2002年3月度
   
マンガNovels小説
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Novels図書
『アラビアの夜の種族』 古川日出男  角川書店

あちこちの書評で、評判がよかったので、図書館GET。とてもボリュームがあったせいか、期限を過ぎてしまいました(内緒)。ともあれ、『千夜一夜物語』を下敷きにしたらしい、長大な叙事詩的物語です。

私は『アラビアン・ナイト』の原典を読んだことはないので、あくまでもイメージのみで言いますが、その中の1編を翻訳したと言われても、素直に信じられるくらいに、かの物語の雰囲気が忠実に物語化されておりました。それは、不世出の語り部によって語られたといわれる、イスラムの夜の眷属の物語。豪華絢爛にして波瀾万丈な、長大な絵巻でありました。

1つの物語は、19世紀。ナポレオンのエジプト遠征という、歴史的シーンが舞台となっています。近代化によって圧倒的な力を獲得した西洋と、中世的停滞の中でまどろむエジプト。両者の激突を目前にして、エジプトを支配者の1人、イスマーイール・ベイは、1冊の本の噂を聞く。魔の力を持ち、歴史に現れてはしばしばその方向を転換せしめてきたという、その名も『災いの書』。彼の側近の奴隷アイユーブは、その書を探し、ついに見いだした。

そうして、『災いの書』の内容と、アイユーブたちのいる「現実」が複層的に展開されていきます。それをきっちりと構築し、圧倒的な筆力で描き出す作者の力量は、並々ならぬものがありました。

ただ、これを純粋に物語として読んだときは、残念ながら入り込めなかったかもしれません。実は、これを読んでいて思い出したのが、タニス・リーの『平たい地球』シリーズでした。こちらも、魔と闇に属する世界の雰囲気を、濃密に漂わせた物語。そして、描写の美麗さや、奔放なエロス、魔なるもの、邪なるものの、抗いがたい魅力。そのどれをとっても、タニス・リーの方が好みなのだな。いえ、単にこのシリーズの方が、女性向き萌え要素が多いというだけかもしれないですが…。

結論としては、物語の様式美を追求するあまり、それ以外の要素が素っ気なかった、と思われました。何より、魅力的な登場人物が1人もいないかったのが、痛かったです。
『宗像教授伝奇考』特別版 星野之宣  バーズComics

民俗学者、宗像教授が、世界の遺跡・伝承の謎を追う伝奇シリーズ。「特別版」なので、これまでの総集編のようなものなのかとも思いましたが、うれしいことに、中身はしっかり新作書き下ろしでした。

今回は「竜」をテーマにした、渾身の力作。「竜」はしかし、その存在がメジャーなだけに、伝承として取り上げられる頻度も、圧倒的に多い。果たして?と危ぶんだのですが、やっぱり、星野さんは凄い。ご都合主義な電波をこねくり回すだけの輩とは、格が違います。何より1つ1つのネタに、ちゃんと説得力があるし。第一人者の貫禄でありました。

そして、星野之宣×諸星大二郎のスペシャル対談が、また楽しかったです。そうか。星野さんの側からは、諸星さんだけが、「先達」と見なされていたのね。「自分の行きたい先には、諸星さんだけしかいなかった」という言葉に込められた、強烈な自負心に感じ入りました。自分にしかできないSF世界を、彼らは今もずっと追いかけているんだ。なんだか、胸が熱いぜ…。
そ他
『掟やぶりの結婚道』 石坂晴海  講談社文庫

ある身近なテーマについて、自分の体験と、身近な多くの人々に取材した結果をまとめたエッセイというかルポタージュのシリーズの最新作。このシリーズは、これまでに『×一の女たち』『×一の男たち』等、多くの著作があり、何冊か読んだことがありました。これまでのところ、「離婚」や「不倫」といった、決して割り切れないものをテーマにしているにしては、おおむね、納得のいく内容であったと思います。

それが、今回のテーマは、「既婚者にも恋愛を!」。なかなか挑発的で、思わずドキッとします。内容も、なかなか真面目にこのテーマに取り組んでいて、興味深かったです。

感想は…。きわどい話になりそうなので、ここではちょっと。あとで、日記の方ででも、こそっと言ってみよう。
『グーグーだって猫である』 大島弓子  角川書店

猫バカコミックとして、おすすめしてもらいました。本当に久々に読んだ大島弓子作品です。大島さんの猫バカというと、以前、「サバ」との同居生活を描いたエッセイマンガがありましたが(タイトル忘れた)、あのときは、猫が人の姿で描かれていたこともあって、大島さんと「サバ」との関係が必要以上に濃密に見えて、引いてしまった。今回は、グーグーがちゃんと猫の姿で登場していることもあって、安心して読めました。

最愛のサバを亡くした作者が、ある日、ペットショップで弱っている子猫を見つけてしまった。人なつこい小さなアメショーの子猫、グーグー。また、グーグーの1年後に拾われた猫、ビー。大島的、この2匹のいる暮らしのエッセイマンガです。肩にのって、遊びを催促するグーグー。仲良きことは美しき、グーグーとビー。猫たちの、口を開けないうなるような鳴き声(グーグー)。声を出さない表情だけのニャオ(ビー)。日常の、様々な猫の仕草がいちいち可愛かったです。

しかし大島さん、子宮筋腫と卵巣腫瘍で手術したことが書いてあったけど、そちらの方は大丈夫なのかなあ。

Novels図書
『妖櫻忌』 篠田節子  角川書店

作家と編集者の業なるものをテーマにした作品というと、同じ作者の『聖域』が思い浮かびました。こちらではそれが、どのように取り上げられているかと、手にとってみたのですが

女の情念と華やぎを描き続けて、巨匠と呼ばれた女性文学者、大原鳳月が焼死した。茶室で出火し、いっしょにいた若手演出家ともども、突然の死であった。担当編集者の堀口は、長年に渡って鳳月の秘書を勤め上げた若桑律子に、生前の鳳月の生涯を、ノンフィクションとして描いてもらうように依頼する。鳳月の生前は、描写は正確ながら、文学的な表現は苦手であった律子。しかし、鳳月を描き出す律子の文章は、次第に、あたかも鳳月本人の作と見まがうほどに、鳳月の生涯を流麗に描き出していった。果たして、律子にそして鳳月に、何が起こったのだろうか?

何が起こっているのか?その謎に、引き込まれてほとんど一気に読んでしまいました。このところの、篠田さんの宗教ものほどボリュームはないので、あっさり読めました。鳳月のために、資料を集め、ネタを探し、その創作を全面的に支えていた律子。彼女と鳳月との関係を見ていて、つい、このところ、盗作が問題化してきた某女流作家のことを、思い出してしまいました。たとえ作品のネタのほとんどを、他者に依存していても、その文章を作家が書いたのでさえあれば、著作物と言ってしまえるものなのかねえ。

ともあれ、ラストは結局、よくある憑依ホラーになってしまったのは、ちょっと残念。できれば、生前の鳳月の妄念が、死後も律子に組み込まれて支配され続ける、のような感じの方が、生前の鳳月の怖さが出てよかったような気がします。
Novels
『詩人の夢』 松村栄子  ハルキ文庫

1年以上前に読んだ『紫の砂漠』の続編です。おかげで、ほとんど記憶が薄れておりました。『紫の砂漠』は、幼いシェプシが、禁断の砂漠の奥地で、己の運命に巡り会う話でした。物語はその5年後から始まります。

運命の旅の果てに、書記の街にたどり着いたシェプシは、温厚な「運命の両親」のもとで成長していた。忙しく働き学ぶ生活の中で、しかし、かの詩人の面影が忘れられないシェプシ。周囲はシェプシに、いずれは書記となってしかるべき地位に就く事を期待したが、シェプシは、詩人となって砂漠に旅立つことを夢見ていた…。

書記の街では、いささか浮いている感があったながらも、平和に暮らしていたシェプシでしたが、実はその世界に、大隕石が衝突するという災害が起こったり、サイキックな部族である「巫呪」と書記との衝突が、やがて国を揺るがす戦いに発展したり。ストーリー的にはかなり、ドラマチックなはず、なのですが。何しろシェプシは今回も終始傍観者なので、どうも物事に臨場感がなく、ハラハラしながら展開を追うと言うわけにはいきませんでした。

この作者の作風なのでしょうか。その世界では、風景画のように、静かで美しい情景が淡々と流れていく。そこには、活気や躍動感というものが、ほとんど感じられません。血のつながった子供を手放し、「運命の子」という名の養子を育てるというシステムからしてそうですが、この世界自体がひどく、人工的で造り物めいた印象があって、今回はそれがよけい際だっておりました。

そしてそこに色濃く漂うのは、折に触れて語られる、かの詩人の抱えていた孤独。そして、現在のシェプシが、折々にかみしめる孤独。あくまでも美しく、あまりに哀切なその想いが、胸を撃ちます。
ラストは、やや唐突ながら、ちょっとドキドキ。もしかしてこれ、実はボーイズを狙ってません?
Novels図書
『虚空の旅人』 上橋菜穂子  偕成社

これは『守人シリーズ』の外伝にあたるようです。『守人』に登場した、チャグムが主人公。物語は、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが、サンガル王国の新王即位の儀に、大使として派遣されたことから始まります。

サンガル王国は、海の王国。王家は海を統べ、「島守り」と呼ばれる領主たちの頭領として君臨していた。さて、サンガル王国には、「ナユーグル・ライタの目」と呼ばれる奇妙な伝承があった。海の中に、こちらとは異なる別世界が存在しており、時折、そのもう一つの世界からの使者が、子供の体を借りてやってくるという伝承。折しも、新王の即位を待つ王国で、海よりの使者に体を奪われた少女が見いだされる。同時に、王国に不穏な陰謀の気配が忍び寄るが…。

サンガル王国を覆う陰謀は、チャグムと直接関わりはないながらも、息もつかせぬ展開で一気に読ませてくれます。
なんと言っても、サンガル王家の人々が、魅力的。陰謀に立ち向かい、国の梶をとる、王家の「賢い女たち」。その中でも、王家のためには、迷わず感情を殺して最も効果的な手段を選ぶ、長姉カリーナ。一方、最も犠牲の少なくてすむ次善の手段を選ぶ、次姉サルーナ。お互いを信頼し合っていながらも、政治をより自分のやり方に引き寄せようとして画策する2人。この物語は結局の所、彼女らの頭脳戦であった気がします。
そして、国を背負うという重大事について、自分なりのスタンスを模索するチャグム。現実を見据えながら、どこまで理想と折り合っていけるのか。チャグムの王の資質が問われるのは、これからです。いつもながら、すがすがしいラストは感動でした。

『スマリの森』 遠藤淑子  花とゆめComics

スマリは、全身白い毛を纏ったキタキツネ。草原では目立ちすぎるので、森に住んでいる。兄弟の仔ギツネたちや、スマリを敵視する仲間や、時折関わってくる人間や。時に残酷な大自然の中での暮らしが、淡々と描かれます。

読んでみて、やはり『ラッコはじめました』を思い出してしまった。ただ、やはりあの頃の脳天気でトボケた味は、もうできないのだろうな。しみじみした味わいながらも、時折マジに悲惨なエピソードが織り込まれてしまうところなど。

『ラッコはじめました』では、動物がずうずうしいまでに、マイペースに人間と関わっていく話が好きでした。そういう話を、希望したい。

『ヒカルの碁』16巻 ほったゆみ/小畑健  少年ジャンプComics

前巻での理不尽な別れが納得できず、やみくもに佐為を探すヒカル。

この巻はその続きですが、大部分は、いきなり番外編のように始まった、伊角さんの中国訪問のエピソードが収録されています。このあたりは、伊角さんはあまり眼中になかった(失礼)私は、雑誌掲載時にも、もうひとつピンと来ませんでした。どちらかというと、ほったさんのコラムの方が、おもしろかった。

まあ、ウジウジ落ち込んでいたヒカルも、ようやくトンネルを脱したようでよかったです。次巻で完全復活なるか。

Novels
『反在士の指環』 川又千秋 徳間デュアル文庫

初出1978年のSFシリーズ。今回初めて読みました。ちなみに、川又さんにも今回初トライ。なかなか楽しかったです。牧野修さんの解説を読むまでもなく、とにかくかっこいい。無意味な戦闘によって消滅させられた故郷の星。その星の同胞たちの復讐のために、世界を統べる巨大な存在に戦いをいどむ若者「ライオン」。オレンジ色の髪をなびかせ戦う彼のその姿は『百億千億』の阿修羅王を彷彿させました。反逆の戦士はツボでございます。

さて、タイトルの「反在士」とは、ライオンの故郷の星にいた、ある種の人々のこと。彼らは、この世界にあって、その場に異世界への通路を出現させるという、特異な能力の持ち主であった。生き残りであるライオンは、この広大な世界を支配し、終わる事なき戦争を遂行している2人の超越者、「白王」と「紅后」に戦いを挑む。その正体を知り、その支配を終わらせるために。彼らの戦いは、次第にこの宇宙全体に波及していくが…。

余談ですが、反在士が異世界を出現させる方法は、科学ではなく、いわば思いこみ。そこに、異世界があるという妄想の力によって、それが本当に現実化してしまうということになっておりました。それを読みながらつい、では、XXXな反在士がいたら…?と想像して、勝手にウケてしまった。たとえば、ちょっと同人な反在士がいて、その強力な妄想の力により、あーんな世界やこーんな世界を実体化させてしまうとか。あ、コワイ考えになってしまった(^^;


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