々。扱うテーマ自体は既視感漂うものながら、それを物語に組み込む完成度が素晴らしい。そして、作中に一貫して漂う、少し哀しく少し邪悪な空気が、大変気に入りました。おそらくこの空気こそが、私がSFに求めるものなので。

これまで読んできたものになぞらえて表現するなら、例えば佐藤史生+徳永メイの短編。小野不由美の筆力で書いたSF。耽美控えめの飛浩隆。エロとバイオレンスのあまり無かった頃の菊池秀行。等々。
表題作をはじめとした短編の、骨太で鮮烈なビジュアルイメージ。中編の、隙のないエピソードの積み重ねと繊細な心理描写。酔いしれつつ一気に読んでしまいました。既刊も文庫であるようなので探してみます。とりあえず、次作待ちのかなり上位に入れておくことにしよう。
Novels
『生首に聞いてみろ』 法月綸太郎  角川文庫

新本格の旗手として評価が高い法月さん。これに先だって、割と実験的なミステリー短編集『パズル崩壊』というのを読んだのですが、完成度はともかく、文体や雰囲気が気に入ったので、「このミス」等で評判の高い本作を読んでみました。うん、これはなかなか良かったかも。

主人公は作者と同名の、ミステリー作家法月綸太郎氏。基本的に気弱でお人好しだが、父親が警視庁の大物なので、柄にもなく殺人事件などに首を突っ込んで名探偵を演じてしまうという設定。このあたり、最初は浅見光彦を思い出しましたが、むしろエラリー・クイーンへのオマージュのようです。さて。

友人がモデルの1人だという写真展に出かけた綸太郎は、会場で、知人の翻訳家川島敦志と、女子大生という彼の姪に出会う。その場で話題に登ったのは、彼女の父である川島の兄の伊作氏のこと。彼は有名な彫刻家であり、つい半年前に癌の手術から生還し、今は精力的に創作に励んでいるという。ところが、まさにその直後に伊作氏が逝去。綸太郎は川島から、身内の込み入った話だという相談を受けるが…。

新本格というと、どうもマニア向け。失礼ながら猟奇でイタくてトンデモというイメージがあったのですが、これは一応、表題通りに生首は出てくるものの、グロはそれほどでもなく。理屈をこね回してありえない状況を無理矢理演出するでもなく、メタな方向に走るでもなく。ちゃんと一般読者が意識されているようで、好感が持てました。
とりあえず、主人公が常識人で、普通に感情移入できるのがいい。もちろん、ミステリとしても評判通りで、一応現実的にあり得る状況と謎解きながら、ラストに至るまで、まるで先が見えない展開が脱帽でした。法月綸太郎シリーズは、この前にも何作かあるようなので、読んでみたいです。