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2004年 7月度
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Novels
『暗き神の鎖』中編  須賀しのぶ  コバルト文庫

「流血女神伝」最新刊。いつもながらの、怒濤のストーリー展開です。続きは11月だとかで、あまり間をあけずに読めるのは、とてもうれしい。うれしいのだが、あまりのハイペースのためか、少しばかりやっつけ仕事な気配が漂いだした気がする。全体的に書き飛ばした印象があり、できればもう少しだけ時間をかけて、練り込んだものを読みたいと思ってしまいました。

うーん、登場人物達はそれぞれ悩み、迷い、運命に翻弄されているのですが、それにあまり血肉が伴わなくて、心理描写が通り一遍になってしまっている。そしてなにより、他の登場人物が軒並み、カリエの踏み台となってあんまりな最期を遂げてしまった、『砂の覇王』最終巻の展開を彷彿させる描写が、ここにきて目立ってまいりました。主人公のえこひいきは、ある程度は少女小説の宿命とは思うものの、ちょっと度が過ぎないでしょうか。カリエはあくまで、たまたま過酷な星の下に生まれついた、雑草のようにしぶといスポ根少女であって欲しかった。ラクリゼやエドまで、2ちゃんねる風に言えば、「カリエマンセー(万歳)」にして欲しくはなかった…。

まあ、そうした違和感はともあれ、先が気になって待ち遠しいのは確かなので、悩ましいところです。もしかして、「マヤラータ」カリエはここで終わりなのか?リシクは次にいかなる運命を運んでくるのか。珍しく出番とセリフの多かったエドをはじめ、予想もしていなかった、サルベーン、トルハーン、ミュカ、イーダルの、総出演ザカール珍道中が見られそうで、とっても楽しみです。また、揃ってヘタレ化を始めた、王家の夫族(ドーン,バルアン)も、これはこれで先が楽しみ。

おそらく、全編を通じても飛び抜けてシビアな展開になりそうな後編。どうか、そうした重さを、書き飛ばすことなく正面から描ききってくれるよう、期待しております。
『鋼の錬金術師』8巻 荒川弘  ガンガンComics

ガッツポーズで手に取る最新刊。むさぼるように読んだ直後には、続きを読みたくて遠い目になるのであった。ちなみに最近、雑誌の方は、ぴっちりとフィルム梱包されてしまいました。よっぽど豪華な付録なんざんしょうか。

あのウロボロス集団の、名前の由来がはじめて分かりました。分かる人はすぐ分かっていた事でしょうが、キリスト教の「七つの大罪」が元ネタだったのね。そして、彼らを創造した「父」なる人物が登場。あれはどう考えても、あの兄弟のオヤジだよね。そして、どこかぬらりひょんに思っていた大総統は…。そうか、軍の頂点にある立場を利用して、人柱を見つくろっていたのか。やられました。

アニメの方は、いつもながら悲壮感全開で、なにやらすごい展開になっていますが、なんだか偽ブランド品を見ているような気がしてきた。やっぱり、原作のこの前向きさが好きだなあ。
Novels図書
『硝子のハンマー』貴志祐介  角川書店

前作『青の炎』から、5年近く。ようやく出た貴志さんの新作は、本格ミステリーでした。

読む前はつい、余計なことを考えてしまいました。実はこれまでの例では、ミステリー以外の畑の人が、「念願の」ミステリーに挑戦したような場合、あまり良い結果になった記憶がなかったので。
「本格」にこだわるあまり、使い古されたトリックをひねりもなく使って、玉砕してしまった例。トリックに凝るあまり、ネタが冗長かつ、理解不能になってしまった例。読者の裏をかきまくったあげく、ただの馬鹿ミスになってしまった例。などなど。

そこで本作ですが、事件はビルの最上階での殺人事件。メインとなる謎は密室トリックという、まさに直球ど真ん中の本格ぶり。一時はどうなることかと思ったのですが…。信じられないくらいおもしろかった!ミステリーまだ、捨てたもんじゃなかったなあ。

探偵役は、防犯コンサルタントの肩書きを持ち、実は本業は…、という榎本氏。彼に事件の解明を依頼するのが、容疑者の弁護を担当することになった弁護士の青砥女史。この2人が密室の謎を解くべく知恵を出し合うのですが、2人のちょっとあぶなっかしい掛け合いもよかったです。このコンビの話でもう一作くらい読んでみたいかも。

何が凄いって、舞台となる密室を構成するために、惜しげもなく披露される防犯知識が凄い。鍵やセンサーや監視カメラ。およそ侵入不可能な最新鋭の防犯設備の裏をかき、殺人を行うことの可能性をひとつひとつ検証し、真実を探り当てていく榎本さん。その地道なはずの検証が、なんともスリリングでした。最初に密室という舞台装置を提示し、犯行の可能な者をすべて登場させ、しかもそこから逃げなかった。途中、実は事故だったとか、社長の狂言自殺だったとかに落ちるか?と思わされたところもありましたが、そちらに逃げずに、最後に鮮やかに種明かしという、ミステリーの王道を貫いたことに、盛大な拍手を送りたいと思います。

貴志さんはそろそろ、寡作だけどハズレがないというタイプの作家に、分類してもよさそうです。ありがたや、ありがたや。
Novels
『The S.O.U.P』 川端裕人  角川文庫

ネット世界を舞台にし、ネットの未来の可能性を模索する意欲作。面白かったです。

主人公、周防巧は、職業的ハッカーである。(注:この場合のハッカーは、高度なネットワークの知識を有し、それによってネット社会に何かを提供できるような存在の事。技術を悪用して犯罪を行う「クラッカー」とは区別される)
彼はかつて、爆発的な人気を獲得したオンラインゲーム『S.O.U.P』の製作に携わったことがあり、今は、フリーでセキュリティ関係のコンサルティングを行っている。つまり、顧客のシステムについて、セキュリティの弱点を真っ先に発見し、改善点を指摘するような仕事である。その彼のところにある日、ある官庁からの依頼が舞い込む。その官庁のサーバーに執拗に攻撃を繰り返す、悪質なクラッカーを追いつめてほしいという依頼に応じた巧は、そのクラッキング行為の裏で糸を引く謎のクラッカー集団、「EGG」の存在を知る。巧とEGGとの間に存在する奇妙な因縁。彼らのサイバーウォーズが勃発する…。

うーんなんというか。ここに登場する1つ1つのキーワードは、ネタとしては意外とよくあるのかもしれないです。オンラインゲーム『S.O.U.P』によって、ネット上にリアルな仮想世界を構築するということ。ネットワークの脆弱性と、サイバーテロの危険性の問題。そして、ネットワーク引きこもり。仮想世界が現実世界を凌駕するほどの成長を遂げゆくときに、両者はどのような関係にあるべきなのか?等々。

これまで、サイバーパンクSFにしか存在しなかった、高度なネットワーク社会。この物語は、今ここにある技術の延長に、それが果たして到来するのかを、リアルに検討しているようです。なので、技術的な点についても、ネットワーク音痴の私からすると、かなり詳しく考察されているように見えました。

かつて、偉大なるウィザード達によって創造されたネット世界は、今もその「真の名」を持つ者達の末裔によって開拓され続ける。1つのゲームの世界が、やがてネットという仮想世界に浸透していき、仮想世界は現実世界を浸食していく。その壮大な入れ子構造にワクワクしました。
帯の「ぼくらは『ゲド戦記』や『指輪物語』のような物語を作りたかっただけなんだ」という言葉が胸に迫ります。今年半期のベスト、は微妙だが、今年のベスト3には確実に入れたいと思います。

Novels
『目覚めよ、女王戦士の翼! 〜スコーリア戦史』上下
            キャサリン・アサロ  ハヤカワ文庫

けっこう前に読んだのだが、感想書きそびれていました。「スコーリア戦史」シリーズ番外編。『制覇せよ、光輝の海を!』で本編が盛り上がった後だと、全体的に展開が緩慢で、かったるい。しかも、内容が作者の趣味に走り過ぎ!なところがあって、読むのにもかなり時間がかかってしまった。読み終えてしまえば、この展開が本編にどう影響していくのか、楽しみになっていくのですけど。

主人公ケルリックは、本編主人公ソースコニーの弟で、ルビー王朝の王子。本編では事故死したことになっていますので、これは彼が遭難して行方不明になっている間の出来事らしいです。彼の宇宙船が撃墜され不時着した星は、かつて王圏の支配を嫌って立ち入り禁止指定を勝ち取ったという、孤立した惑星「コバ星」。ケルリックに存在が知られたことによって、王圏からの干渉を恐れたコバ星の支配層は、彼の帰還手段を強硬に封じようとする。一時は傷つき、罪人として拘束されることになったケルリックであったが、その星固有のゲーム「クイス」の才能を見いだされたことで、コバ星にとっての重要人物とみなされていく、というもの。

どこが趣味かと申しますと、コバ星は女が支配する、どこかで聞いたような女尊男卑の惑星なのです。そこでは権力は、野蛮な武力ではなく、クイスの力関係によって決まるシステムになっています。支配層は12に別れた「坊」に属し、そこで日夜クイスの研鑽を義務づけられている。そんな中で、一般にか弱く、女に保護されるべき存在とされている男性が頭角を現すには、クイスの腕を磨き、棋士である「カラーニ」となるのが早道なのでありました。

上巻は、フェミニストのドリーム小説のような設定が痛くて、ちとつらかった。コバ星の行く先々で、「美しい男」とうっとりされ、いずれ劣らぬ美女揃いである12人の坊代の半数に、かわるがわる口説かれ。しかも、据え膳は残らずいただいちゃっているケルリック君も、なんだかなーだったので。

見所は、クイスの対局シーン。作中でクイスは3次元多色囲碁のようで、小畑健さん描く囲碁の盤面のごとく華麗にイメージされました。そして、読み終えてやはり、この星にケルリックが残した2人の子供たちが、次世代にどう関わっていくかが、楽しみになってまいりました。