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2003年 11月度
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『どーでもいいけど』 秋月りす  竹書房

秋月りすが、10年間朝日新聞の経済面に連載していた4コマを単行本化したものです。読みながら、ついこの10年の世相を振り返って、にやにや笑いっぱなしでした。

バブル崩壊後、不況とデフレと共に歩んだ10年間。米不足から始まり、○ウム、大震災、住専問題、2000年問題、WCフランス大会と続く…。考えてみれば、ほとんどが不愉快な事件であったのですが、今ではそんなこともあったねーという懐古ネタになってしまいました。

経済だけではないですが「堅いネタをおもしろくかみ砕く」などと上段に構えたあげく、おもしろくもなんともないへ理屈マンガで自爆していく漫画家(某須賀原氏とか)も多い中で、淡々とマイペースに職人仕事をこなしていく秋月さんは、やはり貴重です。今でも朝日新聞土曜版で連載されていますが、頑張って続けていただきたい。また10年後に振り返ってみたときに、どんな事が描かれているものか、楽しみにしています。
『華の王』2巻 市川ジュン  あおば文庫

北条政子の物語、2巻目。予想はしておりましたが、話は骨肉合い食む修羅のただ中に。木曽義仲とその息子、そして、九郎義経。至高の権力か、さもなくば死か。頼朝と政子はそのただ中で覇権を目指し、冷酷に駒を進めます。

それはともかくとして、この巻の見所は、永井路子さんの著書等でも有名な、日本史上最も派手な夫婦喧嘩でしょうか。愛人の家を怒りにまかせて打ち壊すなど、思っても誰もができるものではありませんが、それだけに、陰険さがみじんもない、政子らしい爽快なエピソードでもあります。
この一件だけでも、作者が政子を描こうとした理由に納得がいきますが、できれば現代のフェミニズム主張は、作中では控えてほしかったかも。
『ふたつのスピカ』1〜5巻 柳沼 行  メディアファクトリー

2010年、日本初の有人宇宙探査船「獅子号」の打ち上げが行われたものの、打ち上げは失敗に終わり、獅子号は市街地に墜落炎上。多くの死傷者が出る大惨事となった。獅子号の事故により母親を亡くした少女鴨川アスミは、それでも宇宙飛行士を夢見、15歳の春に、東京宇宙学校を受験する。獅子号の事故以来14年。足踏みしていた日本の宇宙事業が、ようやく前向きになりそうな時代。夢を追うアスミと仲間達の、さわやかな青春物語。
ダンナが試しに買ってきたのですが、ハマりました。NHKのBS2でアニメ放映中なのですが、そちらの方は、見逃しております。来週こそ観るぞ。

宇宙学校の最終試験。いきなり他の受験者と狭い部屋に振り分けられる主人公。彼らはそこで、課題を与えられ7日間を過ごす。ただし、やむをえず試験をリタイアする場合は、部屋の中の「赤いボタン」を押すこと!
いやー、いきなり『11人いる!』の世界になって、ワクワクでした。そういえば、中身は全然違うが、宇宙学校の生活もどこか、『スペースストリート』のような日常感があっていいです。

ともあれ、宇宙という夢を追う話ではあっても、少年少女達が、授業がきつくてへこんでみたり、人間関係に落ち込んでみたり、普通の学校生活を頑張っている感じなのがすごくいい。一歩間違うとクサくなってしまいそうな直球なメッセージが、この作者の持ち味にうまく合っています。地味に不器用に、しかし真摯な思いを込めて綴られる夢。SFというよりはファンタジーに近い叙情性。つい、ほだされてしまいます。

最近のNHKアニメは、質もさることながら、創り手がのびのび創っているものが多く、楽しみにしています。ただ、これは原作が原作なので、必要以上に健全になってしまいそうなのが、ちょっと心配。あの、何とも言えない不器用な暖かさがちゃんと描き出されているといいなあ>アニメ。
Novels図書
『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦  講談社NOVELS

『妖怪シリーズ』最新作。夏に発売されたものを、今回は図書館待ちにしました。今回ばかりは結果的に、自腹を切らなくて大正解でした。つーか、もし買っていたらその場で、本を投げたと思います。(すみません、ファンの方)

信州白樺湖の近くにそびえ立つ洋館。それは、旧華族の由良氏の邸宅であった。「鳥の城」と呼ばれるその広大な屋敷には、おびただしい鳥の剥製と、当主の花嫁が、婚礼の翌朝に毎回殺害されてきたという呪わしい過去とがあった。
過去4度の結婚で花嫁を亡くしてきた現当主は、5度目の結婚を控え、探偵榎木津に事件の調査(?)を依頼する。彼と、なぜかくっついて行く羽目になった関口は共に(お互い全く協調することがないなりに)、複雑怪奇な事件を紐解くのであるが…。

うーん、最初に過去の事件について作中で一通り説明された際に、「こういうオチだったらヤダ…」と思ったその通りになってくれたもので、いささか感情的になってしまいました。こうなると、敢えて冗長に語りに語って、目眩ましを図るあの芸風も、うざいだけだったりして。言いたいことはいろいろありますが、揃いも揃って役立たず!と言っておきましょう。特にエノさん。歩く天災なりに、人様のお役に立つのが存在意義かと思っていましたが、今回君の役立たず度は、サル君以下だ(断言)。

ともあれ今回は、ミステリー部分の突っ込み度が、あまりにも高すぎです。作者自ら、キャラ萌えさえあればミステリーはどうでもいいと開き直ったのか?そうでないことを祈ります。
Novels
『王妃の離婚』 佐藤賢一  集英社文庫

第121回、直木賞受賞作。前々から評判は聞いていたのですが、最近特に、てらさんのサイトで感想を読んで、俄然興味が涌いてしまいました。評判通り、西洋歴史を題材にした、読み応えある法廷劇でした。

1498年、ルネッサンス期のフランスにおいて、国中の注目を集めた裁判があった。訴えたのは、新国王ルイ12世。訴えられたのはその王妃ジャンヌ。内容は、醜女と評判の王妃を離婚しようと企てた国王が、その22年に及ぶ結婚生活の無効を訴えたものである。当時のキリスト教世界では、一般に、一度成立してしまった結婚の解消は認められなかった。できるのは、結婚がそもそも「成立していなかった」ことを訴えることである。なりふりかまわない国王側は、権力にものを言わせて、無茶な論理を振りかざし、裁判を取り仕切る。それに抵抗する王妃は、ほとんど孤立無援であった。

主人公フランソワは、かつて大学で名を馳せた切れ者法学士であったが、その行状から敵を作る事も多く、ついに学問の世界から追放されてしまった。場末の弁護士として、かつての知性も感性も摩耗し果てたかに見えた彼がついに、王妃のために、弁護人として立ち上がるというもの。

まず、時代小説としては、当時の時代背景や価値観の描かれ方が秀逸でした。このあたりの時代は、思えば塩野七生さんの描いたイタリアものと重なっているわけで、やはり雰囲気の似たところがあります。この時代、建前はまず、キリスト教ありきだったため、人々の生活は実生活の細々したところまで、教会によって管理されています。その宗教的理念は、とても敬虔かつ清らかなので、非キリスト教徒から見ると、いかにも窮屈で無理があるように見える。しかし、実のところ当時の人々は神という建前を受け容れつつも、その裏でどん欲に生の喜びを謳歌していたのだった。この、建前と本音を、そうと意識すらすることなく使い分けるしたたかさ。人間中心が言われるようになったルネッサンスの猥雑でエネルギッシュなパワーが伝わってきます。

今回の離婚劇は、本音の部分では、もはや神より人間の欲望が優先されているにもかかわらず、最後の最後で建前部分をとり繕わなくてはならない人間たちの演じる、ドタバタコメディのようでした。なにしろ、王冠を抱く人々の下半身の問題が大まじめに議論される世界。法の抜け道探しに血道を上げるそのえげつなさは、ほとんど『ナニワ金融道』の世界でした。もちろん、そのえげつない修羅場で、海千山千のフランソワが、見事な啖呵を切り、まさかと思われた敗色をひっくり返していくさまは、痛快の一言でした。

そして、読み進むうちに、醜女と呼ばれた王妃が実に味のあるいい女になり、美丈夫と呼ばれた王が、救いようのないダメダメ男に堕していく場面では、何とも言えないペーソスが漂います。男と女って…。


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