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2004年 11月度
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『神南火』 星野之宣  ビッグComics Special

副題は「忌部神奈・女の神話シリーズ」。主人公の忌部神奈は女性史研究家の肩書きを持ち、雑誌等に神話をモチーフにしたエッセイ等を寄稿している。ついでに温泉研究家他の肩書きもあり、もちろん若くて美人。性格はややオヤジかも。

その神奈さんが、日本各地を旅し、日本神話、特に女に関わる神話をテーマにその謎を解くというもの。まあ、『宗像教授』に、少しだけ『妖女伝説』が入ったものと思えばよさそうです。
内容は、ただ、値段(\1200)の割には物足りなかったかも。語り部の神奈さんには、それほど魅力が感じられなかったし。彼女がいくら女のことを語っても、同性としての痛みも共感も感じられない。あれならまだ、宗像教授が語る方が、可愛い気があって好みなんですけど。

取り上げられるモチーフについても、日本神話は解釈の余地が大きすぎるので、驚かされるところまではいきませんでした。
『よつばと』3巻 あずまきよひこ  メディアワークス

小さな冒険家よつばちゃん。今日も、花火、縁日、動物園と行く先々でいちいちヒートオーバーしております。

ところで言うだけヤボかもしれないですが、この話やっぱり、永遠に秋にならないのでしょうか?永遠に終わらない夏休みの物語。ふとある一瞬に、足下がゆらぐような、押井守的墜落感を覚えるこの頃でした。いや、読んでいる最中は、ただ笑ってこの世界の空気を満喫しているのですけど。
『鋼の錬金術師』9巻 荒川 弘  ENIXガンガンComics

今更ですが、どうなることかと思ったアニメ版が、あれなりにきれいに完結してしまいました。で、いまだにアニメ版の記憶に引きずられております。アニメの方が先行してしまっていたエピソードもあったので、この先、何かの拍子にあちら側へ行ってしまうのではないかと、ちょっとヒヤヒヤでした。

もう少し話が進んで、原作オリジナルの方向が見えてくるまで、コメント控え中。元気で単純なエド、カムバック。
『学園アリス』1〜6巻 樋口 橘   花とゆめComics

NHKBS2アニメ化記念。最初の2回分が放送されたところで、続きが気になって購入しました。なかなかおもしろい。

主人公、佐倉蜜柑は小学生。転校してしまった親友の蛍を訪ねて、転校先の「アリス学園」を訪ねてみたところ、その場で転入を許可される。なんでも、アリス学園は、一般人と違った何らかの能力「アリス」を持つ者のみが許可される、特別な学校であるらしい。本人も自覚のない、蜜柑の「アリス」とは?

と、いうわけで、蜜柑の一風変わったアリス学園での生活が続いています。蜜柑があっかるい元気少女であることとか、転入早々、クラスメイトの問題児、日向棗に目を付けられていやがらせされるとか。最初はなんとなく『こどものおもちゃ』を思い出してしまいました。しかしこちらは、6巻現在、いまだに明るく楽しいままの展開が続いているのは、偉いと思います。(だって、最近の少女漫画はだいたい、後に行くほどくらーくなるんだもん)
Novels図書
『グラン・ヴァカンス 〜廃園の天使I』 飛 浩隆  早川書房

『象られた力』以後、10年の空白を経て、発表された新作がこれでした。
シリーズの第1部ということで、続編が待たれております。具体的な話もチラホラ聞こえるんだけどなあ。

ともあれ、本作。舞台はネットの仮想世界上に作られた「数値海岸」の「夏の区界」。そこは、海辺の片田舎の避暑地を模した世界であり、普段は様々なAIが生活しています。元々はそこに人間の「ゲスト」がやってきて、AI達の家族としてヴァカンスを過ごすための空間であったのですが、原因不明の「大途絶」以後、ゲストが来る事は絶えてなくなりました。それからざっと1000年間、AIたちによる、終わることのない夏休みが続いていたある日のこと。突然、その気怠い退屈は終わりを告げたのでした。

どこからか、正体不明の「蜘蛛」が無数に現れ、数値海岸をAIもろとも「食い荒らす」という現象が起こります。逃げ延びたAI達は、数値海岸の一画にある「鉱泉ホテル」に立てこもり、蜘蛛に絶望的な戦いを挑む…というもの。

いやー、『象られた力』の頃に垣間見られた世界が、より純化されて広がっていきます。シリーズ第1作ということで、ストーリー的には何一つオチがついていないにも関わらず、そこから喚起される鮮烈なイメージにクラクラ。一見平和で退屈な「夏の区界」に内包された秘密とは?吐き気のするような残酷描写が、同時に、ため息が出るほどに官能的で美しい。私も続き待望組に一票。
Novels
『象られた力』 飛 浩隆  ハヤカワ文庫

この本は、一部のネット上で話題になっているのを見て入手しました。聞くところによると、作者は寡作ながらコアなファンを持つ「知る人ぞ知る」タイプの作家であるらしい。手に取ってみて、なるほどと納得しました。その作者の、これまでSFマガジン等で掲載されてきた1985年から1992年にかけての短〜中編が、4作収録されています。

確固とした美意識に貫かれた奔放なビジュアルイメージ。壮大かつ、細密に描き込まれた物語の背景。そして、寓話的残虐さ。俗悪さと美しさ。読みながら、かつて大原まり子によって描かれた世界を思い出しました。ある女性を「背中の線が美しい」と表現するところなど、いかにもそんな感じ。

4つの物語は、以下の通り。
シャム双生児の天才ピアニストの話「デュオ」。
特殊な物理法則の支配する「呪界」を出て遭難してしまった主人公の話「呪界のほとり」。
新興開発惑星で繰り広げられる、奇妙な闘いとは?「夜と泥の」。
失われた惑星の遺産である図形に秘められた力とは?「象られた力」。

どれも、濃密なSFの空気が得がたい佳作でした。これらの作品以後、10年の空白期間を経て、2002年に新作が発表され、この先の新作が期待されているそうです。
こうしてまた、コアなファンが、ここにもう1人増えたのであった。
Novels
『暗き神の鎖』後編 須賀しのぶ  コバルト文庫

「流血女神伝」最新刊。シリーズ中盤の山場であったようで、前半は、このままラスボス戦か?という盛り上がりでした。ただ、その盛り上がりのままに最後まで走り切れたかというと…。正直、行けていなかったです。あれだけ盛り上げて、ここでヘタレるか!?という恨みを込めて、少しきついことを言いたくなりました。

まず、このシリーズ。今時のライトノベル作品の中では、ピカ一のおもしろさだと思ってきました。壮大な物語世界に、魅力的な登場人物。元気少女の成長物語という、一見王道な展開ながら、少女小説のお約束をことごとく蹴散らしていく先の読めなさ。この先どうなるんだ、とワクワクしながらページをめくりつつ、ここまで読み進めてきました。
そしていよいよ、かつてない苦難に陥る主人公。普通の少女小説ならば、寸止め危機一髪で助かるはずの主人公が、あっさり拉致監禁レイプまでされてしまうし、敵役はカニバリズムまでやり放題。少女小説でここまで描いたことは、ある意味尊敬しますが、このショッキングな内容の話が、今回に限り少しもドラマチックに感じられなかったのは、いったいどういうわけ?

まあ、後半で失速したことについて、いろいろ思い当たることはあります。まずは、リウジールに入れ込みすぎたのが、失敗だったと思う。須賀さんの、心の闇をこれでもかと描きたがる悪い癖がもろに出た感じ。おかげで、リウジール個人の異常さが、すっかりザカールの村全体のものであるように思えてしまい、地震以降の展開があまりに唐突でした。なんだ、リウジールさえいなければ、こんな普通の所だったのか、と拍子抜け。女神が地上に降臨することは、レイザンやザカールの一般人にとって、どんな意味があったのか、ついに分からずじまいでした。
そして、予想はしていたものの、予想を上回った、リウジールのヘタレっぷり!いや、いいんだけどさ。でもせめてもうちょっとくらい、根性出して欲しかったです。

ただ、それ以上に、すっきりしない読後感の理由を考えて、1つ気づいたのは、ここにきて、物語の語り手となる「視点」がぼやけて来たのではないかということ。これまで、一応異世界である流血女神世界にあって、その世界観を読者に提示し、感情移入させ、時に狂言回しとなって物語世界をさまよってきたのは、圧倒的に主人公のカリエはでした。物語内で起こることは、明るくめげないカリエの視点で、安心して見ていられた。しかし、物語世界が広がり、登場人物も増えたために、カリエ視点でだけで物語の全体像を把握するのが難しくなりました。必然的に他の登場人物の視点も経由しなくてはならないのですが、その視点の切り替えが、あまりうまくいっていない。

ある場面を、ある人物の視点から見る場合、その人物なりの意識や感情が伴っていなくてはならないはずですが、それが描き分けられていない。ある事件に遭遇した誰かさんは、通り一遍の反応しか示さない。その結果、どんなドラマチックな展開も、単なる人ごととして、粗筋をなぞるだけで過ぎていってしまう。そうしてたどりついた結末に納得行かないまま、ここに取り残されてしまったのでした。
例えば、バルアンがザカールに派兵するのも、カリエに去られてぶち切れるのも、私的には納得が行かなかった。元々バルアンは、カリエ視点からは一向に行動原理の読めない人物であったところに、いきなり彼の内面描写が出てきても、いかにも唐突でした。また、カリエにしても、エドとユリ・スカナに逃げるという重大な選択をしたにしては、あまりにもあっさりしているのではないでしょうか。単に、ザカリア女神ならぬ作者が決めた運命に従っているだけではないのかと、勘ぐりたくなります。

そしてこれはきっと、純粋に作家としての力量の問題なのでしょう。渾身の力で描いても、力及ばないかもしれない、そういうレベルのことなのだと思います。それだけに、この先の展開が不安なのでした。おそらく、この先もラストまで、山あり谷ありの大河ドラマが続いていくことでしょうが、果たしてそれがちゃんと血肉を伴ったものになってくれるのかどうか。

なので、お願いします。この先はあまり量産しないでいいです。年に一冊でもいいから、1人1人にじっくりスポットを当てた群像劇を書いてください。できれば、あの『キルゾーン』ラストあたりの盛り上がり方で。しばらく休養なさるそうなので、是非この際、たっぷり英気を養ってくれますよう。お待ちしております。