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『僕僕先生』 仁木英之 新潮社

と、いうわけで、借りてみました。第18回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
中国は唐の玄宗皇帝の時代。主人公の王弁は、官吏の父親が貯め込んだ財産で、あくせくせずとも一生暮らせる事に気づいてから、自分は働かずに無為徒食して生きることを決め、実践してきた。父親や親族の説教小言にも馬耳東風。そんな彼の目論見はある日、父親の遣いで、近くに住むという「高位の仙人」なる人物に会いに行ったことから、急転直下する。
彼を迎えてくれたのは、何と「僕僕」と名乗る妙齢の美少女だった。触れ込み通り、高位の仙人であったらしい彼女は不可思議な術を操り、ツンデレな性格で彼を翻弄する。僕僕と行き先不明の旅に出ることになった王弁の明日やいかに。

どっかで見たような気がして、思い当たったのは、アレです。青年マンガのサえない主人公のところに、ある日美少女の姿をした(宇宙人・女神様・パソコン 、どれでも可)がやって来て、更に彼女の愉快な仲間たちが芋蔓式にやってきて、ドタバタ大騒動、という、男性のドリームの入ったやつ。仙人が魔法を使う中華ファンタジーというネタも、最近ラノベでジャンル化されつつあるくらいで、決して目新しいものでもない。なので、ファンタジーノベル大賞としては、ちょっと狭義のファンタジーというか、王道過ぎな感じもしました。

まあ、この話自体は良くできていたと思うし、主人公が一貫してヘタレという、ゆるい雰囲気はいい感じです。この作者、史実に言及しようとすると、いきなり引き締まった文体になるので、元々、歴史分野の方が得意な人なのかもしれません。
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『戒』 小山歩 新潮社

これも、第14回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作。最近なにげに、この賞の受賞作品を追いかけています。そろそろ『僕僕先生』もリクエストしてみよう。

さて、古代儒教的な価値観が支配する、架空の東アジア的半島世界の小国、「再」王国を舞台に、伝説の奇人にして舞舞いであった戒(かい)の生涯を描いた一代記です。きらびやかにして哀しくも残酷な物語。愛憎と自意識の葛藤とが、全編に渡ってぐるぐるし続けるのが、なんとも強烈でした。

名家の長子に生まれながら、母親が再の公子明の乳母であったことから、公子の乳兄弟として育てられた戒。彼は愛する母によって、公子の傍で彼の影となり、生涯公子を盛り立てる役割を期待されて成長する。母が12の時に事故死した後も、その遺志は長く彼を縛り続けるのだった。彼はやがて、自らを道化の仮面の内側にねじ込み、公子の娯楽提供者として舞を舞う。それでも彼には自分の舞によって公子を薫陶し、国の行く方向を左右しているという自負があった。当初のうちは…。

全てにおいて自由に能力を発揮してはならないという枷をはめられてきた戒。その抑圧によって内外から歪められ、あがき続ける。読んでいて、これ、どこの三原順?な感覚に揺さぶられます。
耐え難い傷を抱え、それでも時折、真の姿を察してくれる誰かに出会い、慕ってくれる女に癒され、いつしか自分が生きる意味に気づく。彼はただ舞い続ける。

再国の風土や習俗は、実在の国のものを取り入れたのでしょうが、非常にリアルに設定されています。それを背景にして、戒という個人の痛みと情念とを、見事に描き抜いた力量は素晴らしかったです。正直、この年の大賞の『世界の果ての庭』よりはるかに好みでした。この頃の賞の傾向って、ちょっと迷走気味だった気がする。

この作者の他の話を読んでみたくなりましたが、これ一作しか検索できませんでした。本書も実は入手困難な状態とか。もったいないです。

Novels図書
『安徳天皇漂海記』/『廃帝綺譚』
     宇月原清明  中央公論新社

『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』(未読です)で、第11回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作者による、幻想歴史小説。本書は直木賞候補だったそうです。よく行くブログで評価されていたのが気になって、図書館GET。最初こそ取っつきにくさを感じたものの、史実と幻想と神話を巧みに織り交ぜていく腕前にすっかり幻惑され、続編の『廃帝譚』まで、ほとんど一気に読んでしまいました。

『安徳天皇漂海記』は、源平合戦の末期に壇ノ浦で入水した幼帝、安徳帝が、不思議な力により生き延びていたという奇譚に基づき繰り広げられる歴史絵巻。
鎌倉幕府3代将軍、源実朝のところに、天竺の冠者と名乗る怪しげな男が現れる。彼が伴っていたのは、琥珀のような金色の物質に封じられ、8歳の姿のまま眠り続ける安徳天皇だった。実朝の近従の目を通して語られる、この摩訶不思議な事件の顛末とは?

安徳天皇の奇跡は、史上空前の大帝国を築いていた「元」に伝わり、元のクビライ・カーンの食客となっていたマルコ・ポーロの聞くところとなります。マルコ・ポーロによって密かに後世に伝えられていった、驚くべき世界の神秘とは?

続編の『廃帝綺譚』は更に、元から明、そして清に至る王朝の勃興と衰亡が描かれます。時代を超えて繰り返される、諸行無常の営み。どこまで連れて行かれるのか見当もつかないままに、大がかりな世紀のイリュージョンを堪能いたしました。

日本史・中国史ともに、創作部分が史実に、ほとんど区別がつかないほど自然に織り込まれているのに感動。読み進むうちにすべてが本当にあったことに思えてくるから不思議です。

安徳天皇漂海記


廃帝綺譚
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『ジョン平とぼくと』 大西科学  GA文庫綺

地味ながら、なかなか味のあるファンタジーとの評判を聞いたので、これもお試し。このレーベルは初めてです。もっとも、最近の山盛り新レーベルには、ほとんど手つかずですが。

主人公、北見重の暮らすのは、「魔法」が普通に存在する世界。なので、学校でも社会でも、魔法は、人間の他の能力と同様に、あたりまえに利用されている。この世界の魔法で特徴的なのは「使い魔」の存在。誰もが、何らかの動物を「使い魔」として所有しており、彼らは、その人のかけがえのないパートナーとなる。長く一緒にいた使い魔は、本人同様の能力を身につけ、仕事上のパートナーでもあるので、公式の場で本人の代理を務めることも多い。重の家では、亡くなった父親の代わりに、父の使い魔であった「エンダー」が居て、父親然と振る舞い続けている、と言った具合。

で、重の使い魔は、おっとりお人好しな犬のジョン平。そんな重とジョン平のまったり日常に起こったとある事件とは…?。確かに、地味でした。というか、一作目なので、この世界の常態を説明するための平和な日常描写がやたら長い。本題の事件にたどり着くまでに、挫折するかと何度も思いました。そういうところは、↓の『涼宮ハルヒ〜』と対極かも。

物語上はどうも、「魔法」よりは、「使い魔」の方が重要アイテムな感じ。魔法があまり得意でない重は、科学知識を拠り所に事件の謎に挑みます。確かに、話のバランスの悪さとか、ぎこちなさとかは感じましたが、けれんのない、地に足のついた不思議感覚は確かに悪くなかったかも。普通の少年が、等身大に活躍する日常ミステリー@ちょっと魔法付き、な感じでした。
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『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川流  角川スニーカー文庫

角川の最近のメディアミックス企画でも、なかなか成功した作品の1つ。一時高騰したブックオフ価格も大分落ち着いてきたので、まずは小説で挑戦してみました。

「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい」。自己紹介で高らかに宣言した少女、涼宮ハルヒ。彼女は俺こと、キョン(ここで「八丈島の」とか思い浮かぶあたりが年寄り)が、入学した高校のクラスメイトで、なかなかの美少女ながら、そのエキセントリックな言動でクラス中をドン引きさせる。たまたまハルヒと席が近く、たまたま少しだけ意志の疎通に成功した俺は、なぜか、彼女が起ち上げた怪しげなサークルのメンツに入れられたあげく、その迷惑を一身に受ける立場になってしまうが…。

うーん、もっと荒唐無稽なのかと思っていたが(十分荒唐無稽だが)、これくらいなら、いけます。かっ飛んだ設定を支えるだけの文体もしっかりしているし、ライトノベルというより、ジュブナイルSFなアイテムを取り入れているところなど、年寄りにも意外となじみやすい。今時の萌え要素をふんだんに入れるなど、サービス精神も豊富(やりすぎかも)。なにより、作中に「幼なじみ」要素が皆無なのは、高く評価したいです。

今の所、女の子=萌えという記号に過ぎないのが物足りないですが、このままラブコメ路線に進んでいくなら、おいおい、ちゃんとした心理描写も必要になってくるでしょう。続きを読んでもいいかも。

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