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2005年 9月度
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Novels
『B-EDGE AGE 〜獅子たちはアリスの庭で』 桜庭一樹  
           富士見ミステリー文庫

最近市民権を得てきた「ライトノベル」というジャンル。代表する作家として、よく名前の挙がるのが桜庭一樹さんです。実は若い女性。話題になるのは、戦う少女が主人公の痛いシリアス系作品が多いようですが、これは、それとは別系統らしい軽めのミステリー。お試しです。

主人公の獅子堂・セバスチャン・美弥古は、都立高校に通うクォーターの男子高校生。彼は過去の数年間、アメリカに留学してきており、最近帰国したばかりである。美弥古はある日、幼なじみで今はクラスメイトの田中琴理から相談を受ける。琴理の友人の兄が、猟奇な方法で4人を殺害した連続殺人事件の容疑者にされてしまったのを、助けて欲しいというのだ。美弥古はアメリカでプロファイリングを修得すると同時に、もう一つ、国際的に通用する「特別弁護士」の資格を取得してきていたのだった。琴理とその友人のために、法廷で戦う決意をした美弥古だったが…。

うーん、ミステリとしてはかなりアレです。大小さまざまな穴に、思う存分つっこみを入れられます。なので、見所は、いかにもラノベらしい、ありえねえヒロイックな人物造形でしょうか。ヒロインは幼なじみという、男の子向け王道設定をとりながら、美弥古と彼の保護者のモデルは、新宿某所で見かけた2人連れだったりと、腐女子向けサービスも盛り込み済み。文章はうまいので、するすると抵抗なく読めます。なるほどなるほど。

と、いうわけで、機会があったら、本領たる痛い系少女モノを読んでみたいです。せっかくだからシリアスに突っ込ませてもらうぞ。
『バルバラ異界』4巻 萩尾望都  フラワーズComics

こちらもついに最終巻。雑誌掲載時は、ラストが唐突に思えて、未消化な気がしていたのですが、単行本収録時にかなり加筆されたとのこと。この複雑な物語にふさわしい、2転3転の幕引きとなりました。ラストにかけてはストーリーを追うのが精一杯で、それがは果たしておもしろかったのかどうかは、正直迷うところなのですが。これはこれで、よくまとまったSFミステリーになったと思います。

この重層的なカタストロフィは、『銀の三角』を彷彿させましたが、あの頃の凄みさえ漂わせた詩情と美には、さすがに及ぶべくもないようです。今回のラストから連想したのは、なぜか、『漂流教室』(楳図かずお)。ま、あれも、名作ですけどね。
Novels
『ダレン・シャン』VIII〜XII 
  ダレン・シャン/橋本恵 小学館

盛り上がる人気シリーズ、ようやく、最終巻までたどりつきました。追いつ追われつの死闘を繰り広げる、ダレンたちハンターと、バンパニーズ大王一味。その過程で少なくない犠牲を払いつつも、決戦の時は迫る。果たして…。

最終巻で明らかになったすべての謎。うーん、正直、もう一ひねり欲しかったかも。諸悪の根元であったミスタータイニーが、世界を壊滅させようとした理由が、ただの退屈しのぎではあんまりのような。そこらの中坊じゃあるまいに。

ともあれ、駆け足気味であっても、時空を越えて広がる風呂敷を綺麗にたたんで、あの静謐なラストで締めくくったのは、見事だったと思います。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』1〜6,10巻
 安彦良和/矢立肇・富野由悠季  角川ComicsA

かの名作『ファーストガンダム』を、キャラクターデザイン担当であった安彦さんが完全コミカライズ!という企画です。数年前からこの漫画版が雑誌連載されていたのは知っていました。ただなんとなく、ディープなガンダムオタクの人でないと、読んではいけないような気がして、距離を置いていたようです。このたび興味を引かれて古本屋で購入。なーんだ、おもしろいぢゃない。

1〜6巻部分は、主に、アニメと同じアムロ視点。1つ1つのエピソードが、アニメより細やかに描き込まれていました。さすが、大御所が、がっぷり四つに取り組んだものは、そこらの二次創作と違って、読み応えがあります。
これを読んで気づいたのですが、私はこれまでアニメの前半部分は、あまり観ていなかったようです。劇場版三部作も三話目ばかり、繰り返し観ていたような。なので、ガルマやランバ・ラルあたりは、あまり印象に残っていなかった。思えばラルなんて漢の美学に殉じた美味しいキャラであったのに。まあ、元々軍人は、せこくてこすっからい方が好みだけどさ。

ガルマ出撃のあたりを読んで思ったこと。シャアは何故ガルマを死なせたのだろうか。思うにシャアがザビ家への復讐を果たすための、一番安全でてっとり早い手段は、頼りないぼうやなガルマを傀儡として、成り上がることだったと思うのですが。ガルマなんて、海千山千の政敵を倒すために利用し尽くした後で、いつでも始末できるじゃん。おぼっちゃんの境遇に嫉妬して、私怨のために殺したのだとしたら、シャアもあんまり人のことは言えません。

そして、少し飛ばして読んだ、ダイクン兄妹の過去編。ここらは、ほとんど漫画オリジナルのエピソードで構成されており、アニメ版のミッシングピースが大盤振る舞されていました。そして、今もシャアの過去編は連載中。シャアはなぜ、ジオン軍に入隊できたのか?誰もが一度は思い浮かべる素朴な疑問の謎が明らかになります。これは、美味しい。美味しすぎる。オタでなくとも盛り上がります。

いつか、ララアとシャアの出会いの話を、やってくれないだろうか。
『彼岸島』1〜8巻  松本光司  ヤンマガKC

鮮血色の曼珠沙華が散る黒いカバー。アオリ文句は「吸血鬼に支配された孤島で、惨劇の幕が上がる」。一見、いかにもおどろおどろした、吸血鬼サバイバルホラーらしい、迫力ある装丁の本作。断言します。中身は全然違います。湊さんおすすめ。

いや、設定は一応、吸血鬼サバイバルホラーではあります。主人公の高校生、明の兄は、2年前から行方不明。卒業を間近に控えたある日、明の前に、兄の免許証を持った謎の女が現れて告げる。「あなたの兄さんは、私の故郷の村にいる」。実は女の故郷の村は吸血鬼に占領されており、明の兄は一人、山をさまよって抵抗を続けていた。明と、幼なじみの仲間たちは、明の兄を救うため、女の故郷、「彼岸島」に渡るのだが…。

彼岸島に渡った明たちには、果てしなくうじゃうじゃ現れる吸血鬼を倒して島からの脱出を試みるという、お約束のサバイバル展開が待っています。これが3巻まではまだ、ほんのり小野不由美の雰囲気漂う、真面目に怖い話でした。吸血鬼はあまりにも強く、人間は逃げまどうだけという展開だったのですが、4巻以降に明兄が登場した後は、それが、がらりと変わります。兄貴はマジに強いので、とたんに吸血鬼はザコ敵化するわ。更に、吸血鬼の頭領なる者が現れて、明兄との過去の因縁を語り始めるわ。明も強くなるために『ドラゴンボール』並みの修行をはじめるわ。もう、細かい設定なんぞ、遙か彼方に吹っ飛ばした、怒濤の何でもあり展開が待っているのでした。こうなると、れっきとしたギャグマンガです。ツボにハマれば大笑いできます。が、笑いながらも、つい読まされてしまう、ワケの分からんパワーも凄いです。あの荒唐無稽なノリは、最初の頃の『ジョジョ』や、『魔界都市ハンター』に近いかも。

そして、何よりコレ、兄萌え漫画です。知力、体力に抜きんでた、妙にさわやかなメガネ青年である兄が、こだわり抜いた「丸太」を装備し、吸血鬼と戦います。メガネフェチの諸兄に是非おすすめです。
そして、その兄と絡む「ヴァンパイアマスター」、雅(みやび)はお約束のキザな美形。ヤングマガジンという、若いあんちゃんしか読まないような掲載誌で、何を狙っているのか?と首を傾げたくなるような、腐女子的萌えサービス過剰の展開です。これ、本当に天然だったらすごいよなあ。

現在、12巻まで発行されているらしい。話は少しは進んだかな?
Novels図書
『陋巷に在り』全13巻  酒見賢一  新潮社

この1巻めを最初に読んだのは、もしかして10年近く前?えらく時間がかかってしまいました。いえ、結果的にはすごくおもしろかったのです、念のため。しかし、いかんせん長い話なので、おもしろい部分と、退屈な部分の落差が、どうにも大きかった。序盤でまだ勢いがないうちに、退屈な部分に差し掛かってしまい、そのまま7年ばかり脱落しておりました。先日図書館で、整理対象の本を市民にタダで払い下げてくれるというイベントがあり、そこで続きを何冊か入手。夏休みに実家でヒマしている時に再読し、その勢いで、今度はなんとか最後まで、たどり着きました。おもしろかったのよ、ホント。

さて、舞台は中国、春秋時代(BC8〜5世紀)。孔子とその弟子、願回子淵をめぐる壮大な中華ファンタジーです。主人公は一応願回で、彼は当時30代前半の前途ある青年。でありながら、仕官するでもなく、孔子に就いて「礼」を学びながら、陋巷(貧民窟よりちょっとマシくらいの場所)で父親と2人、超然と貧乏暮らしをしていた。実は彼の出身である願氏は、古代より土俗の神に仕える巫の一族であり、願回は一族の中でも、霊的な素質は抜きんでていた。また、実は孔子も元々は願氏の出自であったのだが、彼は願氏が伝承してきた鬼神を祀る儀式のための「礼」を、人間社会を導くための基礎として再構築することを志しており、そのため掟と伝統を重んじる願一族から、腫れ物扱いされていたという設定。
一応史実は踏まえながらも、孔子の説く「礼」や、儒教については、かなり大胆な解釈がなされており、『論語』の堅苦しいイメージのカケラもない、ぶっとんだサイキックファンタジーになっておりました。

孔子はこの当時50代。堂々たる体格のマッチョなおじさん。しかも、国の要職にあり、理想の政治を敷こうとして政治駆け引きに明け暮れています。正直、この孔子にはみじんも萌えられなかったので、政治活動部分はどうにも退屈でした。そのあたりを読もうとして何度も挫折し、ついには適当に読み飛ばしてしまった。それでも話にはあまり影響はないので、ご安心ください。

物語の最大の見所はやはり中盤の、願回と、孔子の政敵の一味である女性、子容との、壮絶な呪術合戦でしょう。この子容。若く美しく、呪術的にも、肉体的にも、野生の猛獣のように強く凶暴な女性。一方、願回は「受け者(女のような男の意:原文ママ)」と言われてしまう、一見何の変哲もなさそうな、ヘタレ青年です。子容はあたかも天災のように、気まぐれに願回とその周辺に対して災厄をもたらすのですが、何の力もなさそうな願回は意外にしぶとく、彼女の攻撃を受けてたちます。熟練した呪術者による、予想もつかない攻撃の数々。その技の応酬の描写は圧巻でした。

しかしこの話、結果的には、女性キャラを描くことがメインになっていたような気がします。前述の子容、願回の近所の小娘の、、また孔子の母であった徴在、と登場する女性陣は皆、強く魅力的でした。彼女らは皆、自身を拘束している檻から自由になるために、迷いなく戦います。その生命の輝きの前に、それ以外のヘタレ君子の世界の話が霞んで、ついにはどうでもよくなってしまったのは、仕方のないことなのかもなあ。
『沈夫人の料理人』1〜3巻  深巳琳子  ビッグComics

舞台はとある時代の中国。素封家である劉家の奥方、沈夫人は若くサディスティックな美人で、何より食べることが大好きであった。そんな劉家に買われてきた料理人、李三は料理の腕は文句なく一流。そして、オドオド性格のいぢめて君だった。かくして、劉家の日々の食卓は、壮絶なSM駆け引きの舞台となる…。

退屈しのぎに、李三に無理難題をふっかける沈夫人。ところが、難題に脂汗を浮かべるほどに、李三の料理の腕は冴え渡り、味は深みを増すのであった。この時点で、李三はすっかり、沈夫人の無くてはならないおもちゃになっているのですが、本人だけはそれに気づかず、大まじめに苦悩し、奥様の要望を叶えるべく奔走するのであった。いろいろと歪んではいますが、これもやっぱり愛、なのかもしれません。中華料理にお似合いの、まったり濃い目のテンションが素敵です。

Novels
『宝はマのつく土の中!』 喬林 知  ビーンズ文庫

聖砂国編、クライマックスへ。これまで寄り道、迷走しまくってきた感のあるストーリーですが、ここにきて一気にシリアス展開に。最近、アニメのオリジナル展開の内容のなさと、アニメユーリのバカ殿ぶりに脱落寸前でしたが、原作はまだ行けそうに思えてきた。油断がなりません。

さて、ベネラこと、ヘイゼル・グレイブスに、地下都市に眠る巨大な力を秘めたある物について知らされたユーリたち。聖砂国の地下には、古代の巨大な迷宮があり、そこには得体の知れない危険な何かの伝説もある。またしてもサラレギーのセコい陰謀により、地下迷宮に迷い込んでしまったユーリたちだが…。

うわああ、ヨザック!!!これ、マジすか?
原作ユーリは甘ちゃんではあっても、莫迦ではないと思う。そのあたりは一時怪しくなった気がしますが、この巻では持ち直してきたと思う。真摯に物語と取り組んでくれれば、それでいいです。
Novels図書
『蒼路の旅人』 上橋菜穂子  偕成社

『守人』シリーズの外伝としてはじまった、皇太子チャグムを主人公にした物語。このたび『〜旅人』の名でシリーズ化されました。「守人」以上にずっしりとしたテーマと世界観を備えたシリーズになりそう。読みごたえ十分です。さて。

皇太子であるものの、これまでのいきさつもあって、父帝との微妙な軋轢を抱えていたチャグム。そんなときに、南のサンガル王国から、新ヨゴ皇国に宛てた親書が届く。サンガル王国はここ何年か、南の軍事大国、タルシュ帝国からの侵略を受けており、親書は新ヨゴ皇国への援軍要請であった。どこか不審な気配の漂う要請に、罠の可能性を考えつつも、帝は要請を容れ、チャグムの一番の後ろ盾であった、二の后の父(つまりチャグムの外祖父)、トーサ海軍提督をサンガルに派遣する。また、それを非難したことで、父の不興を買ったチャグムもまた、祖父と共に戦場へ送られてしまった。
しかし、たどりついたサンガル王国は、既にタルシュ帝国の支配下に陥ちていた。虜囚となったチャグムは、タルシュ帝国へ向けての長い旅に出るが…。

古代ローマ帝国を下敷きにしたような、強大なタルシュ帝国。絶対的な武力と、狡猾な支配体制によって着々と侵略を進めていく帝国の前に、為すすべもなく敗北し、支配に組み込まれてしまった周辺国。そしてそれは、遠からぬ未来に確実に、新ヨゴ皇国の上に訪れる運命でもあった。チャグムはその運命に抗うことができるのか?

今回は特に、飛び抜けてシビアな内容でした。一気に読んでしまった。この話はしばらく続くことになりそう。
前作で、自分が王となる未来に漠然と思いをめぐらせていたチャグムですが、今回はいきなり、国の存亡を丸ごと背負っての、待ったなしの国際政治のただ中に放り込まれます。ラストはちょっと、『十二国記』の「黄昏の岸暁の天」のようでした。前途多難を絵に描いたような状況で「続く」なところとか。まさに王道であるところの、十五歳の少年の苦悩と成長の物語です。そしてこの先これを、どう描ききってくれるのか。
めいっぱい期待して損のない予感。楽しみです。

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