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2008年 11月度
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Novels図書
『テンペスト』上下 池上永一  角川書店

沖縄を生き生きと描くことでは定評のある池上さんの、琉球王朝歴史ロマン。
19世紀半ば、琉球王国は清国を宗主国として崇めながらも、建前は薩摩藩の支配下にあるという両属体制を、アクロバティックな外交手腕により維持していた。当時の日本は未だ鎖国の太平にあったが、琉球は小国であるが故に、迫り来る時代の荒波をより敏感に察知し、生き残る術を模索せざるを得ない。頼るべき清国の弱体化。欧米列強の武力による干渉。現実が厳しさを増す中、少女真鶴(まづる)は役人となって王国を支えるべく志を立てる。真鶴は男装し、宦官の孫寧温と名乗り、科試に挑んで見事合格したのだが…。

これまでの池上さんの作品にしては、かなりまっとう、というか脱線が少なく物語の本筋が分かりやすかったです。その本筋は、男装少女冒険譚のまさに王道。男になって活躍し、恋との板挟みに悩み、時折正体がばれそうになり、と波瀾万丈。いやー、おもしろかったです。
どうして、寧温が女だと一部の人間以外気づかない!ましてや真鶴に似ていると誰も思わない?というのは、読者のほぼ全員が内心突っ込み倒したと思うので、今さら野暮はいたしません。まあ男性陣揃いも揃ってニブすぎ、でしたが。

とはいえ、池上さんらしい強烈なキャラはここでも健在。王族の守護神たる巫女「聞得大君」や、最凶の変態宦官、徐丁垓等、キワモノ的美学を遺憾なく発揮して、いかにも楽しそうでした。また、琉球ならではの後宮のオンナの戦いが、またコワくも楽しかった。
女の子が官吏を目指すあたりで『彩雲国物語』の最初の頃を思い出したり。話のジェットコースターぶりから、『砂の覇王』を思い出したり。かように、ラノベテイストたっぷりでかつ、織り込まれた史実の蘊蓄も楽しめる。濃厚なエンターティメントを堪能致しました。


『クッキングパパ』100巻 うえやまとち  モーニングKC

祝100巻
昨今、100巻超の長寿マンガはいくつかあって、それほど珍しくないのかもしれませんが、我が家的には、100巻を超えて買い続けている初めての作品です。主人公一家が料理を作って、周囲の人たちと食べるという、それだけのマンガに、これだけ長くつきあって来たのも、なにやら感無量です。グルメマンガのもう一方の雄『美味しんぼ』は、数年前に脱落してしまったのにね。

思えば『クッキングパパ』は、単行本が20巻代の頃に読み始めて、かれこれ20年以上になります。ここまでくると、マンネリもどんと来い。この作品のずっと代わらない家族の、職場のシンプルな暖かさが大好きでした。

『クッキングパパ』の世界は、『サザエさん』と違って、非常にゆっくりながら、時間が流れ、登場人物たちが成長してきています。登場人物の来し方を振り返って、それぞれの成長ぶりにしみじみするのも、おつなものです。どうぞ、できるだけ長く彼等の行く末を見ていられますように。
Novels図書
『日暮らし』上下 宮部みゆき  講談社

文庫化されたものが、店頭に平積みになっていたので、つい買いそうになりましたが、思い直して図書館GET。一気に読んでしまいました。
内容は『ぼんくら』の続編、というか事実上の完結編でした。『ぼんくら』では正直、尻すぼみに思えた事件の顛末が、これによってようやく収まるべきところに収まったように思えます。

前半は、鉄瓶長屋事件に関わった人々の後日譚を兼ねた人情噺が中心。そして後半には、灰色のまま煮え切らなかった件の顛末を吹き飛ばす大事件が起こります。『ぼんくら』でなじみの人々が、ほとんど再登場。元鉄瓶長屋のお徳さんは今日も元気だし、佐吉の「根っから運命に弄ばれる属性」も健在。弓之助の美少年ぶりにも、いっそう磨きがかかったようでした。ままならない人の世で交錯する想いと、それでも、その日その日を必死に生きていく人々のたくましさ。やっぱり、おもしろかったです。
またこのシリーズで、続き出ないものでしょうか。

Novels
『ヴァンパイアの花嫁』 ステファニー・メイヤー  
            ソニーマガジンズ

『トワイライト』シリーズ、第4部@最終章(だよな?)、ついに翻訳開始です。今回は4分冊で、月に1冊ずつ発行される模様。そのせいもあってか、本が薄い。1年ぶりの新刊が、30分で読めてしまったのが、ちょっと切ないところです。

内容は、とりあえずエドワードが相手のラブラブモードが復活。事ある毎に、このセレブが!と突っ込みまくりでした。で、こうきたか!でも、これってあり?で次巻に続く。いえ、続きは楽しみです。ホントですから。
Novels
『夏休みは、銀河!』上下 岩本隆雄  朝日ノベルズ

前作『鵺姫異聞』以来、6年ぶりの岩本さんの新作ということで、話題になっていました。何しろ、『鵺姫異聞』の後は、新作の予告は繰り返し何度も出ていながら、ついに発売されることなくいつのまにかフェードアウト。このまま、リタイアかと危ぶみつつ、やっぱりこの人の性質上、商業ペースで書くのは無理があったかと、痛ましく思ったりもしていました。ようやくこのボリュームで新作が読めて、大満足です。

正直言って、相変わらずこの人、文章はぎこちないし、日常からの飛躍が急激でついていくのが一苦労だし、説明的な台詞が多いし、SFとしてそれほど新しいネタもない。お世辞にも小説としての完成度は高くないのですが、それをさっ引いても、この物語自体のパワーと密度は凄い。そしてリリカルで明るくて前向きな感性はやっぱり大好きだー、と叫びたくなりました。小学生の1夏の冒険。これ以上ないくらい、王道です。だが、そこがいいのだ。はい。

さて、小学5年生の内田一希(いつき)は、小学生としても女子としても頭抜けた長身で、ぼんやりした性格から「ぼの」などというあだ名を付けられてしまう少女。その年の1学期の終業式の日、一希はひょんなことから、大切にしていた携帯ストラップを取りに、国旗掲揚の旗竿に登る羽目になってしまった。旗竿のてっぺんまで登り詰めた彼女が見つけたのは、24年前の小学生だった「悪ガキ3人組」がこっそり隠していたメッセージ。まさに今年の3日後の7月24日に、「銀漢泉」へ行くと、何か楽しいことが起こるというもの。当日、半信半疑で出かけた一希だったが…。

のっけから、山の主として知られる賢い黒犬やら、酷い日光アレルギーのため頭まで完全防御服を着込んで生活している小学生やら登場しますが、それはまだありえる日常の内。やがて宇宙人の古代遺跡での冒険や、高度な科学力で宇宙旅行といった、ジュブナイルSFの王道展開となりますが、それでもまだ序盤だったりします。本当のお楽しみはここからとばかりに、二転三転していく展開と、多少強引でも次々回収されていく伏線。ああ、おもしろかった。
まだ続きがありそうな、思わせ振りな描写があったので、楽しみにお待ちしています。できればあと1年ぐらいで何とかなりませんでしょうか(笑)


Novels
『生き屏風』 田辺青蛙(せいあ)  角川ホラー文庫

第15回日本ホラー小説大賞、短編賞受賞作。今年のホラー小説大賞は豊作だったらしく、大賞、長編賞、短編賞と、受賞作が並びました。選評から、最も好みに合いそうだった本作を読んでみました。うん、おもしろかったです。いや、全然怖くはなかったので、ほとんどファンタジーでしたが。読んでいて、生理的不快感を全く感じなかったのが、この賞にしては珍しいところ。

主人公の皐月は、県境に棲む妖鬼で、外から侵入しようとする良くないものを追い払うのを生業としている。そんな皐月の元に、ある日やっかいな依頼が舞い込んだ。村の商人の亡くなった妻が、屏風に取り憑いて我儘を言い放題なので、もてあました旦那が、皐月に妻の相手をして欲しいとのこと。渋々引き受けた皐月だったが…。

皐月と、屏風の妻との会話や、他のあやかしとの交流を、淡々と描いた3編が収録されています。彼等に漂う、孤独の一歩手前のやるせない空気が何ともいい感じ。坂田靖子のアジア変幻自在記を少しウェットにしたような雰囲気で、おすすめでした。求む、シリーズ化。