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2003年 12月度
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Novels
『チェックメイト』上下 新井素子  コバルト文庫

新井素子、久々のコバルト作品。『ブラックキャット』シリーズ最新作です。
実は前作『キャスリング』を読んでいなかったので、一部話が飛んでしまいましたが、かまわず読んでしまいました。まあいいか(いいのか?)。

10年ほど前、『星から来た船』の頃、なんとなく新井素子は卒業した気分だった気がします。あの冗長な文体と、性善説みんな仲良しのストーリーに居心地の悪さを感じるようになり、主人公とその仲間が超人化して事件を解決するパターンにも、飽きてしまいました。なので、本屋の店先でこれを見かけたときは、しばし迷いました。しかし、いざ読み始めると、一気に読んでしまった。

なんというか、老舗の風格のようなものに感じ入ってしまいました。前述した新井素子らしさは相変わらずでしたが、その中にも読者を楽しませようとするサービス精神をしっかり感じました。そして、上巻の後書。ここに登場するコバルトの編集さんは、なかなかいい仕事をしていますが、観念して、ちゃんとシリーズに決着をつけた素子さんのプロ根性も大したものだと思う。この人はデビュー当時から、素人臭さを売り物にしてきた感がありましたが、実は、最初から本当にプロだったのでした。不良債権化したシリーズを放り出して壊れていく、プロの自覚のない後進の作家の皆様に、どうぞ爪のアカを授けてあげて下さい。

主人公はやっぱり、作者に一番愛されている山崎ひろふみなのか?作品中でも妙に女性にもてまくっておりました。作品中ではみんなに愛されまくっている千秋さん、いまひとつ印象が薄かった。話はおもしろかったですが、惜しむらくは、キャットと千秋のカラミが、どーもいまいち。この2人、作品中で本人達も自覚しているけど、あくまでも「擬似母子」なのでした。それは分かるのですが、見ている方は感情移入できないままべたべたされているようで、居心地が悪かったです。
素子さん、そう恋愛苦手というわけでもないんだから、無理しないでそういうテイストも入れようよー。全然無いと明拓ちゃんの選択は、いかにも唐突に思えるんですけど。
『築地魚河岸三代目』10巻 鍋島雅治/はしもとみつお 
               ビッグComics 

築地で仲卸業を営む三代目の活躍を描くシリーズ10巻目。これまでもおもしろかったが、まだまだいける。この巻は、ウニの話と、ブランド養殖ウナギの話。ミョウバンを使った箱ウニの方が生きウニよりも美味しいと言う話は、現実的で説得力がありました。

で、今回「新宮」三代目の姫川亜弓っぷりが、アップしてます。微妙な敗北感に青ざめる秀才にちょっと萌え。最近、見え見えに萌えを狙った作品はよくありますが、これはオジさん向け誌掲載なので、ウナギのように天然モノです。そこがまたいい。
Novels
『白い部屋で月の歌を』朱川湊人  角川ホラー文庫

第10回日本ホラー小説大賞、短編賞受賞作品。今年は大賞と短編部門、長編部門のそれぞれに受賞作がありました。なぜか今年はハードカバーでなく、文庫で発行されていた。

さて、主人公の「私」は、霊能者の「先生」の助手をしている。先生が除霊を行う時に、一時的に霊を体に引き寄せる憑坐となるのが、私の役目だったのだが…。

よくできていたと思います。はっきり言って全然怖くはなかったのですけど。今時のホラーにしてはエログロもそれほどなく、極端に暗くもキモチワルくもなく、それでもちゃんと読ませるのは、なかなかのものだと思いました。
ただ、受賞作よりもどちらかというと、同時収録の「鉄柱(クロガネノミハシラ)」の方が、不気味な雰囲気や、読後の不条理感が際だっていておもしろかったです。

この人には、派手なインパクトは無くても、完成度の高い作品が期待できそうな予感です。
『愛すべき娘たち』よしながふみ  白泉社JETS Comics

よしながふみの短編連作。古い友人だとか、血縁だとか、それぞれに少しだけ縁のある女達をめぐる短いながら印象に残る物語が、1つ1つの情景を切り取るように鮮やかに綴られています。この様式は、『こどもの体温』と似ています。

物語が女たちの結婚、恋愛、友情をテーマにしながら、少しもありがちでないところがすごい。そして、祖母から母へ娘へと、連綿と続く思いの結ぼれ。不幸と言ってしまうほどのものでない、ささやかな痛みと、通い合うあたたかいもの。こういう境地は、やっぱりよしながふみの独壇場かもなあ。最終話の、主人公の母親の話にはじんと来てしまいました。
『夜叉の瞳』 高橋留美子  少年サンデーComicsSP

「人魚シリーズ」はずっと、高橋留美子の『ポーの一族』だと思っておりました。
人魚の肉を食べて不老不死となり、500年の時を独りさまよい続けた主人公、湧太。同じく、人魚の肉を食べた娘、真魚(まな)。ようやく巡り会った二人は、現代に息づく人魚の伝説を追って、時の中をあてもなくさまよい続ける。

永遠というものの孤独と哀しみ。高橋留美子らしい土俗のおどろおどろしさ。そして、生ける者の情念。1,2巻が発行されて以来、10年以上出ていなかったこのシリーズ。密かに、高橋留美子の最高傑作と思っていたのですが、ここにようやく続編を読むことができました。

今回未読であったのは、表題作の「夜叉の瞳」と「最後の顔」。どちらも現代が舞台で、哀しいというよりは血腥い話に感じられました。感想は、10年待った後の続編としては、やや物足りなかったというところでしょうか。

このシリーズで扱われているテーマには、今連載中の『犬夜叉』に受け継がれていったものも多くあります。今回の収録作「舎利姫」は、旧版の『人魚の傷』にも収録されていたものですが、「反魂の術」については、桔梗が『犬夜叉』で、より深く掘り下げていたと思う。ただ、最近の『犬夜叉』は、終盤になって無意味な引き延ばしが多く、読み続けるのが少しつらくなっていたりします。

このシリーズはやはり、不老不死を、望んでも得られるものでなく、望まなくてもいきなり降りかかってくる、不条理なものとして設定したのがうまかったと思います。この先まだ少しずつでも、続きが読めるとうれしい。
Novels図書
『傭兵ピエール』上下 佐藤賢一  集英社文庫

『王妃の離婚』に続く、この作者2作目。これもおもしろくて、ほとんど一気に読んでしまいました。舞台は15世紀のフランス。「百年戦争」の末期にあたるこの時代、フランスは国土の北半分をアングル(イギリス)軍に占領され、まさに存亡の危機にあった。続く内乱により王家は弱体化し、後のシャルル六世は「王太子」のまま、戴冠すらままならないありさま。そんな中、天下分け目の決戦を目前にしたオルレアンに、神の声を聞くという少女ジャンヌ・ダルクが、救世主(ラ・ピュセル)として現れた。

主人公ピエールは、大貴族の庶子として生まれながら身を持ち崩し、一介の傭兵に転落してしまう。今ではいっぱしの傭兵団の団長となったピエールだが、過酷なこの時代、傭兵団は盗賊団と大差のない存在であった。当たり前のように暴行、略奪、強姦を繰り返す日々の果てに、ついにオルレアンの戦場にたどりついたピエールたちであったが…。

冒頭は、とにかく荒んで暗い描写が続きます。生きるために、神も正義も省みることなく、野獣のように振る舞う傭兵達。その救いのなさは、『ベルセルク』の世界を思い出させました。

そんなピエールが、ラ・ピュセル(救世主)こと、ジャンヌ・ダルクと「運命の出会い」を果たした頃から、話は目に見えて明るくなっていきます。ここでのジャンヌは、真面目でお堅い優等生の、天然ボケ委員長(笑)というキャラで、さすが男性作家はそういうヒロインの描き方がうまい。そんなラ・ピュセルに導かれたフランス軍はついに、奇跡的な勝利を得ていく。そのあたりは、まさに怒濤の歴史ロマンのおもしろさでした。

『王妃の離婚』よりも、かなり荒唐無稽で、壮大な法螺話になっています。話のアラも目立ちますが、勢いのあるおもしろさはこちらの方が上かも。個人的には、最後のこれでもかという大団円は、やや胃にもたれました。死んだはずの人が生き返ったり、いい年したピエールを捨てた母親が分かったりは、ちょっとやりすぎだったかとも思う。

そしてこの話は、メインはやはりラブストーリーであったかと思います。しかし、ヒーローたるピエールのキャラが、最初と最後とで全然変わっているところが、また何ともです。世をすねたせこい悪漢であったのが、次第に剽軽な好漢になり、しまいには、強い女にひっぱたかれてやに下がるような、母性本能をくすぐるタイプの男になってしまった。そういう男の描き方もうまいよねえ。